国内起債市場を斬る 起債評価:7/18~7/22

起債市場での動きが盛り上がらなかったのは、月曜日が海の日で三連休となったこともあり、週後半に開催された日銀の金融政策決定会合で変わった動きが出ないか見守っていたためもある。更には、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が激増し在宅勤務の再拡大等で労働環境に影響が出たためもあるのだろうか。株主総会シーズンを越えた直後の7月中旬に見られた起債ラッシュを過ぎると、市場に夏休みムードが台頭するためというのが真相かもしれない。本格的に暑い夏を迎えると、あくせく働くよりも、少し活動をセーブしたくなるのが人情なのであろう。

公募社債等で目立ったのは、本数で見ると、地方公共団体金融機構のFLIPS債である。主に各四半期の最初の月に、定例の起債年限と重ならない年限で募集するという方針の通りに募集されており、6本の債券が8年から19年の範囲で分散して募集されている。10年や20年は定期的に公募債の他、地方公務員共済向けに縁故債を発行しているため、民間企業の公募普通社債では、ほとんど見ることのないレアな年限で募集される。発行年限の分散という意味では、これほど分散している発行体の例は、国も含めて他にない。もっとも、10年債を10年間毎年募集すれば10年に渡る償還年限の分散になることもあり、国や地方公共団体の起債年限に対する考えは、こちらの方が近いだろう。

民間による公募普通社債の募集は、ダイキン工業による7年債と10年債の2本立て計400億円のみである。一般消費者に馴染みがある製品はエアコンくらいであるが、総合的な空調産業であり、夏の社債募集は時宜に適っているだろう。当初の起債観測が両年限とも150億円程度とされていたことを考えると、やや増額されての募集であり、電力債などの減額が目立った今月前半とはやや趣が異なるかもしれない。必ずしも起債頻度が多くないこともあり、また、格付けがR&IのAA-格及びJCRのAA格と高水準であり、また、ムーディーズのA2格も取得していることをプラス材料として評価して良いだろう。金利水準が上昇したといっても、日本銀行のコントロール下にある10年までは大したことなく、国債対比+30bpsでプライシングされた10年債のクーポンですら0.544%にしかならない。金融政策が見直されない限り、10年以内の債券で高い利回りを得るには、信用リスクを取るしかない状況が続いている。

FRBに続いてECBも利上げに動いている中で、金利上昇が著しくなる前に、海外での外貨調達に向かう企業も少なくない。この週の一つの例を挙げると、NTTファイナンスが米ドル建てでグリーンボンドを募集している。2年債・3年債・5年債を5億ドルずつ募集しており、136円で換算すると、合計で2,040億円に相当する。日本国内の公募債だと、大規模とされる調達額である。米国国債対比のスプレッドは+90~120bpsであり、日本国内で同社が発行する公募普通社債のスプレッドとは大きな格差がある。ちなみに、今回の起債で取得したNTTファイナンスの格付けは、ムーディズのA1格とS&PのA格である。国内格付会社による発行体格付けは、R&IのAA+格及びJCRのAAA格と日本国債と同符号であり、もし日本国債を海外市場において米ドル建てで募集したら、どういうプライシングになるのだろうか想像してみるのも面白い。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/11~7/15

7月中旬になっても、起債ラッシュと言い切れるほどの盛り上りはない。前週にも触れたように、一部の起債案件では、予定していた金額よりも募集額を落として案件を成立させたり、日銀のイールドカーブコントロールの対象外にあって金利上昇傾向の強い超長期年限での起債を諦め、中短期債にシフトしたりといった動きが散見される。また、募集された社債等の顔触れを見ても、公的とSDGs債ばかりが目立ったというところである。

