国内起債市場を斬る 起債評価:2/19~2/23

2月初めに生じた株式・為替の変動については、単なるボラティリティ低下の反動による乱高下という見方が強い。そもそも各国中央銀行による資産買入れによって、市場機能が低下しており、特に日本においては、未だに中央銀行が国債・社債・株式ETF・J-REITと買入れを継続している。米国の景気回復を裏付けにした金融緩和の縮小が、長期金利の上昇を招き、結果として、他の資産の変動という形で影響が波及したと考えられる。1987年10月のブラックマンデーも、発端はドイツの金融市場と考えられており、世界的な株価の下落は、すぐに回復した。今回も2週間経たないうちに、ほぼ市場は落ち着きを取り戻したように見える。下がり過ぎたボラティリティの自律的反発と視ることで、現時点は市場が落ち着いたようである。日本はこれから決算期を迎える時期であり、株価や金融市場は大きく動かないと期待されるが、その分、新年度入りしてからの変動幅の大きさには留意しておきたい。

年度内で起債市場で募集が出来るのは、実質的には、3月10日過ぎまでである。12日の週の後半までと考えるのが妥当だろう。昨年の最終日は15日の水曜日であったし、今年も最大で16日の金曜日までであろう。もしかしたら、もう少し早いかもしれない。投資家の購入ニーズは根強くあるものの、金利もスプレッドも潰れている状況では、一般債に対する意欲は必ずしも強くない。特に、年度内の資金消化を意識することはなく、むしろ新年度入り以降の期間損益を考えるのではないか。利回りやスプレッドが高い場合には旧年度中でも購入するが、慌てないというのが基本的なスタンスだろう。

この週の起債に対する反応を見ると、投資家の購入意欲の低下が顕著に感じられる。スプレッドの乗った銘柄や、年限が長く利回りが1%を越える銘柄、さらには、日銀オペでの買入れが確実な3年債などは、引続き問題なく消化されるのだが、中途半端な年限でスプレッドにも妙味のない場合には、投資家の需要がさっと退いてしまうのである。

この週の起債の中では、起債頻度の少ない三菱ケミカルホールディングスの10年債・20年債やアコムの5年債は、マーケティング開始後に増額する展開となったが、それ以外はなかなか苦戦した模様である。特に、23日の金曜日に募集された九州電力の5年債及び20年債、東急不動産ホールディングスの10年債及び20年債、JFEホールディングスの5年債は、いずれも難航したようである。東急不動産ホールディングスの20年債は0.98%クーポンであり、1%の乗せていればもっと異なる展開となったのではなかろうか。果たしてこうした投資家の選別が年度内続くのか。3月中旬までの募集期間に動く案件はあまり多くなさそうであり、発行体と投資家の駆け引きが続くようである。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/12~2/16

節分以降、前週からはじまった市場の変動が、多少なりとも起債市場にも影響を与えている。もっとも前年のこの時期も、民間企業の12月決算発表が終わったことなどから、公的セクターから民間企業へと起債の中心がシフトするタイミングである。2017年は、2月16日の木曜から民間セクターの起債が再開となり、翌金曜にかけて多くの募集が行われている。しかし、今年は、市場の不安定さもあって、16日の金曜日一発勝負である。

しかも、条件決定した顔触れを見ると、個人投資家向けの社債が四国電力とイオンモール、公共セクターが中日本高速道路とあって、純然たる機関投資家向けの社債となると、東京建物の3本立て、三協立山の初の起債、それにコンコルディアフィナンシャルグループの劣後債といったところになる。前年の木曜と金曜は、電源開発、ユニーファミリーマートホールディングス、三井不動産、セントラル硝子、リコーリース、協和エクシオ、伊藤園、首都高速道路、JR西日本、名古屋鉄道、三菱UFJホールディングスの個人投資家向け劣後債と多彩な顔触れであり、今年はやや物足りないといった感じが拭えない。

両年を通じるキーワードは、個人投資家向け、不動産、高速道路といったところだろうか。その中から不動産に注目してみると、2017年の2月に募集された三井不動産債は、日銀オペを意識した3年債250億円と20年債100億円の組み合わせであった。一方、今年の東京建物は、5年債100億円と10年債100億円に20年債150億円の三本立てである。20年債は当初50億円程度といわれていたのに、投資家のニーズが強く150億円まで増額されている。この20年債と5年債は良好な売行きであったようだが、10年債は苦戦したらしい。このネームで、10年の0.48%クーポン、国債対比+42bpsのスプレッドは必ずしも投資家の眼鏡には適わなかったようである。20年債は1.08%クーポンであり、クーポンが1%を越えたところが、良好な売行きを支えたものと考えられる。なお、同社の格付けは。JCRのA-格であり、三井不動産のAA格から見ると随分劣る。昨年の三井不動産の20年債は、0.929%で、1%に届かなかったのである。

売行きがもっとも良かったのは、コンコルディアフィナンシャルグループ(横浜銀行と東日本銀行の経営統合により誕生したフィナンシャルグループ)の期限付劣後債かもしれない。10年債であるが、5年経過時点での期限前償還が可能であり、クーポンが0.4%の固定から、6ヶ月円Libor+28bpsに変化する。通常は、期限前償還を前提とした5年債として考える債券であり、劣後プレミアムが上乗せになっている。金融機関の劣後債については、コールされない可能性は極めて低いことから、事業会社の劣後債とは異なり、早期償還前提での投資が現時点では可能だろう。

国内起債市場を斬る 旧正月特別号:なぜ、日本ではハイイールド債が根付かない?

