国内起債市場を斬る 起債評価:9/16~9/20

本年度上半期の社債等の募集の最後は、劣後債とFLLIP債に野村グループの社債と、ほぼ想定された通りの展開となった。一般の起債案件は、ほとんどが前週までに募集を終了しており、まさに上半期の最終局面といった感じである。

地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券は、引受証券が購入者を見つけて来てから嵌め込む形であるから、販売が難航することは考え難い。最低ロットは30億円とされており、一般的な公募社債の金額より小さい。もっとも、この週に募集された第487回債は70億円で、第488回債は200億円と通常の公募社債の募集でも見られるような金額であった。引受証券は、前者がSMBC日興証券で後者が野村證券であり、大手証券の意地のようなものをやや感じる。

劣後債を募集したのは大和ハウス工業で、期限前償還が可能になるタイミングで5年・7年・10年と3回号に分けられたが、その後は30年間の変動利付債となるプログラムである。事業会社のいわゆるハイブリッド債募集においては、最大償還予定を揃えて期限前償還のタイミングを変えたものを見ることが多い。例えば、9月6日に募集された日本製鉄の劣後債はいずれも60年債と設定されていたが、最初の期限前償還タイミングは、大和ハウス工業債と同じく、5年・7年・10年で設定されていた。最初のタイミングでの償還を所与のものと考えれば、その後の最終償還までの年数には意味がなく、単に置かれた数字でしかない。しかし、期限前償還されなかった場合には、最大で残存年数にまで及ぶ与信が継続する。それが発行体の信用力等の観点から適切かどうかの判断が必要である。あくまでも償還するかしないかは発行体側のオプションである。そのプレミアム価値を十分に検討する必要がある。果たして、発行体の企業は、また、その属する業種は、30年とか60年といった年限において安定的な事業が展開可能だろうか。

野村総合研究所は、IT・コンサルを中心にした企業であり、東証一部に上場しているものの、野村ホールディングスが約3割の株式を依然として保有している。最大の証券会社グループに属する企業が未だに親子上場の形になっているのであるから、日本の資本市場の特殊性が改まっていないことは明らかである。筆頭株主以外にも、グループ企業や社員持株会の保有分を加えると、ほぼ半数がグループの保有である。到底、他の企業の保有・上場構造に文句を言える筋合いではない。3年債と10年債の計400億円の募集であり、グループの野村證券が主幹事として仕切るのであるから、ギリギリの募集タイミングでも販売に支障ないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/9~9/13

上半期の起債もそろそろ終了となる。敬老の日(16日)による三連休明けの週もギリギリ募集できないわけではなく、実際の起債観測も上がっているが、多くの案件は9日の週までに終わる。特に、三連休明けだと17日(火)が営業日でないために、翌週も18日が募集可能な営業日であるため、20日(金)が迫るタイミングになっており、多くの起債募集が動ける状況ではない。

9日の週は多くの案件が動いた。その前の週がソフトバンクグループの計5,000億円や日本製鉄の計3,300億円、三菱UFJフィナンシャルグループの計2,000億円といった大型起債が目立ったために、比べると金額では小ぶりに見えるが、本数は2日の週の計34本に対して、9日の週も計31本と遜色はない。もっとも、大型起債は、コカコーラボトラーズジャパンホールディングスの三本立て計1,500億円くらいなものである。

引き続き、超長期債の募集は、地方公共団体金融機構の20年債、住宅金融支援機構の15年債、東急の20年債及び30年債、中国電力の30年債と行われているが、国債対比でプライシングされたのは中国電力の30年債くらいなもので、絶対値ベースでのプライシングが続いている。特に、発行体の属性からも国債対比でのプライシングが最適と考えられる公共機関による起債が、国債対比で行われなくなっていることには留意しておきたい。マイナス金利となっている年限ならともかく、それ以外の年限での安易な絶対値プライシングは、発行体のためにも、投資家のためにもならないだろう。

