国内起債市場を斬る 起債評価:4/6~4/10

前週の三菱UFJリース債に続いて、ようやく起債市場の動きが活発になってきた。年度や半期の初めというタイミングで動くのは、ノンバンク、電力、財投機関というのがこの時期お馴染みの顔触れであり、2020年度の最初も概ねそういった流れになっている。かつてとは異なって、メガバンクが四半期ごとに定例の起債を行うことは絶えて久しい。以前はベンチマーク債を目指すと豪語した銀行もあったが、その後のAT1債の取り扱いなどを見ると、銀行の社債は決して普通の事業債と同列には扱えないことがよくわかる(TLAC債の社債要項には、銀行が破綻した場合、バーゼルⅢで規定されている総自己資本、所謂普通株式等Tier1資本、AT1債、Tier2債の合計によっても吸収することができない損失については、TLAC債をもって吸収される旨が明記されている)。

新型コロナウイルス感染症が世界経済に与える影響を考えると、小売や運輸といった幾つかの特定セクターによる起債に対して慎重な投資家も少なくないが、事業基盤が安定していれば、どんなに今回の経済停滞が長引いても、その後の回復が期待できると考えられる。この週の起債の中では、JR東日本の5本計1,250億円の大型起債が象徴的である。3年債500億円の募集は日銀オペを意識したのか珍しく短期債であるが、それ以外は10年債から50年債へ10年刻みの募集である。同社の最近の起債では、20年債から40年債など10年刻みの募集が多かったので、違和感はない。3年債500億円さえ除けば、いつもの起債といったところだろうか。ただし、参照年限の国債がない50年債はレアである。

電力債は、既に東日本大震災と福島第一原発事故の影響から免れたようであるが、まだ、国債対比の利回りという意味では、同格付けの一般的な事業債よりスプレッドは乗っている。一般担保付の債券発行も経過措置で当面認められているため、相対的な投資妙味は高い。原発への依存度の高さ等から、かつての中央三電力とそれ以外の電力という序列は崩壊しており、個別の電力会社の置かれている状況が考慮される慣習になっている。当然、営業基盤となっている地域経済の強さや産業の状況による影響は強く反映され、また一方で、電力会社同士の横並び意識も根強い。この週でも中部電力と中国電力の10年債が同じクーポンとなっているのに、違和感を覚える市場参加者もあるだろう。

この週に募集された10年物社債のクーポンを比較してみると、JR東日本が0.265%で、中部電力と中国電力が0.35%、東北電力債が0.38%、北海道電力が0.44%、三菱地所が0.43%となっている。格付水準のみを見ると、三菱地所債の利回りが、中部および中国電力債と逆転しているが、財務上の特約がまったく付されていない裸の債券と一般担保特約付債券の差も影響していよう。現在の経済環境では、事業基盤の安定性が高く評価されているようである。3月中旬にJ-REIT価格が大きく上下動したことを考えると、市場関係者には不動産市況の先行きに対する懸念が少なからずあるように思える。短期的には、外国人投資家の見切り売りや地域金融機関の期末前の損切りであったとされる。しかし、根本的には人口減少の進む日本経済の将来像が不動産業の背景にあり、根強いとされる丸の内界隈のオフィス需要に対しても、緊急事態宣言前後から急速にテレワークが増えており、今後のビジネスモデルに対する悪影響と見直しすら懸念される状況である。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐3

新年度の起債市場は、3日金曜日に三菱UFJリースが3年債と10年債を募集したのに加えて、投資法人債や地方債なども募集されている。しかし、三菱UFJリースも当初は5年債も募集するとしていたのが、慎重なスタンスから取りやめている。また、次週に条件決定を予定していた東プロも、7年債の募集を見送ることを決めている。株価の大きな上下変動のみならず、政府による緊急事態宣言の発表が予定される中では、本格的な起債市場のスタートにはなり難いかもしれない。例年のように、ノンバンクに続く発行体は電力だと思われるが、今後、既に上がっている起債観測のように、電力債の募集ができるのか注視しておきたい。

