国内起債市場を斬る 起債評価:1/14~1/17

成人の日の三連休明けは、いきなりの起債ラッシュである。特に、17日の金曜日は案件集中が著しい。民間企業の社債だけでも数が多いのに、財投機関債等の公共セクターが上乗せされている。1日に条件決定が10本以上あると、十分に忙しく見えるのであるが、20本を越えたのだから、ラッシュであったと評価してもおかしくないだろう。

10年国債利回りがプラスになった局面での起債となったが、全体的な利回り水準は依然として低く、超長期の起債が相次いだのは、引続き、投資家の利回りに対するニーズが高いことを示している。超長期債を募集した発行体は、民間企業から公共機関まで幅広い。20年債だけでも、川崎重工業、地方公共団体金融機構、中部電力、東京地下鉄、成田国際空港、といった顔触れである。この中で利回りをもっとも高く設定されたのは、川崎重工業債の0.7%であった。超長期債の発行体としては、メーカーは決して多くなく、また、中でもこの会社の事業展開を考えると、超長期の与信には躊躇すべきだろう。同社が消費者向けに直接販売する商品は自動二輪車のみであり、基本的にはBtoBのメーカーである。船舶、鉄道車両、航空機、産業用プラント、精密機械、ロボットといった幅広い展開の中において、自衛隊関連の防衛産業の一角でもあり、破綻処理は行われ難いと期待されるが、景気の影響を強く受けたり、海外企業との競合関係にあるジャンルも少なくない。20年先を安定的に見通すことのできない企業の20年債は、購入対象とし難いと考えるべきである。

20年債を越える年限を募集したのは、東京地下鉄の30年債及び50年債、日本高速道路保有・債務返済機構の30年債及び36年債、地方公共団体金融機構の40年債といった公共セクターである。超長期の与信対象としては、問題は少ない発行体ばかりと言えるだろう。ただし、中では、東京地下鉄の将来を考えると、新規路線の建設が再開された場合のコスト負担や都営地下鉄との合併問題など、懸念材料がないものでもなく、将来的に完全民営化されるならば、全く異なった信用力の状況となる可能性が否定できない。逆に、既に組織のあり方を見直された結果である日本高速道路保有・債務返済機構や地方公共団体金融機構については、当面の変更はないものと想定できる。株式会社形態とされなかった点も、超長期の与信には適した発行体である。

この週の起債のもう一つの特徴は、SDGs(Sustainable Development Goals)債が複数募集されたことである。東急不動産ホールディングスは5年物グリーンボンドを募集しており、JR東日本は10年物のサステイナビリティボンド、東日本高速道路は5年物・7年物・10年物のソーシャルボンドを募集している。分類上の概念は異なるものの、主に対象とするプロジェクト等の絞り方の違いであったり、発行体の事業内容の違いであったりする。近年は、これらを広い意味でSDGs債と括ることが定着しはじめており、投資家側もその認定基準・内容を確認した上で、購入意欲の表明等の取組みを行う事例が見られるようになっている。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/6~1/10

2020年最初の週の起債市場は、個人投資家向けの鉄道社債と、財投機関債で幕開けとなった。個人投資家向けの社債発行体は、東武鉄道と小田急電鉄でいずれも3年債を条件決定している。東武鉄道債には「東武スカイツリーボンド」という愛称が付され、小田急電鉄債には「小田急箱根ゆけむりボンド」という愛称が付されている。いずれも抽選で購入者に景品が当たる仕組みとなっており、投資家の購入意欲を促進する働きがある。もっとも東武鉄道債のクーポンが0.15%で、小田急電鉄債のクーポンが0.1%と、両銘柄ともマイナス金利を大きく上回る水準になっており、利率の面では十分投資妙味があるとも言える。何れも申込期間は1月30日までであり、購入単位の100万円が障害にならない資産家にとっては。絶好の投資機会であろう。

残りの財投機関債は二つの発行体が条件決定している。一つは住宅金融支援機構であり、10年債と20年債各100億円ずつを募集している。R&IのAA+格とS&PのA+格という、いずれも日本国債と同水準の格付けを取得しており、トヨタ自動車等を除けば、日本国内で最高の格付けを取得している発行体と言って良いだろう。10年債は0.155%クーポンで国債対比+15.5bpsのスプレッドであった。つまり、参照国債の利回りは0%だったという計算になる。20年債の利回りは0.35%クーポンで、国債対比のスプレッドは+5.5bpsであった。

