国内起債市場を斬る 起債評価:8/3~8/7

8月に入ると、起債市場はますます夏休みモードが濃くなる。今年度は新型コロナウイルス感染症を回避する観点から遠出はできないものの、テレワーク等勤務形態が従来と異なる企業が多い。社債の引受けを行う証券会社においても、直接の接客を行わない間接部門ではテレワークが多くなっており、投資家や発行体と接する営業部門も、対する相手がテレワークだと接触手段はTEAMS(ZOOM)や電話がメインになる。どんなにIT技術が進歩しても、重要な状況での対面が重要であると考える相手は少なくない。よほどのIT企業でない限り、完全にリモートでの社債募集はできないのではないか。古い意識だと思われるかもしれないが、市場参加者のほとんどが変わらなければ、ネットで社債発行のすべてが完結することは望み難いだろう。とは言うものの、小職の長野の田舎の隣は長い間、駐車場付きの飲食店だったのが、いつの間にか賃貸型テレワーク・オフィスに変わっていた。某企業が、居抜きで契約した様で得ある。社員も、全員東京から転居したのであろうか。対面ビジネスの変化は、身近でも起こっている。

この週に募集されたのは、民間企業の社債も公的セクターも少しずつといったところであった。民間企業では、三井住友ファイナンス&リースが3年債及び10年債計250億円を募集し、日鉄興和不動産が5年債及び10年債を計100億円募集している。JCRの格付けで見ると、前者がAA格で後者がA-格と大きな差がある。その結果、10年債のクーポンを比較してみると、三井住友ファイナンス&リースの0.39%に対し、日鉄興和不動産は0.74%と35bpsの差になっている。三井住友ファイナンス&リースが三井住友フィナンシャルグループの中核ノンバンクであるのに対し、日鉄興和不動産は日本製鉄系の不動産会社である。グループの中核企業が有する事業の安定感に加えて、ノンバンクよりも不動産に対する懸念が強いこともあろう。新型コロナウイルス感染症の影響によってテレワーク等働き方の変化が進み、今後のオフィス需要がどうなるか注目を集めている。住宅需要に関しても、遠距離通勤に対する考え方の変化が生じつつあり、先行きの方向性が不透明である。新型コロナウイルスが信用力に与える影響は長期間に及ぶ可能性が高く、慎重に評価する必要がありそうだ。

一方、公共セクターでは、地方公共団体金融機構が30年債100億円を募集し、住宅金融支援機構が5年債500億円・10年債200億円・40年債100億円の計800億円を募集している。新型コロナウイルス感染症の影響が沈静化しない中では、民間企業だと業種によって信用懸念が残るもの、公共セクターに対する信頼感は逆に強いと考えられる。例えば、民間不動産会社の信用懸念を意識するものの、逆に、住宅金融支援機構に期待される役割は大きい。地方公共団体金融機構についても、政府の財政状況が厳しい中で、地方公共団体が独自の感染症対策を打ち出すためには、重要なファイナンス主体となっている。公共セクターの信用力が高まっているというよりも、民間企業の信用力が相対的に下がっていると考えるべきだろうか。海外の状況を見ても、日本の企業が新型コロナウイルス感染症の影響から脱したと見ることはできないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/27~7/31

この週は、ついに民間企業による公募普通社債の募集を見ることができなかった。公共機関の中では、埼玉県が25年債(0.522%クーポン150億円)を条件決定し、その他に西日本高速道路による5年債(0.07%クーポン800億円)、日本政策金融公庫による2年債(0.001%クーポン1,100億円)及び4年債(0.01%クーポン800億円)の募集が見られた。

埼玉県債の25年というのは、地方債としては募集されることが決して多くない年限である。国債も地方債も募集される年限の基本が10年債というのは同様なのであるが、マイナス金利環境下では、10年債より短い年限であると国債の利回りがマイナスになっているため、国債対比スプレッドが大きくなってしまう。その結果、中期債の募集は地方公共団体には、あまり好まれない。一方で、投資家も利回りを求めるニーズを有しており、年限の長期化で需給が合致する。地方債の場合には、国債のような発行年限の制約は厳しくないため、15年債や25年債、更には定時償還債といった各種の債券募集が見られる。定時償還は歴史的には古い地方債に多く見られ、一時期は満期一括償還ばかりとなっていたが、投資家が適切にキャッシュフローを評価できるようになって、再び脚光を浴びるようになったものである。