公的セクターでは、地方公共団体金融機構が定例の10年債と20年債とを募集している。10年債は毎月募集であるが、20年債は募集されない月もある。個別の地方公共団体よりも信用力の高いイメージの発行体であるが、基本的な構造を考えると、政府保証がない以上、最高位の地方債と同程度と考えるべきだろう。東京都債や共同発行債といったあたりの目線で考えるのが良いだろう。その他にも、東京地下鉄が20年債・30年債・40年債と超長期セクターばかりで募集している。超長期年限の国債金利上昇を受けて、地方公共団体金融機構の20年債だとクーポンは1%割れだが、東京地下鉄だと20年債で1%を越え、30年債で1.5%、40年債で1.67%クーポンとなっている。一方、日本高速道路保有・債務返済機構は4年債と19年債という、少し変わった年限の起債で、いずれもソーシャルボンドである。また、国際協力機構も10年債と20年債を募集しており、ピースビルディングボンドと称しているが、募集文書にあるように、これもソーシャルボンドに含まれるものである。20年債のクーポンは0.91%と1%を下回る。同様にソーシャルボンドを募集したのが、東日本高速道路で5年債・7年債・10年債で、当初より少し減額したものの計990億円を積み上げている。

圧倒的に公的セクターの起債が目立ち、その中でもSDGs債が多く募集されているが、民間セクターでも、SDGs債は負けていない。募集されたのは、三菱地所のサステナビリティリンクボンドのみであるが、5年債・10年債・30年債各200億円の計600億円であり、中でも、30年債というのはサステナビリティリンクボンドとしては最長の年限である。それもそのはずで、30年後についても、募集時に設定した環境等に関するSPTs(サステナビリティ・パフォーマンスターゲット)が将来においても妥当であるかどうか確証を持つことが容易でないのである。今回の起債に付されたSPTsの中で、30年債に適用されるのは、”2050年にネットゼロ達成”と”2050年度に女性管理職比率40%を達成”の二つである。後者については、容易に達成の判断が可能であり、おそらく30年後にも違和感はない水準と期待できるが、果たして前者のネットゼロ達成が30年後に十分な目標設定であるかは不明である。温室ガスの抑制をより強く求められることになるならば、甘い目標設定であったと認識される可能性がある。SPTs未達成の場合は、寄付やボランタリー・クレジット等を購入することになっており、超長期にビル経営を実行している発行体に相応しいと見る投資家も少なくないだろうが、サステナビリティリンクボンドを短期的なブームに終わらせないためには、目標や年限、未達成時の対応等の設定については、シビアに見ておくべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/4~7/8

ようやく株主総会明けの起債市場で、社債等を募集する動きが活発になって来た。それでも、最初に動く業態は、いつもと変り映えしない。まずは、電力関連である。JERAは6年債101億円と25年債103億円という、年限も金額もちょっと変わった社債を募集した。これが呼び水になったものの、その後の電力関連の起債は、やや苦戦した状況となった。九州電力は3年債70億円・6年債150億円・18年債81億円と、これも珍しい年限の組み合わせと金額である。電源開発の3年債は、募集金額が239億円と完全な端数での発行である。その後も、北陸電力は3年債200億円と10年債100億円の募集を目指していたとされるが、最終的には3年債166億円と10年債73億円に募集額を絞っている。エネルギー価格の上昇と夏場の電力不足に対する懸念もあって、電力関連に対する警戒感が高まっているのである。その後に募集された中国電力の3年債も、146億円に募集額を絞っているなど、電力債に関する市場の変調が懸念されるところである。金曜日に募集された関西電力債は、3年債200億円と20年債70億円とまとまった金額になったが、中部電力の20年債は92億円と100億円に満たず、北海道電力の10年グリーンボンドも50億円のみであった。

もう一つの早期に動く業種としては、鉄道を挙げることができる。東日本旅客鉄道は3年債150億円・30年債100億円・50年債200億円と、年限を絞っての募集となっている。短期と超長期との極端に年限が分散している。しかし、3年債のクーポンが0.24%であるのに対し、50年債のクーポンは1.854%と7.7倍ちょっとでしかない。先行きの金利が上昇すると思うならば、明らかに3年債を選ぶべきだろう。また、京王電鉄は10年債120億円と20年債80億円を募集している。超長期年限の金利水準が変化して来たことで、やや超長期の債券募集が抑制されているようにも感じられる。

