国内起債市場を斬る 決算月特別号:丸井グループの個人向け社債

9月末決算の発表時期で、前週に社債等の募集がなかったため、今年度上期の起債の中で異色を放っていた丸井グループによる個人向け社債について取上げてみたい。

丸井グループが個人向け社債を活用した社会貢献を打ち出したのは、3月の頭のことであった。以前から五常・アンド・カンパニー及びクラウドクレジットとの共創によるマイクロファイナンスの展開に取り組んでいたが、途上国の応援と資産形成を同時に実現できる「応援投資」という選択肢を提供するとして打ち出したのが、ソーシャルボンドとして認定を得た個人向け社債による資金調達であった。マイクロファイナンスの側では、途上国での個人事業主や中小零細事業者向けの小口金融サービスを提供するとし、一方で、その資金を個人向け社債で調達し、預金より高い利息収入を提供することで、若い世代を含めた日本の個人が「応援投資」を可能にするというスキームである。

具体的な個人向け社債としては、一般的な形態の個人投資家向け社債13億円(最低投資単位100万円で3年0.31%クーポン)を3月下旬に募集していたが、新規の取り組みとして募集されたのが、5月中旬に第1弾と9月中旬に第2弾の登場したエポスカード会員向けのセキュリティートークン債であった。第1弾及び第2弾とも、1年ものの社債でクーポンは1%とされており、1.3億円程度の募集を予定した。打ち切り発行を選択した結果、第1回債の募集額は1.2178億円であり、第2回債は1.1907億円であったことが発表されている。

エポスカード会員向けとされたのは、利息の7割(厳密には更に源泉徴収税額を控除した残)をエポスポイントで付与する方式を採用したためである。税の控除が必要なため全額をポイント付与とすることは出来ないし、幾ら給与のデジタル支払いが認められる方向であるものの、社債の利子をポイントで支払うことについては、金融商品としての商品性に疑義を抱かれる可能性がある。確かにエポスポイントは1ポイント=1円での支払利用が可能であり、換算レートが事業者によって変更されたこともないため安定性が高いと言って良いだろう。実際に、エポスカードの利用等で獲得したエポスポイントをネット上で手続きすることで1ポイント=1円としてプリペイドカードに移行し、実際の支払いに利用することが可能である。

利子の一部支払いに自社のポイントを活用するのが新規な取り組みの一つであることに加え、証券保管等振替機構を利用せずブロックチェーンを利用したセキュリティートークン債としたことで、発行体による自己募集を可能としたことも注目される。エポスカードを取得することで信用情報を把握している顧客向けという手法は合理的と言えよう。また、セキュリティートークン債であるために、最低単位を1万円としたことでマイクロファイナンスならぬマイクロインベストメントを実現可能としたことが、「応援投資」というコンセプトに沿ったものであった。なお、譲渡制限を付しているために、社債権者の変更は発行体による買入消却以外は実施できないこととされている。

丸井グループが今回採用した仕組みのすべてを他の発行体が真似できるものではないが、セキュリティートークン債のスキームについては、SBI証券や日本取引所グループによる起債が先行しており、今後の活用について注目したい。特に、投資最低単位の引き下げによるマイクロインベストメントの可能性については、個人投資家向け社債の裾野を拡大するものとなるのかもしれない。ただし、自己募集の出来る発行体は限られると思われる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/24~10/28

決算発表の時期は、自然と民間企業による社債等の募集は少なくなる。また、一般的に公共セクターの債券募集は月央までが多いため、月末の近づくこの週も財投機関債では住宅金融支援機構の貸付担保債券しか募集されていない。結果的に、あまり特徴のない民間の起債がパラパラと見られた。しかも、小口案件が多くなっている。三井住友信託銀行が5年債200億円と10年債80億円の計280億円を募集したのが最大であり、他は数十億円程度の案件がほとんどである。また、三井住友信託銀行の10年債を除くと、募集されたのは3年から5年の中期債ばかりであった。

敢えて特徴でグルーピングすると、一つが前述の三井住友信託銀行を含む金融関連の起債である。銀行セクターでは、他にオリックス銀行の3年債60億円が募集されており、ノンバンクでイオンフィナンシャルサービスが3年債及び5年債各50億円と、みずほリース4年債122億円という端数金額の募集が見られる。中期の小額起債という括りから少し外れているのが、このグループであるが、金額も年限も決して大きく逸脱しているものではない。

