国内起債市場を斬る 起債評価:2/5~2/9

ようやく起債シーズンが再開となった。とは言っても、早く動くのは毎度決まった業態が中心であり、しかも、8日(木)に地方公共団体金融機構が定例の10年債を募集した以外、社債等の募集は9日(金)に集中する展開である。ただでさえ内田日銀副総裁の講演等から金融緩和の先行きが怪しくなっている環境下、三連休前というタイミングでの募集は発行体と投資家の双方にとって良いものとは考え難い。米国雇用統計の内容は利下げの先送りを期待させるものであり、為替が円高に向うということもなかったため、株価は最高値を更新する状況となっている。「高転びに転ぶ」とは安国寺恵瓊が織田信長の天下の先行きを懸念して発した言葉であるが、現在の株価やドル高も状況が一変する危険性を意識の片隅に入れておいた方が良いだろう。何が偶発の契機になるか予測するのは不可能であるが、その時に金利がどう動くか考えておくことは、金融市場参加者にとって重要な頭の体操である。

ほぼ9日(金)に集中した社債等の募集も蓋を開けてみると、ほとんどがSDGs債である。そもそも前日に債券を募集した地方公共団体金融機構も海外向けにはグリーンボンドを発行しており、業務内容から考えるとソーシャルボンド等を選択することも可能と考えられる。また、金曜日に債券を募集している中で、唯一、SDGs債を選択しなかった科学技術振興機構についても、2年債の資金使途は「大学ファンド」の運用原資であり、公益性が極めて高い。結局のところ、現在の起債市場では、純然と営利のみを目的とした社債等の募集が、却って珍しくなっている。しかも、翌週には財務省によるクライメート・トランジション利付国債(トランジション・ファイナンスとは、温室効果ガスを多く排出する産業における事業活動を脱炭素型へ移行するために行われる資金提供を指す。脱炭素社会の実現に向けて、長期的な戦略にもとづいて取り組みを行う企業に対し、資金面で取り組みをサポートするための新しいファイナンス手法)の入札が予定されており、起債市場全体がSDGsの色に染められていると言っても過言ではあるまい。

電源開発の19年債はSDGs債の形式となってはいないが、同時に募集された10年債はグリーンボンドであり、その他に、中央日本土地建物グループの5年債もグリーンボンドである。鉄道建設・運輸施設整備支援機構のサステナビリティボンドは10年債であるが、残りのSDGs債は5年債ばかりである。住友三井オートサービスがサステナビリティボンドとされた他は、中部国際空港、西日本高速道路、大学改革・学位授与機構といった公的機関はいずれもソーシャルボンドを選択している。

結局のところ、公的な発行体はソーシャルボンドの認定を得やすく、それに事業内容からグリーンボンドの性質が加わる場合にサステナビリティボンドが選択される傾向と考えられる。民間企業の場合には、特に、建設・不動産関連はグリーンボンドが多く、運輸やメーカーなどではトランジションボンドを選ぶ可能性が高くなっている。いずれにしても資金使途や発行後の継続開示という負荷が発行体に科せられ、その裏側として投資家もSDGs性の確認継続という作業が必要である。一般的な普通社債に対して双方の負担が大きくなるものの、起債される社債等のほとんどがSDGs債になって来ると、グリーニアムの確認も容易ではなくなっている。このままの状況が続くと、SDGs債に期待された発行体と投資家のWin-Winの関係は見えにくくなり、SDGs債が普通の存在になってしまう日が来るのは近いかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/29~2/2

引き続き、起債市場での社債等の募集は少ない。例年のスケジュール通りなのではあるが、足元は株価の高騰を横目で見つつ、日米の金融政策変更の有無を確認するという状況で、やや自律的なものではなく外部要因の確認を求められているというのが実態だろう。しかし、間もなくの年度末に向けた募集時期のはじまりに向けて、様々な発行体による起債の観測が確認されている。