既に、北海道電力のグリーンボンド50億円には触れたが、その他のSDGs債としては、日本電気の5年・7年・10年のサステナビリティリンクボンド計1,100億円、川崎重工業の10年グリーンボンド90億円、出光興産の5年・7年のトランジションボンド、三井不動産の5年・7年・10年のグリーンボンド計800億円と、相変わらず本数も金額も多くが募集されている。電力債が需要に合わせて募集金額を減らしているのに対し、SDGs債は多くが100億円単位での募集である。引続き、投資家のSDGs債に対する購入意欲は強いようだ。

なお、住宅金融支援機構は5年債200億円・10年債100億円・15年債100億円・20年債150億円の一般担保財投機関債を募集しているが、これらの中で、20年債のみがグリーンボンドとされている。今年度に入って、これまで同機構が募集したグリーンボンドは、政府保証債のみであったが、ようやく従来と同様に財投機関債でのグリーンボンドが見られるようになったことは、一つの変化とも言えよう。

国内起債市場を斬る 6月末特別号:7月に起債ラッシュはあるのか?

前週は株主総会シーズンでサムライ債を除くとほぼ起債はなかったので、少し近視眼かもしれないが、この7月に起債ラッシュがあるかどうかについて検討してみたい。起債ラッシュに厳密な定義などはないが、イメージとしては1日に10以上の発行体が複数本立ての社債等を募集する状況が二営業日にわたって見られるような状況である。過去を紐解いてみると、発生しているのは月の中旬頃で、7月・9月・11月・12月・3月といったタイミングで見られることがある。このタイミングには理由がある。一つは社債等の募集が困難な時期になる前に一斉に募集するといったもので、半期末を控えた9月、年末を控えた12月、年度末を控えた3月といったタイミングで生じるのは、この要因である。一方、それらとは異なる理由から生じる可能性のあるのが、7月と11月かもしれない。この二月については、募集不能となるタイミングの前ではなく、逆に、期末や半期末の決算発表や株主総会といったイベントが終了した後といった要因が考えられる。

起債ラッシュの発生する可能性のあるタイミングは、このように、1年間に複数回存在しているが、常に発生するものではない。発行体の資金調達意欲にも左右されるし、投資家の購入意欲の有無も重要である。また、それらの背景にある金利の先高観や経済見通しといったものも影響する。M&Aなどによって発行体側に資金調達ニーズがあり、投資家がクレジット投資に注力したいという意向があり、需給が見合っているのならば、先行きの金利は上昇しないという見通しがあったり、クレジットの先行きに対する警戒感は低いのかもしれない。金利がまもなく上昇するという見通しであるならば、発行体の早期調達ニーズと投資家の購入意欲はマッチしない。

現在の金融・経済環境を考えると、超長期債に関しては金利上昇に対する警戒感が少なくない。日銀は7年や10年までに関しては、イールドカーブコントロールを死守する姿勢を示しているため、それを越えた超長期ゾーンにまで手が及んでいない。2016年初めに単純なマイナス金利政策を導入した際には、20年ゾーンまで全てゼロ金利近傍まで金利は低下したが、現状はそういう展開になる可能性が低く、むしろ日銀は超長期の金利上昇を妨害しないと考えられる。したがって、超長期の起債に対しては、発行体の調達ニーズと投資家の購入意欲は乖離している可能性が高い。そのため、超長期年限の起債での金額積み上げは、難しいのではないか。