新型コロナウイルスが長期間にわたって蔓延した場合のクレジット市場に与える影響としては、まず、個別の脆弱な企業が破綻することが考えられる。既に、海外も含めて見ると、空運や小売でデフォルトが発生しているし、日本でも宿泊などでの破綻例が出ている。個別企業の破綻は、同業の中でもっとも脆弱な企業の破綻として現れる。自粛や都市封鎖等が長引けば長引くほど、影響を受けるの個別企業だけでなく、同業他社も含めた業種全体の問題となりかねない。これまでに挙げた業種については、問題の継続する期間が長引くかどうかや、政府等による適切な金融支援が行われるかどうかによって、波及する範囲が変わってくることだろう。

今回のコロナショックがクレジット市場に与える影響範囲は、ここまでに留まらない可能性がある。次の段階としては、金融危機の発生が考えられる。世界各国の中央銀行が必死になって金融緩和を強化しているのは、まず、低信用力企業を中心に脆弱な企業の破綻を回避する取組みであるが、特に、原油価格の下落によってシェール関連企業の財務内容が悪化しており、結果として、ハイイールド債やレバレッジローンで資金調達をしていた企業のクレジットが悪化することを懸念したものと思われる。当該企業の信用力悪化の影響は、プライベートデットやCLO等様々な形態で、日本の地域金融機関や企業年金の財務内容に波及する。個別の地域金融機関の経営問題だけであれば、日本の金融システムへの影響は軽微かもしれないが、地域金融機関は横並びの好きな業態であり、同種の病巣を多くの地域金融機関が抱えて抱えている可能性は高い。多くの地域金融機関の財務内容が悪化するならば、金融システム全般に対する不安が再燃してしまう。

そして、最悪のシナリオとしては、ソブリン危機に至る可能性も考えざるを得ない。自粛や都市封鎖、鎖国状態によって世界経済が沈滞しており、各国政府は大胆な財政出動を開始している。それは、刺激によって委縮した経済を再活性化するためのものであるが、税収確保等の結果が見られない場合には、財政赤字を拡大させ、財政状態の悪い国の信用力を大きく棄損する可能性がある。GDP対比で巨額な赤字を抱える日本の場合には、まだ債務の9割を日本国内の資金でファンディングしているために、格付符号が悪化したとしても、債務返済能力が極端に損なわれることはない。むしろ財政赤字の制約が厳しい欧州各国や、国家の政策総動員で感染者を封じ込めた極東の各国については、財政状態の悪化が心配である。IMFの介入するような状態にならないことを祈っておきたい。更に、原油価格の低下によるロシア経済の赤字拡大によって、ロシアのソブリン問題が再燃する可能性も懸念しておくべきだろう。

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大がどの範囲こまで及ぶのかは、人類の過去の経験では推し量ることができない。100年ほど前のスペイン風邪と同様に、グローバルに甚大な影響が及ぶようになっており、当時とは、世界中の情報や人、モノの移動・伝播速度は圧倒的に速くなっている。まだまだ明るい先行きが見えない中で、過度に鬱になるべきではないものの、慎重に事態の推移を見守る必要があるだろう。
(本稿終わり)

