国内起債市場を斬る 起債評価:1/18~1/22

起債市場の動きを見ていると、金曜日の債券募集件数が急に少なくなったことで、恒例の決算発表シーズンに入ったことを感じさせられる。前週までは金曜日に債券募集が集中し、引受証券会社や情報ベンダーは「きっと忙しい」と覚悟していたのだが、この週は金曜日に募集されたのが、かんぽ生命の劣後債だけであり、状況の変化は速い。昨年の同時期の状況を見ると、この後は公共セクターに偏り財投機関債の募集が主になり、2月中旬頃から年度末に向けては、大規模な債券募集シーズンとなるのである。

この週の起債も、相変わらずノンバンクや銀行といった金融セクターが中心になっているが、特に気になったのは、前述のかんぽ生命が募集した機関投資家向けの劣後債2,000億円である。最終償還が30年の期限付き劣後債であって、当初クーポンは1.05%とされ、10年後に最初の期限前償還タイミングが到来する。その後は、5年物国債利回り連動の変動利付債になる仕組みであるが、基本的には期限前償還を前提として10年債と考えて購入する投資家が多いだろう。投資家は、発行体に期限前償還を実施するコールオプションを売却した形であり、オプションプレミアム相当分がクーポンに上乗せされていると考えるべきスキームである。金融機関等の劣後債の場合には、金融庁の監督の下でほぼ確実に期限償還されると推定するのが一般的である。

10年債で1.05%クーポンという利回りは、同じ年限の地方債や国債と比べると、格段に高い水準である。しかし、それは間違いなくリスクの裏返しである。JCRがこの劣後債に付与した格付けは、A+格に過ぎない。かつては政府と一体的な存在であり財政投融資の一部となっていた発行体であるが、現在は、民営化によって日本郵政と親子上場されている営利法人である。ゆうちょ銀行とともに、日本郵政の傘下で利益を稼ぐ柱と期待される構造にある。しかし、ベースとなる顧客の高齢化に加え、営業に関する不祥事から新規営業が一年にわたって停止され、大きく経営基盤が傷付いている。生命保険会社の場合、新規募集時点のコストが相対的に大きく、保険の募集を停止したり削減したりすると、費用の低下から、当初は目に見えて利益が拡大する。しかし、その後、保有契約高が減少することから、中期的な収益は必然的に減少することとなる。言い換えると、短期的な業績に惑わされず、中期的に考えねばならない事業構造であることを理解する必要がある。

大正期に創設された郵便局による小口保険販売は、戦前の民間生命保険会社が大口富裕層を対象としていた時には、有意義な存在であった。しかし、第二次世界大戦後に民間生保が小口大衆販売にシフトした中では、存在価値は低下してしまった。さらには、民業圧迫を回避する観点から、加入保険金額に上限が設定され、養老保険や個人年金保険といった貯蓄性商品に軸足を置かざるをえなかったのである。バブル経済崩壊後の低金利環境下でリスクを取らずに、十分な利回りを得ることは難しく、ゆうちょ銀行と同様に外部人材を採用した運用への努力も行われたが、そもそも国債の定期的な購入くらいしか運用経験がなく、極力リスクを忌避する企業文化が根強く残り、利回りの確保に苦戦し続けている。そこへ違法な保険営業による営業停止処分が加わったのである。その上に、新型コロナ禍で対面営業に制約がある中で、かんぽ生命に未来はあるのかは、揶揄されている。純粋な民間企業と考えるならば、決して明るい絵は描けない。個人を中心とした保険加入者に損失を被らせることができない以上、株主や劣後債を検討する機関投資家は、公的サポートへの期待を前提にして投資するしかないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/12~1/15

内起債市場を斬る 起債評価:1/12~1/15

成人の日(1月11日)を含む三連休が明けて、起債市場がようやく本格的に動き出した。しかし、水曜日から木曜日になっても、条件決定にまで至る案件はわずかであった。結局のところ、金曜日に案件が集中するという展開は変わらない。年度内最後の四半期初めというタイミングもあって、早速に債券を条件決定する業態は、ノンバンク・電力・公共セクターが主になるという、ほぼ予想された展開となっている。