一方、10年以内の金利に関しては、来年度頭に黒田総裁が任期満了を迎えるまで、水準の上昇を見込むことが難しい。日本経済に関しては、欧米のような急速な金融緩和抑制による景気のオーバーキル展開がは見込まれないため、引続き、微温経済といった感じで低金利と低成長が続くと思われる。したがって、10年以内の社債等の起債環境は、良好な状況が続くのではなかろうか。投資家のSDGs債に対する購入意欲も強く、7月には様々な発行体がこぞって、グリーンボンドやトランジションボンド等を募集する準備を進めているようであり、10年以内の年限におけるSDGs債の募集が、7月の起債市場の特徴になりそうだ。ただし、超長期ゾーンの起債が想定通り盛り上がらないのであれば、起債ラッシュにまでは至らない物と想定される。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/20~6/24

会社法の規定に基づくと、3月期決算企業の株主総会が6月後半に集中するのは必然である。その余波を受けて、起債市場の動きは引続き鈍くなる。先日はヘッドラインリスクの発生懸念を理由の一つとして上げたが、実際に、マレリホールディングスが民事再生手続きに移行したのを見ると、この時期には何があってもおかしくない。アンテナを尖らせておく必要性を痛感する。幸いにして株価や為替も一頃より落ち着きを見せているが、金融政策の動きだけでなく、参議院議員選挙の結果を踏まえた政策の変更などにも注意しておくべきであろう。

この週に社債等の募集は見られなかったが、東京都が5年のソーシャルボンドを募集しているので、紹介しておきたい。東京都によるソーシャルボンドの募集は3回目となる。今回の発行条件は、5年債300億円に対して、0.11%クーポンが付されている。国債対比のスプレッドは+5bps程度であった。取得した格付けは、S&PのA+格である。調達した資金の充当先としては、無電柱化の推進、特別養護老人ホームの整備費補助、特別支援学校の整備等を予定として挙げている。

資金充当事業で見てもわかるように、これらの取り組みは、いわば地方公共団体の本来業務である。東京都のような不交付団体を除くと、地方債で資金調達すれば、基本的に地方交付税の措置対象であり、起債についてはお金を集めて来る大義名分に過ぎない。充当する事業が地方公共団体の本来的な業務であるなら、結局のところ、ソーシャルボンドであることも、認定機関に手数料を払ってラベルを付けてもらったのに過ぎない、それで、当該地方債の売れ行きにプラスとなれば意味もあろうが、もともと購入を希望する投資家が多い中では、単にソーシャルボンドとしての認定手続きに余分な手間をかけ、認定機関に余計な手数料を払っただけに過ぎないのではないか。

実際、地方公共団体で同様のソーシャルボンドを発行した例は見られない。結局、現在の都知事がお得意なフリップ芸(2020年「3密」では、同年流行語年間大賞受賞)ならぬ、パフォーマンス志向の政策に他ならないのではないか。新型コロナ対策をはじめとして、実態や中身のない取り組みに、カタカナや漢字語での耳障りの斬新な言葉を散りばめ、仕事をやっている風に取り繕って見せるものの、実際には、ほぼ何も出来ていないのが現在の都政である。通勤時の満員電車をなくすといった都知事選での公約はどうなったのか。新型コロナ対策で少し実現に近づいたが、それは感染懸念による自粛のお陰であり、能動的な政策は見られない。今回のソーシャルボンドによる調達資金の使途として、辛うじて”無電柱化の推進”が明記されているから、公約を忘れていることはないようである。
とは言え、先日は「都民ファーストの会」の代表で、参院選に出馬する荒木千陽氏の街頭応援で、『大阪よりも500人死亡者が少ない』と、大阪府と東京都と比較する発言で“自画自賛”の応援には、早速批判が飛び交っていた。
今回のソーシャルボンドに対して、購入意欲を表明したと東京都のHPに明記されているのは、銀行関連で静岡銀行・第四北越銀行・東京きらぼしフィナンシャルグループ・みずほ銀行(メインバンク)・三菱UFJ銀行・武蔵野銀行・信金中央金庫・農林中央金庫で、公的団体では江戸川区・文京区・新エネルギー産業技術総合開発機構・造幣局があり、他に公益財団法人や日本コープ共済生活協同組合連合会・日本労働組合総連合会などが名を連ねている。都に付き合わされる銀行はご苦労だと思うが、本業に邁進するだけの実態を伴わない「ソーシャルボンド」購入者として名前をさらすことには、投資家にとってもデメリットの方が大きいかもしれない。グリーンウォッシュならぬソーシャルウォッシュとでも表現すべきか。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/13~6/17

