国内起債市場を斬る 年度初特別号:2021年度の起債を振り返る③

3月末に情報ベンダーのリフィニティブの1部門であるディールウォッチは、2021年度のアワードを発表している。株式と債券の両方にわたる広範囲を対象とするアワードであるが、字幅の関係から、社債に関係する表彰の一部のみを取り出してコメントしておきたい。

まず、Bond Issuer of the Yearは楽天グループが受賞した。11月に募集した3年債から15年債まで6回号に及ぶ総額3,000億円の起債を評価したものである。リリースに記載されたコメントを補足すると、『他の銘柄よりも高い利率で起債して大型調達が必要な発行体にモデルを示した』とある。確かに、10年債以上の年限ではクーポンは1%を超えており、利回りの絶対水準だけを見れば投資家は興味を示すだろう。しかし、ネット上のプラットフォームを提供し、小売から金融、更には通信事業にまで手を伸ばす同社について超長期の見通しを確信するのは難しい。少なくとも巨額の設備投資を行って参入した楽天モバイルの携帯電話事業は、現状で成功しているとは言い難い。多くのTVCM露出と、初年度一定期間の料金無料で顧客数を確保して来たが、auとのローミングを縮小した結果、繋がりにくいという評価が定着しており、今後、無料期間が順次終了することで契約数を維持できるかどうかは微妙と思われる。業態特性を考えると、超長期年限を含めて、高い利回りを払って3,000億円を調達したのは立派と言えるが、前回触れたJR各社の起債と比べると信用力の安定性は乏しいだろう。

次に、Bond of the Yearを受賞したのは、3月頭に募集された関西電力の劣後債であった。募集された時にもコメントしたが、電力会社の劣後債は事業会社の劣後債とは大きく性質が異なる。事業会社の劣後債の回収順位は、無担保融資>無担保社債>劣後債となるが、日本の公募社債のデフォルト時の弁済率は平均すると十%台であり、劣後債にまで残余財産が回ってくる可能性は極めて低い。一方、電力会社の場合には、一般担保付債>無担保融資>劣後債の順位であり、全財産にまで請求権の及ぶ一般担保付社債の存在が圧倒的な壁となる。しかも、金融機関等からの融資残高は膨大に存在し、劣後債に期待できる弁済率は間違いなく0%である。この起債においては、5年後、7年後、10年後に早期償還可能となる60年債とされているが、早期償還されるかどうかは、今後のエネルギー価格や原子力発電の再稼働状況に左右されることが必至である。ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー価格はおろか、原子力発電所問題がクローズアップされかねない時点で、電力会社の劣後債を募集するのはいかがなものだったろうか。募集した発行体にしても、購入した投資家にしても、狂気すら感じさせるものである。

Debut Debt Deal of the Yearは6月に募集されたGMOインターネットの2本立てが受賞した。リリースのコメントを引用すると、『国内 SB 市場の発行体では伝統的な大企業が主流となる中で、ネット企業の草分け的な存在が市場に登場。明確な比較銘柄が存在しないことから独自の水準を打ち出した起債運営は、後続となるネット企業の手本を示した。』とある。確かに、此れほど胡散臭さを拭えないネット企業の社債には、投資家も積極的にはなれないだろう。R&IのBBB+格を取得しており、日本銀行の社債買入れ対象候補となるからこそ起債が可能だったのではないか。そういう意味では、Debut Dealを支援したのは日本銀行であり、表彰されるべきは日本銀行であろう。

Innovative Debt Deal of the Yearを受賞したのは、同じく6月に募集されたANAホールディグスの第42回サステナビリティリンクボンドであった。『環境目標が未達の場合、寄付をするという世界初のスキームを導入』し、過去のサステナビリティボンドが採用したようなクーポンのステップアップを排することで仕組み債としての性質を打ち消したことが評価されている。しかし、何にせよ、フライトシェイムと呼ばれるほどジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素を排出する空運会社は、ESGの嵐が吹き荒れる欧州では毛嫌いされている。トランジションボンドのように直接的な自社グループの努力を評価するのならともかく、サステナビリティ・パフォーナンス・ターゲットとして設定されたのは、「①DJSI WorldおよびDJSI Asia Pacificの構成銘柄に選定、②FTSE4Good Indexの構成銘柄に選定、③MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄に選定、④CDP 「A-」以上の評価取得」のうち3項目以上の達成という外部評価機関による間接的な評価のみであって、他人任せとしか見えない。結果として、投資家にも理解され難い基準設定になっているのではないか。

