国内起債市場を斬る 起債評価:7/23~7/27

本州以西の酷暑、西に向かう台風など、気象状況は例年と大きく異なるが、起債市場はあまり例年と変わるものがない。日銀の金融緩和見直しが意識されるために、10年国債利回りが不安定化し、日銀が指値オペで封じ込める展開であるが、一般債の募集には直接の影響が見られない。スプレッドプライシングのベースとなる利回りが上昇することで、起債コストは上昇したが、スプレッドの拡大ではないために、発行体の責任とはされないからである。あくまでも「市場の変動」によるためである。日本企業で一般的な、責任を問われないことが重要なのである。

起債市場の顔触れは、ノンバンクと財投機関債などの公的セクターである。後者は格付けが日本国債と同水準の物ばかりであり、消化に対する不安は小さい。特に、年限が短い場合には、国債を購入してもマイナス利回りしか得られないのに、高格付け債でもプラスもしくは出来上がりでゼロ%の債券となっているから、投資家は購入し易い。日本政策金融公庫の財投機関債は、2年債も3年債もクーポンは同じ0.001%である。発行単価が100.002円か100.001円かの違いである。もちろん資金使途が、2年債は国民一般向けであるのに対し、3年債は農林水産業者向けであるという違いはある。しかし、公庫の中で部門が異なるとは言っても、外部の債権者には対抗できない。対抗できるならば、財投改革は単なる数合わせによる特殊法人の統合でしかなくなってしまう。

ノンバンクの起債は、昭和リース5年債と三井住友ファイナンス&リースの4年債及び10年債である。前者は協和銀行傘下で設立され、現在は新生銀行グループに属す。後者は、沿革としては住友商事や住友銀行系のリース会社がスタートであるが、途中でさくら銀行系のリース会社も統合しており、こちらは三井住友銀行系と理解される。つまり、両社とも、銀行系リース会社である。事業環境や今後の日本経済の成長性を考えると、なかなか長期の与信は容易でないが、いざと言うときには銀行の支援が期待できることで、信用力の下支えを期待することができる。昭和リースの5年債のクーポンは0.25%であり、一方、前述の日本政策金融公庫の10年債は0.255%クーポンとほぼ同じ水準、後者の三井住友ファイナンス&リースの4年債は0.110%、10年債は0.410クーポンである。どちらがより魅力的な投資対象であろうか。

いよいよ今週は8月に入り、全ての小中学校も概ね夏休み、第100回全国高校野球選手権記念大会の代表校も出揃い、2日抽選、5日開幕となる。起債市場もほぼ案件が出尽くしており、そのまま旧盆の休みに突入するというのが例年のスケジュールである。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/17~7/20

23日(月)大暑の今日、埼玉県熊谷市では国内観測史上最高気温となる41.1度を記録、岐阜県多治見市でも40.7度を記録し、各地で猛烈な暑さとなった。これまでの国内の過去最高は2013年8月の高知県四万十市の江川崎で観測した41.0度。 東京都内の過去最高は、2004年7月に東京都心と練馬区で観測した39.5度だった。 気象庁によると、太平洋高気圧の上にチベット高気圧が重なり、気温が高い状態が続いている、とのことだ。地球温暖化やその原因等に対し異論を主張する組織や学者も、こう暑いと声も小さくなる。
過去、熱中症による死亡数の年次推移を見ると、2010年に1,731人、2013年に1,077人が亡くなっている(厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室発表)。

起債市場も熱い展開が続いている。前週のみずほフィナンシャルグループのような超大型起債はないものの、東京電力パワーグリッドの2本立て計1,000億円の他に、地方公共団体金融機構がFLIP債11本で計650億円を募集しており、金額・本数ともに大きな数字となっている。

もっとも売行きの良かったのは、東京電力パワーグリッドの2本立てだろうか。5年債は0.43%クーポン、12年債は0.89%クーポンである。格付けはBBB+(R&I)格及びA(JCR)格と2ノッチのスプリットがあるため、投資家は格付符号を鵜呑みにせず自らが評価を慎重に行うべき発行体である。5年債のクーポン0.43%は、2日後に募集された近鉄グループホールディングスの0.2%と比べると、圧倒的に分厚い水準である。近鉄グループホールディングスの格付けは、BBB(R&I)格及びBBB+(JCR)格と東京電力パワーグリッドを下回る水準である。その他に、この週に募集された5年債のクーポンを見ると、サントリー食品インターナショナルの0.07%や興銀リースの0.2%は、小さい水準である。唯一、初めて社債募集を行ったマクロミルは、R&IのBBB+格で東京電力パワーグリッドと同じ格付けであり、クーポンは0.45%とほぼ同水準である。しかし、安定した基盤を有する東京電力パワーグリッドと、ネットリサーチ会社というITに依拠したマクロミルが同程度の格付け・クーポンというのは、隔世の感がある。