3月期決算企業の株主総会が近づくと、例年起債市場の動きは鈍くなる。ヘッドラインリスクの発生を怖れるのが一つの要因であろうが、今年は金融政策の変更懸念や、円安に加えて株価が上下動を繰り返していることもあって、起債環境としてはやや不安定さが感じられる。そのためもあって、無理に資金調達を急がないという発行体側の事情も十分にあるだろう。

何しろこの週は、従前の10年国債に対する指値オペに加えて、国債先物が大きく売り込まれたため、残存7年国債に対しても日銀が指値オペを初めて実行したほどの状況であった。先物が売り込まれた結果、7年と10年の国債利回りが逆転するなど、通常の自然なイールドカーブが崩れてしまったのである。イールドカーブコントロールという金融政策そのものが、市場を統制し管理下に置くというものであるから、既に自然なイールドカーブでなくなっていた可能性は高いが、通常の右肩上がりの姿を失ってしまった状態に人為的な弥縫(びほう)策(さく)を講じても、必ずしも容易に目的が達せられるとは限らない。日銀の歪んだ政策に一部のヘッジファンド等が真っ向から挑んだ形である。もっとも、国債先物取引には限月が設定されており、ローリング決済が可能とは言うものの、期近でなければ取引量に限界があり、圧倒的に日銀及び財務省側が有利である。流動性供給入札と買入オペによって、国債の個別銘柄についても需要と供給の両方をコントロールできる当局と戦って、売り方に勝ち目はないだろう。

7年から超長期年限の金利上昇を受けて、長めの年限での調達がほとんど行われなくなっている。社債等の募集を見ても、北陸電力の8年債くらいなもので、地方公共団体金融機構がFLIPに基づいて14年債と15年債を募集しているが、これは公募と言っても、特定の購入者が具体的に見えている起債であって、一般的に広く市場で購入者を募るものではない。もっとも、金融商品取引法が想定していたような一般公募は、現実の有価証券募集の局面では、なかなかお目にかかれなくなっているようであるが。プレマーケティング等の事前ヒアリングによって、社債等の販売は募集金額が変更されることも少なくなく、また、取引の透明性を確保する募集方式が一般化したこともあって、募残が発生するようなことも珍しくなっている。

結局のところ、みずほリースの4年債100億円、JERAの3年債121億円、GMOインターネットの5年債60億円、加賀電子の3年債及び5年債各50億円と、イールドカーブコントロールが有効と見られる中期年限までの小額起債が、起債銘柄のほとんどとなってしまっている。社債等のSDGs債募集が見られなかったのは、珍しく感じる。なお、月内一杯は株主総会シーズンとなるため、カレンダーが7月に変わり、市場が落ち着きを見せるまでは、社債等の募集は全般的に大人し気味になりそうだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/6~6/10

この週の社債等の募集は、6月9日、木曜日にピークが来るという珍しい展開となった。それでも週の後半に募集が多く行われていることには変わりがない。まず、個別に目を引いた起債を幾つか挙げてみたい。中国電力の30年債120億円は野村證券による単独引受案件であり、クーポンは1.25%と高水準になった。円安が進み超長期金利が相対的には高い水準となっているが、決して歴史的に高い水準とまでは言えない。あくまでも、異次元の金融緩和以降の人為的低金利政策下において抑制された水準から、少し上がったという程度である。それでも1.25%が高いクーポンに見えてしまうのは、目線の慣れでしかないのだろう。

次に、アイフルが2年債300億円を募集している。クーポンは0.97%とわずかに1%を割れる水準である。中国電力30年債のクーポンにまでは届かないが、2年債としては明らかに高いクーポンである。かつてアイフルはR&I格付けがBBB-格に満たず、いわゆるハイイールド債の発行体として知られていたが、格上げ後の今回の債券発行に際して取得した格付けはJCRのBBB格である。決して安定性の高い業態とは言い難いが、2年債なら取得可能と考える投資家も少なくないだろう。