西日本高速道路の発行する債券は、前年度までは厳密な意味での財投機関債ではなかった。財政投融資計画に付属する財投機関債の発行計画に記載されていなかったのである。ところが、令和2年度の財投機関債の発行予定には、当初の段階から西日本高速道路の4,200億円が明記されている(中日本の他に東日本及び西日本高速道路の計3社の発行する債券が財投機関債の予定に含まれている)。元来、日本高速道路保有・債務返済機構による重畳的引受条項や併存的債務引受条項の存在によって、実質的に財投機関債発行体である同機構の債務と同様のものとみなされており、債券の区分が変化しても必ずしも信用力に影響はないと考えられる。それでも、財政投融資計画に明記されたことで、より安全性が高まったと考えて良いのかもしれない。

日本政策金融公庫は、政府系金融機関の特性からも、経済的な困難時には民間からの依存度が高まるため、国民一般向けの融資事業用に募集された2年債は1,100億円と巨額であり、中小企業向け融資証券化の支援保証用の4年債も800億円の募集となった。新型コロナウイルス感染症によって中小企業等が資金繰りに苦しむ中では、政策金融機関が機能を発揮する機会もあると考えられ、合計1,900億円の起債も必要なものと見ることが出来よう。

昨年度の起債市場の実績を見ると、8月前半は公的セクターによる起債のみしか見られない。当面、同様の展開が続くものと考えておくしかない。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/20~7/24

本来なら東京オリンピックが開会を迎えたはずの週である。開会スケジュールに合わせて祝日を移動させたため、23日木曜からの四連休となった。オリンピックが延期されたからと言って、移動させた祝日を元に戻すわけには行かず、結局、来年もオリンピックを開催できるかどうかわからない状態で再び祝日を移動させることとなる。本来は1964年の東京オリンピック開会式の日であった「体育の日」は、「スポーツの日」と名を変えてしまっており、このまま7月に定着してしまうのではないか。出自がオリンピックにあることから、スケジュールに合わせ数日ずらしただけの海の日や山の日とは、大きく意味合いが異なる。そもそも過酷な東京の夏にオリンピックを開催しようという計画に誤りがあることは、1964年のオリンピックが10月開催だったことからも明らかであろう。新型コロナウイルス感染症が来年夏には落ち着いていることを、ひたすら祈るばかりである。

営業日が三日しかない中でも、起債市場は整斉(せいせい)と動いていた。コロナの蔓延に対する警戒から夏休みの予定が立たない中で、報道される感染者数の増加傾向を意識すると、再び警戒宣言が発出される前に、起債してしまおうという意識も根底にあるだろう。いずれにせよ、例年では、8月上旬がギリギリの起債タイミングというスケジュールである。

本数を稼いだのは、引続き、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債である。新型コロナ対応による地方公共団体の歳出増加もあり、構造的には、機構による年間調達額は増加される可能性が高い。21日と22日の二日間で、計10本総額765億円が募集されており、金額面でも決して小さくない。

金額面では、まず、ソフトバンクの3年債・5年債・10年債の3本立てである。3年債を100億円と抑えたものの、5年債700億円と10年債200億円で計1,000億円を調達している。持株会社のような果敢な投資活動による財務的な不安定性はなく、通信会社という事業基盤の構造的な安定性は評価される。しかし、持株会社の国内外における積極的な投資活動によって、間接的に影響を受ける可能性があることは、子会社であるソフトバンクの弱点かもしれない。

金額を稼いだもう一つが、東京センチュリーの劣後債である。いずれも60年債であるが、早期償還が5年で可能なものを1,000億円、10年で可能なものを300億円募集している。ノンバンクの劣後債に関しては、銀行や保険・証券と異なり、金融庁による早期償還に対する強い指導は期待し難いため、事業会社の劣後債と同様のノンコールリスクを検討する必要がある。決して単純な5年債や10年債と評価してはならない。東京センチュリーの場合には、リース等ノンバンク業界の将来性に加えて、みずほフィナンシャルグループとの距離感を考慮するべきだろう。元々は第一勧業銀行との関係が密であった。旧興銀リースであるみずほリースとの併存は難しく、東京センチュリーはNTTの出資を受入れているが、果たしてNTTファイナンスとのすみわけが出来るのか、一寸先はわからない。両巨大企業グループの狭間に落ち込んでしまわないだろうか。最大60年間の与信判断は、決して容易ではない。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/13~7/17