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐2

新型コロナウイルス感染の影響は、日を追って拡大している。異論はあるが、中国で最初に感染爆発が生じ、それが近隣の日韓に拡大した。前週末時点で中国の感染者は8万人強で、死者は3千人強とされている。日本では、武漢周辺からの帰還者や英国籍のクルーズ船乗客を除いて、決して感染者の発生は多くなかった。隣国の韓国では。宗教団体を中心にクラスター化及びスーパースプレッダー化したことなどから、感染者が1万人に近づいたが、死者は150人に満たない。韓国の感染拡大については、ピークを越えたようである。当初、東洋人や東洋料理店に対して「コロナ」差別を行っていたと報道され他人事と見ていた欧米では、遅れて感染が拡大することとなった。その欧州では、イタリアの感染者9万人弱・死者9千人を筆頭に、スペインで感染者6万人強・死者5千人、フランスで感染者3万人強死者2千人といった広範囲の感染となっている。英国皇太子及び首相の感染や、モナコ大公の感染は象徴的な事象である。対岸の火事と見ていた感のあるアメリカも、感染者は10万人を超え、死者は1,500人(3月26日現在)を超えている。既に中南米やアフリカでの感染も報告されており、世界的なパンデミックとなっている。日本はこれまで何とか感染爆発を抑えてきたが、大都市圏を中心として感染者の拡大や複数のクラスター発生が確認されている。

全世界で既に60万人が新型コロナウイルスに感染しており、拡大を抑止するため、各国によって人々の移動や生産活動が制限されている。東京で行われた週末の外出自粛などは可愛いもので、国によっては不必要な外出に対する刑事罰の適用すら行われている。こうした状況下では、当然、経済全般が停滞する。小売、サービス、運輸といった直接の影響を受け易い業種もあるが、従業員が生産工程に参加できないのであれば、メーカーにも大きな影響があるだろう。様々な企業への悪影響が長期に及ぶならば、雇用の減少から所得経由で消費に悪影響が及ぶのは必至であり、経済全般の停滞による影響を受けない業種はないと言って良いだろう。

それでなくても、2019から2020にかけては、景気循環による経済の停滞が予測されており、結果として、COVID-19が不況(場合によっては恐慌)のトリガーとなった可能性が高い。景気後退局面においては、信用力の劣る企業にまず影響が生じる。幸い日本にはハイイールド債市場が存在せず、代替機能を銀行等金融機関が担っているために、クレジット市場がすぐに機能不全となることは回避されるが、海外においては、経済活動の抑止が長引くに連れて、低信用力企業の破綻が多く生じることだろう。もっとも、信用力や業種の一般的な傾向とは別に、債務負担の大きな特定企業は信用力を大きく棄損することになるだろう。知名度のある大企業の破綻が引き起こされる可能性も、否定できない。

株価の大幅な上下変動は、必ずしも社債の価格変動とはリンクしないが、既にCDSは大きな値動きを示しているし、海外の一部社債銘柄では他にも理由があるものの、時価の大きく下落している例が見られる。これまでのところ金融市場そのものは、リーマンショック時のような機能不全には陥ってはいないが、これからの展開、特に都市の閉鎖や自粛がいつまで長引くかということが、大きなファクターになりそうである。何れにせよ、経済全般も金融市場も長期の非常事態に直面する厳しい状況に置かれていることになる。経済の実態と各国政府の施策を注意しておきたい。ただし、デフォルトが発生しない限り、債券は償還によって額面が返済されることを忘れてはならない。過度に悲観することは不要である。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐1

2019年度内の起債市場の動きは、終了した。3月末に多くの企業が決算を迎えるためである。特に、金融セクターは投資家も引受証券も3月末決算を採用しており、具体的な起債の動きは停滞する。今年度末は、新型コロナウイルスによる肺炎の拡大による影響が色濃く市場に出始めている。特に顕著な影響が見られるのは株式市場であるが、日経平均株価も米ダウ平均も上下の値幅を拡大しながら、基本的に大きく値を下げている。これは、各国中央銀行の強力な金融緩和による株式市場のバブルが、新型コロナウイルスの蔓延によって経済のファンダメンタルズが受ける影響を懸念して崩壊したものとも考えられる。欧米の中央銀行は3月に入って金融緩和を強化し、日銀もETFの買入れを増額しているものの、株価の下落を防ぐことはできていない。こうした状況は、クレジット市場にも無関係ではない。