ノンバンクで社債を条件決定したのは、みずほリースが4年債及び7年債、オリエントコーポレーションが5年債と10年債、三菱UFJリースが6年債と個人向け7年債、クレディセゾンが5年債と20年債といった顔触れである。BBB+(R&I)格という格付けの低さから、オリエントコーポーレーションの10年債は、0.76%クーポンという高い水準が付されている。同日に募集された東日本高速道路の10年債は、0.185%クーポンと約4分の1である。一方、同日の平和不動産の10年債は、BBB(R&I)格と1ノッチほどオリエントコーポレーションより低く、クーポンは0.78%とさらに高水準になっている。東京証券取引所の家主として知られ、兜町から茅場町界隈の再開発を進める同社は、証券各社との繋がりが強く、70億円の起債を大手5証券の共同主幹事という形をとっている。クーポンの高さを取るなら、ノンバンクの中ではクレディセゾンの20年債が、0.97%クーポンと1%近い水準である。ただし、みずほフィナンシャルグループとの関係の先行きを考えると、クレディセゾンの20年後というのは、ややイメージすることが難しい。

単純にクーポンの高さだけを見ると、公共セクターの中でも、東京地下鉄の50年債が1.13%の高水準である。信用リスクを取るか、デュレーションリスクを取るか、どちらで利回りを稼ぐのかという試金石になる。それでも、50年後に東京の地下鉄網がどうなっているのか。ロンドンの地下鉄状況を見ると十分に路線は維持されているだろうが、直下型か南海トラフに起因するものかはわからないが、地震の影響が生じないとは考えられない。それでなくても補修等メンテナンスに膨大なコストを要すことは必定であり、累積欠損を解消しきれていない都営地下鉄との統合問題をいつまでも回避することは難しいだろう。東京地下鉄は、その他に20年債と30年債とを募集しており、他に、財投機関債では日本学生支援機構の2年債と、日本高速道路保有・債務返済機構が利子一括払いの24年債と34年債を募集している。準財投機関債とも言えるものでは、地方公共団体金融機構の10年債及び20年債、中日本高速道路の5年債、東日本高速道路の7年債及び10年債といった債券が募集されている。

例年であると、特定の電力会社が年初早々に起債していた記憶があるものの、今年は電源開発10年債と東京電力パワーグリッドの20年債がこの週に募集されており、いずれも必ずしも伝統的な電力債ではない。東京電力パワーグリッドは、R&Iの格付けがBBB+格とオリエントコーポレーションと同符号であり、20年債と年限を長くしたために、1.42%クーポンと東京地下鉄の50年債を上回る水準になっている。どちらが、投資対象としてより妙味あると見えるだろうか。東京電力パワーグリッドの信用力評価は、公的サポートの想定次第で大きく異なるものとなるだろう。

なお、降雪と気温低下、更には、原子力発電所の多くが稼働停止(運転中のものは調整運転を含めてわずか4基に留まる)となっているため、地域によっては電力需給が逼迫している。需要の高まりから卸電力の価格が急騰した影響が、一部の新電力会社の収支を圧迫し、さらに、一部の契約内容では個人宅にも転嫁される状況となっている。ブラックアウトの懸念もあり、必ずしも電力債を発行しているような大手発電送電会社の収支は影響されないと思われるが、電力需給に大きな異常が生じた場合には、電力関係の債券に対するヘッドラインリスクの顕在化する可能性が高い。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/4~1/8

年末年始休みの明けとなっても、すぐには債券の募集がされることにはならない。主要な海外市場と異なって、正月三が日は休んでしまうのが日本市場である。もっとも、2021年は1月2日が土曜、3日が日曜というカレンダーであったため、例年のやたら長い東京市場の休場はさほど目立たなかったようだ。クリスマスから数日間の市場変化を織り込んだ上で、起債準備は週初から動き出しているが、実際の募集は週後半からとなる。今年は株高を背景にし、日本証券業協会の提示した新しい債券募集ルールが適用される中で、金曜日の8日に日本政策投資銀行と住宅金融支援機構の財投機関債が募集されている。