もう一つの財投機関は、日本政策投資銀行である。株式会社形態であるために、投資家側の自己資本比率規制によって劣位する可能性があり、格付会社の評価も、JCRのAAA格とムーディーズのA1格は日本国債と同等であるが、住宅金融支援機構が格付けを取得しているR&IではAA格、S&PではA格と1ノッチずつ低い水準となっている。今回募集したのは、3年債100億円、5年債200億円、10年債200億円の計500億円である。3年債は0.001%クーポンで発行単価が100.003円のオーバーパーであり、単利利回りは0%となる。5年債のクーポンは、0.005%である。10年債は0.155%クーポンで国債対比+15.5bpsのスプレッドであった。つまり、一部の格付会社による評価では1ノッチ下回るが、同日に募集された住宅金融支援機構の10年債と同じ利回りになっている。

なお、昨年末に公表された令和2年度の財投機関債発行計画では、久しぶりに中日本・東日本・西日本の高速道路会社3社が財投機関債を発行する計画であり、一方、新関西国際空港と中部国際空港が財投機関債の発行体から外れる計画であることが公表されている。来年度は、財投機関債の顔触れに変化が見られることになりそうだ。

国内起債市場を斬る 新春特別号:2020年のクレジット市場を展望する

年初にあたり、2020年のクレジット・マーケットを展望してみたい。まず、前提となるリスクフリーレートである国債利回りについては、大きな変化が期待できない。日本経済が人口減少の影響を受け低成長に陥っているのと同様に、グローバルに見ても先進諸国は停滞経済化している。その結果、国債利回りが大きく上昇する見込みは乏しい。むしろ景気悪化から、さらなる金融緩和の強化を受けて、人為的な金利圧縮が継続されることだろう。日銀が望むような物価上昇の実現するシナリオは、中東の紛争激化から原油輸入が困難となり原油価格が上昇する影響が物価全般に波及するといったものか。しかし、米大統領選挙と北朝鮮問題を抱える中では、世間をにぎわせているような第三次世界大戦といったものは想定できないし、勃発しても局地戦に限られることだろう。イランを中露が全面的に支援して、西側諸国と激突するなんて世界大戦は、今は架空戦記のシナリオでしかない。
金利が上昇せずレンジの範囲内に留まる中では、クレジット市場自体の要素が大きな変動要因となる。先進各国の経済が停滞する中では、高格付けの銘柄に対する危惧は少ないが、信用力の劣る銘柄や知名度の高さから過大に評価されている銘柄は、大きな転機を向かえる可能性が高い。歴史的に見ても、日本の社債でデフォルトした業種を考えると、小売や不動産といったものが多く、メーカーについては実例が少ない。業態を問わず、発行体を破綻処理せずに融資の返済スケジュールを変更するといった対応がとられる可能性は引き続き高い。発行体と金融機関の取引関係についても、改めて確認しておくべきだろう。

ヘッドラインリスクと株価の変動が、信用力そのものの直接の変化ではないものの、社債の価格変動をもたらす要因になる可能性はある。隠れていたマネジメント・リスクや不正会計、コンプライアンス違反等のイベントは、要注意である。また、M&Aを中心にして巨大な投資が膨れ上がっている企業グループなどは、投資先の何処に地雷が埋れているかわからない。2019年に明らかになった例で言えば、日産自動車、関西電力、日本郵政、ソフトバンクグループなどだろう。当該企業が破綻するかどうかは様々な外的要素が影響するし、社債の償還は確保されても、期中の価格変動が大きくなる可能性もある。景気低迷下では、金利水準が低くなっていることから、キャピタルの損失をインカムで埋め合わせることは容易でない。