アイフルとほぼ似たような年限で起債したのが沖縄電力である。募集したのは3年債200億円で、クーポンは0.18%とアイフルの1/5以下になっている。格付けがR&IのAA格・S&PのA+格・ムーディーズのA1格と高いことに加えて、原子力発電所を有していないアドバンテージも有していることから、電力会社の中では相対的な勝ち組と見られている。もっとも同社の発電所は、水力発電が可能な大規模河川が県内に存在しないため、ほとんどが重油やLNG、石炭の燃焼による火力発電である。風力発電は離島にのみ設置されており、認可最大出力の0.1%のみしか占めない。

この週の起債は、相変わらずSDGs債が中心になっている。グリーンボンドの一つは、相鉄ホールディングスの5年債150億円であるが、資金使途を見ると、新型車両の購入はグリーンであるが、ホームドアの設置はソーシャルとされており、サステナビリティボンドの認定を得ても良かったのではなかろうか。もう一つのグリーンボンドは、サンケン電気の5年債50億円で、資金使途はEV投資とのことである。ソーシャルボンドは、日本高速道路保有・債務返済機構の4年債300億円・15年債100億円・20年債150億円の計550億円と福祉医療機構の10年債100億円といった公的セクターの財投機関債が占めている。

サステナビリティボンドの認定を得たのは、ゼンショーホールディングスの5年債100億円、三井住友建設の5年債50億円の二つで、サステナビリティリンクボンドは、オカムラの5年債50億円がSPT(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)未達成の場合に寄付する形式であった。なお、ENEOSホールディングスの10年債850億円と20年債150億円の計1,000億円はトランジションリンクボンドという目新しいラベルを付されているが、実態はサステナビリティリンクボンドであって、SPTs未達成の場合は、寄付し排出権を購入する仕組みである。引続き、様々なラベルを有した社債等によって、SDGs債発行市場の賑わいが続きそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/30~6/3

漸く、起債市場はエンジン全開に入った。目立つキーワードは、相変わらず、超長期、SDGs債という二つであるが、それらに含まれるものがあるものの、メーカーの起債が相次いだというのは、一つのピークであり、市場の盛り上がりを端的に示す兆候でもある。メーカーが発行条件を決定した社債は、横浜ゴムの7年債及び10年債計300億円、IHIの5年債及び10年債計200億円、キリンホールディングスの5年債200億円、サントリーホールディングスの3年債・5年債・10年債の計850億円、三菱ケミカルホールディングスの10年債170億円、エア・ウォーターの5年債100億円、JFEホールディングスの5年債及び10年債計300億円と、総計で2,120億円にも上っている。業種もゴム、食品、機械、化学、鉄鋼と幅が広い。

超長期債は、利回りが金利上昇の影響を強く受けており、民間企業による当該年限の社債発行は減っているように見えるが、公益企業や公共セクターといった安定基盤を有する発行体にとっては、まだまだ魅力的な水準なのかもしれない。低金利に慣れた投資家から見ても、現在の金利水準は、金利が上昇傾向を継続すると考えなければ、一頃よりも改善された利回りを享受することが可能である。全力で買い進むのでなければ、購入チャンスが継続していると考えていることだろう。中国電力16年債の0.85%クーポンは微妙な年限と利回り水準だったかもしれないが、四国電力の20年債に付された1%クーポンは数字が象徴する意味も大きい。一方で、都市再生機構のように、40年債が1.269%クーポンで50年債が1.435%クーポンと言われてしまうと、やや利回り水準の評価が難しく見えるかもしれない。果たして、それだけ先の将来の金利水準がどうなっているか、少なくとも現在の投資担当者は、債券の償還時にその部署どころか、その機関投資家で定年を迎えているだろう。何れにせよ、5年債以上では国債対比のスプレッドプライシングが復活している例も多くなっており、新たな目線の構築が必要になっている。