日本政策投資銀行は3年債・5年債・10年債を各200億円募集している。3年債は0.001%クーポンのオーバーパーであり、5年債は0.03%クーポン、10年債は0.145%クーポンとなった。R&Iが昨年5月に日本政策投資銀行の格付けをAA格からAA+格に引き上げており、住宅金融支援機構と格付符号が同一になっている。R&Iは日本政策投資銀行の役割が民間に移行される可能性や預金受け入れが許されていない銀行の特殊性等を考慮して格付けを下げていたと考えられるが、東日本大震災等危急時の政策金融支援に日本政策投資銀行の役割が不可欠とされていることや政府による株式保有義務期間が延長されたことが再評価され、日本国債と同一水準としたものである。現時点では、S&Pが依然として日本国債より1ノッチ下となるA格と評価しているが、少なくとも日本国内の投資家でS&Pの格付けを根拠にして国内の債券発行体の信用力評価を行うものはないと考えられることから、実務上の支障はないだろう。

住宅金融支援機構の財投機関債は日本政策投資銀行と同じく3本立てであるが、5年債200億円の他に、10年債及び20年債を各100億円募集している。5年債と10年債は、R&Iの格付けが同一である日本政策投資銀行の財投機関債の同年限と同じクーポンである。日本政策投資銀行債は株式会社形態を採用しており、自己資本比率規制におけるリスクウェイトでは劣位となる場合があるものの、基本的に日本国債と同水準の格付けであり、信用力に対する大きな懸念はない。とは言っても、日本国債と同程度の信用力という評価は揺るがないものの、新型コロナ感染症の拡大継続によって住宅ローンの延滞やデフォルトが増加する可能性を考えると、一般担保債より貸付債権担保債のローンプールに対する懸念が高まるだろう。もっとも、貸付債券担保債も暗黙の政府保証は一般担保債と同様にあるものと考えられており、決してデフォルトするとは考えられないと云うのがコンセンサスではあるが、償還タイミングが後倒しとなる可能性や風評リスクを念頭に入れておく必要があるかもしれない。

これから2021年の起債市場に民間企業の社債が登場して来る。例年なら、ノンバンクや電力債といったところがトップバッターになるのであるが、今年はどうだろうか。確かに、複数のノンバンクによる起債観測が確認されている。

国内起債市場を斬る 新春特別号:「ハイブリット」債。規制に依拠した投資リスク

近年の起債市場で注目を集めた一つの種別に、事業会社の発行する劣後債がある。通常の債券に対して、資本性があると格付会社等が認めるために、ハイブリッド債などと美化して呼ばれているが、本質はあくまでも期限前償還条項の付された劣後債でしかない。しかも、金融機関等の規制業種でない事業会社の発行するものについては、監督官庁による指導がなく期限前償還をスキップされる懸念が大いに存在する他に、格付会社等による資本性認定基準が変更されることによって、容易に依拠する枠組みが破壊されてしまうリスクを指摘して来た。その後者のリスクが、どうやら顕在化して来そうだ。

具体的には、国内基準の自己資本比率規制が適用される銀行等の保有する劣後債等に対するリスクウェイトが、従来の格付水準に応じた掛け目(20%~150%)から、一律150%へと変更される予定が公表されたのである。これはバーゼルⅢの国際基準で設定されたものと同じ掛け目であり、決して新奇なものではない。従来格付けの高いものに対して適用されていた低めのリスクウェイトが、一気に優先債権ではBB-未満に適用される水準となる方向である。劣後性に対する評価を国際基準に合わせるものであって、決して違和感はない。