一方、東京電力パワーグリッドの12年債は0.89%クーポンと、得難い高水準の利回りになっている。何しろこの週で募集された社債等の中でも、この水準を上回るのは、近鉄グループホールディングスの20年債の0.955%だけであり、日本碍子の20年債0.86%がそれ次ぐ水準である。日本碍子の格付けは、R&IのA+格と東京電力パワーグリッドより3ノッチ高く、年限の差があって、ようやく3bpsの利回り差となっている。東日本大震災の処理過程を見ると、投資家は時価評価の必要がなければ、東京電力パワーグリッド債を持ち切りで保有する効果は高いものと想像できる。未だにすべての投資家が購入に殺到する銘柄とはなっていないが、高利回りの期待できる投資対象として多くから評価されているのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/9~7/13

関東甲信の例年にない早い梅雨明けから、西日本を中心とした広い範囲の豪雨被害と、7月に入って季節感は夏が強まっている。多くの公立学校は、三連休明けの1週間が終わると夏休みに突入する。一方で、起債市場は夏休み感がないどころか、夏休みに入る前にしっかり起債をしておきたいという動きで賑やかである。起債市場の夏休みは、例年だと8月の第2週あたりからであり、7月は四半期頭の起債も多く見られ、華々しい展開になるところである。

相変わらず日銀の強力な金融緩和が、社債の起債条件をも支配している。代表的な一つが、3年債の募集である。この年限は、現在の国債イールドカーブではマイナス利回りに沈んでいるものの、一般債のマイナス利回りは持ちきりの投資家には不向きである。ところが、日銀の社債買入れオペに適格な起債は、0.01%や0.001%といったギリギリの低クーポン(必要な場合には、オーバーパー発行)で募集し、セカンダリーはマイナス利回りで日銀に持ち込むのである。前週の日立キャピタル3年債250億円に加え、豊田自動織機の3年債300億円も、同様の起債である。100億円単位でなく、少しまとまった額で募集されるのが特徴である。信用スプレッドを潰(つぶ)(つぶ)し、発行体の起債条件を有利にするのが目的の社債買入れであるが、既に市場のゆがみをもたらすモノでしかなくなっている。ところが、政策目標である2%の物価上昇を実現できてないために、緩和手段の縮小ができない矛盾に晒(さら)(さら)されているのである。

もう一つの金融緩和による影響が超長期債の募集である。イールドカーブを寝かせ、信用スプレッドをタイトにした結果、投資家が利回り水準を求めるためには、より年限を長期に伸ばすしかなくなったのである。前代未聞の低金利であるから、発行体側には超長期の資金ニーズが存在する。しかし、その中には、この企業に超長期の与信をして大丈夫か、投資家は十分な信用評価を行ったのか、超長期の信用評価をどのように行ったら購入判断を導き出せるのか判断さえしきれないというものも、珍しくない。この週の超長期での社債募集は、永久劣後債を除くと、京阪神ビルディングの15年債、東レの20年債、京阪ホールディングスの20年債、関西電力の20年債、東京ガスの20年・30年・40年債といった顔触れになる。

伝統的には、超長期の起債が相応しいとされる業種は、鉄道や電力・ガスといった公益企業であり、特に、料金に対して公的機関の介入があるものが安全とされて来た。しかし、近年の金融環境では、そういった状況が崩れている。投資家が利回りを求めるために、業種に関してある程度の柔軟性が高まっている。メーカーや不動産の超長期債が募集される背景には、投資家からの利回りニーズがある。だが、将来に金融環境が変化した際に、デュレーションが大きく、価格変動性の高い超長期社債は脆弱である。東日本大震災の後、東京電力の超長期債は単価を大きく下げたために、取得コストによっては減損の対象にすらなる状況となったのである。超長期債の投資家は、特に保有銘柄の発行体の信用状況変化に留意しなければならない。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/2~7/6

7月に入ると、起債市場の要素は一変する。株主総会の集中する時期を越えて、しかも、年度の第2四半期に入ったのである。四半期の頭というタイミングで、様々な業態の起債が動き出す。典型的な発行体としては、財投機関、電力、ノンバンク、銀行といったところであるが、7月の5日6日の二日間で、この業種が全て動いている。しかも、総合商社や鉄道も動いたのだから、なかなかの起債ラッシュ感が出ている。