新型コロナウイルスの拡大による影響は、様々な経路からクレジット市場にも及ぶことになるだろう。一つには、端的に影響を受ける業種としては、収益低下から信用力の悪化が考えられる。まずは、各国が人と物の流れを遮断しているために、空運・海運といった運輸企業が大きなダメージを受ける。既に、737MAXのトラブル問題から経営悪化していた米ボーイング社は、政府に対して支援要請を行っている。また、他の国々でも航空会社の路線休止からレイオフや経営統合に向けた動きが見られており、さらに、LCCの経営危機や破綻も次々に表面化している。海運に関しては、これから徐々に影響が出て来ると思われる。少なくとも、クルーズ船については、プリンセス号に加えてナイル川クルーズでの感染者続出から、当面、大きく業績が損なわれることだろう。

次に、多くのサービス業が影響を受けるのは必至である。代表的なのは演劇、音楽等の興行系企業であるが、クラスター感染のポイントとなったスポーツクラブや接客業等は特に大きなダメージを受ける。社債発行企業は決して多くないが、期限の見えない自粛を求められることから受ける影響は甚大である。しかも、株価の全般的な下落に見られるように、経済全般が大きな影響を受けていることは否定できない。中でも、医薬品等の特定業種を除いて、消費全般が低迷している。生活必需品に関しては、状況に関わらず消費は継続するものの、奢侈品やレジャー系の消費は低迷する。外食産業の受ける影響も甚大である。企業による余剰人員の削減等の対応は進むが、その結果として所得が減少し、消費全般が低迷するという悪循環に陥るだろう。

このように、幾つかの特定業種だけのクレジットが悪影響を受けることから始まり、その影響がマクロ経済全般にまで及びかねない状況である。オリンピックの予定通りの開催可否は単なる象徴に過ぎず、日本だけでなく世界経済に対して新型コロナウイルスの与える影響は大きい。ファンダメンタルズの悪化に加え中央銀行の金融緩和強化もあって、金利の上昇を到底望める状況にはないのである。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 起債評価:3/9~3/13

今年度の起債としては、最終ステージと言える週となった。駆け込みの案件や、大型案件が見られ、例年特殊な事情や特徴のある案件が出て来る時期である。実際に募集された案件の中から幾つか挙げてみよう。

まず、大和証券グループ本社の二本立て永久劣後債である。期限前償還のタイミングで5年と10年の二つに分けられているが、NC5年債が1,250億円でNC10年債が250億円と合計で1,500億円の大型起債である。いわゆるAT1債であり、Tier1に算入される。格付けはBBB+(JCR)格と高くないが、ファーストコールまでのクーポンは1.2%と1.39%であり、通常の社債では得られないような高水準である。魅力的な購入対象と考える投資家も少なくないが、大和証券グループの将来を考えた際に、懸念なしとは言えない。特定の大手銀行、大手外銀グループとのパイプを有しない独立系の位置づけは、野村證券と同様である。しかし、今や「債券の大和」「国際部の大和」のプレゼンスは、野村ほど見られず、脅威を感じるようなグループの展開網はない。大手証券の一角を維持しているものの、経営陣の人選が法人部門にバイアスがかかっている同社には、将来的に経営戦略上の懸念は残る。今月に入っても、経営危機を意識されているドイツ銀行がAT1債の期限前償還をスキップしており、同様の手段をとる可能性がないとは言えない。この劣後債についても、投資家が十分にコールされないリスクを意識して購入したか、興味深いところである。

次に、三井不動産は、15年債300億円・30年債100億円・50年債100億円の超長期債計500億円を募集している。中でも50年債は、対照年限の国債が存在しない中での募集であり、過去に三菱地所、東日本旅客鉄道、大阪瓦斯、東京メトロと4社の発行事例があるものの、三井不動産という会社の安定性は、やや先行4社に劣る。しかも1.03%のクーポンで絶対水準を確保したとされるが、わずかな1%越えでは投資妙味があると言い難いのではなかろうか。

