国内起債市場を斬る 2023年降誕日特別号:日銀の金融政策と社債

この12月18、19日の金融政策決定会合では、金融緩和の縮小方向への見直しは見送られた。12月初めに植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」といった発言をしたこともあって市場の注目は高まっていたが、見送りによって肩透かしになったと感じた市場参加者も少なくなかったのではなかろうか。債券市場をはじめ、多くの注目点は、マイナス金利の解除有無の一点にあったが、短期金利の居所とは別に、イールドカーブ・コントロールの見直し、即ち、10年国債利回りの水準修正があるのかについては、社債の発行体も投資家も興味があったに違いない。既にイールドカーブ・コントロールにおける10年国債利回りの居所については、0%±0.5%といった上下の変動幅が解除され、上限の目途が1%とされており、金利の上昇を容認する形になっている。イールドカーブ・コントロールの実態がなくなったという見方もあるが、少なくとも1%程度に設定された天井は、まだ市場で意識されている。

一方で、社債等については、今回の金融政策決定会合でも『感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。』としており、異次元の金融緩和以前から実施している残存3年以内の社債買入れが継続されている。既に、日銀が社債を購入することで、信用スプレッドを圧縮するという政策効果は必要がないものと考えられるが、惰性で続けられているように思える。そもそも、信用スプレッドの拡大を抑制した資金調達を欲する企業のほとんどが、公募普通社債ではなく、金融機関等からの借入れに依存しており、日銀による社債買入れの直接の影響は及ばない。公募普通社債で資金調達を行うような大企業にとっては、社債の信用スプレッドの圧縮の恩恵を強く感じることはほとんどなく、一部の大きな負債を抱える企業のみに対する恩恵に留まっている可能性が高い。

足元でも日銀による社債買入れオペでの買取りを期待した3年債の募集が見られる。かつては、0.1%クーポンのオーバーパー発行によって、応募者利回りを0%にするといったことも可能であったが、現在では、マイナス金利の解除観測もあって、残存3年の国債利回りはプラスになっており、そのような社債等は見られなくなっている。それでも、信用スプレッドの圧縮よりも、ベースとなる国債利回りの引き下げの方が明らかに調達コストの圧縮に効果があるように思われる。

イールドカーブ・コントロールは日銀による市場取引への介入であったが、社債等についても、市場参加者の手に委ねるべき時期が来ているのではなかろうか。人為的な市場統制を無用に継続すると、反動の生じる可能性が高い。本来、市場のことは市場に任せるべきであり、それが資本主義経済の基本原理であろう。外部不経済等の副作用が生じている際のみ、暫時暫定的な市場介入が許容されるものと考えるべきである。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/11~12/15

2023年の起債シーズンも、社債等が募集されるほぼ最後の週になる。1年前のこの週の募集状況を見ると、地方公共団体金融機構のFLIP債に加えて、銀行持株会社とガス会社の劣後債があり、それに野村総合研究所の三本立ての起債が見られている。今年は地方公共団体金融機構の5年債・10年債・20年債の定例募集がこの週にずれ込んでおり、FLIP債は募集されていない。金利水準が上昇したこともあって、劣後債の募集は銀行関連で少し見られるが、事業会社による劣後債の募集は減少している。上昇した国債利回りに加えて、信用スプレッドと劣後プレミアムを加えると、出来上がりの調達コストは従前より大きく上昇した形になってしまうのを嫌ったものだろう。もっとも、今後金利が更に低下するという見透しは難しく、少なくとも日銀が人為的に押下げて来た利回りが中立的な水準にまで戻ることを考えると、早めに社債等で資金調達しておくことを考える発行体も出て来ることだろう。今月の金融政策決定会合が終ってしまうと、もはや年内に社債等を募集するのは難しい日程であるが。

地方公共団体金融機構以外に社債等を募集したのは、民間の3社のみであった。アコムは3年債250億円を募集している。日銀が継続している社債買入れオペの対象になることが期待されることもあるが、0.55%とクーポンが随分と高水準になっている。マイナス金利政策の解除がすぐに行われる可能性は高くないが、短い年限の金利水準もこの1年で大きく上昇していることが確認できる。