もう一つのグルーピングが、SDGs債であり読者はお馴染みのものである。既に触れたオリックス銀行の3年債はサステナビリティボンドの認定を取得している。金融機関の場合、融資先の資金使途を対象に含めることが可能なため、認定される範囲が広くなる。このサステナビリティボンドも、グリーンとソーシャルの両方のプロジェクトを対象とするということで、サステナビリティボンドとしての認証を得ている。また、森永乳業の3年債50億円はグリーンボンドとして募集されている。資金使途は、農場の糞尿処理発電やエネルギー効率改善、軽量容器製造機器用の設備投資などとされている。

そして、新しいSDGs債という触れ込みになると思われるのがマルハニチロの募集したブルーボンドである。今回のブルーボンドは、グリーンボンド原則に基づいて募集されたものであり、まったく目新しいものとは言い難い。既に海外ではアジア開発銀行等の認定したブルーボンドの募集事例がある。東証への上場企業で業種分類で水産業に区分されるのは、マルハニチロか極洋、日本水産くらいしかなく、ブルーボンド自体の拡大可能性は決して大きくない。かつてJICAがジェンダーボンドと目新しいラベルを貼って起債したこともあるが、あくまでもソーシャルボンドの一種という位置づけであり、闇雲にラベルの種類を増やすことは市場参加者を迷わせる。話題作りには良いのだろうが、投資家はきちんと債券の内容を理解して投資することが重要である。ブルーボンドだからではなく、あくまでもR&IがBBB+格と評価した5年債である。資金使途が、環境持続型の漁業や養殖漁業などとされている典型的なブルーボンドであった。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/17~10/21

早い会社では9月末決算の発表がはじまり、下期に入っての起債シ-ズンの盛り上がりは数週間で中休みに向かいつつある。この週の公募社債等の起債は、本数こそ地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債計12本で膨らんでいるが、それを除いた募集本数は前週よりも減っている。ただし、KDDIによる計1,000億円の大型起債があり、大和ハウス工業も計1,500億円を募集しているため、金額ベースでは決して小さくない結果になっている。

前週は金融関連の劣後債を含む社債募集が目立っていたが、それらが収まったことで、公共セクターの債券募集がもっとも目立つ展開になった。これらは、下期入りしてすぐに動かなかった発行体による第二陣及び第三陣といったところか。前述の地方公共団体金融機構のFLIP債以外に、日本高速道路保有・債務返済機構が3年債200億円・19年債50億円・20年債100億円を募集し、日本学生支援機構は定例となっている2年債300億円を募集している。日本高速道路保有・債務返済機構は、最近では償還時利子一括払いの起債があまり見られなくなり、中期債と超長期債を組み合わせた起債が多くなっている印象である。また、19年債といった半端な年限出の起債にも果敢に取り組んでいる。日本学生支援機構の2年債は、かつては実質0%利回りの債券としての募集が続いていたが、今回のクーポンは0.076%となっており、金利水準の変化が意識される。なお、日本高速道路保有・債務返済機構と日本学生支援機構の募集した財投機関債はいずれもソーシャルボンドの認定を受けており、両機構のミッションを考えると違和感はない。

電力会社では北海道電力が6年債96億円及び10年債48億円という端数金額の電力債を募集しているが、それ以外の民間による公募普通社債の募集の方が多く、ようやく他の業種が動きはじめたという感じだろうか。既に述べたKDDIの3年債と5年債各500億円はサステナビリティボンドとして募集されているが、大和ハウス工業の計1,500億円は普通の社債として募集されている。大和ハウス工業の業種分類は大分類だと建設になるがサブセクターは住宅であり、一般的な建設業者とは位置づけが異なる。同社の取得している格付けがR&IのAA-格及びJCRのAA格と高水準であり、多くの建設会社とは一線を画した存在であることを立証してくれる。