2020年の時間軸を考えると、中東や極東の地政学的リスクは、いつ爆発してもおかしくない。一方で、日本は夏に東京オリンピック・パラリンピックというビッグ・イベントを控えている。夏までグローバル経済が持つのかどうか、安倍政権に対する支持が岩盤のような強さを失いはじめた今、五輪後の衆院選の可能性を含め、政治的な混迷が起きた場合の、クレジット市場に与える影響は小さくない。秋の米大統領選を考えると、2020年の前半に収益を確実に固め下期以降に波乱が生じても耐えられるような状況を築いておくことが望ましい。結局「備えあれば憂いなし」という先人の言葉を噛み締めて、準備するしかないのかも知れない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/16~12/20

2019年の起債市場は、此の週で終わりとなる。今年は天皇誕生日がなくなったので、クリスマス前の休日がない。海外で一般的なクリスマス休暇とは異なり、日本の長い年末年始休暇は、グローバルな市場スケジュールとは合致していない。特に、1月の2日と3日が休みなのは、先進国の主要市場では例がない。結局、日本ではクリスマス前から約2週間ほど金融市場が十分には機能しないことになる。かつては、この間に発表される国債発行計画や資金運用部ショックなど、タイミングの悪いイベントが生じたことがあるものの、近年の予定調和的国債発行計画と日本銀行による大量購入で需給が締まっている金融市場は、波乱を期待する方が難しい。淡々と年末年始を迎えることになろう。

最後のタイミングで動いた社債は、二本のみであった。一つは、東京海上日動火災保険の劣後債である。満期は60年となっているが、10年後に期限前償還が可能になっており、金融庁の監督に服す業態に関しては、発行体のコールオプション行使が確実視できることから、実質的に10年債と考えて、よほどのことがない限り大丈夫であろう。近年では、一般事業会社の劣後債をハイブリッド証券などと称して、高い利回りで募集しているが、此方は期限前償還が確実でないことに留意するべきである。証券形態でないハイブリッドローン等では借換えによる実質的な継続を宣言し、それを前提にして格付会社が一定の資本性を認めていたが、宣言を反故にし短い期間でローンを終わらせた事例が少なからず存在する。早期に資金が返済されることは良いものの、再投資が困難になっている可能性は否定できない。結局のところ、オプションの行使が借り手の判断になっているのである。監督官庁によるコントロールがなく、市場や格付会社との間での取り決めを容易に翻して来たことを考えると、事業会社の劣後債については、信用状況や金利水準の変化があった場合に、期限前償還が実施されないリスクを十分に考慮しておくべきだろう。その場合、60年とかの超長期与信になってしまう。

もう一つの起債は、東京ガスの38年債である。社債の募集年限は、基本的には区切りの良い5年・10年・15年・20年・30年といったものが多くいものの、10年以内であれば、特にレアな9年債や1年債といったものもあるが、それ以外の年限はすべて普通に募集されている。必ずしも国債の発行年限にとらわれないのである。また、整数年限である必要はなく、この12月でも三井不動産の第71回社債は10年4か月債であった。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券は、定例の募集年限を外すことが基本であり、オッド年限の募集が珍しくない。そのため、市場参加者は債券の募集年限に対して、以前よりも柔軟な対応ができるようになっている。国債の流通市場が安定していることで、端数の年限でも利回りの参照が容易である。今回の東京ガス債は、国債に対するスプレッドプライシングが行われており、国債対比+26.5bpsのスプレッドで、0.693%のクーポンとなっている。小数第3位まで刻んで半端なクーポンにも見えるが、発行体の年限希望と、投資家のニーズが合致すれば、問題なく消化できる良い例かもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/9~12/13

金利の先高感があまり強くない中で、年末に急いで起債する動きはない。6日の金曜日は劣後債を中心として巨額の債券募集を見ることができたが、週を通しては静かな展開であった。大量の債券供給があった直後であることから、投資家の需要は必ずしも強くなく、投資に際しての銘柄吟味も辛めである。引続き、問題なく消化される起債の条件としては、利回りの高さと、発行頻度の多くないことである。もっとも格付けが低い場合には、レアだからと言って必ずしも良好に売れるとは限らないし、また、逆に、50億円程度の小額起債であると、売れ行きを云々する必要性が乏しい。日本の社債市場でセカンダリーマーケットの流動性の無さが問題視される背景には、投資家がバイアンドホールドであることに加えて、発行金額が小さいことも指摘される。そもそも、ほとんどの社債の最低取引単位が1億円であるために、総額50億円という社債は、50単位にしか分割できないのである。日本で社債を主たる投資対象とする投資信託が商品として成り立ち難いのも、こうした商品特性に原因の一つを求めることができる。市場の活性化を考えるならば、社債のあり方そのもとと、セカンダリーマーケットの将来像を見直す必要があるだろう。