続いて、ソフトバンクは3年債・5年債・7年債・10年債の4年限で各100億円を募集している。ほぼ投資会社と化した親会社とは異なって、携帯電話等を中心とした通信会社であり、現在の事業の安定性は高い。しかも、ソフトバンクグループの社債と異なって、100億円×4本と小額の分散発行である。機関投資家は、十分に投資価値があると判断したことだろう。

最後に挙げるのは、日本航空の3年債及び20年債各100億円である。3年債は日本銀行のオペで買入対象となることが期待できる。しかし、その一方で、新型コロナウイルスの世界的な蔓延で航空ビジネスに甚大な影響の発生が確実視される中での社債募集は、投資家軽視と批判されても仕方ないだろう。既にイギリスではLCCが倒産しており、他の国々でも航空会社が大幅に路線減を強いられ経営危機が意識されている。欧州諸国で国境を閉鎖したり、アメリカが欧州からの渡航を遮断するといった動きが見えており、人と物の動きが止められているため、空運ビジネスに与える影響は軽々なものではないし、まだ、十分に見通すことが出来ない。日本からの流入に対して制限を科したり受け入れを拒否している国は、既に50を超えている。このタイミングでの空運会社の社債募集は、不適切であると言っても過言ではない。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/2~3/6

いよいよ年度内の最終月に入ったが、起債市場の盛り上がりは感じられない。何しろ新型コロナウイルス問題で、経済が正常の状況にはないのである。日本のみならず世界的に株価下落が進んでいることに加え、アメリカの予防的利下げからの金融緩和は世界的な金利低下の再燃となっている。特に、Brexitの余震が冷めやらぬイギリスでは、2年物と5年物国債の利回りがマイナス圏に突入するという事態に至っている。世界的な経済活動の停滞が見込まれることもあって、原油価格の大幅な下落とともに、リスクオフの円高も確認されている。当初は日本を新型コロナウイルスの感染国とする見方から、円安に振れる可能性も残されていたが、イタリアを筆頭とする欧州やアメリカ本土での感染が日本以上に拡大するにつれて、円安の可能性は消失しつつある。

このような経済情勢の大きな悪化の中では、クレジット市場も低信用力のゾーンを中心に大きな影響が生じることは必至である。欧米でいえばハイイールド債であるし、原油価格の低下による直接の影響を受けるのは、シェール関連企業である。これらの先行きには大きな懸念を持つべきである。また、新型コロナウイルスの直接的な影響が懸念され、実際に破綻やレイオフ等の実例が見られ始めているのは、空運、サービス、レジャー、宿泊等の業種である。

金利の低下とクレジットスプレッドの拡大という平時には見られない展開が予想される状況にある。発行体は慎重に動くようになるだろうし、投資家も慎重に見るべき時間帯である。しかし、東日本大震災の9周年を迎えて、つくづく3月は鬼門であるという思いが強い。学校の卒業式・入学式やスポーツ、イベント等に与えるネガティブな影響は、経済的にも心理的にも甚大なものが予想される。近年の金融緩和に下支えされた微温経済と呼ばれる状況は、ウイルスの蔓延によって崩壊を迎えることになるだろう。なお、異常気象下で大発生したバッタによる被害がアフリカからインド亜大陸に拡大しており、中国方面に展開した場合には、黙示録に描かれたような惨状となるリスクが懸念され始めている。その場合には、食糧不足による物価上昇というパスの示現する可能性もあるのだが、その前に世界的な政治・経済の混乱が生じる可能性も否定できない。

こういった状況での起債市場は、年度末に向けての追い込みである。日立製作所の計2,000億円の大型起債やオリックスによる1,000億円の劣後債の募集といった動きもみられるが、メーカー、不動産などの起債も幾つか行われているし、グリーンボンドやソーシャルボンドの募集も見られている。世界的には金利水準が低下しているものの、日本の場合には元から低金利となっていたためにあまり顕著な低下は見られない。3月9日の週がほぼ年度内最終の条件決定可能期間であり、その後は3週間程度の起債市場は様子見となることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/24~2/28