奇しくも同日に大型起債を募集したKDDIと大和ハウス工業の両社がR&Iから取得した格付けは同じ水準であり、両社ともが5年債を募集している。クーポンを比較すると、KDDI債が0.43%であるのに対し、大和ハウス工業債は0.53%と10bpsも高くなっている。募集金額が倍の規模だからという説明は容易だが、業種の差が存在することも否定できず、KDDIがサステナビリティボンドであるため、グリーニアムと同種のサステナビリティプレミアムが存在している可能性も否定できない。今後もこのような起債例が増加することで、SDGs債に対するプレミアムの妥当性について検証する機会が増えることを期待したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/11~10/14

下期に入っての起債シ-ズンがはじまっている。先週の四半期のはじまりに際して、まず、電力、公的機関、金融関連という辺りが動き出すのが定番であると説明したが、この週もほぼ同様の傾向が続いている。

まず、電力関連の起債では、東京電力パワーグリッドが、3年債250億円・5年債430億円・10年債220億円の三本立て計900億円を募集している。格付けがR&IのA-格及びJCRのA格とや電力関連の中で低いこともあって、3年債のクーポンが0.72%で、5年債が0.98%と1%近く、10年債に至っては1.35%と以前なら超長期債でしか見られないような高い利回り水準である。東京電力関連の信用力を格付符号より高いと評価する投資家にとっては、相当程度魅力的な水準になったと言えるだろう。また、同日に中部電力も3年債200億円を募集しているが、クーポンは0.27%と東京電力パワーグリッドと比べると随分低い水準に止まっている。JCRの格付けは同じAA格であることを考えると、格付けだけで利回りが決まるものでないことが良くわかる。なお、R&Iによる中部電力の評価はA+格である。

次に、公的セクターとしては、前週とあまり顔触れが大きく変わった感じはしない。首都高速道路が5年物ソーシャルボンド280億円を募集し、地方公共団体金融機構が10年債260億円と20年債180億円を募集している。間もなく民間企業の9月末決算の発表シーズンが来ることもあって、今後はやや公的セクターの目立つ展開になることが予想される。

大きく前週と異なるのが、金融関連の動きである。電力や公的セクターより少し動きが遅いものの、メーカー等は更に遅れて来るのだろう。銀行関連では、あおぞら銀行が3年債100億円、みずほフィナンシャルグループが劣後債を10年債と5年期限前償還債計1,030億円を個人向けに募集し、5年期限前償還債285億円を機関投資家向けに募集している。山口フィナンシャルグループは5年期限前償還の劣後グリーンボンドを個人向け200億及び機関投資家向け24億円の計224億円を条件決定している。その他にノンバンクとして、トヨタファイナンスが3年債400億円及び5年債200億円を募集した他、三井住友トラストパナソニックファイナンスが5年グリーンボンド92億円を募集している。

これら以外には、ヒューリックが2種の劣後債を募集しているだけであり、社債等発行体の顔触れは業種という観点では、あまり広がりが見られていない。なお、この週の顕著な特徴として、超長期債の募集が見られなくなっていることに着目しておきたい。日銀のイールドカーブコントロール対象外の年限ということで金利水準の上昇が意識されており、地方公共団体金融機構による20年債の募集が唯一である。劣後債も、ヒューリックの劣後グリーンボンドは期限前償還されなければ35年や40年後に償還されるかもしれないが、銀行持株会社の劣後債はいずれも最終償還が10年のみである。前週には電力や鉄道などで超長期債の募集があったのに比べると、超長期債の不在が目立つ展開の週であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/3~10/7

10月に入るや否や、下期の起債がはじまった。新しい四半期に入ってまず動くのが、電力、公的機関、金融関連というのが定番であるが、この10月の冒頭はどうだっただろうか。

まず、電力による起債は、想像された通り多くなった。北陸電力が3年債・10年債・20年債の3本立てで口火を切ると、沖縄電力が3年債と7年債の2本立てで続いている。その後も、東北電力が8年債と20年債の2本立て、関西電力が3年債と10年債の2本立てと複数本立ての募集が見られたが、四国電力は10年物のグリーンボンド単独を募集している。これらの電力債の募集総額は、1,105億円に上る。なお、北陸電力の20年債が51億円で、東北電力の同じく20年債が59億円と、超長期年限の起債が端数になっていることは注目しておきたい。10年以内は比較的まるまった金額で募集し易いが、超長期年限については投資家のニーズに合わせた金額に絞って募集額を決めているということであろう。万一募残が生じた場合に、超長期年限の大きな金利変動が生じると債券先物でのヘッジが十分に機能しないため、引受証券が慎重的なスタンスになっているものと推測が可能である。なお、電力に近い業態としては、これらの他に、北海道ガスが20年債100億円を募集している。

