国内起債市場を斬る 起債評価:4/15~4/19

新年度の起債市場の動きが本格化している。個人向け社債の募集が複数見られているし、財投機関債を募集する動きも見られるようになっている。また、メーカーによる起債も珍しくなくなっており、様々なスキームのSDGs債の募集も少なからず見られる。ただし、これから3月期決算企業の決算発表がはじまり、翌週に開催される日銀の金融政策決定会合で円安対応の動きがある可能性も意識されると、市場の盛り上がりは時限的なものにならざるを得ない。特に、GWに入ると2週間近くの間、市場が正常に機能しないこともあって、早期の募集に向う企業は少なくない。逆の立場である投資家側も、利息収入を確保しようとする観点から、早めの購入を希望する者が多い。結果的に、社債等の募集が多く見られ、投資家側からの購入希望も多く集まっている。

この週に募集された社債等の中で、スキームの面などで特徴的なものを取上げてみよう。まずは、三菱マテリアルの5年債と7年債計200億円のうち、5年債の150億円である。この5年債はトランジションリンクボンドの認定を得ている。SPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)として設定されているのは温室効果ガスの排出量45%削減と再生可能エネルギー電力の利用率向上である。トランジションリンクローンの場合には、利率のステップアップ/ダウンを組み込むこともあるというプログラムだが、債券の場合にはクーポンを修正するのではなく、寄付や排出権の購入といった形で対応することが予定されている。海外の市場で発行されるリンクボンドの多くはクーポンのステップアップを含むことで、発行体のSPTs達成を強く誘導するとともに、投資家にメリットを与える形になっているが、日本の市場では必ずしも投資家の直接の利益とはならない寄付や排出権の購入の形が一般的である。固定利付という債券の基本的な特性を考えると、クーポンの変動というのは必ずしも投資家の望むところではないかもしれない。今後の市場慣行として一般的なものがどうなるかは、時代の推移を見守るしかない。

次は、不二製油グループの劣後債とマルハニチロの5年債の二つがR&IのBBB+格を取得している点である。前者は5年経過後に期限前償還できる30年劣後債であり、劣後性を反映したためにBBB+格となっており、後者はシンプルな5年債である。前者の当初5年のクーポンは劣後プレミアムを含むとは言え1.571%と高く、後者の0.951%クーポンより60bps以上高くなっている。事業会社の劣後債の場合には、予定された最初のタイミングに期限前償還されない可能性が危惧されるし、5年経過後に変動利付債に変わった後のクーポンは1年物国債対比スプレッド+210bpsと設定されている。国債の1年債と5年債の利回り格差が大きくなっていた場合には、十分な信用スプレッドが取れない結果となりかねない。

最後は、ソフトバンクグループの3年債300億円・5年債500億円・7年債200億円の計1,000億円の大型起債を挙げよう。近年は劣後債などを個人投資家向けに募集するケースが多い発行体であったかったが、今回は4年以上ぶりとなる機関投資家向けの普通社債募集である。3年債で1.799%クーポン、5年債で2.441%クーポン、7年債で2.9%クーポンと、利回りの絶対水準は極めて高くなっている。同日に条件決定された同じJCRのA格の社債と見比べると、東京建物の個人投資家向け7年債は1.19%クーポンで171bpsの差であり、神戸製鋼所の5年債は0.871%クーポンだから157bpsの差となっている。ここまで高いコストを払ってまで起債するという発行体は珍しい存在と言って良いのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/8~4/12

2024年度の起債市場が本格的に稼働を始め、様々な社債等を見ることの出来た週になった。前週の電力債登場に出遅れた関西電力や東京電力パワーグリッドといった電力債の募集があった他、四半期や毎月の頭によく起債する公的セクターでも、地方公共団体金融機構が10年債・20年債・30年債の3本計700億円をまとめて募集した他、東日本高速道路も2年債・5年債・10年債の3本で計1,790億円を募集している。格付けの符号としては日本国債と同じ水準である東日本高速道路の2年債のクーポンが0.314%と従来より高めの水準になったことで、日銀による金融緩和政策の見直しの影響が改めて意識される。それでも、同じ発行体の10年債は0.905%クーポンと1%を下回っており、まだまだ金利は低いと言わざるを得ない。