投資家が低金利環境下で利回りを稼ぐには、年限を伸ばすか、信用力の劣る銘柄に手を出すかという判断になる。この両方を選択することも可能であるが、低格付け銘柄に対する超長期の与信は敬遠されるだろう。そこで、比較的に低格付けの社債も複数みられる。年限としては、一般的に3年債や5年債といったあたりが、適切だろうか。もちろん個別の発行体、業種によって適切な年限は異なる。A格ゾーンの下やBBB格ゾーンの起債としては、横浜冷凍の7年債100億円、イオンフィナンシャルサービスの3.5年債・5年債・7年債計700億円、DMG森精機の3年債100億円、西松建設の5年債200億円、大建工業の3年債及び5年債計100億円といったところが見られる。なお、近鉄エクスプレスはBBB+(R&I)格でありながら、10年債を募集している。それでも、クーポンは0.45%と低いのだから、投資家の食指は限定的である。

このような起債環境下で、グリーンボンドやソーシャルボンドを標榜する起債も、住友倉庫の5年債や大建工業の3年債等が見られる。その前の週も、カネカの5年債や三井不動産の5年債といったところが、グリーンボンド等となっている。投資家に買ってもらうための工夫とアイデアのようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/2~9/6

起債環境に大きな変化はない。基本的に、欧米も含めて先進国の金利は低下傾向にある。当然に9月の各中央銀行の政策決定イベントには、注目が集まっている。もし、米国が7月につづいて利下げを敢行した場合、為替は円高水準に振れるのか、それとも、大きな変化はないのか。もし円高になるようなら、日本銀行も再び金融緩和を強める可能性が高いと想定される。既に日本銀行の黒田総裁は、マイナス金利の深掘りの可能性すら示している。しかも、起債市場は上期末が近づく中で、募集に適した営業日が徐々になくなりつつある。さらなる金利低下を見据えた投資家は、社債を積極的に買い向かう可能性が高い。この週の起債は、募集総額が巨額になった。

募集金額を大きくした一つのグループが、劣後債である。銀行・保険の劣後債としては、あいおいニッセイ同和損害保険が計500億円、第一生命ホールディングスが650億円、三菱UFJフィナンシャルグループが計2,000億円と計3,000億円を越えて募集したのに加え、日本製鉄の劣後債(世の中ではハイブリッド債などと称すこともあるが、実際には、単なる劣後債と考えるべき)が計3,300億円募集されており、劣後債の募集総合計は6,400億円を上回る金額であった。

もう一つ募集金額を増やしたのが、ソフトバンクグループである。もっとも、個人投資家向けの4,000億円は6日に条件決定されただけで、実際の募集は9日からとなっている。同社が個人投資家向けに4,000億円といった大規模な起債を行うのは決して珍しくないが、今回は同時に条件決定・募集された機関投資家向けの募集額が目を引く。個人投資家向けと同じ7年債で、同一クーポンとされたのであるが、単体で1,000億円を募集している。従来から、同社に対する与信について慎重なスタンスの機関投資家は少なくない。機関投資家向けの社債の発行額より個人投資家向け社債の方が募集金額は大きいのは、別に普通であった。しかし、機関投資家向けで1,000億円と大台に乗った募集が実現したのは、投資家の利回り志向が、「たとえソフトバンクでも背に腹は代えられない」と、気持ちが緩んだと考えられる。

ソフトバンクグループが募集したのは、JCRでA-格の評価の7年債で、クーポンが1.38%と高水準である。一方、日本製鉄の60年物劣後債で当初7年間償還されないタイプのものは、7年間のクーポンが0.93%である。日本製鉄の劣後債格付けは、劣後性による引き下げを考慮しても、JCRのA格とソフトバンクグループより高い。しかし、差は、わずかに1ノッチである。劣後プレミアムが乗っているとはいえ、日本製鉄の0.93%が色褪せてしまうような利回り水準であったと言える。もっとも、それを利回りが高いとポジティブ方向のみに評価すべきではなく、1ノッチ上の劣後債よりも、大幅に利回りが上回ることとなった背景として、発行体にどういったリスクが存在するかをよくかを、真摯に考えるべきではないか。