電力で動いたのは、電源開発が10年債200億円及び20年債100億円、中国電力が5年債100億円及び10年債200億円、北陸電力が10年債200億円、九州電力が10年債200億円及び20年債100億円の計1,100億円となった。厳密な意味では電源開発債は電力債でないが、現在でも社債管理会社を設置している。10年債の国債対比スプレッドは九州電力以外が+32psで、九州電力が+35bps。20年債は電源開発が+21bpsで、九州電力が+24bpsであった。R&Iの格付けで九州電力のみがA格で1ノッチ低いことなどを、反映したものである。

ノンバンクでは、日立キャピタルが3年債250億円及び5年債と10年債が各100億円、三菱UFJリースが5年債200億円及び10年債100億円、NECキャピタルソリューションが5年債及び10年債各100億円と計950億円を募集している。格付けがR&IのA+格である日立キャピタルと三菱UFJリースの10年債は国債対比+32psと、電源開発や中国電力と同じスプレッド水準であった。NECキャピタルソリューションは、格付けがBBB+格と異なる水準であり、国債対比スプレッドは公表されていないが、クーポンは0.62%と、三菱UFJリースの10年債プラス27bpsあり、単純計算すると国債対比+59bpsということになる。なお、銀行では新生銀行が5年債100億円を募集している。

財投機関としては、日本政策投資銀行が3年債・5年債・10年債各200億円と20年債100億円の計700億円を募集しており、四半期の頭を強く意識させる動きとなっている。10年債の国債対比スプレッドは+16.5bpsと電力やノンバンクよりも、タイトな水準である。この他、20年債のみを募集したのが、三井物産と京浜急行電鉄の2社というのも、今後の起債市場の展開を占う動きであった。R&IでAA-格の三井物産は、A格の九州電力に比べて1bpワイドなスプレッドで募集されている。電力債の一般担保効果もあるが、JCRでA+格の京浜急行電鉄は国債対比+20bpsと更にタイトなスプレッドになっており、投資家が利回りの絶対水準を求める傾向と、業種によって超長期債投資に対する姿勢の異なることがわかる。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/25~6/29

株主総会の集中する28日を挟むと、起債市場は動きづらい。でも、集中日は3月決算企業のスケジュールであり、それ以外のタイミングが決算の企業は、逆に募集に適した期間とも言える。もっとも投資家の多くは3月決算であり、社債等の購入者側が動き難い可能性もあるのだが、基本は供給者である発行体の問題である。

この週に社債を募集したのは、イオンモールと東京都競馬の2社である。前者は2月末決算であり、後者は12月末決算である。前者が2月末決算であるのは、親会社であるイオンが小売業で、2月末決算を採用しており、それにタイミングを合わせているものと考えられる。小売業の多くが2月末決算としているのは、3月末が年度末で大きく商売が増えるタイミングであり、逆に2月・8月は気候的にも売上が少なくなるものが多いからである。極めて合理的であり、すべての企業が3月末決算を採用しなければならないというものではない。

いずれの社債も順調に消化された模様であるが、イオンモールの起債は年限構成が面白い。最終的に募集したのは、3年債150億円、7年債100億円、10年債200億円、20年債50億円の計500億円と巨額に上っている。3年債は日銀オペ見合いという特殊ニーズがあるとしても、それ以上の年限については、やや投資家側の判断は起債が少ない中で視力が鈍っているのではないかという危惧を感じさせる。特に、少ない額であるが、20年債の募集については、積極的に投資する理由を見出し難い。クーポンが1.05%と絶対水準の高さを確保しているとは言え、親会社のイオンにおける小売業の苦戦は否定できない。総合スーパーが既に時代遅れであるだけでなく、ミニストップはコンビニの中でのポジショニングに苦戦している。近年は金融等に事業を拡張しているものの、将来の限界が見えはじめている。特に、アマゾン等ネットショッピングに対する劣位は顕著である。

加えて、イオンモールの主なビジネスであるショッピングモール自体が廃れはじめている。地方では、イオン等の総合スーパーを中核とするショッピングモールが出店し、既存の商店街をシャッター閉鎖に追い込み、その後、人口動態の変化等を反映して撤退するという減少が散見されている。つまり、ショッピングモールのディベロッパーについては、明確な限界が見えはじめているのである。米国でのトイザラスの破綻は、ショッピングモールの一翼を担った重要小売店舗が、インターネットショッピングに勝てないことを示している。日本のような人口減少社会で地方の消滅が迫っているとされる中で、イオンモールの長期債や超長期債に投資することが正しいのだろうか。単なる利回りの問題ではないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/18~6/22