市場というものを作り出すことは、誰にとっても容易でない。基本的には需要と供給がバランスするのが市場である。発行量の4割以上を日本銀行が保有している国債などは、既に正常な市場機能を喪失していると考えて良いだろう。多数の市場参加者が存在することは、健全な市場であることの一つの条件であろう。歴史的には、官公庁や取引所が市場の創設を誘導したこともある。解説された市場が一旦は取引が成立して成功したかに見えたとしても、市場創設のご祝儀が途絶えると、休息に萎んでしまう。健全な市場であるためには、参入障壁がないか低いこと等様々条件あるが、本質的には取引ニーズの存在することがもっとも重要な要素である。

日本にハイイールド債市場が根付かない理由としては、幾つかの要因が考えられる。投資家のほとんどは、仮に利回りが高くても、ハイイールド債を購入しようとしない。それは、信用力対比のスプレッドが十分にないと考えられているだけでなく、ハイイールド債の保有コストが小さくないからである。金融庁の監督下にある投資家は、いわゆる投資適格に満たない社債を保有している場合には、その保有を正当化し非分類とするための自己査定手続きが必要になる。その手続きを行うための手間やコストに見合うスプレッドが必要になるため、ハイイールド債を購入するために必要なスプレッドは、信用力見合いを越えたものが必要になるのである。

しかし、こうした手間の議論は間接的な要因でしかない。根本的な要因は、ハイイールドに相当する信用力の企業に対しては、融資金融機関による融資が資金ニーズを満たしているからで、敢えて社債を発行するまでもないと考えられるのである。つまり、想定される発行体にハイイールド債を募集する必要性がないのである。つまり需要と供給が存在しなければ、市場は成り立たないのである。

仮に官公庁や取引所は旗を振っても、ハイイールド債市場は育たないだろう。それは、日本証券業協会が10年近く努力しても、ほとんど何らの変化が見られないことで容易に理解できよう。ただし、官公庁の旗の振り方によっては、市場の活性化に誘導する方策はある。すなわち、金融機関の低信用力企業に対する融資について、ハイイールド債同様のコストを必要とするような施策を行うとか、不十分なスプレッドの貸付に対してペナルティを課すとかである。つまり、企業も銀行もが融資に依存できないようにするのである。ところが、日本の低信用力企業に対する融資問題の背景には、更に、政府系金融機関による融資の存在がある。民間金融機関は率先して低利融資を実行しているのではなく、競争によってやむを得ず低利融資を強いられている可能性もある。

こうして考えると、日本にハイイールド債が根付かないのは、単に特定の誰かによるものではなく、市場構造全体の問題である可能性が高い。時間はかかるかもしれないが、複数の要因を少しずつ解きほぐして行けば、欧米並みのハイイールド市場の創設も、夢ではないと期待する。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/29~2/2

12月四半期末決算の発表シーズン迎え、起債は細々である。それでも、2月に入ると動きが多少増えて来た。折しも、米国株式の暴落、乱高下で、決算を控えた国内投資家も揺れている。年度末まで2ヶ月を切ったことで、発行体も投資家も当初計画の遂行を意識する時間帯である。特に、公共セクターは予算消化に血道(ちみち)を挙げることが想定される。四半期ごとの調達計画を策定していたならば、3月中旬までの募集可能期間に動かなければならない。今の時間帯は、年度末までの募集に向けた最後の準備期間である。

10年長期国債の入札が行われ、米債の金利上昇を受けて日本の中期国債利回りも上昇する中で、日銀による7ヶ月ぶりの指値オペ実施という相対的に不安定な相場付きであったが、わずかながらも債券の募集が行われている。1月末に社債を募集したのが、THKである。同社は機会部品メーカーであり、最終消費者には馴染みが薄い。今回募集されたのは、第11回5年債と第12回7年債の各100億円であった。希少性のあるメーカーの社債ということで、順調に消化されたようである。他に起債がないという状況は、売行きに間違いなく貢献するはずである。

カレンダーが2月に替わると、阪神高速道路と首都高速道路の二大都市圏の高速道路運営会社が社債を募集している。前者は3年債100億円で、後者は5年債400億円である。いずれの債券も日本高速道路保有・債務返済機構の重畳的債務引受条項が付されており、予定通りに債務負担が移行するならば、日本国債と同程度の信用力が期待できるものである。ただし、格付けに関しては、複数格付を取得している場合の意識からJCRのAAA格を取得した首都高速道路と、R&IのAA+格のみを取得している阪神高速道路で対応が異なるのである。

2月に入って社債を募集したのは、三井住友ファイナンス&リースである。10年債100億円を募集している。業種特性を考えると、やや年限としては長いのであるが、国債対比+35bpsのスプレッドで問題なく消化されたようである。これも起債閑散のためなのか、三井住友フィナンシャルグループのサポートを期待したものなのか。

2月の起債は財投機関債などの公共セクターがまず動き、その後から、民間お社債が追随する展開になりそうだ。日米の株式市場の波乱を受け、日米の金利水準も安定しない可能性がある。タイミングによっては、高めの利回りが得られる状況があるのかもしれない。