国内起債市場を斬る 2019年夏季特別号:マイナス金利起債時代をどう見る【追記編】

10年国債利回りのマイナス幅が大きくなっている。その影響が、社債等一般債にも及びつつある。理屈の上では、国債利回り対比のスプレッドを、マイナスの国債利回りから計測することは可能である。しかし、実質的な意味合いは従来と異なる可能性が高い。そもそも利回りがマイナスになること自体が、以前では考え難い例外事象なのであるが、需要と供給の価格決定メカニズムで決まる利回りは、マイナス利回りで債券を購入する市場参加者がいれば、マイナスにもなってしまう。近年は、日本銀行が宣言して取組み、市場に存在している利付国債の約4割を買い上げた結果、マイナス利回りが実現されてしまっている。確かに国債は、日本銀行という最後の買い手がいるために、マイナス利回りになるだろう。しかし、日本銀行が買入対象としないほとんどの一般債については、状況が異なる。持ち切り前提で購入する投資家が多いなら、一般債がマイナス利回りになることは考え難い。前週に日本学生支援機構の2年物財投機関債で、マイナス利回りに突入する事態が発生したのは、国債対比の相対感で購入する投資家がいるからである。

短い年限の社債等で利回りがマイナスを伺う局面にある一方、10年やそれ以上の年限においては、プライシングの基準としての国債利回りが低下し、基軸としての存在意義を疑われる事態となっている。その結果、長い年限の社債等のプライシングが国債対比のスプレッドプライシングから絶対水準の利回りによるプライシングへシフトしつつある。以前であれば、参照される国債利回りがマイナスの中期年限は、絶対値ベースのプライシングにシフトしていたのであるが、この週のプライシング状況を見ると、もはやスプレッドプライシング自体が機能停止しているように見える。もちろん、最終的に決定されたクーポンと単価から求められる投資利回りと、対応する国債の利回りからスプレッドを計算することは可能である。しかし、それは算出された結果としてのスプレッドであって、発行体や投資家によって意図されたスプレッド水準ではない。

既に15年を超える年限の国債利回りまでもがマイナスになっており、10年超の超長期債のプライシングがほとんど国債対比のスプレッドでは行われなくなっている。唯一、国債対比のスプレッドで行われたことが確認できたのは、九州電力の第483回20年債のみであって、それ以外の超長期社債は、日本ハムの第13回債、電源開発の第68回債、キリンホールディングスの第14回債、名古屋鉄道の第59回債といった20年債だけでなく、大阪ガスの募集した第38回30年債、第39回39年債、第40回50年債のすべてが、国債対比でない形でプライシングされたのである。

国債対比のスプレッドプライシングは、必ずしも古くから続く市場慣行ではない。それでも、基準となる国債利回りの変動がクーポンに与える影響を排除することで、透明性や比較可能性を確保する手段として定着して来たものであった。ところが、日銀によるマイナス金利政策の副作用として、スプレッドプライシング方式が捨て去られようとしている。果たして、この傾向が今後も続くのだろうか。かつてのように国債利回りが大きく変動しない市場なら、絶対値のプライシングでも悪影響は見られなかった。幸い現状も日銀による買い占めで国債利回りの変動が小さくなっており、足元の絶対値プライシングは適切なのかもしれない。しかし、将来はどうなるのだろうか。債券市場の参加者は、利回りの低下などから徐々に減少しつつある。市場機能を維持することも中央銀行や市場監督者の負う一つの義務だと思うのだが。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/19~8/23

旧盆の休みも終え、起債市場が再開した。条件決定前の打診・勧誘行為は既にはじまっていたが、正式なプライシングを経ての債券募集は、実質的にこの週後半からとなった。発行体も、投資家も、ようやく市場に戻って来たというところだろうか。

財投機関債の一つである日本学生支援機構の2年債がマイナス利回り(0.001%クーポンで100.003円のオーバーパー発行)で募集されたのは、一つの大きな衝撃であった。既に、単価100.002円での0%利回り発行は経験していたのであるが、新規発行の一般債でのマイナス利回りは初めてである。既に、ドイツ国債が30年までもマイナス利回りとなり、米国国債を見ても10年債利回りが2%水準を割ってしまっている。他の先進国が金融緩和に逆戻りする中で、金融引き締めや金利上昇のパスにまで至らなかった日本銀行には、もはや打つ手がない。彼我(ひが)の関係で決まる為替レートを考えると、円高抑制のためには、欧米の金利水準を見据えて、残された金融緩和のカードを少しずつ小出しにするしかない。要するに、かつての白川執行部が実践していた金融政策のファインチューニングであり、黒田総裁は2013年の就任時にそれを“戦力の逐次投入である”と批難したものが、結局のところ、同じ轍を踏まざるを得なくなっているのである。先人に対する安直な批難は身を滅ぼす。

