国内起債市場を斬る 起債評価:10/9~10/12

相変わらず、債券の募集は金曜日に集中する。プライシングを行う証券会社も、投資判断を行う投資家も、もう少し案件のタイミングが分散していたら楽なのではないかと思うのだが、事前のマーケティング段階でほぼ固まっているのであれば、募集当日は最終的な値決めの儀式みたいな物なのかもしれない。この週も月曜日が「体育の日」で祭日だったこともあり、10日に地方公共団体金融機構債と住宅金融支援機構債が募集されただけで、残りの民間事業債等はすべてが金曜日の12日に募集されたのである。

社債を募集した発行体の業種は、ノンバンク、電力、メーカー、商社、高速道路、空港運営といった顔触れである。後の二つは公共的性格を負っているが、どちらも財政投融資計画に基づく起債ではないので、現状はいずれも社債という区分にならざるを得ない。ただし、分類上の位置付けと信用力へのサポートは異なる。高速道路の運営会社に関しては、実質的に道路を保有する独立行政法人と不可分の存在であり、会社の債務は一定のルールに従って機構の債務に転換することとされている。したがって、政府の債務と同等の信用度を持つと考えられる。成田国際空港会社も、枠組みとして政府による債務保証はなく、羽田空港に東京の窓口としての地位を脅かされている。しかし、貨物やLCC等様々な取組みが進められ、容易に廃止できるものではない。したがって、R&IやJCRの成田国際空港に対する格付けが、日本国債より1ノッチ下を確保していることに意味があると考えられる。

ノンバンクや電力が目立った社債の募集であるが、その他公共セクターを含めて、年限としては5年債の募集が多かったように感じられる。実際に並べてみると、住宅金融支援機構が0.03%で250億円、西日本高速道路が0.07%で500億円、成田国際空港が0.05%で50億円、トヨタファイナンスが0.06%で200億円、三菱UFJリースが0.19%で100億円、日産フィナンシャルサービスが0.2%で250億円、三菱商事が0.1%で400億円、東京電力パワーグリッドが0.43%で500億円、クレハが0.14%で50億円となる。

クーポンは0.03%から0.43%と幅が広い。もっとも公共セクターやトヨタファイナンスは0.1%を割る水準であり、三菱商事が0.1%の境目にあって、残りの二つが0.1%を上回る水準という分布である。特に、東京電力パワーグリッドの5年債が0.43%クーポンであり、依然、R&Iの格付けがBBB+格ということもあって、高めのクーポン設定になっている。JCRのA格とは2ノッチ差が残っており、投資家がどう信用力判断をするか、特に公的サポートの判断が難しい銘柄である。同日に募集された四国電力の10年債100億円は0.444%クーポンとほぼ同程度の利回りである。どちらの投資妙味が高いと考えられるだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/1~10/5

2018年度下期に入った。年度を通じての運営なら、あまり意識しないかもしれないが、それでも半分が経過したことになる。ましてや、上半期・下半期を意識したり、第三四半期入りを意識する市場参加者にとっては、大きな節目を越えたタイミングである。9月上中旬には、上期末の起債ラッシュと言っていたものが、10月頭には下期の起債シーズン入りと言っているのだから、その表現と現実にはややギャップさえ感じる。もっとも、ビジネスの根本には、タイミングがあり、それを裏付けとしたキャンペーンがあるのだから、10月に入ったところで、発行体も投資家も動くのが、決して奇異な話ではない。

新しい四半期に入ったところですぐに動く発行体としてイメージされるのは、電力や公的セクター、更には、銀行とノンバンクといったところだろうか。実際に、中国電力が3日の水曜日に10年債を募集したのが、今年度下期の口開けとなった。米国の長期金利上昇を受けて、日本の長期金利も安定せず、やや高めに推移していたことで、投資家の購入姿勢は消極的であり、どうも中国電力の10年債は消化に苦戦したようである。単なる国債対比スプレッドの水準が問題であったというよりも、ベースとなる長期金利の水準が安定しなかったことで、発行体と投資家の目線が合わず、結果的に投資妙味が乏しいと判断されたものと考えられる。その後、関西電力が5年債と10年債、電源開発が15年債を募集している。なお、電源開発債は電気事業法の定める電力債ではなく、一般担保付となっていないことに留意したい。もっとも社債間限定同順位特約の対象には担保提供制限の他に、は留保資産提供制限となっており、担付切換条項や特定資産留保条項くらいの特約しか付していないのに、社債管理者を設置しているのは疑問である、