事業会社の劣後債に対する金融機関からの需要は、今回の変更によって基本的に消失すると考えるべきだろう。一般的にリスクウェイトが大幅に上昇したならば、その金融商品の保有を継続したり、新規に投資するインセンティブは無くなってしまうだろう。事業会社の劣後債に対して、期限前償還を前提とした当該保有期間対比での利回りの高さが、これまで投資家のニーズを喚起して来たのであるが、リスクウェイトが跳ね上がってしまうと、投資妙味は投資家側の変化によってなくなってしまうのである。極論すれば、国内基準行による事業会社の劣後債購入は、一切期待できなくなってしまう可能性が高い。

今回のような規制・制度の変更は、劣後債の商品特性によるものではなく、それに対する評価や分類が異なってくることによるものであるから、発行体の責任ではなく、引受証券による「投資家に対するセールストーク」が問題となる可能性はあるが、基本的に、規制や監督のルールに基づくものであって、誰の責任とも言い難い。むしろ事前にこういった事態の発生懸念を考慮に入れていなかった投資家の怠慢、手落ちと言われても仕方ない。そもそも、規制や監督等に依拠した投資は、その前提が覆ってしまうと、一気に評価が変わってしまうのである。

もっとも、国内基準を適用される金融機関等以外の機関投資家には、今回の変更は影響しない。財団等の諸法人や年金といった投資対象に対する規制の存在しない投資家は、引続き、事業会社の劣後債に対する強いニーズを示す可能性はある。しかし、期限前償還されないリスクや格付会社による評価方針変更といったリスクを、決して忘れてはならないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/14~12/18

この週の半ばが年内の債券募集期間の最終になるかと思われたが、実際には、18日の社債募集が最後となった様である。証券化商品や政府保証債等が次の週に募集されることはあるかもしれないが、例年と同じ市場展開ならば民間による大型の社債等が募集されることはないだろう。社債等の条件決定及び募集から払込までの期間を考えると、物理的にはクリスマス前まで募集が可能であるとも考えられるが、追補目論見書等を提出する先は財務局であり、その仕事納めは28日である。今年は12月28日が月曜日であるため、予算関連等や感染症対策等の緊急業務を除くと、仕事納めの前に関連先への挨拶回りを25日と設定して、実質的には24日頃が通常業務の終わりとなるものと思われる。つまり、社債等の募集は、今年はスケジュールのギリギリまで行われたということなのだろう。

年内最後に登場した中で注目すべきは、まず、パナソニックの起債である。3年債800億円・5年債700億円・7年債200億円・10年債300億円と基幹年限だけで計2,000億円を募集している。かつて三洋電機に対する買収資金で、当時の最高額となる規模の社債募集を行った同社であるが、今回の2千億円の起債は、前週のNTTファイナンスよる計1兆円の起債に比べると、インパクトが乏しい。日本の起債市場でも巨額の債券募集が一般化すれば、流動性の向上に資するものと期待されるのだが、NTTファイナンスの1兆円のうち4割にあたる4千億円、パナソニックの2千億円のうち4分の3にあたる1,500億円が、日銀オペによる買取り見合いの5年債以下の年限であるため、中長期的な観点からの流通市場育成には、ほぼ寄与しないだろう。

次に、JR西日本の起債は、29年債と39年債の各150億円である。参照国債との関係で、数か月のズレを捨象(しゃしょう)し切り上げた形で、30年債とかと呼称する場合もあるが、今回は、追補目論見書に29年債・39年債という記載が見られる。そもそも、社債の発行年限として超長期債を10年単位で募集すべきといったルールは存在しない。参照となる新発国債の年限を主張する市場関係者もいるが、国債対比のプライシングでなければ関係はないし、そもそも50年に参照となる国債は存在しない。最長の40年国債の利回りと対比しても、それは単なる利回りの差分であり、意味のあるスプレッドではない。また、発行体側から見れば償還年限の分散を考える必要があるのではないか。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債のように、細かな年限の募集を行って良いと考えられる。実施に、同機構は、この週も9年債・13年債・22年債・23年債・24年債を募集している。