起債ラッシュは長続きしなかった。最大の要因は、日銀による金融緩和の意図が固く金利の先高感が感じられないことだろう。この7月に資金調達しなくても、上期中にでもまだ十分に機会があるだろうと思える。新型コロナウイルスの感染者数が再び増加し、感染第二波の到来が懸念されるものの、重症者数や死亡者数の増加率は鈍い。PCR検査数の増加や若年層の感染などが背景にあるものと考えられ、そのためGo Toキャンペーンによる旅行業への需要促進やイベント等の入場拡大が検討され、4月のような緊急事態宣言による自粛へと向かう状況にはない。こうした景気実感も、慌てて起債しようとする発行体の行動を引き留めているものと思われる。

実際に起債された顔触れを見わたすと、本数で上げれば、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく6本が、金額で上げると、みずほフィナンシャルグループの永久劣後債計2,070億円が、目立った両巨頭ということになろう。しかし、起債として注目すべきは、日産自動車とTDKによる起債だろう。金曜日に募集されたTDKの社債は、5年債300億円・7年債300億円・10年債400億円の計1,000億円で、極めてオーソドックスな年限設定である。かつてはカセットテープ等記録メディアのメーカーとして、一般消費者にも知られる会社であったが、現在はハードディスクドライブのヘッドやフェライト等電子部品のメーカーとして認識すべきであろう。そもそもがフェライト関連の製造を目的に起業されたメーカーであり、今回の起債も第5回債から第7回債と希少価値が高い。これまで事業内容を変化させ生き残って来た企業であり、投資対象として検討するのは面白い。なお、格付けはR&IのA+格を取得している。

一方、木曜日に募集された日産自動車は1.5年債290億円・3年債300億円・5年債110億円と計700億円であったが、クーポンを見ると、1.5年債で1%、3年債で1.4%、5年債で1.9%と随分と高いクーポンが付されている。背景としては、新型コロナ感染症の影響を受けた自動車に対する需要の低迷と、日産自動車そのものに対する財務体力の懸念がある。格付けだけを見るとR&IのA格を取得しており、TDKの1ノッチ下でしかない。しかし、同じ5年債を見比べても、TDKの0.18%クーポンに対し、日産自動車は1.9%という高い水準である。倍率を計算すると、10倍以上という結果になってしまう。日産自動車の先行きをどのように懸念するかは、ルノー等海外のステークホルダーによる影響があるため、なかなか読み難い。そのために、ここまで大きなクーポン格差が付されたものと解されるが、クーポンが1%あると、何となく嬉しくなってしまうのが、高金利時代を知っている人間の性なのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/6~7/10

7月第2週の金曜日は起債ラッシュになることは、ほぼ事前に予想はできていた。メディアも覚悟していたようで、いつもとは異なる多数の起債観測が事前に上がっていた。条件決定が集中することで苦労するのは発行体ではなく、引受証券と投資家なのである。もっとも、事前にマーケティングが終了していると、当日は値決めの儀式だけで済むだろう。以前のようにスプレッドプライシング方式でクーポンが決まるのであれば、参照国債の利回りを確認するだけの値決めだが、最近のマイナス利回り時代においては、想定されているクーポンの絶対水準で良いかどうかを確認する作業となる。日銀が金利水準をコントロールしている中では、それほど大きな金利変動がないことが期待できるため、絶対水準での値決めも決して難しくはないだろう。

10日の金曜日に条件決定された案件は、数えるだけでも膨大になる。まず、公的セクターからは、東日本高速道路が1年債100億円・5年債500億円・7年債200億円・10年債500億円の計1,300億円で、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債300億円・10年債350億円・50年債100億円の計1,050億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・10年債200億円・20年債150億円の計750億円と、合計で3,100億円を募集している。

次に、鉄道関係では、阪急阪神ホールディングスが3年債200億円・5年債100億円・10年債200億円の計500億円、JR東日本が5年債200億円・10年債150億円・20年債100億円・30年債200億円・40年債200億円の計850億円、小田急電鉄が3年債600億円と合計で1,950億円を募集している。