以上、アワード取得の一部を抽出して紹介したが、発行体の観点と、投資家の観点、また、市場育成の観点では、評価される内容は異なる。少なくとも、これらの取組みが市場の拡大や発展に繋がってくれるものである事を祈りたい。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:2021年度の起債を振り返る②

近年の起債市場で特徴的なものの一つとして、複数本立ての起債で中期から超長期まで幅広い年限で巨額の募集を行うものを挙げることが出来るだろう。過去から見ても、3年債・5年債・7年債といった組み合わせや、5年債・10年債といった複数本立ての起債は決して珍しくない。また、公益セクターを中心に10年債・20年債といった組み合わせも良く見られていた。しかし、近年の特徴的な複数本立ての起債は、3年債もしくは5年債から超長期債までの複数本立ての募集で、総計で1,000億円を越えるような巨額のものである。

中期の年限であれば、いわゆる投資適格にあたる格付けを取得している発行体ならば、スプレッドさえ適切な水準を付すことで、起債によって資金調達することは不可能でない。しかし、超長期年限での募集には、ややハードルが高い。まだ20年債であれば、総合商社や小売業、通信関連などの発行体による起債も見られるが、30年債や40年債、ましてや50年債ともなると、投資家に受け入れられる発行体は、電力・ガスや鉄道関連の安定的な公益セクターのみとなる。かつては安定的な超長期債の発行体と目された電力各社も、東日本大震災と福島第一原発事故に際しての奉加帳方式による負担の大きさによって、超長期年限での債券募集が必ずしも容易ではなくなってしまっている。一般担保付き債券というメリットは残っているものの、政府によって将来どのような損失を負担させられるか不透明であり、原発の再稼働が容易でないことや、化石エネルギー価格の高騰もあって、巨額の資金調達は難しくなっている。

こうした状況において、中期から超長期年限に及ぶ巨額の社債発行が見られる発行体は、主として鉄道セクターということになる。バブル経済崩壊期に百貨店や不動産関連等の本業以外で大きな損失を被った既存の私鉄は、本業の鉄道事業を中心にビジネスを再整理して、近年では、再び駅前の再開発などに積極的に取り組んでいる。新規の路線拡大はほとんど見られず、人口減少や新型コロナによるテレワークの拡大を踏まえて運行本数の見直しも行われており、贅肉を絞った経営へと進みつつある。中でも、民営化の過程にあってバブル崩壊のダメージを大きく受けることのなかったJRの本州各社は、高い信用力を基に事業展開を拡大しつつあり、不採算路線を多く抱えるJR北海道・JR九州・JR四国とは大きく状況が異なる。また、新幹線専業に近いと目されリニアの建設負担を看過できないJR東海も異質であって、ローカル路線を抱えてはいるものの、JR東日本とJR西日本の両社が業容の面からも、安定性に対する期待が高い。

しかし、東日本と西日本の格差は決して小さくなく、首都圏の大動脈を抱え、東北・山形・秋田・上越・北陸(一部)と多くの新幹線路線を有するJR東日本が、起債の面でも圧倒している。2021年度のJR東日本による起債を振り返ると、4月に3年債450億円・5年債300億円・10年債200億円・20年債300億円・30年債200億円・40年債200億円・50年債350億円と、計2,000億円を募集している。7月には、10年債100億円・20年債150億円・30年債250億円・40年債250億円・50年債250億円と、計1,000億円を募集し、12月には3年債400億円・30年債100億円・40年債100億円・50年債200億円と、計800億円を募集しており、だんだん尻すぼみになる傾向ではあったが、合計すると年限も金額も圧倒的である。この他に、サステナビリティボンドの募集も行っている。

一方、JR西日本は、JR東日本を追うように、4月に3年債500億円・5年債300億円・10年債100億円・20年債150億円・30年債150億円・40年債200億円・50年債200億円と、計1,600億円の社債を募集したのみである。また、東京ガスも負けじと7月に5年債100億円・10年債150億円・20年債150億円・30年債100億円の計500億円を募集しているが、年限の幅も金額も見劣りしてしまっている。