最後に、芙蓉総合リースが7年物のサステナビリティ・リンク・ボンドを募集している。当初の4年間は0.38%クーポンであるが、その後2024年7月31日時点でサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲットを達成していれば残りの3年も0.38%クーポンを維持し、達成していなければ0.48%クーポンにステップアップするという仕組みである。ターゲットとしては、再生可能エネルギー使用率と同社の定めるサポートプログラムの累計取扱額が設定されている。投資家としては、0.38%クーポンが維持されるものと考えて投資し、クーポンが引き上げられたらラッキーという程度に解釈するのが正しいであろう。再生可能エネルギー使用率やサポートプログラムの累計取扱額については、外部からの判定が容易でなく、あくまでも発行体の言い値に過ぎないからである。ICMA(国際資本市場協会)の定めるガイドラインに則っているのではあるが、そもそもICMAは国際的な証券会社の団体であり、引受証券及び発行体側に有利な基準である可能性が高い。なお、芙蓉総合リースは、この週に日本政策投資銀行からサステナビリティ・リンク・ローンを借入れており、サステナビリティ改善への強い姿勢を示している。一連の動きから、その取組み姿勢は評価して良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/7~12/11

年内の債券募集期間の終わりが迫る中で、前週に引続き、公的機関の債券募集が進むのと並行して、民間企業の債券募集もポツポツ見られる。公務員にボーナスが支給される期間ということもあって、個人向けの債券募集も、前週の四国電力債・北海道電力債に続いて出始めている。この週は楽天カード債が募集開始となり、国際協力機構構の10年物財投機関債も1万円単位で個人でも購入できる設えになっている。電子化されている債券は、小額で販売しても問題ないのである。ところが、社債管理者を設置しないために社債は1億円単位として募集されることが一般的なのである。これでは、巨大投資家しか社債等が購入できない。

社債管理者を設置する必要のある一般担保付きとなっている財投機関債や一部の社債の場合には、小額単位として個人投資家向けの販売を併用しても支障ないのではないか。管理の手間が面倒だと厭う(いとう)証券会社も少なくなく、店頭売買参考統計値が付されるため、個人から買取る場合の価格も制限されてしまうことから、現在ではほとんど見られない。投資家の裾野を拡大するためには、金額の小口化も一つの有効な手段であろう。

金額の意味でまったく別方向に向かったのが、NTTファイナンスによる総額1兆円の社債募集である。NTTの保証を付し、NTTドコモの完全子会社化のための株式買取に用いたブリッジローンを固定化するための起債である。近年の日本の起債市場において、大型の起債は、ほぼM&A関連の資金調達案件だと思って良い。確かに1兆円の起債規模は過去に例のない大きさで、発行体にとっても資金調達に意味があるし、引受実績や主幹事実績が大きく加算される証券会社にとっても、大きな意味がある。

しかし、投資家にとっては、巨額募集には直接のメリットがあまりない。購入可能な社債の金額が大きくなるかもしれない。確かに流通市場に出て来る金額は大きくなり、気配値の精度が高まるかもしれない。しかし、それら以上の大きな意味はない。海外の大型起債を見慣れていると、そもそも日本の社債が50億円や100億円×複数年限といった金額で募集されることが、実質的にバイアンドホールドを前提とした、私募に限りなく近い債券募集であって、元来目指してきた流動性は乏しさを感じる。このような大型起債が普通に見られるようになって、流通市場の厚みが高まるようであれば願ったり叶ったりではあるが、単発で1兆円規模の起債があっても、単なるイベントにしか過ぎないと投資家は冷ややかに見ているのではないだろうか。

これまで社債発行市場の発展に際して大きなインパクトを持つ取組みを続けて来たNTTであるが、今回の起債については金額以上のインパクトはない。M&A関連の資金ニーズがない限り、合計で数百億円の社債募集までというのが、日本の起債市場の実態であり、これでは市場の発展はなかなか見られないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/30~12/4