ノンバンクの動きも早かった。中国電力以外は、ほとんどの債券募集が5日の金曜日に集中したが、5日だけでも、東京センチュリーの3年債及び5年債、ジャックスの5年債及び10年債、アプラスファイナンシャルの5年債といった顔触れが、早速、社債を募集している。銀行では、名古屋銀行が劣後債を募集しており、公的セクターでは、地方公共団体金融機構が20年債及び30年債、日本政策投資銀行が3年債・5年債・10年債、阪神高速道路が3年債、首都高速道路が5年債を募集している。

なお、東京センチュリーの5年債はグリーンボンドの要件を満たしており、太陽光発電設備のリースに関するリファイナンスに充当されるということであるが、この延長で行けば、将来的には“何でもグリーンボンド”ということになって、希少性が失われることになるような気もする。やはり、もっと環境改善に密接なものでないと、投資家・発行体のイメージ向上に利用されるだけでなく、環境省や認定NPO団体等にも利用されることになろう。今後も、ノンバンクやメーカーから、環境債やグリーンボンドの募集予定が公表されている。引受証券会社も投資家も具体的な、取組内容の吟味を怠ってはならないだろう。

国内起債市場を斬る 2018年度半期末特別号:格付けのタイムホライズンと超長期債

この9月に募集された民間企業の超長期社債(満期一括償還に限る)を順に挙げると、日本たばこ20年債、名古屋鉄道20年債、住友商事20年債、阪急阪神ホールディングス20年債、電源開発20年債、相鉄ホールディングス15年債、日本航空20年債、JR東日本20年債・30年債・40年債、光通信20年債といった顔触れになる。超長期債に投資するメリットは、何と言っても利回りの高さにある。イールドカーブが順イールド形状になっている限り、国債利回りは年限の長い方が高い。社債の場合には、上乗せのスプレッドの水準によって逆転する可能性もある(例としては、JR東日本40年債のクーポン1.246%に対し、光通信20年債は2.12%クーポンである)。

超長期債に投資する際に投資家が考えなければならないのは、投資によって負うリスクである。近似的には、価格変動リスクをデュレーションで、信用リスクを格付けで測るというのが一般的な投資家ではなかろうか。前者に関しては、現在のような低金利が大きく変動した場合には、デュレーションの計測だけでは不十分である。デュレーションだけでは近似しきれない金利変動の影響については、コンベキシティを考慮すべきであろう。しかし、もっと大きな問題は信用リスクを評価する際の格付け利用にある。

格付けに関しては、超長期債の抱える信用リスクを適切に示す指標ではないと断言するのは、言い過ぎだろうか。そもそも格付けとは、一民間企業である格付会社が発行体及び当該債券に対して付した信用度合いの評価である。監督官庁に届出しており、定期的な検査を受けていることから、専門的な評価機関であることを否定しないが、果たして格付けのタイムホライズンは、どの程度の期間だろうか。

一般的に企業が作成している中期計画は、3年~5年といったところだろう。それに、各業種の専門アナリストが長期的な当該業界の事業環境と、当該企業の先行きを推計しても、10年以上の先を見通すことは不可能だろう。9月に超長期債を募集した企業の中でも、日本航空が経営危機に陥り社債をデフォルトしたのは2010年のことであり、まだ、10年も経過していないのである。幾ら公的資金による支援があったとは言え、破綻して10年以内の企業が20年債を募集しているのは、奇異な姿であろう。結局のところ、超長期債の信用リスク評価においては、格付けは役に立たないということを肝に銘じるべきである。

超長期債の投資に際しては、格付けを見るだけでなく、その先の保有期間に対する業界及び発行企業の分析を、個々の投資家が真剣に実施して安全という判断を下してから投資を実行しなければ、投資家としてのスチュワードシップに反すると言っても良いだろう。個別企業の遠い将来を予想するのは難しく、ウェイトとしては業界分析と相対的な位置付けが主体にならざるを得ない。結局のところ、将来の業界像を比較的容易に推測できるのが、規制業種であり、電力・ガス・鉄道といったところが、超長期債の主な発行業種になるのは、自然のことなのである。それ以外の業種については、真摯に20年後のその企業がどういう状況にあるかを考えて投資すべきである。また、将来の20年先が難しいのなら、20年前がどのような会社であったかを考えることにも意味があろう。年限の長さはデュレーションの長さに繋がり、結果として価格変動の大きさをもたらす。それほど、超長期債投資におけるクレジットリスクを初めとするリスクファクターの分析と投資判断は、容易なものではないのである。