足元の社債市場では、引続き、二極化の傾向が見られる。一つの方向性としては、年限の超長期化である。前週に大量に募集された期限前償還条項を付した劣後債もその文脈で考えられるし、より顕著なのが、鉄道会社に代表される安定業種による起債の多さであろう。この週も、三井不動産が10年4か月債と20年債を計500億円募集し、九州電力は30年債150億円、京阪ホールディングスは20年債を100億円、JR東日本は20年債100億円・30年債100億円・40年債150億円の計350億円を募集している。格付けで信用力を測定可能な年限を越えた社債については、業種特性や当該企業の置かれている状況等を個別に検討して投資判断を行うしかなく、監督官庁による介入度合いの強い業種の方が安定感が強くなる。電力・ガスや鉄道といった業種や、その他の業種では上位企業でないと安心して超長期年限の投資はできないだろう。それでも、将来に向けたリスクエクスポージャーの拡大であり、投資家の担当者も異動や退職によって、投資判断の責任を免れることになるのだから、投資判断における組織ガバナンスが強く求められるべきであろう。

もう一つの方向性がレア銘柄である。募集されたSUBARUの5年債100億円・7年債150億円・10年債150億円の計400億円は、第1回~第3回債である。昭和リースの5年債100億円は第4回債、荒川化学の5年債50億円も第4回債、日本化薬の3年債40億円と5年債80億円は第3回債及び第4回債と、極めて若い回号である。格付けもA-格~A格あたりで、必ずしも高格付けではない。発行年限も5年債が主である。これらの起債も発行体の裾野拡大には意味がある一方で、小額の起債であることから必ずしも市場の厚みには繋がらない。極論すれば、募集したらそれで終わりに近く、流通市場で二度と見かけることがない可能性が高い。

年内の起債市場は、もう少し動きがあるようだ。あまり芳しくない日銀短観の一方で、日経平均株価は高値を付けている。バブル経済のピークを象徴する日経平均株価の最高値は1989年12月末であったことも、忘れてはならない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/2~12/6

12月に入ると、起債市場も年内最後の募集タイミングとなり、まさに佳境に入る。条件決定の物理的期限が月央に迫っていることもあって、起債観測による投資家への打診開始はそろそろタイムリミットである。このような状況でも、募集の多くが金曜日に集中するのは相変わらず困りものだ。特に、12月最初の週は、財投機関債も含めて、6日金曜日への集中が著しい。社債だけに限っても、この週は、3日火曜日1件、4日水曜日も個人向け社債の条件決定を除くと4件、5日木曜日1件といった分布である。6日に条件決定された社債は、機関投資家向けに限っても、30件を超える。

6日の募集で集中したのは、社債の本数だけでなく、いわゆるハイブリッド債が顕著である。結果的にハイブリッド債だけでも、募集金額が大きくなっている。既に4日水曜日にも、東海カーボンが250億円の劣後債を募集している。劣後債の評価はR&IのBBB格で、期限前償還を前提とすれば、0.82%クーポンの5年債である。もし期限前償還されなければ、30年債になってしまうのだが。しかし、6日金曜日のハイブリッド債募集は、この東海カーボン債であっても、陰に隠れてしまう。

6日には、大阪ガスが60年債2本(期限前償還は7年及び10年)計1,000億円を募集し、三菱UFJフィナンシャルグループは10年債2本(1本は期限前償還5年)計500億円を、住友化学は60年債2本(期限前償還は5年及び10年)計2,500億円を、名古屋銀行は10年債期限前償還5年100億円を募集し、イオンは30年債期限前償還10年及び35年債期限前償還15年計800億円を募集している。全部を積み上げると、合計で4,900億円ともなる。大阪ガス債は、R&IのAA-格と劣後債では異例の高格付けであるが、住友化学債はR&IのBBB+格及びJCRのA-格と片脚がBBBゾーンに突入しており、イオン債は東海カーボン債と同じく、R&IのBBB格となっている。