結局、JR東日本のみが中期から超長期に及ぶ巨額の起債を複数回実現できており、自社債のみでイールドカーブを構築することを可能にしている。これも企業の安定性がなせるものと考えられるが、果たして30年先や50年先といった未来に、鉄道運送事業がどうなっているか必ずしも盤石ではないだろう。目先は、主に電気で動くということで環境に優しいと評価されているが、動力源の電気はほとんどが化石エネルギーの燃焼によって生み出されたものであるし、地方路線のディーゼル機関はハイブリッド化を進めているものの、化石エネルギーの燃焼に依存している。人口が減少して行く中で、地方の不採算路線を切り捨てて行けるのか。少し先の未来を考えると、安易に利回り獲得のためだけで超長期債に飛びつくと痛い目に会ってしまいかねないのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:2021年度の起債を振り返る①

新年に入ってからの原油価格上昇が象徴するインフレ懸念の高まりは、サプライチェーンの制約や新型コロナによる経済活動自粛からの回復といった、コストプッシュとディマンドプルの双方のインフレ要素を孕んでいたが、その後のウクライナ戦争の勃発によって、インフレ懸念というよりもスタグフレーションの怖れが強まる展開となった。インフレによる金利上昇懸念は欧米で強く意識されるものの、日本においては、物価の上昇は見られているものの、日銀の掲げる2%の物価目標には達しそうにもない。先行きの不透明感が高まる中、発行体と投資家との双方が様子見を決め込んだことから、例年になく2月後半からの起債市場は寂しい展開となった。

こうした状況ではあるものの、2021年度の起債市場前半を振り返ると、キーワードとしては、引続きであるが、SDGs債券と劣後債とがひと際目立つ展開であった。特に後者に関しては、金融機関や金融持株会社、保険会社による劣後債の募集が少なからず見られたものの、大型の起債の多くは事業会社による期限前償還条項が付された超長期の劣後債であった。債券と株式の中間的な特性を有し格付会社がある程度の資本性を認めることからハイブリッド証券といった呼び方がされるものの、本質は間違いなく劣後債である。発行会社の破綻時の弁済順序が一般の先取特権や、融資及び無担保社債等の一般債権の後順位になるものであり、日本の公募普通社債の破綻後回収率が概ね10%程度であることを考えると、劣後事由の発生した場合には、投資家はこれらの劣後債の弁済率はおそらくゼロになるものと覚悟しておくべきであろう。

こうしたハイブリッド証券と呼ばれる劣後債から一線を画して、期限前償還条項のない通常の劣後債を大量に募集した発行体がソフトバンクグループである。2021年度には、個人投資家向けに9月に4,500億円と2月に5,500億円の計1兆円を募集している。その他に、機関投資家向けの劣後債や米ドル建ての劣後債なども募集しており、年度の調達額では、最大の民間事業会社と考えて良いだろう。基本的には、過去に募集した劣後債の償還対応であるものの、個人投資家向けに1兆円もの社債を募集する発行体は他に見られない。

ソフトバンクグループは、通信・インターネット関連事業を営む複数の子会社のみならず、証券やプロ野球球団やサッカーチーム等様々な事業子会社の持株会社であるが、更には、複数の投資ファンドも保有している。歴史的に見ても、傘下の事業会社の買収統合次第で資金状況や信用力は、大きく振れる特徴がある。今年度に関しても、傘下のARMをNVIDIAに売却して統合させられるかが注目されたが、結局は独占禁止法や安全保障の観点から各国の承諾を得られず、売却は頓挫した。キャッシュフロー面ではこれくらいで必ずしも大きな影響はないが、今後の事業展開においても、ARMの売却が容易でないことが足枷になる可能性が懸念される。

そもそもソフトバンクグループは巨額の負債を抱えており、みずほフィナンシャルグループが主取引先ということもあって、双方がToo Big To Failとなっている状況にある。格付けも優先債務では、JCRがA-格である(つまり、期限付劣後債はBBB+格となる)ものの、S&PではBB+格と投機的水準になっている。海外の投資家から見ればハイイールド債発行体(投資適格ではない)であり、国内の投資家から見れば投資適格を維持しているという評価になる。格付けの適否は将来の転帰を十分に予見できるものではないが、M&Aによる財務構造の不安定性さを考えると、決して安定的な投資対象にはなり得ないだろう。

同社の劣後債は、投資家に高いクーポンを提供するとともに、引受証券会社には高い引受手数料を提供している。発行体もCMやスマホを通じて”ソフトバンク”という個人から身近なネームで安定的な資金調達が出来ていることから、一見Win-Win-Winの関係にあるように見えるが、高コストでの資金調達は株主の利益を害している可能性がある。ソフトバンクグループの株主は、同社の資金調達についてよくよく吟味すべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/7~3/11