SDGs債の中では、ややトランジションボンドの募集が目立つようになっている。必ずしも環境に優しいとは思えない業態の企業が、環境改善に取り組む方向へ努力するプロジェクトに向けたファイナンス目的である。趣旨としては、ノンバンクが再生エネルギー関連融資に当てるといったグリーンボンドより、余程、筋は良さそうに思える。IHIは5年債と10年債の両方がトランジションボンドで、JFEホールディングスも5年債と10年債の両方がトランジションボンドとされた。トランジションボンド以外には、日本取引所グループの1年債はセキュリティトークンを活用したグリーンデジタルトラックボンド、長瀬産業の10年債はサステナビリティリンクボンド、エア・ウォーターの5年債はサステナビリティボンドと多様な募集があり、ソーシャルボンドもなかなかの流行のようで、キリンホールディングスの5年債、クレディセゾンの機関投資家向け5年債、都市再生機構の超長期債両方と目立っている。こうしたラベルを有した社債等は、投資家にとっても実利に限られない投資メリットがあり、ますますSDGs債市場の賑わいは続きそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/23~5/27

週の前半は静かに構え、週末に向けて一気に噴出するというまるで関脇「阿炎」関の立ち合いを彷彿する社債の募集の週となった。火曜日は地方公共団体金融機構によるFLIP債のみが募集され、水曜日はホンダファイナンスの3年債と5年債の2本立て計400億円の他クラレの10年債100億円と小規模の募集に留まり、木曜日も東急の10年債と20年債の2本立て計250億円、アサヒグループホールディングスの5年債と10年債の2本立て計600億円が募集され、徐々に募集金額の加速感が高まったように見える展開であった。ただし、ホンダファイナンスの格付けがR&IのAA格で、クラレはJCRのAA-格と高格付けであり、東急とアサヒグループホールディングスもJCRから取得している格付けはAA-格と、ここまではAAゾーンの高格付け起債が相次いだのである。

一気に社債等の募集が殺到したのは金曜日であった。条件決定された金額という意味では、楽天グループの個人向け3年物社債が1,500億円と最大の金額に見えるが、クボタの機関投資家向け社債も買収資金のリファイナンスの目的で、5年債と10年債とで同じく計1,500億円の総額を積み上げている。なお、楽天グループの個人向け社債には、楽天モバイル債という愛称が付されており、取り扱う楽天証券はインターネットセミナーで債券の基礎知識や『楽天モバイル債の魅力』に関する学習機会を提供している。楽天モバイルは、人口カバー率が高いと宣伝しているものの、大都市圏でも地下や高層ビルでの通信サービス提供に大いに難があるという批判は根強い。また、今年7月からの新料金プランでは3GB以内のデータ利用で月額料金が税込み1,078円とされ、6月まで1GB以内を無料としていたものからの騙し討ちの大幅値上げという批判を強く受けている最中である。楽天モバイルの設備投資に用いるという資金使途には則したネーミングではあるが、適切な愛称とは考え難い。3年債で0.72%クーポンという水準は高いようにも見えるが、JCRのA格という評価とモバイル通信のみならず様々なネットビジネスのコングロマリットである同社の将来性について、どのように評価するかで投資判断が分かれるだろう。