東海カーボンとイオンの劣後債を比べると、期限前償還の時期が異なるものの、当初クーポンが0.82%に対し、1.8%及び2.52%と全く異なる水準となっている。先行きの不透明感が高い小売という業態の特性を強く反映したものである。しかし、単純なイオンの社債で、10年債や15年債に投資するのは躊躇されないだろうか。結果的に、劣後債の仕組みを利用して利回りを高く見せているだけであるとも考えられる。期限前償還を前提にする投資の危険性に加えて、その年限設定すら業種によっては、より慎重に判断すべきであることを肝に銘じるべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/25~11/29

師走である。それでも、金曜日に条件決定が集中する慣習は変わらない。証券会社も投資家も仕事が集中して大変ではないかと思うのだが、条件決定の前にほぼ大勢が決しているために、募集当日に色々と集中しても問題ないのか。それはそれで、現在の募集実態が適切に運営されていないということとも思えるの。引受証券は、外部から指弾されないよう、法律や規則のみならず、ノブレスオブリージュ(noblesse oblige)に則った行動が求められる。

金曜日の29日に多くの募集案件が集中しているが、比較的に知名度の高くないメーカー等の条件決定が多くなったことが特徴的な動きとして挙げられるだろう。5年債を募集した日本冶金工業は、第1回債を募集している。デンカの7年債は第22回債と回数は多くなっているが、決して同社はフリークエントイシュアーとは言えない。住友林業(現在では建設業に分類されており、メーカーではない)は、10年第9回債及び20年第10回債を募集している。戸田建設も第5回の10年債を募集した。KHネオケムは、第1回の5年債を募集している。KHネオケムは、キリンホールディングスの傘下に入った協和発酵グループから、分離独立した化学品メーカーである。これらの企業の中では、住友林業がTVCMで見かけることがあるくらいで、他の企業は、一般消費者には直接触れる機会の少ない企業群であろう。なお、こういったレア物銘柄と見られる発行体の社債は、募集額が小さくなりがちである。日本冶金工業とKHネオケムは50億円の募集であるし、デンカが150億円を募集した以外は、各回号100億円ずつである。

中国電力の第421回債は、25年と珍しい年限で募集されている。電力会社の超長期起債も増えて来ているが、20年債や30年債に比べると25年債はほとんど見ることがない。20年や30年は国債の新規発行があるため、プライシングが容易であるというのが教科書的な説明である。新発の国債とクーポン水準が大きく乖離しないために、リスク把握や管理が容易であるという指摘もある。もっとも、近年のような低金利に加えて、金利変動幅も小さくなっていると、25年といった新発国債とリンクしない年限でも、条件決定は難しくないだろう。今回の中国電力の25年債は国債対比のスプレッド・プライシングで条件決定されたが、木曜日の28日に募集された三井化学の20年債は絶対水準でクーポンが決定されている。基軸が見え難い中でのプライシングであるから、20年や30年といった年限への拘りを捨てても良いだろう。今後は地方公共団体金融機構が募集するFLIP債のように、端数年限での起債がもっと増えても良いのかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/18~11/22

週央に古巣の証券会社のDCM担当と話していると、22日(金)は条件決定が大量に集中するとのことであった。実際に、社債と財投機関債とを合わせて10以上の発行体が債券の発行条件を決定する展開となった。前日である21日の木曜日は、電力2社と双日、日本高速道路保有・債務返済機構だけが条件決定しており、22日の集中度が極めて大きかったのである。これからの起債観測を見ると、12月中旬の年内最終募集期限に向けて、年内最後の繁忙期となりそうだ。

22日に登場した発行体の顔触れを見ると、メーカー、商社、電力、通信、運輸、ノンバンク、財投機関と幅広い。今回は、運輸に着目すると、まず、南海電気鉄道および京浜急行電鉄が各々20年債を募集している。格付けでは、前者がA-(R&I)格で、後者がA+(JCR)格と2ノッチ差がある。しかし、決定されたクーポンを見ると、前者の0.69%に対し後者は0.576%と必ずしも大きな差にはなっていない。前者が絶対水準でプライシングされたのに対し、後者は国債対比+32bpsでスプレッドプライシングされたためもあるが、日本銀行によって利回りもスプレッドも潰されている現状では、投資家の目線はどちらに寄ったのだろうか。