相変わらず起債市場を賑わせる可能性が高いのは、グリーンボンド等のSDGs債である。この週においても、一般の社債等の募集は見られていないが、水曜日に住友不動産の10年物グリーンボンド100億円が募集されている。住友不動産という発行体は、日本の公募普通社債の歴史の中でも、特筆すべき発行体の一つである。日本の公募普通社債の歴史において、1996年の適債基準の撤廃と財務上の特約の自由化が一つのターニングポイントであったとすることに異論はあるまい。その際に強行された特約の自由化については、投資家を無視した行き過ぎがあったのも事実であり、投資家サイドからはそれ以前から懸念する声が上がっていたものの、発行コストの引き下げと自由の意味をはき違えた発行体の言いなりに動いた(リーグテーブルが必要な)証券会社によって、日本の公募普通社債を銀行借り入れに劣位する実質的な劣後債に貶めてしまった。

某専門家によると、日本証券業協会の社債市場の活性化に関する懇談会では、適正な特約の復活に向けて、コベナンツのモデル集を提示したりしてきたが、発行体が乗って来ることはなかった。報道されているように、現在はチェンジオブコントロール条項と呼ばれる買収等によって株主構成が大幅に変更された場合に投資家が社債保有の見直しを可能とする趣旨の条項が議論の俎上に上っている。発行体側の抵抗が少なからずあるのは、自由を縛られたくないという反発であり、特に日本の社債に付される特約に関しては社債権者集会を開催しないと適用回避が認められない不自由さへの抵抗である。今後の議論の推移を見守っておきたい。

少し脱線したが、住友不動産は日本の公募普通社債では珍しい、いわゆる投機的な格付けまで格付けが下がったものの(2002年10月R&I配信;ユーロMTNプログラムの発行枠2000億円、格付けBB+)、主に個人投資家向けに公募普通社債を発行し続けた後に、格付の回復に成功したという発行体である。ここまでダイナミックな格付けの推移を経験した発行体は倒産した企業くらいしか思い付かないし、多くは途中で格付けの取得を停止することが多いためである。現在の住友不動産の格付は、R&IのAA-格およびJCRのAA格と、立派な高格付けである。バブル経済の崩壊による不動産市場の低迷を直撃された発行体であるが、その後の信用力の回復も著しいし、何しろ継続的に公募普通社債での資金調達を行った発行体という意味では十分に高く評価してよいだろう。

今回募集したグリーンボンドの資金使途は、「住友不動産新宿セントラルパークタワーの新規開発投資に係る調達資金のリファイナンス資金に充当する」とされており、特にグリーンボンドは資金使途の対象を明瞭にすることが可能な不動産各社にとっては有効な資金調達手段である。世間ではESGよりもサステナブルに注目の重点が向かいつつあるように見えるが、財務省も月内にクライメートトランジション(同ファイナンスは、気候変動リスクへの対策を検討している企業が、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取り組みを行っている場合に、その取り組みを支援することを目的とする金融手法です)国債の入札・発行を予定しており、資金使途の予定も発表されている。今後の市場の盛り上がりを確認したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/22~1/26

年明けの起債市場は、瞬く間に休眠状況となった。一つは、12月末決算の発表に向けたタイミングであり、これは例年のことでもある。今後、四半期開示の取扱い次第では、起債市場への影響が軽微になるかもしれない。ただし、12月を本決算の期日とする企業は、国際会計基準を採用している海外展開を積極的に行っている企業では珍しくなく、法定で3月決算を求められている規制業種以外は、欧米の多くの企業と合わせた12月末を決算期日とする方向に将来的に向かうかもしれない。金融業界を見ても、会計年度と異動のタイミングを一致させない取組みは普通であり、決算期日があくまでも一つの期日にしか過ぎなくなる可能性は考えられる。