公的機関に関しては、阪神高速道路が5年物ソーシャルボンド350億円、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債200億円・10年債250億円の3本立て、西日本高速道路が2年債400億円及び5年債800億円のソーシャルボンド2本立て、地方公共団体金融機構が30年債200億円と募集が続いている。更に、筑波大学が社会的価値創造債としてサステナビリティボンド200億円を初めて公募債の募集を行っている。公的セクターは組織特性からソーシャルボンド等を募集し易い発行体であることも、債券発行を促進する効果があるものと思われる。

金融関連の起債としては、銀行やノンバンクの動きがなく、損害保険ジャパンが久しぶりに5年債と10年債各500億円を募集しているのみである。残存している円建て社債が劣後債のみであり、今回が第1回及び第2回債の普通社債となっている。

結果的に、これらの三つのセクター意外で目立ったのが、鉄道関連である。近年は複数本立てでの起債が目立つ業態であるが、この週は、JR東海が35年物のグリーンボンド80億円を募集した他、JR東日本は3年債150億円・10年債100億円・30年債100億円・50年債100億円を募集している。JR東日本の募集は、最近の複数本立てで良く見られたような年限設定であるが、やや募集した金額の少ないことが目立っている。

国内起債市場を斬る 下期初特別号:円安と社債投資

政府と日銀は9月22日に円ドルレートが146円を伺う水準になると、2.8兆円規模の円買いドル売りの為替介入を実施した。しかし、介入の効果は2週間も持たず、今週に入って円ドルレートは再び145円を越えている。起債市場は上期末を挟んだ時期であったため、社債等を募集する動きは見られなかったが、円安が社債市場に与える影響は決して小さくない。

輸出産業は円安によって輸出が割安となりメリットがあるとするのは、既に古い日本の産業構造に対する理解だろう。プラザ合意以降の円高を持ち出さなくても、2000年以降でも何回かの円高不況局面を迎えた。その結果、日本国内で製品を作り、海外へ輸出して販売するといった古典的なモデルの企業は、ほぼ見られなくなったのではないか。円安局面において海外で製品を販売するならば、現地で生産した方が明らかに価格競争力がある。いつまでも古いビジネスモデルに捉われてはならない。確かに、円安によって多少の輸出メリットはあるかもしれないが、輸出企業の増収も、労働分配率の低さを考えると、消費を押し上げて景気を浮揚させるような効果は期待し難い。

逆に、円安によって収支にマイナスの影響が及ぶ業種については、クレジット投資という観点からは考えておくべきである。まず考えないといけないのは、エネルギーの多くを輸入に依存する電力関連企業である。もちろん東京電力リニューアブルパワーのように、水力発電など再生可能エネルギーに特化していれば異なるし、かつて社債を募集していた日本原子力発電も輸入エネルギー価格の高騰による直接の影響を受けないだろう。しかし、原油やLNGは将来にわたって輸入に頼らざるを得ず、火力発電を中心に置く発電会社は、少なからずの影響を受ける。肝心なのは、輸入エネルギー価格の上昇を電力の小売価格に転嫁できるかである。転嫁の可否次第で、電力会社の収支は大きく変化するだろう。家庭向けのみならず企業向けの電力価格も、政策の影響を受けるだろう。中長期に及ぶ円安継続は、電力関連のクレジットに対する影響が必至である。

また、既に新型コロナウイルス感染症の影響で大きな打撃を受けているが、旅行や空運、宿泊関連については、社債や関連REITの信用力に影響の生じる可能性がある。円安によるインバウンドの復活期待は高いが、日本側の感染対策等だけでなく、出発国のコロナ対策次第では日本への渡航が自由に出来ない可能性も残る。また、円安によって、日本から海外への渡航は、引続き大きなダメージを受けている。ウィズコロナでテレワークに慣れたビジネス界は海外出張よりもウェブ会議に傾きがちである。そもそも円安と原油価格高騰によって、航空運賃と燃油サーチャージが高騰しており、運航便数の抑制がさらに価格を上昇させるという悪循環に陥っている。