それ以外では、相変わらずGSS 債の募集が目につく。トヨタ自動車が業界トップカンパニーらしく独善的に命名している『Woven Planet』債は、5年債と10年債とで計600億円を募集しているし、大阪ガスは10年債・20年債・30年債の3本立て計310億円のうち、10年債100億円のみトランジションボンドの認定を取得している。戸田建設の10年サステナビリティリンクボンドは、温室ガスに関するSPTsが未達の場合、寄付を行うという最近の典型的な起債形式で100億円を募集しているし、東北電力も5年債と10年債で計300億円募集するうち10年債のみがグリーンボンドである。また、東武鉄道も3年債と10年債の2本立て計200億円のうち、10年債だけがグリーンボンドになっている。調達した資金の使途が異なるとは言え、実際はお金に色がなく、却って分別管理を行い、投資家等への情報開示を行う必要があるGSS債を、一部の起債にだけ採用するというのは、発行体にとってのメリットは大きくない可能性がある。第三者機関等による認定のコストなどとも関連するが、情報開示などで投資家とのコミュニケーションを強めるのであれば、起債全般をGSS債とした方がよほどスッキリ整理できるのではないだろうか。
夏場所(2022年5月)の関脇阿炎も、期待されつつ7勝8敗。もろ手の突き一本で立ち合い勝負で相手に向かうも、次の一手が出ないため、GSSのような『叩き込み』で土が付く。投資家を唸らせる起債が待ち遠しい。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/16~5/20

漸く3月期決算企業の決算発表シーズンが終わり、社債等の募集に至る案件が増えて来た。しかし、中身を見ると、シーズン当初に動く事の多い電力関連債券に加え、SDGs債がほとんどである。実は、SDGs債という呼称も日本証券業協会が提唱しているものの、必ずしも海外で一般的な表現ではない。一方で、ESG債といった表現を使われることもあるが、Environment・Social・Governanceという三要素を中心に据えたESGという概念は必ずしも、現在の起債市場の実勢にそぐわないものである。少なくともガバナンス債という概念は成立しない可能性が高い。ICMAの策定した原則等で定義されているのは、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティリンクボンドの三種であり、別途、サステナビリティボンドのガイドラインが設けられている。海外では、グリーンボンド等の頭文字を取って、GSS債といった表現も用いられているようだが、少し実務における定着等の様子を見てみたい。将来的にSDGs債やGSS債といった表現について変更する可能性があることは留意されたい。

この週で目立ったのは、まず、電力関連のトランジションボンドである。主に化石燃料を燃焼して発電している従来型の電力会社にとっては、特定の再生可能エネルギー等による発電プロジェクトを抜き出してグリーンボンドの認証を得ることも不可能ではないが、トランジションボンドを打ち出すことがより適切であろう。世の中の流れもあって、電力各社が温室効果ガスの排出抑制と再生可能エネルギーの活用に向かっている中では、トランジションの評価を受けることが妥当であろうし、やや無理筋のプロジェクト単位でグリーンボンド認定を取得することに対しては、グリーンウォッシュの誹り(そしり)も免れない可能性がある。具体的な起債としては、九州電力の5年債及び10年債がトランジションボンドとされ、また、JERAの5年債及び10年債も同様である。後者については、東京電力と中部電力の火力発電事業を統合した経緯もあって、トランジョションボンドとしての取組みにこそGSS債募集の活路があるように思われる。なお、北陸電力の二本立て、関西電力の三本立て、電源開発の二本立ては通常の電力債もしくは社債として募集されており、中部電力の二本立ては5年債が通常の電力債で、10年債のみがグリーンボンドとしての認定を得ている。

その他に、グリーンボンドとしての認定を得たのが住友商事の10年債とJR東海の35年債であり、日本学生支援機構の2年債はソーシャルボンドとなっている。また、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債と10年債の二本立てはサステナビリティボンドである。結局のところ、GSSのいずれかに該当するような可能性のある発行体なら、GSS債のラベルを得て投資家にアピールできることもあって、有効活用出来る可能性が高い。認証に要するコストも必要となるが、社債等の売れ行きにプラスとなるかどうか需要調査の段階で検討する価値はあろう。ESG投資を掲げる投資家は少なくなく、GSSのラベルが付いた起債を購入することのメリットは投資家側にもあるし、結果的に、取扱う証券会社をも利することになる。ラベルの認証機関も手数料収入で潤い、メディア受けも良いというのであれば、誰にとっても失うもののないWin-Winの関係となるのだが、果たして欠落している視点はないのだろうか。より、現実に沿った検証が必要である。