今回の起債市場での動きが少なかったもう一つの要因としては、週初めに行われた日銀の金融政策決定会合である。元日の能登半島地震での被害を受けて、一部で期待されていた今会合での金融緩和の見直しは見送られたが、政策変更の可能性やスタンスの公表が期待されたために、発行体も投資家も新たな起債や投資に対する腰が引けていたタイミングであった。為替の円安や日経平均株価の強さなどから、何らかの政策判断が近いと考えることに違和感はないだろう。

この週に募集された社債等は、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく7年債と中日本高速道路の5年債のみであった。前者は、基本的に5年・10年・20年・30年といった定例に募集する以外の年限での債券発行プログラムであり、投資家が見つかれば最低ロット30億円から発行されるものである。今回募集された第782回債は、7年という中期の基軸年限での設定もあって、200億円の大きな金額での発行となっている。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債は公募として分類されているが、投資家が定まってから発行されるものであり、一般的な公募とは異なる募集方法と考えるべきであろう。特に最少ロットの30億円で募集された銘柄については、多くの公募普通社債より小さな額であって、私募に近い債券と整理しても良いと考えられる。

中日本高速道路の5年債は、日本高速道路保有・債務返済機構の併存的引受条項を付された社債であり、信用力が同機構と同等の準財投機関債として市場で認識されている。取得している格付けは、R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格といずれも、同機構及び日本国債と同じ符号を得ている。もっとも組織形態が株式会社であるため、投資家によっては、完全には機構や国債と同じ取り扱いが出来ないことも考えられる。なお、他の高速道路運営会社の幾つかは、社債をソーシャルボンドとして募集している。ところが、中日本高速道路は、これまでグリーンボンドを米ドル建てで募集した他、唯一、2023年3月に国内向けの円建てで募集したのみである。しかも、その際の資金使途は橋梁のり面の補強といった特定更新工事に限定しており、ソーシャルボンドとしての募集とは大きく異なるスタンスを取っている。公益性の高い発行体については、組織そのものがソーシャルボンドの適格性を有していると考えることも可能と思われるが、今後のSDGs債に対して、どのようなスタンスで臨むのか注目したい。安易なSDGs債発行とは、一線を画す姿勢のように見えるが、将来もスタンスを維持できるだろうか注視すべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/15~1/19

2024年に入って第2週目の起債市場では、かなり活発な動きが見られた。元日の能登半島地震の影響から日銀の金融緩和見直しが先送りされるという観測が台頭。金利の先高感が薄れ、起債を急ぐ発行体と資金消化を狙う投資家の双方でスタンスが変わり、需給バランスが一変した感がある。少なくとも、投資家の購入意欲は根強い。金利が上がらなくても、社債等に対する購入意欲は十分に見られているようだ。

ボーナスシーズンの余波であるかのように、個人投資家向け社債でクレディセゾンの5年債150億円とソフトバンクの7年債1,400億円が条件決定され募集が開始されているが、それ以外の機関投資家向けの社債等も水曜から金曜の3日間で多くが募集された。財投機関債等では、地方公共団体金融機構の10年債および20年債、日本高速道路保有・債務返済機構が18年債及び22年債、日本学生支援機構の2年債と多様な年限で募集された。クレディセゾン以外のノンバンクも、JA三井リースやアイフルが社債を募集している。起債シーズン入りして早めに動く業態としてすぐに上げられる銀行でも、三井住友信託銀行のシニア5年債の他、群馬銀行と三井住友フィナンシャルグループの永久劣後債で、合計2,500億円近くが募集されている。もう一つの早く動きがちな業態であり電力債でも、関西電力が10年債と20年債で計350億円を募集している。