前週は起債市場が盛り上がりを見せたものの、この週は、また、28日の金曜日にほぼ一極集中した。27日、木曜日に募集されたのは国際協力機構のソーシャルボンドのみであり、残り2週間となった年度内の起債市場の募集に向けた動きは、多くが3月に持ち越されている。この週の動きとしては、日立製作所の募集延期を挙げることができる。最大2,000億円程度の大型起債が予定されており、この週の候補案にでも募集する予定であったが、M&A関連の動きが遅延したことで、1週間程度遅らせることになったようである。年度内には募集されるのではないかと思われる。

2月28日の金曜日に募集された社債等の中では、まず、以前に指摘した大型起債が目に付く。パナソニックは6年債300億円と10年債700億円の計1,000億円を募集している。R&IのA格と必ずしも高水準の格付けではないが、知名度の高さは投資家に受け入れ易い発行体である。また、富士フィルムホールディングスは3年債1,000億円と5年債500億円の計1,500億円を募集している。R&Iの格付けはAA格と日本国債を1ノッチ下回るだけであり、3年債と5年債という短めの年限もあって、この日最大の起債となった。更に、本田技研工業は3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円の計1,000億円の社債を募集している。格付けは、富士フィルムホールディングスと同じくAA(R&I)格である。同年限のクーポンを比べると、3年債では富士フィルムホールディングスの0.06%に対し本田技研工業は0.05%と発行額によって差が生じ、5年債では富士フィルムホールディングスと本田技研工業は同じ0.12%クーポンとなっている。発行額に100億円しか差がなかったためであろう。

世界的には新型コロナウイルスによる肺炎が蔓延したことを受けて、実体経済や金融市場への影響が懸念されることから、欧米の資本市場では社債募集の動きが乏しくなりつつある。株価の大きな下落と反騰、更には中央銀行による金融政策の匂わせ(におわせ)などから、週明けには米国の10年国債が最低水準の利回りを更新しており、安定した金融市場の状況にあるとは見えない。このような状況でも、日本の金利水準は低下したものの、日本銀行による統制下にあるため、大きく金利が変動しないために、当初は日本の起債市場は新型コロナウイルスの影響をあまり受けないやに見えた。しかし、27日に安倍晋三首相から、全国の学校に対し春休み迄の休校要請があった。これによって、市町村立小学校は全体の98.8%、市町村立中学校と都道府県立高校はそれぞれ99.0%が休校に入った。国立の小中高校は100%が休校、私立学校、その他教育機関もそれにならった措置を行っている(3月4日朝現在)。もはや、金融史上に残る非常事態である。日本はイタリアを除く欧米よりも多くのウイルス患者を出しており、中期的に経済の受ける影響は甚大であると想定される。起債市場に於ける影響に関しては、年度末に向けた動きに大きな変化が起こるようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/17~2/21

ようやく起債市場での募集の動きが本格化している。しかも、金曜日に向けての盛り上がりが顕著であった。民間の社債だけでカウントしてみると、19日の水曜日が2社3本で、20日の木曜日が2社2本、そして21日の金曜日が7社計16本である。毎度のことだが、もう少し分散した方が、引受証券も投資家も楽ではないかと思うのだが、基本的に「出せば売れる」市場であるため、あまり問題視はされていないようだ。ただし、今月に入って日本証券業協会は、「社債等の発行手続きに関するワーキング・グループ」を組成して、発行市場に関する課題について議論を開始している。会員である証券会社のメンバーからなる議論で、どこまで突っ込んだ話ができるかは懸念されるが、何らかの進展が見られることを期待したい。必ずしもPOT方式の採用だけが、万能の改善策ではないはずだ。