2021年度の起債市場は、あっけない形で幕を閉じることになったのかもしれない。例年なら、3月中旬に向けて起債ラッシュのような展開となることは珍しくないのだが、年明けから一気に強まった物価上昇懸念と各国中銀の金融緩和見直しによって金利上昇の懸念が高まり、日本の長期金利ですら影響を受けたのである。米国の長期金利は上昇し、日本と同様にマイナス金利へ沈んでいたドイツの10年国債利回りも、1月末にはプラス圏にまで上昇した。日本においては、日銀が強力なイールドカーブコントロールを実施しており、物価上昇の目標を2%と置いている以上、現黒田総裁の在任中には見直される可能性が低いものの、10年からより長い年限では、顕著な金利上昇が見られた。

起債行動を考えると、金利上昇が一過性の問題であるならば、発行体はしばらくやり過ごすだろう。中長期的な金利上昇の趨勢ならば、金利が上がる前に駆け込み起債を行うだろう。一方の投資家側は、一過性の金利上昇ならタイミングをとらえて債券購入に積極的になるが、中期的な金利上昇のトレンドに入ったと見るならば、投資タイミングを先送りするだろう。金利上昇によって時価評価から債券の含み損が発生することを快適に思う投資家はいない。

通常の市場展開ならば、金利の見通しに関連して発行体と投資家の間での駆け引きが見られる中、期末に向けたタイミングでの起債が増えるはずだが、ロシアによるウクライナ戦争の発生がすべてを変えてしまった。短期的な政情不安から来る経済の先行き不透明感ではなく、金融や交易等広範な範囲に及ぶ長期の制裁によって、ロシア経済は当然としても、世界経済の受ける影響は決して小さくない。小麦だけを見ても、ロシアやウクライナは上位の生産国である。ロシアは、また、主要産油国の一つでもある。小麦や原油と一旦重要な産品が中期的に生産も輸出も困難になるのでは、様々な影響が世界経済に及ぶことは必至である。ロシア国債のデフォルトは確実視されており、クレジット市場に対する懸念も、世界的な株価の低迷と同様に高まっている。突然、2021年度末の起債市場は、機能不全に陥ったのであった。

多くの起債が先送りされる中では、公共セクターやSDGs関連債くらいしか社債等の募集が行われないのも、当然であろう。既に起債観測の上がっていた電力関連や個人向け社債の募集は見送られている。この週に実際に募集されたのは、地方公共団体金融機構の定例募集である10年債350億円の他、中日本高速道路の5年債700億円があり、更に、日本貨物鉄道(JR貨物)が初めての公募普通社債として10年債及び20年債各100億円を募集したくらいである。JR貨物の公募社債は、グリーンボンドの認定を得ており、格付けはR&IのAA-格及びJCRのAA格であった。グリーンボンドの資金使途としては、”東京貨物ターミナル駅構内に建設中のマルチテナント型物流施設「東京レールゲートEAST」の設備資金として充当する”とされている。”環境特性と労働生産性に優れた貨物鉄道輸送の利用”を謳っているが、動力源の一つである電気は化石エネルギーを燃焼して得ていないか。ディーゼル機関車の6割減を達成したと開示しているが、2021年3月末ではディーゼル機関車は100両以上残り、ハイブリッド機関車は40両と数少ない。ハイブリッド機関車であっても、完全に温室効果ガスを排出しないものではない。トランジションボンドを選択した方が良かったのではなかろうか。

このように、やや先行きの展開に疑念の残る形で2021年度の起債市場は幕を閉じることとになりそうだが、果たして新年度をどのように迎えることになるだろうか。振り返れば、3月11日に東日本大震災の発生した2010年度末も、翌年度をどのように迎えられるか心配を拭えない気分であった。明るい2022年度の到来を期待したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/28~3/4

世界的な供給制約と需要回復から生じた物価上昇と、それを受けた各国中央銀行による金融緩和政策の見直しで、先進各国の金利は年が明けてから上昇傾向となった。おそらく何もなければ、このままFRBが実施するであろう3月の利上げを経て、多くの国々での金利上昇が追認される形になっていたはずである。ところが、ロシアによるウクライナ戦争の勃発によって、世界経済の行方は暗転している。少なくとも、欧米の主導するロシア経済封じ込めによって、それでなくとも新型コロナ感染症によって貿易や人流に障害の出ていた状況は、当面、すぐに回復するという望みを絶たれた。例を挙げるならば、日本から欧州へと飛行機で移動する際に、基本的にロシア上空を通過することが敬遠される(厳密には日本の航空機が締め出されているわけではないが、情勢判断として避ける)ため、北極経由でも南回りでも、飛行の所要時間が増えコストが増大する。