しかし、何と言ってもこの週の起債市場で目立ったのが、相変わらずのSDGs債である。日本高速道路保有・債務返済機構の2本立てと日本学生支援機構はソーシャルボンド、JA三井リースの2本立てのうち5年債はサステナビリティリンクボンドで、最大のグループとなったのがサステナビリティボンドであり、岩谷産業の7年債及び10年債の二本立て、京阪ホールディングスの5年債が認定されている。加えて、世界で初となる海運会社によるブルーボンドが、商船三井の5年債として募集されている。これまでのブルーボンドは漁業関連の発行体であったが、所詮ブルーボンドはグリーンボンドの一種であり、海運会社であっても認定を受けることが可能なのである。世界初の海運会社によるブルーボンドだからと言って、投資家に簡単に刺さるものではないだろう。投資家から適正な発行条件であると評価してもらうことが前提である。

商船三井の5年債はJCRのA+格を取得し、国債対比+41bpsのスプレッドで募集されている。この週に募集された他のAゾーンの5年債の国債対比スプレッドを見ると、R&IのA格である丸井グループが+42bps、R&IのA-格を取得した文化シャッターが+47bps、同じくR&IのA-格である京阪ホールディングスが+36bpsといった状況である。やや業種などによる差が出ているように見えるが、決して全般として割高感はないように見える。投資家の社債等に対する購入意欲は強く、表現は下品だが、しばらくは入れ食いの状況が続くのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/8~1/12

ようやく年末年始の約1か月間の社債募集のない閑散期間を終え、2024年の起債シーズンがはじまった。その間に、能登半島地震の影響もあり、日銀による金融政策の見直しに対する期待が大きく低下している。見直し期待の低下を受けて、株価はバブル経済崩壊後の最高値を更新し、為替も再び円安基調となっている。まずは金融・資本市場の状況を確認し、先行きのシナリオを構築するのが三連休明けの市場参加者の重要な職務となったことだろう。

2024年の起債市場で最初に募集されたのは、12日の日本政策投資銀行の3本立てとJR東日本の2本立てであった(他に、国際協力機構の個人向け5年物の財投機関債も条件決定されているが、同債券募集は15日からになっている)。しかし、これらの顔触れは決して違和感がない。二つの発行体ともが、2023年1月の第2金曜日に社債等を募集した顔触れだったのである。なお、2023年1月は12日(木)から社債等の募集が始まっており、13日(金)には日本政策投資銀行とJR東日本以外にも、東京電力パワーグリッドや日本高速道路保有・債務返済機構や東日本高速道路も社債等を募集している。ちなみに、国際協力機構も同日に個人向け財投機関債の条件を決定しており、この日に募集等のアクションを起こした三つの発行体ともが、まるで話し合ったように1年前と同じタイミングでの動きとなったのである。

これらの中で、もっとも起債の動きが変化したのが、JR東日本だったのではなかろうか。過去数年の同社の起債パターンとしては、10年債から10年刻みで複数年限の社債を募集するというものであった。ところが、今回の募集に際しても同様のサウンディングは行われたようではあるが、最終的には、10年債と20年債の2年限のみに絞った形での募集となっている。超長期年限の金利の先行きが不透明なこともあって、10年債と20年債のみが選択されたものと考えられる。なお、10年債はE235系の車両や鉄道整備を使途とするサステナビリティボンドとしての認定を受けている。国債対比のスプレッドは、10年債で+33bpsと厚くなっており、出来上がりのクーポンは0.91%になっている。20年債は国債対比スプレッドが+24bpsの1.554%クーポンと、かつて目の慣れていた水準よりも高い位置にある。

一方、日本政策投資銀行は2023年1月と同じく3年債・5年債・10年債という三本立ての社債を募集している。ただし、募集金額は前年の各250億円から、3年債のみ400億円に増額されている。R&Iの格付けだけを見るとJR東日本も日本政策投資銀行もAA+格で同じ符号であるが、国債対比スプレッドを見るとJR東日本の+33bpsに対し、日本政策投資銀行は+11bpsとタイトである。そのため、日本政策銀行の10年債はクーポンが0.69%と低めに映ってしまう。政府との距離を反映したものと言ってしまえばそれまでであるし、完全に民営化した会社かどうかの差なのではあるが、比べるとサステナビリティボンドであるJR東日本の10年債を選択したくなる投資家は少なくないのかも知れない。