社債等の募集はほとんど見られない。基本的には株主総会シーズンである。公的セクターは、民間企業の株主総会という影響はないが、市場全般の動きに乗った形と考えるべきである。もっとも財投機関債等の多くは四半期の頭に募集されることが多く、四半期末の6月には公的セクターも動きが鈍りがちである。この週に募集された起債で目立ったのは、グリーンボンド、ソーシャルボンドである。

まず、グリーンボンドを募集したのが、三菱地所である。5年債200億円が募集された。当初は100億円程度という募集観測であったが、最終的に200億円の募集となっている。常盤橋プロジェクトの資金として募集されたとのことである。株式におけるESG投資と同様に、債券における類似の投資としてグリーンボンド等の購入が注目を集めている。投資家のファッションという雰囲気もあるが、利回りが通常の社債と同水準であるのなら、グリーンボンドへの投資を喧伝(けんでん)する価値はあるかもしれない。しかも、すべての発行体が募集可能なものではなく、業種や事業内容によって制限されることになる。今回の募集も投資家からの強い人気が見られている。

ソーシャルボンドを募集したのは、国際協力機構である。過去にも起債経験があり、今回は10年債150億円と20年債100億円を募集している。10年債は100億円程度の募集とされていたが、150億円に増額されている。国債対比のスプレッドは、10年債が+17bpsで、20年債が+5.5bpsである。2週間前に募集された同じR&IのAA+格とS&PのA+格を取得している地方公共団体金融機構は、10年債+17bps、20年債+4.5bpsの国債対比スプレッドであった。クーポンも大きく異ならず、ほぼ同水準である。ソーシャルボンドだからと言って、タイトなスプレッドになる必要はないのである。国際協力機構のミッションは、ソーシャルボンドの認定を得るに適したものである。

中央の機関投資家の一部は、グリーンボンドやソーシャルボンドの購入を積極的に開示しているが、果たしてそれは収益獲得を目指す投資家としては必ずしも重要なことではないのかもしれない。実際には、すべての投資家が購入をメディアに対して表明しているものではない。グリーンボンドやソーシャルボンドがそれなりの頻度で募集されている中では、当然に、購入対象にするかどうかの判断が必要となる。需要超過で購入できないものもあるだろうが、投資対象から外すという判断を行っている場合もある。市場に投資判断の内容を知られないためには、安易に購入銘柄を公表すべきではないし、求められても拒否し答えないことも必要なのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/11~6/15

株主総会シーズンが近付き、自然と起債の波は沈静化する。前週は起債金額が大きくなったが、打って変わって静かな市場である。決して日本銀行の金融政策決定会合を注視したというような展開ではない。民間の起債ではメーカーによるものが目立った。公的セクターでは、東日本高速道路が1年債をはじめて募集している。社債の歴史を振り返っても、珍しい年限選択である。償還年限に明確な理由のある際にしか募集されない。クーポンが0.001%で発行単価が100円00.1銭というオーバーパー発行であり、応募者利回りは0%となる。既に公的セクターの2年債ではこうした条件設定は珍しくないが、マイナス金利環境でしかお目にかかれない代物である。

メーカーの起債は、まず、三井化学が7年債100億円・10年債150億円・20年債100億円の計350億円を募集している。格付けはR&IのA-格とJCRのA格であり、あまり高過ぎないことが、人気を集める要素となっている。10年債と20年債は、当初の予定より増額されている。確かに、20年債のクーポンは0.9%であり、月初に募集された東北電力の20年債よりも高水準となっている。都市再生機構の30年債を越えるクーポン水準というのも、面白い条件設定である。

残りの2銘柄はいずれも5年債が募集されている。格付けは、花王がR&IのAA格と高水準で、YKKも同じくAA-格とほとんど負けていない水準である。前者は250億円で、後者は100億円を募集している。どちらも起債頻度は多くなく、前者が第5回債で後者が第12回債。YKKは非上場会社であるが、有価証券報告書を提出し、発行登録を利用して公募社債による資金調達を行っている。かつてはレアな存在であったが、近年は上場持株会社の傘下にある銀行等が公募社債を募集することも珍しくなく、非上場会社の社債も普通になった感がある。なお、YKKについては、株式非上場が方針であり、同社のサイトには” 現在、当社は、当社株式を証券取引所に上場する予定はありません。“と明記されている。