電力・ガスでは、西部ガスは20年債100億円と小額であったが、東京電力パワーグリッドが5年債1,000億円・10年債1,200億円・15年債700億円の計2,900億円という圧巻の金額を募集している。募集年限の多さではJR東日本に負けるが、金額は3倍以上である。

ノンバンクでは、オリエントコーポレーションが2年7か月債100億円の他、5年債を機関投資家向けと個人投資家向けで各50億円を条件決定しているだけで、ソーシャルボンド認定を受けたことが目立つ。

もっとも多様であったのが、メーカーであろう。DIC(念のため旧社名:大日本インキ化学工業)の3年債200億円、セイコーエプソンの3年債100億円・5年債400億円・10年債200億円の計700億円、王子ホールディングスの5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円、小松製作所の3年債400億円・5年債100億円の計500億円、LIXILグループの3年債150億円・5年債250億円・10年債100億円の計500億円、タダノが5年債100億円、ダイドーグループホールディングスが5年債100億円・10年債100億円の計200億円、ENEOSホールディングスが同じく5年債100億円・10年債100億円の計200億円と、製造業の中でも様々な企業が社債を募集している。

更に、これらの分類に入らない企業としては、不動産の東京建物が5年債200億円・10年債200億円の計400億円をサステナビリティボンドとして募集し、情報・通信のコナミホールディングスが5年債・7年債・10年債を各200億円、建設業の日揮ホールディングスが3年債と5年債各100億円を募集している。

まさに壮観な起債ラッシュであったが、従来からの傾向である日銀オペ見合いの3年債及び5年債(オリエントコーポレーションの2年7か月債も含められる)が目立つとともに、利回り水準を求める投資家を意識した超長期の起債も、日本政策投資銀行の0.892%クーポン50年債やJR東日本の0.902%クーポン40年債に代表されるように目立っている。クーポンの絶対水準から言えば、東京電力パワーグリッドの1.08%クーポン10年債及び1.37%クーポン15年債が突出した水準である。

一部にコノタイミングでの起債を延期した発行体もあったように報じられているが、7月の起債ラッシュが今後もまだ続くのか注目しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/29~7/3

3月期決算企業の株主総会が終わると、7月の起債シーズンに突入する。年度の第2四半期入りしたことに加え、6月下旬の起債抑制期を越えており、その一方で8月中旬には市場参加者の多くが夏休みとなるから、例年7月は濃縮された起債シーズンとなる。過去の歴史を振り返っても、期末が意識される9月・12月・3月以外で起債ラッシュが見られるのは、7月と11月の可能性が高い。実際に市場がどうなるかは、金利の先高感の有無やその年の祝日カレンダーにもよる。今年は東京オリンピック対応のために祝日が7月下旬に並べられており、延期になっても祝日を動かすことはできなかったため、例年にはない四連休が7月に設定されている。起債活動には影響が少ないと思われるものの、それまでに起債が集中する可能性もあるため、7月10日以降の起債観測の盛り上がりには注意が必要であろう。

四半期初旬、起債に向けてすぐに動く業態としては、いつも電力、ノンバンク、銀行、鉄道といった傾向が見られる。それに、公共機関も加わることがあるが、週の途中で月が替わったため、ややいつもの典型的な顔触れ以外も見られる。もっとも、中部と中国の電力2社、ノンバンクのクレディセゾン、銀行からは新生銀行、公的セクターからは中日本高速道路と、期待に違わない銘柄が社債を募集している。

それ以外の起債の一つの特徴は、相変わらずの日銀による社債買入れオペ対応の3年債と5年債である。豊田自動織機製作所の3年債に加えて、アシックスの3年債及び5年債は、この分類に含めて良いだろう。両社ともれっきとしたメーカーであり、前者は自動車部品や車体、産業車両、繊維機械の製作会社であり、トヨタ自動車グループの源流にも当たる。募集された社債は、0.001%クーポンの3年債で100.002円のオーバーパー発行であるから、辛うじてプラス利回りの発行条件である。アシックスはスポーツ用品メーカーであって、今回の公募普通社債の募集は第3回債及び第4回債と希少価値が高い。