運輸の中でも、空運のANAホールディングスは、格付けがR&IのA-格及びJCRのA格である。鉄道と航空という業種の差を無視すれば、南海電気鉄道と同等、京浜急行電鉄より1ノッチ下の格付けである。条件決定したのは、6年の個人向け社債の他、10年債及び20年債各100億円であった。20年債のクーポンは0.69%と、南海電気鉄道と同水準で決定されている。格付水準のみを見れば、同格であることから同じ利回りを適正と考えることもできるが、果たして鉄道と空運を同列に論じて良いだろうか。欧州を中心に燃え盛っているESG(Environment, Social & Governance)やTCFD(The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures)といった運動の中では、空運に対する風当たりは極めて強い。ジェット燃料を大量に消費して二酸化炭素を巻き散らす業種として、活動家は移動に際して飛行機の使用を忌避するほどである。一方、鉄道に関しては、使用する電力に関してそのエネルギー源を問われないため、クリーンであるとする評価が根強い。実態は、化石燃料による火力発電と、廃棄物処理に問題のある原子力発電とに多くを依存しているのだから、決して電車はクリーンな輸送手段と思えないのであるが、目に見えるものしか相手にしない活動家という連中は、そんな浅薄な理解で満足するものである。いずれにせよサステナビリティ(sustainability)を重視する観点からは、鉄道と空運には将来的に大きな差が存するために、格付水準のみから同じ利回りというのは、機関投資家からは受け入れがたいであろう。

環境という意味では、日本電産が3年債500億円・5年債300億円・7年債200億円と計1,000億円のグリーンボンドを募集している。創業者がブラック企業体質であることを是とする方針を長期に強調し続け、足元では米中貿易摩擦から業績の下方修正が確実視される中で、グリーンボンドを募集するというのは実に皮肉である。株式と異なって、社債の元利弁済に業績の下方修正は大きく影響しない可能性はあるが、信用力の低下等で時価の下落を気にする投資家にとっては、長めの与信を警戒することになろう。年限ごとの発行金額の差が、投資家の警戒感を端的に表している。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/11~11/15

未だ、国内起債市場は本格稼働とはなっていない。前週に続いて、まだ、公共債が主体となっている。地方公共団体金融機構が毎月募集する10年債350億円の他、半期に1回ペースの珍しい5年債を100億円募集している。5年債の利回りを前週の住宅金融支援機構と比較すると投資妙味は格段に落ちるが、市場実勢という観点からはおかしくない水準である。やはり国債がマイナス金利となっている年限では、一般債の目線は難しい。なお、10年債の利回りは、国債対比+16bpsのスプレッドと発表されている。

同じく公共債セクターでは、東日本高速道路と日本高速道路保有・債務返済機構が債券を募集している。前者は、5年債300億円・7年債200億円・10年債400億円と計900億円の募集である。前述の地方公共団体金融機関の10年債と同様に、東日本高速道路の10年債も国債対比+23bpsのスプレッドとされている。10年国債利回りが大きく動く中でのプライシングとなったこともあって、絶対水準オンリーでは投資家のニーズが確保できなかった可能性もあろう。本来のあるべき姿に戻りつつあるのか、それとも暫時の姿なのか、今後の動向を見極めたい。日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債は40年である。国債対比+41bpsのスプレッドとされるが、クーポンは0.882%と1%に満たない。40年という途方もなく長い年限を考えると、例え発行体のデフォルト・リスクがほとんどないにしても、満期持ち切り目的ではない投資家としては、此のクーポンでの資金固定のリスクは、十分に考えるべきであろう。