総合商社のように、物やサービスを動かすことを業とするならば、円安がメリットにもデメルットにもなるだろうが、円安が事業内容にプラスに働く業種は、一部の製造業に限られ、必ずしも多くないという認識が必要だろう。特に、円安の原因の一つが欧米と日本との間の金融政策の方向性の差であることを考えると、円安対策として日銀の金融緩和政策が微修正される可能性を否定しきれない。

国内起債市場を斬る 上期末特別号:金利上昇と社債投資

先週の起債市場は一般的な社債等の起債が見られず、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券の募集はあったものの、完全に上期末の起債オフシーズンに入っている。そのため、今週と来週との2回にわたって、現在の金融環境と社債投資について考えてみたい。今週は金利上昇と社債投資について考えてみる。

現在足元で確認される金利上昇の背景には、米欧の中央銀行が物価上昇に対応して早急に政策金利を引き上げていることがある。元来、物価が上昇すれば、フィッシャーの恒等式で示されるように、金利はある程度連動して上昇するするものである。短期金利である政策金利の引き上げが金利の期間構造に基づいて長期金利を上昇させることもあって、イールドカーブ全体が上方に押し上げられることになる。欧米の金利が上昇する中で、日本だけは日銀によるイールドカーブコントロールの下で金利上昇を抑制されているが、管理対象となっているのは短期金利と10年国債利回りのみである。そのため、10年国債利回りよりも短い残存9年の国債利回りの方が高いという逆イールド構造が現出している。日銀によって作り出された市場の歪みである。数カ月前にも国債先物と連動する残存7年国債利回りと10年国債利回りとが逆転したこともあったが、日銀は市場取引を通じての介入であるため、市場構造を歪めている認識はないと否定する。それでも、コントロール対象外にある超長期金利は、明らかに上昇している。10年国債利回りの上昇が抑止されているため、野放図に上昇することはないが、何らかのきっかけがあると容易に上昇する可能性が高い。

先行きの金利上昇が確実視されるようになると、発行体の調達意欲が高まる一方で、投資家の購入待ちという委縮した緊張関係の生じる可能性があるものの、低金利の長期化を経た後では、1.5%とか2%といった節目を越えた水準でまとまった投資意欲が確認されることだろう。しかし、足元では日銀が少なくとも年度末までの金融緩和姿勢を崩しておらず、発行体も投資家も動き難い状況にある。上期末の起債市場があまり盛り上がらなかったのは、発行体も投資家も急いでアクションを起こす必要性を感じていない状況だからであろう。

投資家側が見落している可能性がある視点の一つは、金利上昇による企業経営の悪化である。金余りのために低金利下で有利子負債比率を必要以上に高めた企業は多くないと思われるが、資金繰りを低利の銀行融資に依存している企業は、今後の金利上昇を耐えることが出来ない可能性はある。金利上昇によって信用力の低い企業が炙り出されることになり、クレジット市場に逆風が吹くこととなるかもしれない。また、大企業の中にも巨額の負債を抱えている発行体があり、今後の金利上昇によっては、経営状況に対する懸念が高まる可能性を否定できない。近年の低金利環境に慣れ切った投資家は、金利上昇に加えて信用悪化という思わぬダブルパンチを浴びる可能性を、少なくともリスクシナリオとして持っておきたいものである。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/12~9/16

上期末の起債ラッシュシーズンは、尻切れトンボの感がたぶんにある。金利の先行きが不透明に感じられるため、発行体が積極的な起債への取り組みを取らなかったのと同様に、投資家側も投資を積極的に行う体制を取らなかったように思われる。欧米を中心とする利上げのトレンドに対し、日本の金利は日銀のイールドカーブコントロールによって変動そのものが抑制されている。超長期年限についてのみ日銀のコントロール範囲外で金利水準の上がっている中では、超長期年限での積極的な起債は難しい。この週の起債は、サムライ債やグローバル債等を除いた国内発行の社債等という意味では、JERAの3.5年債、中日本高速道路の5年債、USEN-NEXT HOLDINGSの5年債、群馬銀行の期限前償還条項付10年劣後債、国際協力機構の10年債及び20年債、地方公共団体金融機構の7年債だけに限られた。