物流以外にも、主要産油国の一角を占めるロシアの原油が事実上禁輸となり、ロシア及びウクライナはともに小麦の生産ランキングでトップ10に入る国々である。両国の小麦が世界的な物流から落ち自由に動かなくなることは、食料・飼料等様々な面での影響は大きい。どのように考えても、経済回復によるな明るい物価上昇から金利上昇へという当初のシナリオが崩壊し、悪い意味での物価上昇から経済成長の抑制といったスタグフレーションの可能性が懸念されるような世界情勢である。確かに金利は上がるかもしれない。しかし、景気回復を伴わない金利上昇は、信用力の低い企業や新興国の破綻を伴いながらの厳しい道である。既に、SWIFTからの排除によって、ロシア国債のデフォルトが必至と見られており、ロシア企業との関係の深いヨーロッパを中心に、金融機関や取引企業の信用懸念が高まる可能性は否定できない。

日本の起債市場は3月中旬までが年度内の最終募集タイミングであるが、ウクライナ戦争の勃発によって、市場では完全に様子見が定着している。日経平均株価が一日に数百円単位で上下動しており、金利も高めの水準で推移したままにある。日本においても、ロシアに対するエクスポージャーを抱える企業は、総合商社をはじめ決して少なくない。戦況が膠着するならば、このまま年度末を迎えるような展開も考えておかなければならない。その中では、発行体は起債タイミングの先送りを検討し、投資家は債券購入を急がないという状況になっていしまうのは必然であろう。

3月に入って募集された債券は、引続き、SDGs債が目立つ。JR東海の35年債、鹿島建設の5年債、東京電力リニューアブルパワーの5年債といったものが募集されており、鹿島建設のみサステナビリティボンドで、残りの二つはグリーンボンドである。また、関西電力が60年物劣後債を早期償還タイミングを変え、計3本2,200億円ほど募集している。一般担保付きの電力債を発行している電力会社で、劣後債の弁済に回るような残余財産があるとは到底思えないが、逆に言えば、電力会社を法的に破綻処理して、産業のみならず家計の機能に影響を与えることも難しい。電力会社の劣後債に対する暗黙の政府保証はほぼ存在しないと見られるが、福島第一原発の事故処理を見ても、単純な倒産を選択し難いと考えられる。

今回の劣後債も早期償還されるならば、最長でも10年以内の期間において相対的に高い利回りを得られるのであるが、果たして電力会社の将来と環境の変化をどう見るか。電気自動車や水素エネルギーはクリーンだと持てはやされているが、エネルギー源となる電気や水素の生成に際しての副産物や温室効果ガスの排出を考慮せずに、単に電気でモーターを回している状況や、水素の燃焼によって水しか発生しないといった化学反応だけを見てはならない。日本の電気の半分以上は、今でも火力発電で賄われているし、水素の生成は水の電気分解によるなら火力発電の産物でしかないし、炭化水素の分解によって生成されるなら、炭酸ガス等の副産物が生じているのである。目の前の現象だけでなく、原材料にまで想いを至らせるべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/21~2/25

20年後に令和時代の歴史を見た時に、ロシアによるウクライナ侵攻が世界史の一つのターニングポイントになるのかもしれない。かつての米ソ二大超大国による冷戦構造は、ソビエト連邦の崩壊で消失したが、依然としてロシアは核兵器保有国であり国連安保理の常任理事国である。そもそも国際連合というのは、第二次世界大戦の敗戦国である日本が区別するために作り出した訳語であり、同じUnited Nationsは戦時中だと連合国と訳される存在である。様々な種類の制裁によってロシアの経済的な立場が変化するのか、長期間にわたるプーチン政権が崩壊するのか。ロシア産の原油等エネルギー資源の対外輸出が長期に停止された場合、能天気なまでに気候変動を怖れ、温室効果ガスの排出抑制を進めて来た先進国経済が、変質する可能性も否定できない。北半球が春に向かう今は良い。しかし、十分なエネルギーを確保せずに、次の冬を迎えられるのだろうか。今から来冬の心配をせざるを得ないのは、日本だけではないようだ。