国内起債市場を斬る 新春特別号:社債市場の活性化に向けて

これまで日本証券業協会は、社債市場の活性化に向けた検討を2009年に設置した懇談会と下部の検討組織で継続して来ている。既に15年近くが経過しているのだが、成果として見ることが出来るものは決して多くない。見え難いところで引受審査の見直しを通じた社債募集可能期間の拡大もあるが、対外的に公表されたものとしてコベナンツモデルやコベナンツ開示例示集の策定がある。ところが、これらのコベナンツ関連の取り組みは、検討した上でそれなりの有意義な提言を行ってはいるが、実務での採用に至ってはいない。また、社債権者補佐人制度を導入するという提言は、その後の会社法改正によって社債管理補助者制度の導入という形で法的な裏付けを得て結実した。社債管理補助者を付された社債は2023年にようやく第1号案件の募集が行われたが、今後の拡大が期待されるところである。加えて、セカンダリーマーケットに関連した検討では、公社債店頭売買参考統計値の精緻化と社債取引情報の収集と公表が行われるようになり、公表対象の拡大を通じてある程度の成果を実現しているが、社債レポ市場の整備については、まだ検討の段階を出ていない。

こういったゆっくりとした動きの中で、昨年秋以降に新たな社債市場の活性化に向けた検討が開始されている。発端は、資産運用立国の実現に向けた金融諸制度の見直しと金融審議会市場制度ワーキング・グループでの検討にある。社債市場の活性化を実現することで、企業による資金調達の選択肢を拡大しようという考え方は、決して誤りではない。しかし、金融庁が特に意図しているスタートアップ企業に対して社債の発行を促進するという方向は、決して日の目を見ることがないと思われる。そもそも、日本に3千以上の上場企業が存在しているのに、格付けを取得している企業は千社前後に留まり、公募普通社債を発行している企業の数は更に限定される。結果的に、大企業の資金調達の場でしかない公募普通社債の市場に、スタートアップ企業をいきなり参加させることは難しい。特に、ほとんどの投資家は、いわゆる投機的信用格付けの企業が発行する社債を購入しようとしておらず、そこにスタートアップ企業が割り込んで来られる可能性は決して高くない。高い知名度と格付けを獲得し、事業の安定性を確保できるような企業になって、初めて公募普通社債を日本の市場で募集できるようになるのである。

日本証券業協会もそういった状況は理解しているようで、社債市場の活性化に向けた具体的な課題として、チェンジオブコントロール条項等重要事象発生時の対応、適切なコベナンツの付与、社債と他の債務との間でのパリパスの確保、債権者間の情報格差の是正、社債管理補助者の活用といったものを提示しており、2023年秋からは「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキング・グループ」における検討を再開している。年度内に複数回の検討を行い、翌年度以降も引き続き検討を継続するスケジュールを示している。日本証券業協会の会員や特別会員である証券会社や銀行などには直接の影響が及ぶかもしれないが、多くの投資家や発行体企業には間接的な制度変更としてのみ作用することが可能である。

社債市場の活性化については、目標を米国の社債市場に匹敵するような規模にしたいなどといった不適切なものとするのではなく、銀行融資と並存した金融慣行を前提とする中で、日本の市場として理想に出来る姿を探して行くべきだろう。かつての日本の取引銀行は、スタートアップ企業に対しても、超大手企業に対しても、まるで「ゆりかごから墓場まで」の様々な金融機能を提供して来た。しかし、銀行の自己資本規制が強化される中で、すべてを銀行融資に委ねることは難しくなっている。将来の姿を見据えた日本の社債市場のありかを模索すべきである。絵空事の夢物語は要らない。