これらとまったく異なる起債という意味では、電通グループの5年債500億円・7年債100億円・10年債600億円の計1,200億円という大規模な起債が注目される。R&IでAA-格を取得する高格付企業であるが、何しろ近年の政治スキャンダルで叩かれている広告代理店の持株会社である。安倍政権との癒着により不当利得を得ているのではないかという指摘は強い。加えて、電通は2016年のブラック企業対象を受賞しただけに留まらず、2019年も同特別賞を受賞している。どう考えても、SDG(Sustainable Development Goals)のうちsocialの観点で懸念される投資先と言わざるを得ない。電通グループの社債を購入した投資家がESG投資(Environment、Social、Governance)を意識していると言うなら、その投資姿勢が眉唾であることを容易に指摘できる試金石のような起債であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/22~6/26

新型コロナウイルス感染症の影響で、3月期決算企業が株主総会を一部延期しているものの、基本的に6月下旬の総会開催が集中している。そのため、例年通り、6月下旬は起債の多くない時期である。こういった時期に、前の週から続いている一つの流れが、公共セクターによる起債である。この週も、日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債50億円の他、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく債券を10本計1,140億円募集している。FLIPであるから当然でもあるが、1本当たりの募集額は決して大きくない。流通市場では、なかなかお目にかかることができなくなってしまう起債である。

この週でもう一つ際立ったのが、事業会社による劣後債の募集であろう。事業会社による劣後債の募集に関しては、期限前償還期に必ずしも償還されない可能性があり、また、格付会社が資本性を認定する条件として、期限前償還を実施した場合に、同種の劣後性資金調達で借換を行うことが求められている。後者に関しては、株式に近いとして資本性を認定する条件としては当然の要請であり、5年等の短い期間で償還してしまうのであれば、到底、株式と同等の安定した資金調達とはなり得ないからである。企業が資本性調達による借換えという公約を守らない場合には、格付会社は資本性を認めない可能性がある。この6月にも三菱商事の劣後債が期限前償還を迎え、借換えの実施有無が注目を集めたところ、結局、劣後ローンでの資本性資金調達が継続された。シニア債と比べると調達コストが高くなるために、収益性の観点からは単純な償還を望み易いが、資本性を認めてもらうためには劣後調達を継続する必要がある。発行体にとっては、一種のジレンマが存在するのである。

この週に募集されたのは、まず東海カーボンの劣後債200億円である。30年債を募集したが、10年経過後に期限前償還可能とされている。格付けはR&IのBBB格であり、10年後に償還されるという前提で見れば、実質的に1.77%クーポンの10年債である。小額の募集であったが、投資妙味はあるのかもしれない。

次に、不動産会社であるヒューリックが募集したのは、5年経過後に期限前償還可能な35年債1,200億円、7年経過後に期限前償還可能な37年債400億円と10年経過後に期限前償還可能な40年債400億円の計2,000億円である。取得した格付けは、JCRのA-格であった。当初クーポンは、35年債(実質5年債)が1.28%、37年債(実質7年債)が1.4%、40年債(実質10年債)が1.56%と設定されており、格付けの低い東海カーボン債より低利である。しかし、発行総額の大きさと不動産会社という事業特性を考えると、リスクは小さくないと考えるべきだろう。特にコロナ禍の影響で、オフィス需要の低迷が懸念される。唯一投資対象として考慮できる要素は、旧芙蓉グループの位置づけとみずほフィナンシャルグループとの関係である。これから不動産不況が来ると考えれば、メガバンクグループによる財務面でのサポートの有無が大きな要素となることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/15~6/19

3月期決算企業の株主総会シーズンである。COVID-19への対応で、総会の開催も例年とは異なる形態が可能となっているものの、基本的には例年通りのスケジュールを維持している上場企業は少なくない。もっとも株主自身が「三密」を避けようとするため、必ずしも大規模な人数の株主総会の開催とはならないようだ。起債市場も株主総会を意識して暫時動きが大人しくなり、7月に入ってからのラッシュに備える展開である。既にメーカーや銀行、鉄道、通信等で大規模の起債観測が見られており、7月はやはり例年のような起債市場の展開になるようだ。