電力と公的以外の発行体はバラエティーに富んだ状況となった。DICや住友重機械工業、スタンレー電気、テルモといった様々なメーカーによる募集が見られた他、建設や不動産、運輸といった業種からも、日本郵船の他に大和ハウス工業、ヒューリックといった発行体が社債を募集している。三井住友系の複数のノンバンクや総合商社大手である伊藤忠商事による社債の募集もあり、まさに百花繚乱である。また、条件決定された社債の形態を見ても、GMOフィナンシャルホールディングスや光通信、丸井グループの個人向け社債があり、みずほフィナンシャルグループとかんぽ生命の劣後債もある他、事業会社からは大和ハウス工業も劣後債を募集している。なお、丸井グループの1年債は同社が継続して募集してきているセキュリティートークン債である。エポスポイント(エポスカードのご利用に応じ、同社所定の加算率でポイントを加算し、ポイント数によりマルイやマルイの専門店でのショッピング割引きや景品の交換、他社ポイントサービスへのポイント移行、社会貢献活動団体への寄付ができる特典)で利息を受け取るといった機関投資家には全く馴染まないスキームであるが、エポスカードのユーザーである個人投資家には利用価値は高い。1年債で1%というクーポンは、十分に魅力的だろう。

SDGs債では、東日本高速道路が全体をソーシャルボンドとして認定を受けている他、日本郵船の2本立ての募集では、5年債がトランジションボンドであり、10年債がグリーンボンドと細かく使い分けている。丸井グループの個人向け債もグリーンボンドとなっている他、大和ハウス工業の劣後債はサステナビリティリンクボンドである。4月に入って募集された社債等の中ではややSDGs債の目立たない感じがあったものの、ようやく様々な形態の物が募集されるようになって来た。

募集金額では、みずほフィナンシャルグループの劣後債が2本で計2,300億円と巨額であり、東日本高速道路が計1,790億円、かんぽ生命保険の劣後債が1千億円、東京電力パワーグリッドが3本で計1,800億円など大型の起債が相次いでいる。その他の案件も当初の起債観測が上がった時の募集予定額よりも、最終的な募集額が大きくなっている例が少なくなく、期初の投資家のよる債券に対する購入意欲の強いことが確認されている。すぐには日銀による利上げも見込まれないことから、当面、業種のバリエーションも様々な起債市場になることが予想されるが、3月末決算の発表時期を考えると、GW前までの俄かブームということになるだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/1~4/5

4月2日に10年長期国債の入札が行われイールドカーブの居所が概ね確定できたところから、2024年度の起債市場がスタートした。株価が上下に変動しても、金利水準はほぼ安定的な状況にある。物価や賃金の上昇を受けて金利が上昇する方向へ向う懸念はあるものの、日銀は金融緩和の姿勢を崩さない。投資家としては金利水準が上昇してから購入したい意向があるものの、利息収入の総額は金利水準と保有期間の掛算で求められるから、購入のタイミングは早い方が望ましい。この週後半に多くの社債等が募集されているが、投資家の購入意欲は強く、あるかどうか必ずしも定かでない金利上昇を待たずに、淡々とした購入姿勢を崩していないようである。募集された社債等のほとんどに対して超過需要が確認されている。

事前の予想では、例年通りのパターンから社債等で募集に動くのはまず、電力とノンバンクであろうと見ていたが、ほぼ予想通りの展開が見られた。まず、電力関連で募集されたのは、電源開発10年債100億円、東北電力が10年債300億円及び30年債130億円、中部電力が10年債350億円及び20年債100億円、関西電力が10年債123億円及び20年債90億円、九州電力が10年債200億円及び12年債100億円、北海道電力が10年債50億円と総計で1,500億円を越える。スプレッドを絞った関西電力債が端数の金額を刻んだ他、北海道電力は50億円限定のグリーンボンドの募集となっているが、他の案件は年限も含めて多様な募集となっている。いずれも10年債に加えて、超長期年限という組み合わせになっているのは面白い。

ノンバンクとしてはトヨタファイナンスが3年債400億円及び5年債600億円と、いきなり合計1千億円の募集を行っている。格付けがR&IのAAA格・S&PのA+格・ムーディーズのA1格と日本国債と同等かそれを上回る評価を得ていることもあって、起債観測の上がった時点よりも大きく増額しての募集になっている。金利水準の上昇もあって、3年債が国債対比の+20bpsというスプレッドプライシングで条件決定されており、今後の3年債の条件決定の基準が絶対値からスプレッドに戻る可能性を示唆する動きになりそうである。