経済の変質は金利水準や景気そのものにも大きな影響があることだろう。クレジット市場への影響に対象を絞っても、いわゆるSDGs債を殊更に評価してよいのかという疑念が生じるし、エネルギー価格の高騰によって、運輸だけでなく、電力やガス、自動車など幅広い産業が大きな影響を受けることも考えられる。決してウクライナ問題は、起債市場にとって対岸の火事ではない。

この週の起債の中でも、トランジションボンドを募集した日本航空、同じくトランジションボンドを募集した東京ガス、普通社債を募集した東邦ガスは、ウクライナ情勢とその展開による影響を大きく受ける発行体である。既に北京オリンピック期間中からロシア軍による侵攻懸念が報道され、16日にも可能性がというXデイ報道があった中では、24日の実際の侵攻開始を待つまでもなく、クレジットイベントへの懸念を意識すべきである。実際には、軍事力を行使した侵攻には踏み切らないのではといった期待的観測もあったが、投資家が意識すべきなのは可能性である。18日の金曜日に電力会社がこぞって起債したのも、発行体側から見れば状況変化の前にという当然のアクションであり、ウクライナ情勢の変化を考慮せず、安易な購入判断を行った投資家こそが責められるべきだろう。

ロシアに対する経済制裁が本格的に長期化するならば、エネルギー価格の上昇は必至であり、その影響を受けて様々な物価の上昇は確実視される。それだけでなく、円安となる可能性が高まることもあって、日銀がイールドカーブコントロールの対象外とする超長期金利の上昇が強く懸念される(景気の頭が大きく抑えられることで、金利が低下するというパスも考えられるが、それは少し長めの時間軸であろう)。業種によっては、超長期の資金調達意図があるならば急ぐべきであるし、特に、起債市場の実動期間が3月中旬までの2週間ほどしか残っていない中では、ウクライナ情勢の変化を待つべきではない。年度末に向けて、トランジションボンドやグリーンボンドといったSDGs債の起債観測が数多く見られているが、逆の立場にある投資家は慎重に取り組んだ方が良いだろう。年度末を越えた時の起債環境がどのように変化しているか、およそ40日後の世界情勢を予測することは容易ではない。少なくとも、現在が平時であるという認識、他人事という意識は、改めておいた方が良いのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/14~2/18

2月中旬になっても起債市場の動きは、緩や(ゆるや)かな空気に包まれている。比較してみると起債の動きが早いのは、社債等の募集に慣れている企業や公共セクターというのがお定(さだ)まりだが、この週に関してもその認識は間違っていない。ほとんどの社債等の募集が公共セクターによるものであったと言い切っても、誤りではない。純粋な財投機関債の募集は、大学改革支援・学位授与機構の5年債50億円と日本高速道路保有・債務返済機構の4年債200億円及び20年債150億円のみであるが、それ以外が電力や鉄道関連等ばかりである。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債も2本見られるが、実質を考慮して地方債に含めて考えている投資家は少なくない。

電力債の募集はいずれも複数年限にわたる募集となった。しかも、金曜日の募集が全てである。九州電力は3年債100億円及び10年債230億円を選択したが、中部電力の5年債100億円及び20年債200億円の2本立ては極めてオーソドックスな年限設定である。唯一三つの年限で電力債を募集したのが、中国電力の5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円である。いずれの電力債とも、募集年限は極めて常識的なものであり、サプライズ感はない。

海外の金利上昇を受け超長期年限の金利が著しい上昇を示す中で、愚直なまでに超長期債を募集したのが東京地下鉄である。複数の超長期年限を募集するのが、最近の同社のパターンであるが、今回選択したのは、30年債・40年債・50年債を100億円ずつであった。国債対比+13bpsとされる30年債ですら、1.066%クーポンと1%を越える利回りとなったが、40年債で1.244%クーポン、50年債で1.416%クーポンであった。いずれも高水準になってはいるが、2%には届いていない。

社債等の購入者が利回り獲得を目指すには、年限の長期化かクレジットリスクの悪化に向かうかしかないのだが、年限の長期化が可能となる発行体は信用力の安定性が必要であり、なかなか二つの方向を両立することは出来ない。今でも政府と東京都が大株主である東京地下鉄に関しては、封印していた新規路線の延伸工事再開や、赤字が継続している都営地下鉄戸の統合問題等民間企業であれば信用懸念に直結するような動きも、直接の影響を大きくは受けない。そのため、30年以上の超長期債で3本の起債が可能になる。