国内起債市場を斬る 2023年降誕日特別号:日銀の金融政策と社債

この12月18、19日の金融政策決定会合では、金融緩和の縮小方向への見直しは見送られた。12月初めに植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」といった発言をしたこともあって市場の注目は高まっていたが、見送りによって肩透かしになったと感じた市場参加者も少なくなかったのではなかろうか。債券市場をはじめ、多くの注目点は、マイナス金利の解除有無の一点にあったが、短期金利の居所とは別に、イールドカーブ・コントロールの見直し、即ち、10年国債利回りの水準修正があるのかについては、社債の発行体も投資家も興味があったに違いない。既にイールドカーブ・コントロールにおける10年国債利回りの居所については、0%±0.5%といった上下の変動幅が解除され、上限の目途が1%とされており、金利の上昇を容認する形になっている。イールドカーブ・コントロールの実態がなくなったという見方もあるが、少なくとも1%程度に設定された天井は、まだ市場で意識されている。

一方で、社債等については、今回の金融政策決定会合でも『感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。』としており、異次元の金融緩和以前から実施している残存3年以内の社債買入れが継続されている。既に、日銀が社債を購入することで、信用スプレッドを圧縮するという政策効果は必要がないものと考えられるが、惰性で続けられているように思える。そもそも、信用スプレッドの拡大を抑制した資金調達を欲する企業のほとんどが、公募普通社債ではなく、金融機関等からの借入れに依存しており、日銀による社債買入れの直接の影響は及ばない。公募普通社債で資金調達を行うような大企業にとっては、社債の信用スプレッドの圧縮の恩恵を強く感じることはほとんどなく、一部の大きな負債を抱える企業のみに対する恩恵に留まっている可能性が高い。

足元でも日銀による社債買入れオペでの買取りを期待した3年債の募集が見られる。かつては、0.1%クーポンのオーバーパー発行によって、応募者利回りを0%にするといったことも可能であったが、現在では、マイナス金利の解除観測もあって、残存3年の国債利回りはプラスになっており、そのような社債等は見られなくなっている。それでも、信用スプレッドの圧縮よりも、ベースとなる国債利回りの引き下げの方が明らかに調達コストの圧縮に効果があるように思われる。

イールドカーブ・コントロールは日銀による市場取引への介入であったが、社債等についても、市場参加者の手に委ねるべき時期が来ているのではなかろうか。人為的な市場統制を無用に継続すると、反動の生じる可能性が高い。本来、市場のことは市場に任せるべきであり、それが資本主義経済の基本原理であろう。外部不経済等の副作用が生じている際のみ、暫時暫定的な市場介入が許容されるものと考えるべきである。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/11~12/15

2023年の起債シーズンも、社債等が募集されるほぼ最後の週になる。1年前のこの週の募集状況を見ると、地方公共団体金融機構のFLIP債に加えて、銀行持株会社とガス会社の劣後債があり、それに野村総合研究所の三本立ての起債が見られている。今年は地方公共団体金融機構の5年債・10年債・20年債の定例募集がこの週にずれ込んでおり、FLIP債は募集されていない。金利水準が上昇したこともあって、劣後債の募集は銀行関連で少し見られるが、事業会社による劣後債の募集は減少している。上昇した国債利回りに加えて、信用スプレッドと劣後プレミアムを加えると、出来上がりの調達コストは従前より大きく上昇した形になってしまうのを嫌ったものだろう。もっとも、今後金利が更に低下するという見透しは難しく、少なくとも日銀が人為的に押下げて来た利回りが中立的な水準にまで戻ることを考えると、早めに社債等で資金調達しておくことを考える発行体も出て来ることだろう。今月の金融政策決定会合が終ってしまうと、もはや年内に社債等を募集するのは難しい日程であるが。

地方公共団体金融機構以外に社債等を募集したのは、民間の3社のみであった。アコムは3年債250億円を募集している。日銀が継続している社債買入れオペの対象になることが期待されることもあるが、0.55%とクーポンが随分と高水準になっている。マイナス金利政策の解除がすぐに行われる可能性は高くないが、短い年限の金利水準もこの1年で大きく上昇していることが確認できる。