今年度は、新年度入りしてすぐに緊急事態宣言に伴う自粛が行われたため、学校や企業の夏季休暇スケジュールがよく読めない。そもそも東京オリンピック対応で祝日を移動したものが存置されているが、海外への渡航は困難であり、国内でも県外への移動がようやく解禁されたばかりの状況であるから、多くの国民にとって夏の予定がまだ立っていないというのが実情だろう。当面、新型コロナウイルスに脅えながら、春先の遅れをしっかり消化しようとするしかなく、夏場の起債市場が例年のように実質的な休みとなるのかは、まだ判然としない。

この週の起債では、金額面で目立ったのがみずほフィナンシャルグループの期限付き劣後債である。バーゼルⅢの規制に対応してTier2にカウントできるものであり、劣後事由等に該当した場合、元本が毀損する可能性はある。そのため、通常のシニア社債に対して劣後プレミアムが乗ることで、10年固定債の利回りは0.895%と高水準である。劣後性を考慮した格付けはR&I及びJCRのA+格であり、前週の10年債での起債で言えば、エアウォーターや日本製鉄(何れもシニア)と同程度の評価である。エアウォーターのクーポンは0.38%で、日本製鉄は0.42%であるから、みずほフィナンシャルグループの劣後債だと倍以上の利回りが得られる。400億円と決して大き過ぎる規模ではない。同時に募集された5年で早期償還が可能な10年債300億円は、当初クーポンが0.56%である。調達額は、計700億円に過ぎない。

一方で、クーポンが目立ったのは、NTTファイナンスとサントリーホールディングスの3年債である。前者はJCRのAAA格及びS&PのA-格を取得した400億円の募集で、後者はJCRのAA-格で300億円の募集である。いずれも日本銀行による買入れオペの対象年限であり、投資家による一次購入が期待できるだけでなく、発行体としては実質的に最低利回り(オーバーパー発行とすることで、更に利回りを低くすることは可能であるが)での資金調達が可能である。金融緩和の効果として、高格付けの発行体が低利で資金調達できることに必ずしも違和感はないが、むしろ需要の消失や固定費負担の大きさで喘ぐ中小企業等の資金調達に資する政策の方が、より金融支援としての意味があるのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/8~6/12

緊急事態宣言が解除されたものの、大都市を中心とした感染は完全にはなくなっていない。徐々に街の生活は日常に戻りつつあるが、株価の動きを見ても、必ずしも旧来には戻り得ない。ウィズコロナの時代における新しい生活や経済のあり方を模索しているかのように見える。油断すれば、何時でも、何処でも新宿歌舞伎町の「夜の街」のように大規模感染が起きるだろう(歌舞伎町だけが注目されるのも気の毒だが)。今月下旬に都道府県を跨ぐ移動が解禁されると、大都市から地方への感染者移動が生じ今までに感染者が多く出ていなかった地方でクラスターはが発生するかもしれない。海外の動向を見ても、まだまだ決して安心できる状態にはない。なまじ金融緩和で株価水準を高めに維持していることもあって、不安定な株価も、こうした脆弱な状況を象徴しているかのようである。

コロナショック後の社債市場の注目年限としては、5年債を挙げることができる。日銀による買入れオペの対象となったことで、一気に発行量が増加している。これまで、利回りを求める投資家が10年債からそれ以上に長い超長期債へシフトする一方。短期的に利益を得る対象として日銀オペ見合いの3年債購入が行われてきた。近年は3年債と10年債もしくは超長期債という組み合わせが見られていたのが、オペ対象の拡大以降、3年債及び5年債に10年債以上を組み合わせたり、5年債と10年債以上といった組み合わせの起債がよく見かけられるようになった。かつて5年債は、中期年限の中核と位置づけられ、投資家層も厚いとされていたのが、マイナス金利政策によって利回りが低下したこともあって、感覚的に発行量が減少していたように見られた。それが、日銀オペの対象となったことで、見事に復権を果たしたのである。

この週においても、5年債を募集した発行体としては、ノンバンクで芙蓉総合リース・ホンダファイナンス、その他に大成建設、日本通運、日本製鉄、丸紅、旭化成、三井住友信託銀行と業種も幅広く分散している。この中でも、3年債とともに5年債を募集したのが、ホンダファイナンス・日本製鉄・三井住友信託銀行・旭化成と4社ある。必ずしもすべてが日銀オペ見合いのみとは言えないかもしれないが、5年債の募集は一つの顕著なトレンドとなっているようである。