上期末を控え、社債等の条件決定に適した期間は短い。今年度のカレンダーだと、概ね9月9日の週までは募集に適しているが、その後、月曜日が2週続けて休日となっているため、9月16日の週に入るとやや募集スケジュールは厳しくなる。これまでに起債観測の上がっている銘柄を見ると、順不同で電力・ガス、銀行、鉄道、食品、放送、機械、建設、証券、化学、鉄鋼・金属、自動車、ノンバンク、保険、不動産、物流・倉庫、住宅、通信など上期中の起債予定は、多業種にわたって膨大にある。しかも、劣後債の募集を予定している発行体が複数あって、これから市場関係者は忙しくなりそうだ。

この週に募集された中で、JR西日本の30年債だけでなく、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の10年債及び20年債も国債対比のスプレッド形式ではプライシングされていない。10年国債利回りが深くマイナスとなっていることに加え、20年国債や30年国債の利回りも随分と水準が低下してしまっている。2016年にマイナス金利政策が導入され、英国でブレグジット(Brexit)の国民投票結果が判明した後に付けた低金利水準に、再び舞い戻っているのである。あの時の金利低下は、日銀がマイナス金利という前代未聞の政策を導入したための市場による過剰反応と解する余地もあったが、今回は、日銀が政策目標とする10年国債利回りの水準について乖離幅を含めて提示する中での、乖離幅を上回る大きなマイナス容認と、超長期ゾーンの金利低下である。日銀が金利を上昇させる方向には動けない以上、現行の枠組みでは、超長期を含む金利低下を容認せざるを得ない状況になっている。

多くの発行体にとっては、極めて低利での資金調達が可能となり、また、金額面での市場の吸収余力も大きい。こんな絶好の債券募集チャンスは珍しいのかもしれない。米中の貿易摩擦激化に端を発し、中国経済の成長鈍化によって大きくグローバル経済全体の伸びが圧迫される環境にある。景気後退は、特に低格付けゾーンの信用悪化を招く可能性が高い。そう考えると、下期の起債環境が果たして現状のような恵まれたものであるかどうかは、見通せない。予想される上期末の起債ラッシュは、今年度最後の調達好機になると言っても、過言ではないのかも知れない。

国内起債市場を斬る 2019年夏季特別号:国債投資の代替手段【後編】

「暗黙の政府保証」とも認識されてれる債券に、地方債というカテゴリーがある。とは言え、財投機関債と同程度の信用力とは、必ずとも言い難い。地方債発行計画も財政投融資計画と同様に、一般会計予算と併せて国会に提出されていることに加えて、2006年の夕張市の財政悪化等を受けて早期警戒処置に基づく対応が定められており、元利金に対する政府保証はないものの、制度的な保障があると考えられている。地方債と財投機関債で異なるもう一つの点が、財投機関債は基本的にすべて格付けを取得して発行されているのに対し、地方債に関しては、格付けを取得せずに発行される銘柄が少なくないことである。夕張市の財税問題は、会計上の不適切な処理による個別事象であったが、そのために向けられた早期是正措置では、財政状態の悪化傾向となった地方公共団体に対しては、都道府県及び総務省が早期に介入することで、信用不安に陥るようなことを起こさせなくしている。つまり、社債で言えば、破綻する手前の信用悪化時点で、強制的に是正を図る措置なのである。結果として、地方債のデフォルトは考え難い。よほど都道府県や日本国政府そのものの財政が悪化しない限り、市町村等の財政破綻を容認することはないのである。