この週の起債の特徴としては。大型起債を指摘して良いだろう。まずは、三菱ケミカルホールディングスの7年債200億円・10年債200億円・20年債300億円の計700億円である。同社の格付けはA(R&I)格及びA+(JCR)格であり、高いと言えば高い水準ではあるのだが、必ずしもBtoCが主体の企業ではなく、知名度も高くない。多くが基礎化学や素材の領域に属する製品のメーカーであり、20年債を募集するにはやや危惧が残る。元々の三菱化成等はBtoCに縁は薄いように見えるが、クリンスイは旧三菱レイヨン系の浄水器メーカーであり、三菱ケミカルメディアは光学メディアのメーカーとしてユーザーからは高い評価を得て来た。更には、旧田辺製薬から引き継いだ医薬品事業には、市販医薬品などが残っている。それでも、700億円の起債を成功させるには、知名度は高くないと言うべきだろう。

もう一つの大型起債は、アイシン精機による劣後債の募集である。同社の劣後債は3本立てで、いずれも最終償還は60年後とされているが、最初の償還可能時点が5年のもの、7年のもの、10年のものと区別されている。発行額で見ると、ノンコール5年債が1,300億円、同7年債が190億円、同10年債が510億円と計2,000億円の超大型起債となった。当初の固定利率期間のクーポンは、0.4%、0.41%、0.47%と年限ごとの差は大きくなく、スプレッドで見ると+47bpsで横並びに設定されている。アインシン精機の劣後債は、劣後性のためにA(R&I)格と評価されているが、トヨタグループの重要な部品メーカーであり、現在でも筆頭株主はトヨタ自動車である。万一の場合に期待できるサポートを考えると、投資妙味を高いと見た投資家も少なくなかっただろう。それが超大型起債につながったものと見られる。

引続き、メーカーによる大型起債の動きが観測されている一方、金融系の劣後債も大型募集が予定されている。年度末に向けて、まだまだ起債市場の熱い動きは続きそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/10~2/14

相変わらず社債等の募集は少ない。決算発表に絡む時期であるという季節的な要因に加えて、火曜日が建国記念の祝日であったため、募集に動ける営業日が多くない。週末の金曜日に多数の条件決定と募集に動くのは、次の週以降になりそうだ。この週に募集された民間企業の社債は、日本土地建物の5年債と10年債計150億円のみであった。

今年度中に社債等を募集できる期間は、後1か月ばかりである。そのため、条件決定に向けた動きは多数確認されている。募集の直前に動き出す銘柄も少なからずあると考えられるが、既に起債観測の上がっている銘柄は少なくない。大まかに見ると、幾つかの傾向があるようだ。一つには、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンド等のいわゆるSDGs債である。東北電力、三井倉庫ホールディングス、学研ホールディングス、鹿島、国際協力機構などの募集に向けた動きが観測される。SDGs債の多くが5年債で募集される傾向にあるが、決して5年債でなくてはならないというものでもない。発行体の業種特性に応じて、長めの年限ということも考えられるだろう。本来的に、SDGsのサステイナビリティ要素を考慮すれば、長期債の方が望ましく、中短期債は必ずしも趣旨にそぐわない可能性が高い。

もう一つの動きが、劣後債である。ハイブリッド債と馴染みやすい命名で呼んでいるものの、基本的には、通常の社債券に回収等の局面で劣位する債券である。期限前償還がほぼ確実視される金融機関の発行するものと、純粋に経済的な観点から期限前償還が行われるかどうかが決められる一般事業会社の発行する劣後債とでは、償還に対する発行体の考え方が大きく異なる可能性が高い。加えて、会計上は負債に分類されるものが格付会社によって部分的に資本性を認定されるという証券の位置づけは、格付会社による評価基準が変更された場合、一瞬で状況が変わってしまいかねない。ハイブリッド債といった美名で、制度変更リスクを糊塗(こと)するのはやめておいた方が良い。