両社の5年債は、いずれも0.08%クーポンとされている。翌日に募集されたR&IのAA+格である東日本高速道路の5年債はクーポンが0.07%であり、あまり変わらない水準である。メーカー2社の社債は、同日に募集されたが、いずれも順調に投資家の需要を集め、問題なく消化されたようである。希少性のある銘柄が、タイミング良く募集された結果であろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/4~6/8

起債ラッシュというムードは出てこない。条件決定された本数を見ても決して多くはない。しかし、条件決定された金額を単純に合計すると、1兆円を越えてしまう。週単位の条件決定額が1兆円を超えるのは、それだけで大型起債があったと連想する。この週に関しても大型の条件決定があった。しかし、1兆円を越える金額のうち、個人向け社債が約5千億円と半分近くを占めているのが特徴である。もっとも、機関投資家向けの募集は財投機関債などを含めて、6千億円以上あるのだから、起債ラッシュを感じるべきなのかもしれない。特に、8日金曜日の案件集中度合いは強い。

個人投資家向け社債の条件決定の中で、金額の小さいものから挙げると、四国電力の3年債125億円と九州電力の3年債150億円がある。いずれも0.14%クーポンであり、銀行預金が年限を問わず、ほとんど利息が付かない中では、個人投資家にとって投資妙味のある条件であろう。しかも、電力の小売自由化が実施されたとは言え、依然として、発電の大手は地域電力である。新規参入した発電業者も、小売に参入した売電業者も、決して大きなシェアとはなっていない(それでも、ガスの小売自由化に比べると、電力の小売は自由化が進んでいるのだが)。しかも、他の多くの個人投資家向け社債と異なって、10万円から投資できる。

700億円を条件決定したのが、みずほフィナンシャルグループである。劣後債の形態であり、シニア債より回収順位が劣るのであるが、個人はその差をほとんど意識していないだろう(言い換えると、目論見書を渡されるだけで、営業から回収順位の説明を口頭で受けるケースは稀なケースと想像する)。公的資金が投入された場合には、元本が削減されることも、あまり意識されない可能性が高い。5年後の期限前償還条項が付されており、それを前提に5年物で0.4%クーポンもあれば、かなり高い利回りに見える。みずほ銀行やみずほ証券等の持株会社であるが、その構造的劣後性を意識する投資家も少ないだろう。”Too big to fail”であると誰もが想像する発行体なのである。しかも時間軸は5年であると考えられている。もし金融庁が期限前償還の不実行を容認するような状況になったら、日本の金融秩序のみならず、資本市場全体が大いに混乱しているのだろう。まさに想定外の事態でしかない。なお、社債の販売単位金額は、100万円である。

最大の4,100億円を条件決定したのは、ソフトバンクグループである。機関投資家向けの400億円と同時に、個人投資家向けの6年債を条件決定している。機関投資家向けのクーポンは1.569%と刻んでいるが、個人投資家向けの社債は1.57%クーポンである。最低投資額は100万円である。格付けはJCRのA-格であり、機関投資家向けは国債対比+164bpsと格付け対比明らかに分厚いスプレッドが付されている。同社の事業内容やM&A等の経営活動、創業者リスク等を考慮したものであり、機関投資家は相変わらず慎重な姿勢を崩していないが、個人投資家は馴染んだ携帯電話キャリアということで、問題なく消化されることだろう。特に、個人投資家は保有社債の時価変動を考慮しなくて済むのが強い。

国内起債市場を斬る 総会シーズン特別号:「悪名は無名に勝る」

「悪名は無名に勝る」というのは、政治の世界で良く言われる言葉である。古くは、渡辺美智雄元副総理(故人)や竹中平蔵氏がよく引用したいた名言である。清廉潔白で公明正大な政治家でも、そのことが十分に知られていなければ、有権者からの支持は得られない。もちろん犯罪行為に手を染めたり、倫理的に許されない行為が報道されたりでは、師事を失う可能性が高いものの、軽微な致命傷にならないような問題であれば、そのことが報道されることから、得票に繋がるという現象を指す。実は、日本の起債市場においても、同様の現象が確認されることもある。