民間で唯一の起債が、阪急阪神ホールディングスによる10年債及び20年債100億円ずつの募集である。両年限とも国債対比のプライシングが行われ、10年債は+31bps、20年債は+45bpsとされる。この週の10年債のスプレッドを並べると、準地方債とも言える地方公共団体金融機構債が+16bps、準財投機関債と言えるが形式的には社債である東日本高速道路債が+23bps、阪急阪神ホールディングスの社債が+31bpsとなる。格付けは、前2者がAA+(R&I)格であり、阪急阪神ホールディングスがA+(R&I)格であるから、発行体の規模的な格差は整合的であると言えよう。しかし、AA+格とA+格の差は3ノッチと大きく、それでありながらスプレッドの差が10bpsにも満たないというのは、金利水準の低さそのものに影響されたと見るべきであり、投資家は割高感と流動性リスク格差を認識すべきであろう。

これから12月中旬に向けた約1か月間が年内の新発債に関する最終募集期間であり、起債観測はメーカー、鉄道、通信、建設、商社、小売り、ノンバンク等様々なのものが見られている。年内の各週の金曜日は、慌ただしい展開になりそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/4~11/8

9月末決算の発表が引きつづき継続しており、民間企業の社債募集は動きが鈍い。1週間を見渡すと、国債や地方債を除いて条件決定から募集に至ったのは、日本高速道路保有・債務返済機構と住宅金融支援機構の財投機関債を除くと、森ビルの社債のみとなった。

森ビルは3月期決算を採用しているが非上場であり、必ずしも上場企業と同様のスケジュールには馴染まない。今回募集したのは、10年のグリーンボンドである。不動産業は、比較的にグリーンボンドには馴染みやすい業種であろう。今回の起債に関しては、虎ノ門・麻布台プロジェクトの保留床取得資金を使途とすることが発表されている。「アークヒルズ」に隣接し、「文化都心・六本木ヒルズ」と「グローバルビジネスセンター・虎ノ門ヒルズ」の中間点に位置し、ロシア大使館の斜め向かい、旧麻布郵便局のあった日本郵政グループ飯倉ビル及びその背後にあった古い住宅地等を再開発するプロジェクトである。やや地下鉄の駅からアクセスは良くないが、港区内の一等地である。『緑につつまれ、人と人がつながる『広場』のような街』というコンセプトが提示されており、超高層ビルと緑化地域を両立させる狙いで、グリーンボンドには相応しいプロジェクトであろう。なお、グリーンボンドとしての適格性に関する第三者オピニオンは、サステイナリティクスより取得している。

ここで近年の社債発行市場における変化の可能性について、コメントしておこう。従来、投資家は自らがどの債券を幾ら購入したかが公になるのを望んで来なかった。また、どの証券会社から購入したかも、他の証券会社との取引関係に影響する可能性があることから、明らかになるのを忌避して来た。こうした状況に変化が訪れる可能性が、二つの方向から見られている。一つは、グリーンボンドやソーシャルボンド等に対する取得意向の表明である。投資家が新規に発行される債券に対して事前に購入意欲を示すということは、価格決定に影響を与える可能性もあり、避けられてきたのである。ところが、購入意欲の表明は、実際には、購入しない可能性もあるし、金額が明示されないことで、必ずしも忌避されないようになっている。グリーンボンド等に投資する異様の表明は、結果として、投資家と発行体双方のメリットがあるように思える。

もう一つの方向がPOT方式の採用である。主幹事証券等が顧客からのオーダーをすり合わせ、適正価格と玉(ぎょく)の配分をコントロールするものである。一部の投資家には根強い抵抗感があり、必ずしも全面的な採用には至っていない。そして、投資家の抵抗の背景にあるのが、購入申し込み玉の数量や完売に関する引受証券から流される情報が必ずしも真実でない可能性があると疑われていることにある。歴史的には、ある程度の疑いが古くから根強く囁かれてきたものの、近年では、「条件決定の金曜日集中化」と極端な偏りもあって、情報ベンダー経由で公表される完売宣言や応募倍率等の一方的な情報に対して内容の正確性が疑われている。一部の情報ベンダーからは、「実は完売していなかった」といった類の報道すら見られる。このように起債運営に対する投資家の不信感が高まっていることを前提とすると、POT方式が必ずしも容易には前に進まないものと考える。引受証券は改めて市場から疑念を呈されないように襟を正す必要があるのではないだろうか。