USEN-NEXT HOLDINGSの5年債は、格付けがBBB(R&I)格ということもあって、クーポンは1.02%という高水準である。絶対水準を求める投資家にとっては、一つの基準をクリアしていると思えただろう。正式な社名としても、ホールディングスがカタカナ表記でないことは要注意である。歴史的には、社名に表れているように有線放送に端を発し、光ファイバー等のブロードバンドネットワークサービスや映像コンテンツの配信といった辺りが個人に関係するビジネスであり、それ以外に、店舗・施設などへの有線放送やPOSシステム、キャッシュレスシステムの支援・提供を行っている。ネット情報によると、2017年にU-NEXT、USENが経営統合、株式会社U-NEXT(初代法人)を株式会社USEN-NEXT HOLDINGSに商号変更し、傘下に14社の事業会社を置く企業体のようだ。文字どおりやや変動性の高いビジネスを営んでいることに加え、これまでに買収や分割を頻繁に行って来たため、初回債の購入に慎重となった投資家は少なくないだろう。

民間企業による社債発行という意味では、残るのはJERAである。東京電力と中部電力の火力発電事業を統合した発電会社であり、ガスの販売も手掛けるものの、基本的に直接家計が接することはほぼないだろう。東京電力管内であれば東京電力エナジーパートナー、中部電力管内であれば中部電力ミライズといった小売電気事業者が、ユーザーに対することになる。電気事業法附則に基づいた一般担保付社債を発行することは出来ないものの、信用力としては必ずしも低くはない。JERAの取得している格付けはR&IのA+格とJCRのAA-格であり、東京電力ホールディングスが取得しているR&IのA-格とJCRのA格より2ノッチずつ高く、中部電力が取得しているR&IのA+格とJCRのAA格よりJCRで1ノッチ低い水準である。

JERAは1週間前にも22年債53億円及び24年債53億円と年限も金額も半端な起債をしているが、今週の起債は募集額こそ200億円とまとまっているものの年限は3.5年債であった。いずれも引受証券の単独案件であり、起債運営としては、投資家及び引受証券に無理を強いていた東日本大震災以前の東京電力には似ておらず、むしろ年限等の唐突さが中部電力に近いように感じられるところがある。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/5~9/9

今年度上期の起債シーズン、最後の追い込みの時期に入ると、従来とは異なった銘柄や種類の社債が募集されるのが、例年も見られる流れである。この週も、イビデンやキッツ、THKといった滅多に社債を募集しないメーカーによる起債が目立った一方で、結果的には電力関連の起債が金額ベースでは大きくなっている。

電力関連の起債と言っても、伝統的な電力債の枠組みに入らないものばかりが募集されているのも珍しい。東京電力と中部電力の火力発電等に関する合弁会社であるJERAは、一般担保付きの社債によって資金調達することが認められていない。なお、既存の電力会社の一般担保も、電気事業法附則第17条の規定で認められているものであり、同20条の規定によって令和6年度末までに発行されたものまでとされている。この週にJERAが募集したのは、22年債と24年債といずれも半端な年限であり、しかも募集金額はそれぞれ53億円という端数付きである。社債の金額が1億円単位であるから何らの問題もないのであるが、10億円単位に慣れていると、奇異な感じは否めない。

もう一つの電力関連の起債は、東京電力リニューアブルパワーによる5年物グリーンボンド300億円である。社名に表れているように、水力を含む再生可能エネルギーによる発電会社であり、グリーンボンドとしての適格性は認められやすい。一方で、一般担保を付されていないため、JERAと同様に信用力評価の際には注意が必要である。東京電力ホールディングスによる支払保証が付されていれば明確であると考えられるものの、持株会社の100%子会社であるから、基本的には持株会社と同等の信用力を有すると考えて良いだろうし、ESGやSDGsを重視する最近の潮流を考えると、持株会社から切り捨てられる可能性は極めて低いだろう。