金利の上昇傾向が継続するならば、日銀によるイールドカーブコントロールの対象外となっている超長期年限の利回りは、大きな影響を受けるものと考えられる。当面、超長期年限の社債等募集は、発行体の駆け込み的な動きと、年度末をにらんだ投資家の購入意欲との綱引きの上で、微妙な状況になっているのを感じる。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/7~2/11

金曜日が建国記念の日の祝日で営業日が少ないことに加え、12月末決算の発表シーズンということもあって、民間企業による社債の募集は少ない。くわえて、世界中がロシア軍のクロアチア侵攻の危機の最中に冬季五輪ROC代表のワリエラドーピング問題が彷彿。市場が乱高下する中で、先行き不安心理を増幅させている。

中央日本土地建物グループが、5年債140億円と10年債40億円を募集しているが、両年限ともみずほ証券による単独引受であって、シ団を組んでの募集体制は構築されていない。2月中旬以降に年度末をにらんで起債が増えることは確実視できるのだが、先行きの金利上昇に対する懸念は日銀による指値オペの取組みもあって、沈静化しつつあるようにも見える。もっとも、影響を受けるのは、10年付近から超長期に渡る年限であり、概ね7年以下の年限であれば、日銀によるイールドカーブコントロールの効果はまだ有効であろう。

こういった環境では、自然と公共セクターによる債券の募集が目についてしまう。地方公共団体金融機構は、毎月の10年債を300億円募集している。今年度の10年債では7月に募集した第146回債が0.09%クーポンと低い水準になったが、今月の第153回債は0.274%クーポンと、倍率だけで見ると三倍を上回る高さになっている。こういった微小な数値に関しては倍率を見ることが適切でなく、差を取るとわずかに18.4bpsである。第146回債のクーポンが0.09%と極めて低いのが、異常なためと考えるべきであろう。ただし、わずかながらも金利水準が上昇していることは事実であり、今後の推移を注視しておくべきである。

一方、高速道路会社の中で、首都高速道路と阪神高速道路とが社債を募集している。首都高速道路は、東日本高速道路等と同じように、R&IのAA+格だけでなく、ムーディーズのA1格に加えてJCRのAAA格を取得しているが、阪神高速道路はR&IのAA+格しか格付けを取得していない。複数格付けに対する自己資本比率規制の掛け目によるものであるが、日本国債と同水準の符号という意味では、阪神高速道路のように取得する格付けを絞るのも、一つの判断だろう。なお、阪神高速道路の社債は、高速道路の建設・整備という使途でソーシャルボンドの認定を得ているが、首都高速道路の社債はSDGs債の認定を得ていない通常の社債である。

また、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、5年債80億円および10年債100億円を、サステナビリティボンドとして募集している。同機構もかつては、複数の債券を同時に募集する際に、特定の年限だけソーシャルボンドの認定を得たこともあったが、近年は募集する債券を一括してサステナビリティボンドとして認証されている。同機構の業務内容を考えると、現状のような取組みが適切であると思われる。

昨年の日本郵船による募集以降、トランジションボンドの募集は止まっていたが、複数の発行体によるトランジションボンドの起債観測が上がっている。企業のグリーン化・気候変動に向けた努力を評価し促すためにも、こういった債券の募集が続くのは好ましいだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/31~2/4

引続き起債市場の動きは鈍い。SDGs債の募集が多いのはここ数年では珍しくないが、この週はグリーンボンドでなくソーシャルボンドの募集が相次いだというのは珍しいだろう。債券の特性を考えると、ソーシャルボンドの発行体として相応しいのが、公共セクターであることは間違いない。

2月に入って最初に社債等を募集したのは、成田国際空港であった。5年債100億円・10年債100億円・19年債60億円の3本立てを募集している。新型コロナ感染症下で国際的な人流は減少しているものの、国策会社であって破綻することは考え難い。特に、羽田空港が再度国際化して来た中で、特にLCC運航と国際貨物に差別化し注力して来た成田国際空港の姿勢は新型コロナ下でも、独自の意味合いを持っている。ソーシャルボンドとしての認証を得ていなくても、十分にソーシャルな発行体である。また、金曜日に中部国際空港は10年債100億円を募集しており、こちらはソーシャルボンドとしての認証を得ている。R&Iの格付けが1ノッチ劣ることで、クーポンは成田国際空港より0.2%高く設定されている。必ずしも両社の優劣を付けられるものではないが、格付符号の差が物語るものはある。