5年債の復権による反動なのか、この週に超長期債を募集した民間企業は見られない。野村ホールディングスの永久劣後債は、5年経過時に期限前償還が可能であり、金融庁による監督の下でほぼ間違いなく償還されることが期待できるため、投資家は実質的に5年債として扱うだろう。他の超長期債としては、都市再生機構が40年債200億円、日本高速道路保有・債務返済機構が利子一括払いの20年債及び40年債の計100億円を募集したのみに留まる。コロナショックを受け大きく水準の変動した超長期ゾーンに対して、投資家がやや慎重な姿勢を示している可能性もあるが、単に民間企業が超長期年限を発行対象として選択肢にしなかっただけなのかもしれない。もう少し市場の動きを確認すべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/1~6/5

新型コロナウイルス感染症は、国内だけ見るとようやく沈静化しはじめているようであるが、第二波以降の感染再拡大に対する懸念はなかなか拭えない。消費の低迷に起因する経済への悪影響は、しばらく続くものと思われるが、世界的に株価は2月の水準へと回復している。これを中央銀行による金融緩和のもたらしたミニバブルと考えるのか、それともコロナの早期終息に向けた期待による株高なのか、今後の推移のみがそれを教えてくれることになるだろう。一頃の「先の見えない不安感」が薄れていることは、様々の意味で前向きになる兆候であるが、債券市場について考えると、補正予算に対応する国債増発と日銀による大量買入れの綱引き、それに企業倒産の増加による信用懸念の高まりが加わって、一般債利回りの方向感が掴み難くなっている。

6月に入って起債市場の動きが活発化している。決算発表を乗越え、緊急事態宣言による自粛も徐々に解除されていることから、大型の起債案件も見られるようになっている。それでも、動きが遅いメーカーより、ノンバンク、鉄道などの動きが先行している。相変わらず、日銀による買入れ見合いの3年債及び5年債の募集は目立っているが、それを含めた複数年限にわたる起債が一つの特徴である。野村不動産ホールディングスの3年債200億円・5年債100億円・10年債100億円は、まさに日銀対応の年限で調達金額を稼いでいる。同様の年限設定は、川崎重工業でも見られるが、5年債を300億円と大きく積み増している。JR九州も日銀対応の3年債200億円が募集金額の半分となり、10年債と20年債は各100億円の募集である。

複数年限の起債としては2年限や3年限は良く見かけるが、5つの年限で社債を募集した発行体が2つもあったのは珍しい。一つは東京地下鉄で、10年債から50年債を10年刻みで各100億円を募集した。したがって、合計募集金額は決して大きくない。最近の鉄道関連で見かけられる起債形態で、年限の分散を図ったものと考えられる。なお、10年債のみサステナビリティボンドの認証を得ているが、同社の位置づけを考えると、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債のようにすべての年限で認証を得る方が適切だろう。

もう一つの5年限を募集したのが、Zホールディングスである。ソフトバンクグループに属する上場持株会社であり、傘下にヤフーやイーブック、一休、GYAO、ジャパンネット銀行など多数のIT関連企業を有している。上位の持株会社であるソフトバンクグループも同様であるが、あまりにも資本関係が複雑であり、かつ、LINEの経営統合に端的に表れているように、買収やスピンアウトによって企業の将来像が容易に転変してしまうため、社債投資の対象としては躊躇せざるを得ない。今回募集された社債でも1.5年債250億円・3年債800億円・5年債700億円までは、日銀買入れを意識して購入するのも面白いが、7年債150億円・10年債100億円ともなると、A+(R&I)・AA-(JCR)といった格付けのみを鵜呑みにして投資するのは危険過ぎるだろう。10年債に付された0.9%という高い水準のクーポンが、不透明リスクに見合っているだろうか。それでも、5年限で計2,000億円の大型起債を成功させたのだから、驚嘆を禁じ得ない。

Zホールディングスの起債に比べると、京成電鉄と京浜急行電鉄が各々20年債を募集しているのは、違和感なく見ることが出来る。クーポンはいずれも0.73%に設定されている。なお、取得した格付けはA+格で同水準であるが、京成電鉄はR&Iからで、京浜急行電鉄はJCRからであり、発行額は京成電鉄の100億円に対し、京浜急行電鉄は150億円と多い。どちらの投資妙味が高いと考えられるか、好みも分かれるところだ。