財投機関債では、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債350億円・10年債300億円と1千億円を越える債券を募集しており、主要な募集年限の金利やスプレッドの居所を提示する形になっている。各年限ともが増額された募集となっており、投資家の根強い購入ニーズを確認できる。その他に、西日本鉄道が5年債と10年債を各150億円募集しており、今後、鉄道銘柄を募集する動きも続くことが期待される。

なお、この週で募集された社債等のうち、電源開発の10年債と西日本鉄道の募集した5年債及び10年債、それに北海道電力の10年債がグリーンボンドの認定を得ている。グリーンボンドを募集する例が増えているようにも見えるが、起債観測で上がっているものには、サステナビリティボンドやリンクボンドの動きもあるようで、この週はたまたまグリーンボンドが先行しただけに過ぎないと見ておきたい。

国内起債市場を斬る 令和6度期初特別号:2024年度の起債市場は如何に!

年度がかわって、また起債市場も新たなスタートである。長期国債の入札を経た後頃から、徐々に起債案件が募集を始めるというのが例年のパターンである。長く起債市場を見ていると、まず動き出すのは、電力かノンバンク、あるとしたら銀行といったところと推測できる。その後、メーカーがゆっくりと募集に動き出すのが、ゴールデンウィークの前あたりになるかといったところだろう。しかし、今年度は幾つかの要素で異なる展開になる可能性がある。

最大の変化としては、3月の決定会合で実施されたマイナス金利とイールドカーブコントロールの撤廃であろう。前者に関しては異常な低金利政策の終焉を指しており、後者は長い年限の金利水準を市場のメカニズムに委ねるという判断である。金融緩和政策をほぼ昔に戻したという政策見直しだが、長期国債の買入れは継続されるし、CPや社債等の買入れに関しても停止ではなく1年程度の時間をかけての縮小になるとされている。したがって、まずは金利水準の居所を探る必要があるし、同時に社債買入れオペの縮小によるスプレッド水準の確認が必要になるだろう。国債の流通市場における出会いを確認することで、ベースとなる国債利回りはすぐにでも居所が確認できる。一方、3年までの社債の買入れを即時停止とはしなかったため、社債のスプレッドが拡大するといったほどの影響はないだろう。しかし、そもそも社債を発行できるような優良企業に関しては日銀の買入れによるスプレッド圧縮の効果は、ほぼ無関係であって、かつて市場において見られたような応募者利回りが0%となるような異常な新発債の募集はもう見られなくなるであろう。

金融政策の変更による影響の確認と同時並行で、日証協による社債インフラ見直しの動きによる影響も頭の片隅に入れておく方が良さそうである。結果としては、優良銘柄に与える影響は大きくなさそうであるが、近年のユニゾホールディングス(2023年4月26日民事再生法申請、負債総額1262億円)の顛末で広く知られるようになり、問題としては古くから指摘されていたチェンジオブコントロール条項(会社が取引先と交わしている契約に解除事由が発生したり、契約相手に対して通知または承諾を得なければならないといった条項)の設置について、検討が進められている。純粋に市場メカニズムに任せることで、社債契約の無特約化が進んできたことに対して、投資家保護のみならず社債市場を育成・活性化する観点からの見直しが行われようとしているのである。金融庁が近年強く主張している「顧客本位の金融機関運営」という観点からは、発行体および投資家の双方に不利益になることがないよう慎重な検討が望まれる。一律のコベナンツ設定を強制するのではなく、投資家を保護し、発行体側の経営の自由度を確保できるよう、個々企業の状況に応じた対応が必要になるのではないか。

起債市場全般のトピックとしては、新NISAの導入や株高によって個人投資家の目が証券市場へ向かっている中で、個人向け社債の活用が期待される。また、金利水準が上昇する中で、プレミアムの乗った金融機関や事業会社の劣後債に対するニーズに変化が見られるかどうかも注目される。更には、様々な新種の導入やスキームに関する工夫が見られているSDGs債の需給に関する変化も注目されよう。3月に募集された共同発行地方債では、引続きグリーニアム(地方自治体のESG;環境・社会・企業統治に使用目的を特定した債券)の債券を選ぶという姿勢のものも少なくない。今後の市場動向を確認してみたい。