残りの2本は、いずれも5年債が募集されている。昨今の起債市場では、国債利回りが全体に上昇しており、実際にイールドカーブは概ね2013年4月の異次元の金融緩和導入直前のものと概ね同程度の位置にある。そのため、5年債でも十分に高い利回りが得られる状況となっており、5年債での調達が多く見られる傾向にある。まず、23年ぶりに社債を募集した古河機械金属は、JCRのBBB+格という評価もあって、クーポンが1.2%と高くなっている。1%の利回り確保に汲々として来た投資家としては、信用力の評価として投資可能と判断できるならば、十分な投資妙味を感じられるだろう。

もう一つは、住友不動産が0.628%クーポンで300億円の社債を募集している。かつて格付の片脚がいわゆる投資適格を下回った発行体から見れば、現在のR&I及びJCRからAA-格と高評価を得ているのは、隔世の感がある。しかも、グリーンボンドの認証を得ていることで、国債対比のスプレッドは+32bpsと発表されている。国債と同程度の信用力を有すると目される地方公共団体金融機構の5年債が、国債対比+10bpsで募集されたことを考えると、R&Iの評価で2ノッチ下回るだけであるものの、22bpsしかスプレッドが異ならないのは衝撃的ですらある。ここまでで、実質的に年内の社債等の募集は終了すると見られるが、金融政策決定会合が19日に終了した後、ギリギリのタイミングで募集があるかに注目したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/4~12/8

前週は12月1日(金)に大量の社債等が募集されていたが、この週も年末を控え少なからずの募集が見られ、各曜日に広く分散する発行となった。休日明けの月曜日には募集されないし、水曜日はみずほリースの1件のみ。結果として、木曜および金曜と週後半に募集が集まって来るのは仕方ないだろう。まず、業種が多岐に渡っているのが一つの特徴である。一般に起債シーズンで早期に社債等を募集するのは、電力やノンバンク、銀行といった起債に慣れている発行体であり、その後、メーカー等がおもむろに登場して来る展開が普通である。そのため、シーズンの後半はメーカーやレアな発行体が目立つことになりがちである。もっとも、ノンバンクに関しては発行体の数が多いこともあり、満遍なく募集されているようにも見える。

実際にこの週に募集された社債等の顔触れを見ると、まず大分類でメーカーに含まれるのが、三菱電機と日立製作所が電気機器、レンゴーはパルプ・紙、日本ピラー工業は機械、アシックスはその他製品とバラエティーに富み、メーカー以外の業種でも、戸田建設と長谷工コーポレーションは建設、ヤマタネとアルフレッサホールディングスは卸売、FOOD&LIFE COMPANIESは小売、JR九州とNIPPON EXPRESSホールディングスは陸運、みずほリースとクレディセゾンはノンバンク、イオンモールは不動産と様々である。その他に財投機関債を募集したのは、都市再生機構はフリークエントイシュアーであるが、福祉医療機構と沖縄振興開発金融公庫は時々しか出て来ない銘柄である。

この週に社債等を募集した企業を見ると、多くが起債頻度の低いレア銘柄であることがわかる。中でも、NIPPON EXPRESSホールディングスと日本ピラー工業、アルフレッサホールディングスはいずれも第1回債を募集している。また、回号が一桁の社債を募集した発行体も、アシックスにFOOD&LIFE COMPANIESと複数見られている。こうした初回やレア銘柄で多様な業種が社債等を募集するのは、社債募集シーズンが間もなく終わるということの表れでもある。