都市再生機構は40年債100億円をソーシャルボンドとして募集した。米国や欧州での利上げに向けた動きを受けて日本の長期金利も上昇しており、この40年債のクーポンは0.949%と1%近い水準となった。今後に金利水準がもっと高まると考えるのならば、デュレーションの長い超長期債を購入するのを躊躇する投資家もいるだろう。しかし、こういった絶対水準の高い利回りの債券はそう多くない。ソフトバンクグループの社債や事業会社の劣後債のように、高いリスクを負った社債ならば高い利回りを得られるかもしれないが、信用リスク等による元本毀損の可能性を考えると、超長期の公的発行体による債券というのは一部の機関投資家にとって絶好の投資対象となる。

もう一つソーシャルボンドを募集したのが西日本高速道路で、5年債800億円を募集している。長期金利が上昇しても、日銀のコントロールはまだ短い年限に作用している。R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格といずれも日本国債と同水準の格付符号を得ている発行体の5年債は、0.1%クーポンに留まる。それでも2か月前に募集した5年債のクーポンは0.04%であったから、倍以上の水準となっているのであるが。

このようにソーシャルボンドは多発されている。しかし、具体的な個別債券の資金使途を見ると、新規のプロジェクトに明確に紐付けられているのならまだ納得できるが、既存の借入金等の借換えといった説明が行われているものも少なからず見られる。果たして、資金使途の開示やトレースは適切に行われるのだろうか。本来的にこれら公共セクターに関しては、文句なくソーシャル性を有しているのだから、厳密な資金区分を行うことなく発行される全てをソーシャルボンドとする等、民間企業の社債と異なる扱いをすべきではなかろうか。これでは、認定機関が漁夫の利を得るだけのように思える。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/24~1/28

起債市場の動きは鈍い。ちょうど12月決算の発表シーズンを迎え、例年のように動きが乏しくなっている。単純に本数だけを見ると、前週に続いて地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が7本もあったために、数が多く見える。しかし、実態としては、この地方公共団体金融機構による起債は、総額でも500億円を超える程度であり、決して大型の資金調達とは数えられない。地方公共団体金融機構は、別途、MTNプログラムに基づく外債(ただしグリーンボンド)で750百万米ドルを発行しているので、資金調達額としては小さくない状況である。

民間企業による社債の募集は数少ない。まず、イオンフィナンシャルサービスが4.5年債を200億円募集している。イオングループの金融企業であり、傘下にはクレジットカード、少額短期保険、保険代理店、リース、生命保険会社、銀行等を抱える総合金融サービス会社である。小売り業の雄の一つであるイオンはスーパー、ショッピングモール、ホームセンター、百貨店、映画館、コンビニエンスストア、ドラッグストア、スポーツクラブ、持ち帰り弁当等多様なリテール向け販売サービスを展開しており、フィナンシャルサービスはこれらのサービスに隣接する形も含めた金融サービスを提供している。スーパーやコンビニにATMが設置されているのが典型例であるが、そのほかにもネット等を使ってのサービス展開も行っている。新型コロナ感染症によって小売業は大きくダメージを受けているとされるが、全国に広がるネットワークを誇り、多様な小売り関連および金融サービスを提供していることを考えると、中期年限の起債に対する懸念はあまり強くないだろう。前週に募集されたJA三井リースの5年債は、R&IのA-格およびJCRのA格と同じ符号を得ているが、イオンフィナンシャルサービスの0.34%クーポンを下回る0.22%クーポンであった。イオンとの事業の関連性の高さを考えると、投資妙味があるように見えるだろう。

もう一つ募集された民間企業の社債は、朝日印刷による5年債である。届出書方式による初めての公募普通社債の募集であり、発行総額は35億円と小さい。取得した格付けは、BBB+(JCR)格であるが、グリーンボンドとしての認証を得ている。しかし、グリーンボンドとされている内容を見ると、同社の京都クリエイティブパーク西棟建設資金のリファナイアンスである。同施設には太陽光パネルが設置されている。2020年4月に竣工した物件のリファイナンスがグリーンファイナンスとされるのはやや奇異な感もあるが、認定したJCRの設定したグリーンボンドフレームワークにおいて36か月以内に実施した適格プロジェクトへのリファイナンスを認めるとしている。特にリファイナンスに関しては、お金に色がない以上認定には慎重になるべきであり、フレームワークそのものが適正かどうか疑問の余地があろう。また、JCRは部門間にウォールが設けられていると主張しているものの、信用格付けとグリーンボンドの認証を同一法人が行っていることには、疑念を持たれても仕方がないのではなかろうか。