社債投資に際して発行体の信用力評価は必須である。ただし、内部に十分なクレジットアナリシスの能力がない場合には、外部機関による格付けでそれを代替することが経済合理的である。ただし、信用評価のスプレシャリストである格付会社も、その評価材料は発行体から公表されているものに加えて、インタビュー等の内部資料、更には業界分析といったものに限られる。しかも、近年は、対外公表しない内部情報を格付会社のアナリストにだけ提供することには、抵抗感が強い。その結果、格付けの有効なタイムホライズンは発行体の中期経営計画対象年限を業界見通しによって数年伸ばす程度に限られる。

結局のところ、格付けを援用することとしても信用力評価に限界がある以上、投資判断において重要な要素となるのが発行体の知名度である。合議制の投資家であれば、聞いたことのない発行体に対する投資を稟議書で上に上げたり、投資判断を行う会議に付議することは相対的に容易でない。知名度があり一般的なイメージを共有できている発行体の方が、投資の社内承認を得ることが容易である。時として、それが“悪名は無名に勝る”という結果に繋がることがある。

B to Bの企業よりも、B to Cの展開を行っている企業の方が、身近であり投資対象になり易い。この週における最大額の社債募集を行ったファーストリテイリングは、まさに、そのような評価に則っているかもしれない。ファーストリテイリングという社名を知らなくても、ユニクロやGUの親会社であると聞けば、知らない人はいない。今回は、10年債1,000億円を含む、5年債・7年債・20年債で計2,500億円を募集している。格付けこそJCRのAA格ではあるが、格付会社にファーストリテイリングの20年後がイメージできるはずもなく、創業者の現代表取締役会長も89歳におなりになっている(スズキの3代目代表取締役会長は現在88歳だから、非現実的とは言えない・・・)。そもそも、近年の展開を見ても、青果や靴など失敗して撤退した事業があり、海外展開も成功と失敗を繰返している。一方でこの会社の強みは、失敗した際の撤退の判断が早い点、とも言われており評価も高い。しかし、10年、20年といった長期の与信を軽々に行ってよい投資先ではないと考えるのは普通であろう。日本における過去の社債デフォルト例で目立っているのは、建設と小売である。そのことを投資家は、忘れてはならない。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/21~5/25

決算発表は終わったが、起債の動きは決してアクティブとは言い難い。まず目立ったのがノンバンク。三井住友ファイナンス&リースが5年債で、三菱UFJリースが2.5年債と7年債・10年債の3本立てを募集している。両社は格付けが、R&IのA+格及びJCRのAA-格で揃っており、どちらもメガバンク系と似たような位置付けである。今回の起債は年限が重ならず、おぼろげながらもイールドカーブが描ける。いずれも、問題なく消化された模様であり、特に三井住友ファイナンス&リースの5年債は、200億円の発行になっている。

次に、前週の民鉄ラッシュ(名鉄・南海・東武・東京メトロ)に遅れて、東京急行電鉄が10年債と20年債を募集している。格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格と、前述のノンバンクと同水準で、東京地下鉄を除く前週の鉄道会社より高水準である。同じ20年債の国債対比スプレッドを比べると、東急電鉄の+19bpsに対して、名鉄が+21bps、東武が+22bps、南海が+34bps、東京メトロが+10bpsという位置付けである。名鉄や東武と比べると、東急電鉄のスプレッドは格付け対比で厚く見える。ただし、スプレッド水準が相対的に厚くても、利回りの絶対水準が低いために、利回りの水準そのものを意識した投資家には好まれない結果ともなり得る。クーポンで見ると、東急電鉄は0.723%で、名鉄が0.748%、東武が0.758%、南海が0.878%、東京メトロが0.638%である。なお、東京メトロの20年債は消化に苦戦しており、東急電鉄も10年債より20年債が売れなかったのは、こうした構造の影響があるのだろう。

募集された金額という意味では、三菱UFJフィナンシャルグループの募集したバーゼルⅢ適格 Tier2債が、10年固定0.535%クーポンで400億円、10年NC5の期限前償還条項付当初0.37%クーポンで600億円の計1,000億円が、最大の貢献であった。

今後期待される起債の顔ぶれとしては、シャイアの買収に要した資金を社債で調達する(厳密には、金融機関からのブリッジローンで買収した後に、社債で固定する)と報じられている武田薬品の起債を待つまでもなく、間もなくファーストリテイリングの4本立て計2,500億円程度や、ソフトバンクの個人投資家向け4,100億円といった巨額の社債募集が予定されており、暫く大型起債によって高水準な募集金額になる展開が確実視されている。金余りの日本の金融市場には相応しいのかもしれない。