結局のところ、地方債に関しては、格付け取得の有無が大きな差とはなり難いし、むしろ経常収支比率や実質公債費比率等の財政指標をチェックするとともに、当該地域の長期的な経済状況を考慮するしかない。急速に人口が減少し財政の悪化する可能性が高い地方公共団体と、企業本社が多く所在し法人事業税収入等が潤沢な地方公共団体とでは、自ら将来性の差が存在する。中期債ならともかく、超長期債に投資する際には、デフォルトの可能性は極めて低いものの、慎重な分析が必要である。

金融商品取引法上の位置付けでは、国債、地方債は独立したカテゴリーであり、財投機関債の多くは、特別の法律により法人の発行する債券(第2条第1項第3号)に該当する。一部の財投機関債は、株式会社の発行する債券という意味で、同第5号の社債券に該当する可能性もある。社債から投資対象を拡大するというアプローチとは逆に、国債の利回り低下を受けて、国債から徐々に信用リスクを取るという投資家も少なくない。そうした時に、どこまでのリスクを取れるのか、取ることに違和感がないかを考えることは重要であり、ソブリン債だからと言って、闇雲に海外の政府関係機関の発行する債券に飛びつくのはナンセンスであり、更に、それが単純な債券でなく、指数リンク等の複雑な仕組み債であっては、目も当てられない。投資対象が何であるか、それを理解しているかは、投資家にとって常に不可欠な視点であり、それを疎かにするならば、景気低迷等の局面や政府財政の悪化等によって、思わぬ損失を被る可能性もある。投資は自己の判断に基づくべきものであるが、十分な理解がその前提にあることを忘れてはならないだろう。 (完)

国内起債市場を斬る 2019年夏季特別号:国債投資の代替手段【前編】

先進国の国債利回り低下の再来である。国債で十分な利回りを得られない場合には、デュレーションリスクをとって債券の年限を伸ばすか、信用力等のリスクをとるかといった選択肢が考えられる。しかし、欧州のように年限の長期化でも国債利回りがマイナスに留まるようであれば、信用リスク等で国債+αの利回りを狙う必要性が出て来る。

国債に対して上乗せ利回りのある債券商品としては、社債をイメージするのが一般的である。社債の上乗せ利回りは、国債に対する信用力の差に起因するとされるが、それは単なるデフォルトの可能性のみではなく、信用力の安定性や流動性の差といった要素も影響を及ぼす。また、劣後債のように、回収可能性が劣位にある債券の場合には、その分の上乗せが要求される。ところが、社債に関しては、発行量が多くないために、十分な必要量を確保できない可能性も高い。また、国債からいきなり社債投資へと進むことに躊躇する投資家も珍しくない。そのため、国債投資の代替手段としては、社債の前に他の一般債の購入を検討する投資家も多い。

もっとも国債に近い位置付けの債券として、政府保証債を考えることができる。政府保証債は、法律の規定によって、政府関係機関等の発行する債券の元利払いについて政府が保証するものである。通常に見られる発行体は政府関係機関であるが、過去には、地方公共団体や企業の発行する債券に政府保証が付された例がある。当然に、法定されたものであり、その趣旨は政府による無制限の債務保証提供を抑制することにある。政府保証債は、厳密な信用力という観点では、日本国債と同等と言うことができよう。しかし、発行体による元利金の支払が遅延した場合に政府が代わって支払うと言う観点からは、支払の遅延する可能性を含んでいる。また、日本国債とは必ずしも同等に取引されるものではないために、流動性リスクが日本国債より大きいことも否定できない。結果として、政府保証債は日本国債に次ぐ信用力の高さとなるが、完全に日本国債の代替とすることはできない。

次のグループとしては、財投機関債がある。財政投融資計画に基づいて政府関係機関等の発行する債券であるが、法律に基づく元利金の保証はない。しかし、財政投融資計画は毎年度の一般会計予算と併せて国会に提出されているものであり、財投機関の位置付けを考えると、万一の場合に、政府による支援が行われる可能性は高いと考えられる。そのため、「暗黙の政府保証」が付されていると考えられることが多い。しかし、留意しなければならないのは、その財投機関の担う機能が政府にとって不可欠なものであるかどうかであり、特に民間で代替できる機能であれば、政府による発行体への支援可能性は相対的に低いと考える余地もある。つまり、財投機関債の信用力は政府との位置関係によって変わると考えるべきであり、実際に、格付会社の付与している格付けを見ても、日本国債よりも低い評価となっている財投機関もある。注意しなければならないのは、民営化や民間への事業移転を検討されたとしても、状況が変化することがある。つまり、「暗黙の政府保証」の強さは、決して一定でないということだ。例として挙げるなら、東日本大震災やバブル経済崩壊等の経験から危機対応業務を担うことになって、政府との距離が縮まったとされる日本政策投資銀行や、民間への事業移転が見送られた都市再生機構などがある。