週初めの月曜日は前日までの準備が出来ないために、社債等の募集が行われることは稀である。これは、引受証券の事情でもあるし、投資家の状況も同様かもしれない。週末に海外を中心に市場環境が大きく変化したらと考えると、休日の前にすべてを固めてしまう訳には行かない。そのため、前週は実質的に12月市場と考えるしかない。しかも、実際には、週の後半に債券の募集が集中する。もし募残が多く出るようであれば、条件決定以降に販売努力が必要なのかもしれないが、近年の低利回り環境下では、募残に対する懸念も少ないようだ。

週央での債券の募集は少ないが、目立つ起債も少なくない。この期間では、アイフルの1.5年債が注目されるだろう。同社による二度目の公募ハイイールド債の募集である。大手機関投資家の中でも、BBBに満たない格付けの社債を投資対象と公言しているのはGPIF(Government Pension Investment Fund;年金積立金管理運用独立行政法人)くらいのもので、他の公的年金は少なくとも国内ハイイールド債について積極的ではないようである。一方で、海外のハイイールド債等を投資対象としているのであるから、首尾一貫していないのかもしれないし、国内クレジットの恐ろしさから敬遠しているのかもしれない。国内クレジットの恐ろしさとは、突然のデフォルト発生に対する懸念ではなく、破綻した企業の債券を保有していたことに対するステークホルダーやメディアからの非難を敬遠するからであるという。海外企業の破綻だったら仕方ないと酌量される可能性が高いのに、国内企業の場合には、「破綻するような企業の社債を購入したのは、いかがなものか」と白い眼で見られかねない。こういった風潮が残る限り、日本でのハイイールド債市場の活性化は容易でない。

金曜日である4日は、ソーシャルボンド、サステイナビリティボンド、グリーンボンドと、SDGs関連債券が種々募集されているが、金額という意味では、JR東日本の4本立て起債が圧倒的である。近年、定例化している10年刻みで超長期まで満遍なく募集するパターンであるが、今回の募集は20年債から50年債と超長期年限に限ったものとなった。20年債200億円・30年債300億円・40年債250億円・50年債150億円と合計で900億円の募集である。年限を加重平均すると約34年となる。

このような超長期年限の社債を調達ができるのは、公益性の高い鉄道や電力ぐらいだろう。日本の鉄道は1872年の官営から半官半民、1906年の鉄道国有法による国有化推進から始まっており、100年を超える歴史がある。電力にしても、民間会社から戦時中の国家総動員法に基づく半官半民の統合を経て、1951年に地域会社に移管されたものである。こうした過去に国が管理した経験を有することが、超長期の信用力を担保する一つの要因となっている。もっとも、日本航空のように半官半民の社歴があったとしても破綻した事例は存在するため、単なる過去の経緯だけではなく、事業の内容や将来の可能性を十分に考慮する必要がある。例えば、ガソリン自動車の販売が禁止されるようになった時に、自動車製造業者や関係の部品メーカーは、どのようにして生き残るのだろうかといった命題は、産業や企業の移り変わりを経験するような長期間の与信を行う場合に、念頭に入れておく必要がある、と考えるべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/23~11/27

勤労感謝の日を含む三連休明けで、営業日としては4日しかなかった週であるが、年内最後の債券募集期間に入っており、水曜日以降に債券の募集が相次いだ。募集された民間企業の社債だけを見ても、業種の幅が広い。金融、小売、化学、建設、石油、精密機器、陸運、通信、電力、金属製品、土石製品と様々である。年限を見ると、日銀オペ対象年限である3年や5年も多いが、7年や10年も幾つか見られ、逆に金利水準の上昇している超長期は北陸電力の12年債100億円のみと少ない。

