国内起債市場を斬る 起債評価:4/13~4/17

新型コロナウイルスの蔓延を受けた緊急事態宣言の影響が、資本市場にも色濃く出はじめている。既に宣言の対象が一部の都府県から全都道府県へと拡大され、不要不急の外出抑制や在宅勤務が推奨される中では、参加者が減少しており市場機能の低下は必至である。米FRBはシェール企業等に向けた信用供与を強化しているものの、ハイイールド債市場がほぼ存在しない日本においては、日本銀行の出番は金融機関に対する貸出促進くらいしかない(4月1日、米国の大手シェール企業ホワイティング社が、テキサス州南部地区の破産裁判所に「米連邦破産法11条」を申請し、ニューヨーク証券取引所の株式の取引を一時停止すると発表した事はご存じであろう。)。公募普通社債市場での資金調達に依存する日本企業はほぼ大企業のみであり、現状でもよほどでなければキャッシュフローの危機は迎えていないだろう。ただし、特定の業種や企業によっては、先行きに資金繰りの問題を迎えるかもしれない。例えば3月に社債を募集した日本航空は、多くの国際線がいつまで飛行停止継続となるか予想できない状態にあり、国内線も日本全土が緊急事態宣言の対象になった以上、当面の減便は当然の結果である。事態の悪化を予想せずに、日本航空債を利回りだけに惹かれて購入した投資家は、投資判断の姿勢が甘いと言わざるを得ない。実際には、20年債ですら0.7%クーポンしかなかったのであるから、今となっては割高な買い物であったと言えよう。

海外の多くの中央銀行は、金融緩和の強化によって企業破綻を防止する姿勢を取っているが、日本銀行は既にイールドカーブコントロールを導入しており、更なるマイナス金利の深掘りは収支況の悪化している地域金融機関にとって致命傷になりかねないため、打つ手が限られている。そのため、金利水準が下がらず、むしろ市場の不安定化を意識し利回りが高まる方向にある。この週に募集された東京電力パワーグリッド債のクーポンは、5年債600億円が0.75%、10年債700億円が1.2%、15年債500億円が1.45%という水準であった。約半年前に募集された同社による同年限の起債では、5年債700億円が0.58%、10年債700億円が0.98%、15年債600億円が1.28%であったことを考えると、利回りの顕著な上昇が確認できる。

同日に募集された東日本高速道路の10年債700億円は、0.225%クーポンであった。かつてはかぎりなく公的セクターに近い存在と考えられた東京電力債に対して、1%に近い大きな利回り格差が生じているのには感無量である。原発事故の処理に公的サポートが期待できることに加え、原油価格が大きく低下しているのにも関わらず、東京電力パワーグリッド債のクーポンが大きく上昇しているのである。政府が緊急経済対策として大規模な財政出動を用意しており、日本国債の信用力に対する懸念も高まりかねないが、ヘリコプターマネー等(政府が対価を取らず国債買い入れで財政資金を供給して大量の貨幣を市中に供給する究極の経済政策)貨幣量を増大できる政府が倒れる以前に、脆弱な民間企業の方が財務的な問題に直面すると見るべきであろう。現在の緊急事態宣言が1か月で解除されるのか、より延長されるかは誰にも予測できないが、解除は容易でなく、小売や運輸等の幾つかの業種には大きな信用圧力となる可能性が高いだろう。投資家は、現在の格付けや利回りの絶対水準だけを見るのではなく、発行体企業の将来的な帰趨を含めてより慎重な投資判断が求められる。