最後の電力関連は、東北電力の劣後債である。劣後特約が付されているために一般担保の対象とならず、利払繰延べや期限前償還が可能になっている。最終償還の35年物が1,330億円、37年物が260億円、40年物が820億円、45年物が390億円と総計で2,800億円と巨額の募集となっている。期限前償還が最初に行われるならば、それぞれ5年債、7年債、10年債、15年債であり、クーポンはそれぞれ1.545%、1.754%、2.099%、2.521%と極めて高い水準で設定されている。取得した格付けはR&IのA-格及びJCRのA+格であって、決して低過ぎる水準ではない。期限前償還を前提にすれば投資妙味は高いようにも思えるが、一般担保付電力債などの優先債務が弁済された後には、どう考えても残余財産は何もないため、劣後債の弁済率は0%になることが必至である。東日本大震災のような大規模災害が発生した際に政府からの支援があれば問題ないとも考えられるが、「もしも」のことは何も約束されていない。期限前償還されない可能性を完全に排除できない中では、見た目のクーポンの高さのみに飛びつくべきではないだろう。もっとも、期限前償還をスキップした場合には、1年物国債利回り連動の変動利付債になることが予定されており、日銀によるイールドカーブコントロールが終了していれば、却って高い利回りを得られるかもしれない。要は、劣後事由に該当したり、利払の任意停止による繰延べの生じないことを期待するしかない投資対象なのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/29~9/2

いよいよ、上期末の起債の動きが本格化して来た。時期的な要素も大きいが、一方で、530兆円の国債を買い入れている日銀が、頑なまでに金融緩和の姿勢を変更しないことで、金利の先高感が薄れたために、上期中に起債を計画していた発行体が、計画遂行に向けて動いている。必ずしも起債ラッシュとまでは行かないが、金曜日には個人投資家向け社債や財投機関債を含めた社債等の条件決定は、計8発行体で15本に上っている。1営業日という意味では、十分に盛り上がった状況である。概ねあと2週間程度が上期中に残された社債等の募集期間であって、この週に条件決定した発行体の顔触れも様々となった。

週を通じて必ずしも起債ラッシュという実感に至らないのは、条件決定がそこそこの本数見られる一方で、大型案件が見られないことも影響している。発行体ごとの募集金額を見ても、最大が野村ホールディングスのTLAC対応債で、3年債425億円・5年債165億円・10年債45億円の計635億円である。それに続くのは、日本高速道路保有・債務返済機構が4年債300億円と20年債150億円とで計450億円を募集した程度である。以下に続く案件も、小ぶりな物ばかりである。なお、暫時見られた億円単位で刻んだ募集額の案件は見られず、野村ホールディングスの5億円刻みが目立つのみであった。

週を通じて見ると、電力債や財投機関債の募集はあるものの、メーカーとメーカーのファイナンス関連会社による募集が目立ったように思える。日本精工が5年債140億円と10年債110億円の計250億円を募集し、岩谷産業(東証の業種分類は卸売業)は7年債と10年債各100億円で、ホンダファイナンスは3年債と5年債各200億円を、三菱重工業は5年債と10年債各100億円で、ツムラは7年債と10年債各150億円を募集している。並べて歴然としたのは、複数年限を募集した場合に、金額が年限で揃えられているものが多いことだろう。起債頻度が大きくないために、償還年限の分散を強く意識しないで済んでいる発行体が少なくないようだ。

なお、電力債では中国電力が4年債200億円と8.5年債100億円という珍しい年限の組み合わせを募集した他、中部電力は20年債単独を120億円募集し、北陸電力が7年債180億円を募集している。いずれも金額としては決して大きくない。その他に、SDGs債を見ると、日本高速道路保有・債務返済機構と都市再生機構の財投機関債がいずれもソーシャルボンドの認定を得ている。いずれも民間事業と重複する事業内容ではあるが、独立行政法人として存続している意義を考えると、ソーシャルボンドとしての発行体に相応しいと考えて良いだろう。都市再生機構が募集した債券は、20年債100億円・40年債120億円・50年債30億円と、相変わらず超長期の年限が主体であり、いずれも1%を越えるクーポンが付されている。また、三菱重工業の募集した社債のうち、5年債はトランジションボンドの認定を得ている。脱炭素化などへの取り組みという資金使途が示されているが、同時に募集した10年債は認定を得ていない。お金に色はないものの、調達後の情報開示等を考えると、すべての起債についてトランジションボンドの認定を得ることを回避したものと想像される。