最後の動きとして挙げておきたいのが、大型起債である。歴史的にも、ソフトバンクのような例外はあるものの、年度末近くのタイミングで、まとまった金額の社債募集が散見されている。今回もアイシン精機とオリックスの劣後債の他に、パナソニックや三菱ケミカルホールディングス、富士フィルムホールディングス、日立製作所、ホンダといった企業の大型起債に向けた動きが見られる。500億円を上回る金額が想定されており、これら大型起債のほとんどがメーカーによるものであることに留意しておきたい。他にも、銀行や証券による大型起債の可能性もあり、年度末に向けてこれから約1か月の動きが注目されるところである。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/3~2/7

この週は、純粋な民間企業による公募普通社債の募集は見られなかった。市場に登場したのは、財投機関を中心とした公共セクターばかりである。地方債と地方道路公社債を除くと、中部国際空港、阪神及び西日本の高速道路、都市再生機構、住宅金融支援機構、大学改革・学位授与機構といった発行体である。年限は3年から40年と幅広い。クーポンで見ると、0.005%から0.677%という分布幅である。基本的には準ソブリンという位置づけの発行体ばかりであり、必ずしも日本国債と同じ格付けという評価ではないが、十分に高水準の評価を得ており、万一の場合にも、政府による財政支援の可能性は高いことが期待される。特に、最長の40年債を募集した都市再生機構は、前月末にR&Iの格付けがAA格からAA+格と引き上げられて日本国債と同じ符号になったため、投資家の購入意欲が高くなったのではなかろうか。事業内容が民間企業と近しいものであっても、災害時の支援等公的セクターが担うべき使命がある以上、安易な民営化が強行できないことは、特に東日本大震災以降の政権が強く認識していることだろう。

その他に、純粋な起債にかかる動きではないが、社債に関して興味深い発表が見られた。NTT都市開発が会社分割によって、社債の債務をNTTファイナンスへ承継するというものである。両社いずれもNTTの関係会社である。前者は、NTTの100%子会社であるNAT-SH社の100%子会社である不動産会社である。かつては東証一部に上場していたが、2019年初までに公開買付けによって上場廃止となっている。後者は、NTT及びグループ会社が全株式を保有しているNTTグループのファイナンス会社である。今回の社債の承継は、NTT都市開発の非上場化に続く、同社のグループ内での位置づけの再設定と考えて良いだろう。歴史的に、NTT都市開発はNTTグループの所有して来た電話局等の不動産物件の管理と周辺を含めた開発を担って来た不動産会社であり、バブル経済崩壊後には傷みを抱えていたものが、その後の立て直しが功を奏し、総合不動産会社としての地位を確定している。ビルのブランドとしては、アーバンネットが代表的である。

今回の社債承継の対象となるのは、NTT都市開発の第10回債から第18回債(償還済の第16回債を除く)というすべての既発債である。いずれもNTTファイナンスによる承継後は、名称がNTTファイナンス第6回債から第13回債へと変更される予定である。NTT都市開発の格付けはR&IのAA格で、NTTファイナンスの格付けはJCRのAAA格及びS&PのAA-格である。ニュースリリースでは、債務の承継により同等以上の信用力を有する債務の承継となるために社債権者への不利益変更ではないとしている。債務の承継に際して、当該社債の時価に相当する金銭その他の資産も承継するとしていることが理由とされる。

今回の一連の経緯を見ると、NTTグループ全体の中での企業の役割を整理するものに伴うものであると解されるし、債務と資産の承継であるから、社債権者が今回の会社分割によって不利益を被ることはないと考えられる。日本の社債市場においては、M&A等による社債権者への不利益変更を強行した例が少なからず見られて来たが、今回は十分に適切な対応であろう。

懸念されるのは、投資家によっては、NTT都市開発債がNTTファイナンス債へと変更されることで、同一発行体に対する社債投資の規制に抵触する可能性があることだろうか。継続保有が困難になる投資家については、ニュースリリース記載の問合せ先まで照会してほしいと明記されており、限定的なケースではあるが、こういった事態の発生も念頭に置いているようである。