年末が近づいたという実感を強くするのは、大型案件の募集であろう。複数年限を併せて1,000億円以上となる募集が複数行われている。まず、関西電力の5年債及び10年債各500億円の計1,000億円である。近年、原発誘致関連のスキャンダルに追われていた感の拭えない同社であるが、5年債のクーポンは0.18%で10年債のクーポンは0.44%とJCRでAA-格及びR&IのA+格を取得している会社にしては高い水準であることから、強い投資家のニーズがあったようである。何しろJCRでA格を取得している高砂熱学工業の10年債のクーポンが0.43%である。もっとも格付けだけで語るのは危険であり、他に募集された10年債を見ると、JCRでA+格のニコンが0.47%クーポン、R&I及びJCRで同じ水準の格付けを取得しているソフトバンクが0.57%クーポン、JCRでA格の太平洋セメントが0.45%クーポンと、必ずしも格付けとは連動していない。個々に企業の内容や業種、資金使途等を分析する必要があろう。

大型案件の二番目は、ソフトバンクである。5年債800億円・7年債250億円・10年債150億円の計1,200億円を募集している。投資持株会社と化したソフトバンクグループと異なり、同社は通信業者という位置づけである。それでも持株会社の投資活動による影響を完全には遮断しきれないことから、格付けのみでは説明できないような利回りの高さとなっている。それでも、調達の主軸が5年債というのは、市場への影響に配慮したものであろう。

もっとも大きな金額を募集したのが、セブン&アイホールディングスである。3年債1,300億円・5年債1,800億円・7年債400億円と短めの年限で合計3,500億円を募集している。3年債と5年債という日銀オペ見合いの年限では、一つの回号だけで前述の関西電力やソフトバンクの調達額を越えている超大型の起債である。資金使途は、大型起債につきもののM&A関連であり、具体的には米国子会社の7-ElevenがSpeedwayブランド等のコンビニ事業を買収するためのものである。つまり、M&A関連の起債の特徴として、同社の有利子負債比率が上昇することは確実であって、買収が収益に貢献できなければ格下げといった事態も生じる可能性が考えられる。セブン&アイホールディングスの事業全般を振り返ると、国内のコンビニ事業はネットワークの強さを維持している一方、そごう・西武の百貨店事業がコロナの影響で大きなダメージを受けているだけでなく、セブンペイの失敗やネット通販チャネルであるオムニ7の低迷もあって、8月末時点の持株会社の経常利益は10%を上回る低下となっている。なお、格付各社はSpeedwayの買収を発表した時点で、いずれも格下げ方向のレーティングモニターとしており、現在の格付けであるA+(R&I)及びAA-(JCR)を妄信するのではなく、引下げとなる可能性を十分に織り込んで考える必要があろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/16~11/20

ようやく2020年末に向けた起債市場の動きが本格化している。相変わらず金曜日への案件集中は顕著だが、既に火曜日から三菱重工業が5年債及び10年債で計650億円を募集し、その後も明治ホールディングスの3年債やNECキャピタルソリューションの10年債等が社債を募集されている。衛生用機器メーカーである瑞光(6279)が、初めての公募普通社債である5年債を募集したのも木曜日であった。

金曜日に案件の集中した状況を年限別に分解すると、日銀による買入れオペ見合いの5年債以内と、超長期債の募集が目立つ。また、中軸年限である7年債や10年債の募集も細々とではあるが確認できる。グリーンボンドで募集されたのはキリンホールディングスの5年債100億円であり、東日本高速道路の5年債・7年債・10年債の計900億円はソーシャルボンドとしての認定を受けている。

3年債の募集はクーポンが低廉で済むこともあり、また、投資家が償還まで抱え込まないことも可能なため、市場では消化負担が小さいと考えられている。引受証券会社は、引受手数料を得ることが出来て実績となる。国債より利回りが高く、証券会社経由で日本銀行に持ち込めば売却益を得られるのだから、投資家に損もないだろう。日銀の金融緩和による副作用というか市場の歪みと言えよう。しかも、金融緩和という政策目標の錦の御旗を掲げた中央銀行は、市場介入によって損失が発生しても政策コストと割切ることが可能なのである。結局、市場参加者の誰もが不利益を被らない。敢えて言えば、日銀納付金の減少によって国庫がとも言えるが、その裏で金利の低下による最大の受益者は国内最大の債務者である政府であることから、国民もしくは納税者も受益者であると考えられるのかもしれない。