残りの2本は、いずれも5年債が募集されている。昨今の起債市場では、国債利回りが全体に上昇しており、実際にイールドカーブは概ね2013年4月の異次元の金融緩和導入直前のものと概ね同程度の位置にある。そのため、5年債でも十分に高い利回りが得られる状況となっており、5年債での調達が多く見られる傾向にある。まず、23年ぶりに社債を募集した古河機械金属は、JCRのBBB+格という評価もあって、クーポンが1.2%と高くなっている。1%の利回り確保に汲々として来た投資家としては、信用力の評価として投資可能と判断できるならば、十分な投資妙味を感じられるだろう。

もう一つは、住友不動産が0.628%クーポンで300億円の社債を募集している。かつて格付の片脚がいわゆる投資適格を下回った発行体から見れば、現在のR&I及びJCRからAA-格と高評価を得ているのは、隔世の感がある。しかも、グリーンボンドの認証を得ていることで、国債対比のスプレッドは+32bpsと発表されている。国債と同程度の信用力を有すると目される地方公共団体金融機構の5年債が、国債対比+10bpsで募集されたことを考えると、R&Iの評価で2ノッチ下回るだけであるものの、22bpsしかスプレッドが異ならないのは衝撃的ですらある。ここまでで、実質的に年内の社債等の募集は終了すると見られるが、金融政策決定会合が19日に終了した後、ギリギリのタイミングで募集があるかに注目したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/4~12/8

前週は12月1日(金)に大量の社債等が募集されていたが、この週も年末を控え少なからずの募集が見られ、各曜日に広く分散する発行となった。休日明けの月曜日には募集されないし、水曜日はみずほリースの1件のみ。結果として、木曜および金曜と週後半に募集が集まって来るのは仕方ないだろう。まず、業種が多岐に渡っているのが一つの特徴である。一般に起債シーズンで早期に社債等を募集するのは、電力やノンバンク、銀行といった起債に慣れている発行体であり、その後、メーカー等がおもむろに登場して来る展開が普通である。そのため、シーズンの後半はメーカーやレアな発行体が目立つことになりがちである。もっとも、ノンバンクに関しては発行体の数が多いこともあり、満遍なく募集されているようにも見える。

実際にこの週に募集された社債等の顔触れを見ると、まず大分類でメーカーに含まれるのが、三菱電機と日立製作所が電気機器、レンゴーはパルプ・紙、日本ピラー工業は機械、アシックスはその他製品とバラエティーに富み、メーカー以外の業種でも、戸田建設と長谷工コーポレーションは建設、ヤマタネとアルフレッサホールディングスは卸売、FOOD&LIFE COMPANIESは小売、JR九州とNIPPON EXPRESSホールディングスは陸運、みずほリースとクレディセゾンはノンバンク、イオンモールは不動産と様々である。その他に財投機関債を募集したのは、都市再生機構はフリークエントイシュアーであるが、福祉医療機構と沖縄振興開発金融公庫は時々しか出て来ない銘柄である。

この週に社債等を募集した企業を見ると、多くが起債頻度の低いレア銘柄であることがわかる。中でも、NIPPON EXPRESSホールディングスと日本ピラー工業、アルフレッサホールディングスはいずれも第1回債を募集している。また、回号が一桁の社債を募集した発行体も、アシックスにFOOD&LIFE COMPANIESと複数見られている。こうした初回やレア銘柄で多様な業種が社債等を募集するのは、社債募集シーズンが間もなく終わるということの表れでもある。