なお、政府保証が付されておらず、財投投融資計画にも基づかない政府関係機関の発行する債券が、数例存在している。金融機関等に向けて縁故募集される債券であるが、発行量が多くなく、市場で話題に上ることは多くない。 (つづく)

国内起債市場を斬る 起債評価:7/29~8/2

かつて「梅雨明け十日」即ち「夏本番」とよく言われてきたが、日本の夏の暑さは、いまや猛暑、酷暑を超えている。3月期決算企業の第1四半期末の速報発表がある中で、起債市場の動きは、案件が融けるように少なくなっている。昨今は、まとまった日数の休暇を取得させることが企業の義務とされており、発行体である事業会社でも、引受証券会社でも、更には、債券の購入者である投資家も例外ではない。結果として、7月の終わりから8月前半にかけては、全般的に低調な市場動向となってしまう。

この中で、二つの複数年限の起債が確認された。最初の案件は、三菱地所による7年債100億円・10年債300億円・20年債100億円の計500億円の募集である。丸の内の大家と呼ばれるオフィスビルだけでなく、旧藤和不動産を統合したレジデンスによる個人向け住宅事業、更には、ショッピングセンターやホテル等を営む総合不動産企業である。人口減少の影響も、都心のオフィス事業が好調であれば、大きなものとならないことが期待される。とは、言っても、20年債についてどう考えるべきだろうか。これまでの20年間においては、バブル経済の崩壊によるプレッシャーは強く受けたものの、相対的に三菱地所は安定した状況であった。次の20年も、継続して安定した状況が期待できると考えられるなら、投資対象になり得るだろう。しかし、クーポンは0.59%に過ぎない。国債よりましな利回りであるが、5年や10年経った時に、15年債や10年債を購入するのと、どちらが有利だろうか。

もう一つの複数年限での起債が、光通信の5年債50億円・7年債50億円・15年債400億円の計500億円の募集である。15年債の募集金額は300億円程度と見られていた時期もあったが、増額されて400億円となり、総募集額は500億円で三菱地所と並んでしまっている。15年債のクーポンは1.38%と他ではなかなか得られないような高水準であった。同社の格付けはR&I及びJCRのA-格であり、15年という調達年限を不適切に思わない投資家も少なくないだろう。しかし、過去に財務状況の悪化に伴い、既発債を割安に買い叩いて買入償却した同社について、果たして投資家は過去のことと割り切ることは出来るだろうか。結局のところ、資本市場において発行体と投資家、証券会社の間の信頼関係は長期にわたって築き上げるものであり、それを損なった場合には、容易に回復することは出来ない。果たして光通信の今後の15年間は、どういったことになるのだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/22~7/26

7月の起債の盛り上がりはほぼ終了のようである。前週から本数という意味においては、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が続いており、数が多い。分類としては公募とされており、回号の多くが日本証券業協会の公表する公社債店頭売買参考統計値の対象となっているが、30億円の回号のものなどは、実質的に私募に近い。しかも、16年と21年とかのオッド年限だと、なかなか他の銘柄との比較に馴染まない。もっとも、国債は流動性供給入札もあって、滑らかなイールドカーブが形成されており、国債利回りを意識したプライシングは可能である。

現在の公募普通社債の募集慣行では、募集日に主幹事主権が完売を確認し、均一価格リリースを宣言して、セカンダリー市場に移行するという儀式が行われる。ところが、近年、この宣言が形骸化している可能性が高い。そもそも「完売」というのは、募集金額全部を売り切る事を
意味していない可能性がある。流通市場における取引を考えると、ある程度の適正在庫は存在する必要がある。そのため、募残が存在しても、完売といったことになる。この境目が不明瞭な中で、適正な起債運営を実行しないと、市場参加者からの信頼は損なわれてしまうだろう。