超長期債の募集者は、京阪神ビルディングが15年債、三菱ケミカルホールディングスと京浜急行電鉄・東武鉄道・南海電気鉄道が20年債といった顔触れである。R&Iの格付けでは三菱ケミカルホールディングスがA格と1ノッチ高く、京浜急行電鉄以外の三社が並ぶ構造にある。京浜急行電鉄はJCRからのみA+格を取得しており、これは三菱ケミカルホールディングスの格付けと同じ水準である。京阪神ビルディングは不動産業界であり、鉄道三社ともども、新型コロナ感染症による需要減の影響を強く受ける業態である。もっとも三菱ケミカルホールディングスのような基礎化学も、中長期的に消費低迷の影響を緩やかに受けることは間違いない。クーポンを単純に並べてみると、京阪神ビルディングが0.86%、京浜急行電鉄が0.67%、三菱ケミカルホールディングスが0.77%、東武鉄道が0.74%、南海電気鉄道が0.81%となっている。南海電気鉄道は、かつての負のイメージから完全には脱却できていないだけでなく、関西空港アクセス客の減少による下方圧力も意識されているのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/9~11/13

11月に入り徐々に起債市場が動きはじめているものの、まだ、本格稼働という感じではない。あたかも12月中旬までの年内の募集期間ギリギリに向けて、エネルギーを蓄えているかのようだ。起債観測は、様々なメーカーや交通関連など多くの企業から上がっているが、新型コロナウイルス感染症の動きが活発になりつつある状況に鑑みると、旅行や小売、サービスに関連する発行体は今後も苦しまざるを得ないのかもしれない。札幌を中心とした北海道の感染者増に加えて、当初は感染者がないと豪語していた岩手県でも複数の飲食店でクラスターが発生しており、予断を許さない展開となっている。寒さや乾燥でウイルスが活性化し、飛沫の距離、範囲共に延びていくという。気温の低下から換気が不十分になり、これが感染拡大の要因となっている可能性が高い。もしそうであれば、本格的な寒波の到来による首都圏や中部・関西の気温低下による状況の悪化が懸念される。欧米の感染拡大を対岸の火事と見ることは極めて危険であり、未だに日本の感染者が少ない要因は、解明されていないのも、不気味だ。

徐々に動きはじめた起債市場では、住宅金融支援機構の3本立て財投機関債以外には、日銀オペ見合いの年限である3年債及び5年債の社債のみが募集されている。発行体は高格付けと低格付けとの両極であったと言って良いだろう。トヨタグループに属する自動車部品メーカーであるデンソーは、R&IのAA+格と日本国債並みの水準の格付けを得ている発行体である。募集した3年債は0.001%クーポンであるが、単価が100.003円のオーバーパーであって、利回りは0%である。それでも同年限の国債よりは高い利回りなのである。久しぶりの希少性も加わって、500億円の募集でも何ら支障がない。

もう一方のグリーは、BBB(R&I)格を取得しているネット企業である。元来はSNSの運営会社とされていたが、現状はネットゲームに注力しているようである。新型コロナウイルス感染症の拡大で在宅を強いられている人が多い中で、売上の拡大が確実視できる強みはあるものの、流行り廃りの激しい業界であって、短期間で大きく業績や収益状況の変化する可能性も高い。そういう意味では、3年債と5年債という組み合わせは、ギリギリの年限ではないか。しかも、募集金額は3年債50億円に対して5年債は30億円と、公募普通社債では見ることが稀な少額発行である。3年債の0.51%はデンソーと比べると500倍以上の高いクーポンであり、5年債も0.85%クーポンと十分に高い水準であるが、発行体の先行きが懸念からか、なかなか投資家の購入意欲を掻き立てるものではない。それが、BBB格という格付けであり、業種としての特性にも結び付いた見方であろう。今回が第1回債及び第2回債という初の公募普通社債であり、投資先の分散という意味では購入を考えても良いとする投資家はあっただろう。