募集された社債等は金利の先高感がある中でも、レア銘柄を中心に投資家の需要を集めており、概ね順調に消化しているようである。また、このようにレア銘柄が頻出する中でも、SDGs債の募集は続いている。グリーンボンドとして募集されたのが、ヤマタネの3年債、JR九州の5年債(10年債は通常の社債)、三菱電機の5年債及び10年債、日立製作所の5年債(7年債と10年債は通常の社債)、日本ピラー工業の5年債、イオンモールの5年債(他の年限は通常の社債)で、ソーシャルボンドはアルフレッサホールディグスの5年債と福祉医療機構の10年債で、サステナビリティボンドは都市再生機構の5年債及び10年債と沖縄振興開発金融公庫の10年債であり、サステナビリティリンクボンドとして募集されたのがみずほリースの4.5年債(償還2028年6月12日/利率=0.639%/発行価格100円)と、様々な種類が登場している。もう1週間ほど年内の起債シーズンは続く日程であり、起債観測は複数上がっているようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/27~12/1

ひとつ前の週は、「勤労感謝の日」による飛び石連休であったため、社債等の募集は例外的に22日(水)に集中したが、この週は木曜、金曜と徐々に盛り上がって行く展開になった。中でも月の変わった金曜日には、個人向け社債を含めると計23本の社債等が条件決定されており、年末に向けての動きが目立つ展開となっている。しかも、年末に向かっているというタイミングだけでなく、足元で米国の金利動向を受けて、日本の長期金利も少し低下して来たことが、発行体の募集意欲を高めており、投資家側もクーポンが高いうちに買ってしまいたいという想いに駆られているようだ。水曜からの募集案件は数多くなったが、募集した社債等の消化に苦労したという話は聞こえていない。

29日(水)に募集されたのは、ノンバンクと化学メーカーの社債であり、中でも旭化成の3年債・5年債・7年債・10年債の4本立て計600億円が目立っている。水準が下がったとはいえ、10年国債利回りは未だに0%より高く、R&IとJCRからAA格の高い評価を得ている旭化成の10年債が1.232%クーポンというのは、十分な投資妙味があると感じる投資家も少なくないだろう。30日(木)には、ダイビルの5年グリーンボンド120億円の他、JERAが通常の社債計400億円、JCRのBBB+格を取ったイチネンホールディングスは1.3%クーポンの3年債100億円を募集している。

案件集中日となった1日(金)は、個人向けの電力債を九州・東北・北海道・北陸・四国の5電力が条件決定している。北陸電力のみ5年債で、他は3年債である。また、九州電力は、別途、機関投資家向けに円Tibor連動の5年物変動利付債150億円を募集している。中期年限も金利がこれから上がると考えるならば、5年物の変動利付債は面白い投資対象であろう。なお、九州電力は個人向け3年債には、R&IのA格とJCRのAA-格を取得しているのに、機関投資家向けの5年物変動利付債には、R&IとJCRの2社に加えて、ムーディーズのA3格も取得している。個人投資家にムーディーズの格付けは不要であるという判断とも考えられるが、格付手数料を抑える効果もあると考えたか、変動利付債の購入者に海外の投資家が含まれる可能性も否定できない。

電力債以外にメーカーの社債が多く募集されたのも目立つが、他にも銀行劣後債や建設、通信業等発行体の業種はバラエティに富んでいる。また、相変わらずのSDGs債も多種多様で、東洋紡の5年サステナビリティリンクボンド100億円、西日本高速道路の2年及び5年のソーシャルボンド計600億円、カネカの5年ソーシャルボンド100億円、名古屋銀行の10年期限前償還条項付劣後グリーンボンド100億円、メタウォーターの5年ブルーボンド100億円、新関西国際空港の20年及び30年ソーシャルボンド計200億円、水資源機構の3年サステナビリティボンド100億円と、発行体の業種が様々なのに加えて、年限もバラエティ豊かである。財投機関債に分類される水資源機構債が3年で、財政投融資計画に基づかない新関西国際空港の社債が20年及び30年の超長期債を募集しているのは面白い。関西国際空港と大阪国際空港の管理等を担当する新関西国際空港は、取得している格付けの符号は日本国債を下回るものの、実質的な政府保証があるとみなしている投資家が多いのだろう。