特に、発行予定金額を増額して、結果的に募残が生じるというのは、主幹事証券による起債運営の不味さを象徴する出来事であろう。この週の起債で言えば、当初総計1,200億円程度と言われていたのに、最終的には計2,300億円と倍近くを募集したヤフーが端的な例である。ただし、3年債については、日銀による社債買取りオペ見合いの起債であるため、3年債の増額を無視しても、7年債の700億円という募集金額は常軌を逸しているし、ヤフーの10年債に信用力の面で安定性は期待できない。いまから10年前のヤフーはどういう会社の状態だったか。移り変わりの激しいIT業界であり、しかもヤフーの親会社はソフトバンクグループである。歴史的にも、M&Aによって移り変わりの激しい企業であることを考えると、10年債の与信は難しいはずである。

夏休み前の起債シーズンも、残りは数銘柄といったところである。起債観測に上がっている中では、光通信の15年債というのは、歴史的経緯からも注目される起債になるかもしれない。そもそも、15年という超長期の与信に耐えうる発行体なのだろうか。ソフトバンクグループのようなM&Aによる信用力変動リスクは大きくないが、事業内容に関してのタイムホライズンは意識しておいた方が良いだろう。なお、7月最終週に金融政策を決める中央銀行の会議が日米各々で予定されており、金利市場はやや様子見から大きく動きはじめるかもしれないタイミングにあることも頭の片隅に残しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/15~7/19

欧米先進国の金利低下が進んでいる。特に、注目されている米独のみならず、スペインやイタリアといったユーロ周辺国の金利低下が著しい。財政問題の懸念から金利にプレミアムが乗っていたのは、既に過去の話になりつつあるのかもしれない。日本の国債利回りも10年のマイナス水準が継続し、当面、先高感は発現しそうにない。結果として、引続き、10年債に関しては、絶対水準ベースでのプライシングが主流となっている。国債対比でプライシングされたのは、九州電力くらいなものである。

この週の起債では、ノンバンクとメーカーが目立ったか。一方で、金利水準の低下を受けて、BBB+格の社債募集が相次いでいる。明電舎は5年のグリーンボンドを60億円募集し、古河電工は10年債を100億円、日東紡績は5年債50億円及び10年債50億円の計100億円を募集している。BBB+格の社債は代表的な債券市場インデックスであるNOMURA BPI総合の対象外となるために、購入対象にする投資家は限られる可能性がある。もっとも金利水準が低いために、明電舎の5年債でクーポンは0.26%、日東紡績の5年債は0.24%といった水準であり、10年債を見ても、古河電工と日東紡績が同じ0.44%クーポンとなっている。そもそもBBB+格の社債で10年という年限を長いと感じる投資家も少なくないだろう。それでも、金利水準が低下する中では、年限を伸ばすか、クレジットリスクを取るか、その両方を狙うか、といった取組みが求められる。更には、円建て債券の投資を諦めるという選択肢すらあるのかもしれない。

サントリーホールディングスが募集した劣後債は、60年債であるが、5年経過以降から期限前償還が可能となる。しかも、当初5年のクーポンは、0.39%に固定されているが、期限前償還されなかった場合、その次の5年間は6ヶ月ユーロ円ライボー+47bps、次の15年間は6ヶ月ユーロ円ライボー+72bpsとステップアップし、残りの35年間は6ヶ月ユーロ円ライボー+147bpsと大幅にクーポンが上昇する仕組みとなっている。普通に考えれば、償還しない場合の利回り上昇を考えると、期限前償還を選択すると考えられるが、業況が変化して、スキップすることがあり得るかもしれない。発行体から見ると、期限前償還すれば5年債の調達で、格付け等の評価に際して資本性を認めてもらえる。劣後性プレミアムが乗る分、利回りが高いため、投資家にもメリットがあるとされるが、決して全ステークホルダーにとってwin-winな訳ではない。高い利回りということは、高い利息を支払っているのであるから、株主の利益を損なう可能性があるというのは、当然の理屈なのである。