募集された社債等は金利の先高感がある中でも、レア銘柄を中心に投資家の需要を集めており、概ね順調に消化しているようである。また、このようにレア銘柄が頻出する中でも、SDGs債の募集は続いている。グリーンボンドとして募集されたのが、ヤマタネの3年債、JR九州の5年債(10年債は通常の社債)、三菱電機の5年債及び10年債、日立製作所の5年債(7年債と10年債は通常の社債)、日本ピラー工業の5年債、イオンモールの5年債(他の年限は通常の社債)で、ソーシャルボンドはアルフレッサホールディグスの5年債と福祉医療機構の10年債で、サステナビリティボンドは都市再生機構の5年債及び10年債と沖縄振興開発金融公庫の10年債であり、サステナビリティリンクボンドとして募集されたのがみずほリースの4.5年債(償還2028年6月12日/利率=0.639%/発行価格100円)と、様々な種類が登場している。もう1週間ほど年内の起債シーズンは続く日程であり、起債観測は複数上がっているようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/27~12/1

ひとつ前の週は、「勤労感謝の日」による飛び石連休であったため、社債等の募集は例外的に22日(水)に集中したが、この週は木曜、金曜と徐々に盛り上がって行く展開になった。中でも月の変わった金曜日には、個人向け社債を含めると計23本の社債等が条件決定されており、年末に向けての動きが目立つ展開となっている。しかも、年末に向かっているというタイミングだけでなく、足元で米国の金利動向を受けて、日本の長期金利も少し低下して来たことが、発行体の募集意欲を高めており、投資家側もクーポンが高いうちに買ってしまいたいという想いに駆られているようだ。水曜からの募集案件は数多くなったが、募集した社債等の消化に苦労したという話は聞こえていない。

29日(水)に募集されたのは、ノンバンクと化学メーカーの社債であり、中でも旭化成の3年債・5年債・7年債・10年債の4本立て計600億円が目立っている。水準が下がったとはいえ、10年国債利回りは未だに0%より高く、R&IとJCRからAA格の高い評価を得ている旭化成の10年債が1.232%クーポンというのは、十分な投資妙味があると感じる投資家も少なくないだろう。30日(木)には、ダイビルの5年グリーンボンド120億円の他、JERAが通常の社債計400億円、JCRのBBB+格を取ったイチネンホールディングスは1.3%クーポンの3年債100億円を募集している。

案件集中日となった1日(金)は、個人向けの電力債を九州・東北・北海道・北陸・四国の5電力が条件決定している。北陸電力のみ5年債で、他は3年債である。また、九州電力は、別途、機関投資家向けに円Tibor連動の5年物変動利付債150億円を募集している。中期年限も金利がこれから上がると考えるならば、5年物の変動利付債は面白い投資対象であろう。なお、九州電力は個人向け3年債には、R&IのA格とJCRのAA-格を取得しているのに、機関投資家向けの5年物変動利付債には、R&IとJCRの2社に加えて、ムーディーズのA3格も取得している。個人投資家にムーディーズの格付けは不要であるという判断とも考えられるが、格付手数料を抑える効果もあると考えたか、変動利付債の購入者に海外の投資家が含まれる可能性も否定できない。

電力債以外にメーカーの社債が多く募集されたのも目立つが、他にも銀行劣後債や建設、通信業等発行体の業種はバラエティに富んでいる。また、相変わらずのSDGs債も多種多様で、東洋紡の5年サステナビリティリンクボンド100億円、西日本高速道路の2年及び5年のソーシャルボンド計600億円、カネカの5年ソーシャルボンド100億円、名古屋銀行の10年期限前償還条項付劣後グリーンボンド100億円、メタウォーターの5年ブルーボンド100億円、新関西国際空港の20年及び30年ソーシャルボンド計200億円、水資源機構の3年サステナビリティボンド100億円と、発行体の業種が様々なのに加えて、年限もバラエティ豊かである。財投機関債に分類される水資源機構債が3年で、財政投融資計画に基づかない新関西国際空港の社債が20年及び30年の超長期債を募集しているのは面白い。関西国際空港と大阪国際空港の管理等を担当する新関西国際空港は、取得している格付けの符号は日本国債を下回るものの、実質的な政府保証があるとみなしている投資家が多いのだろう。