国内起債市場を斬る 起債評価:2/14~2/18

2月中旬になっても起債市場の動きは、緩や(ゆるや)かな空気に包まれている。比較してみると起債の動きが早いのは、社債等の募集に慣れている企業や公共セクターというのがお定(さだ)まりだが、この週に関してもその認識は間違っていない。ほとんどの社債等の募集が公共セクターによるものであったと言い切っても、誤りではない。純粋な財投機関債の募集は、大学改革支援・学位授与機構の5年債50億円と日本高速道路保有・債務返済機構の4年債200億円及び20年債150億円のみであるが、それ以外が電力や鉄道関連等ばかりである。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債も2本見られるが、実質を考慮して地方債に含めて考えている投資家は少なくない。

電力債の募集はいずれも複数年限にわたる募集となった。しかも、金曜日の募集が全てである。九州電力は3年債100億円及び10年債230億円を選択したが、中部電力の5年債100億円及び20年債200億円の2本立ては極めてオーソドックスな年限設定である。唯一三つの年限で電力債を募集したのが、中国電力の5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円である。いずれの電力債とも、募集年限は極めて常識的なものであり、サプライズ感はない。

海外の金利上昇を受け超長期年限の金利が著しい上昇を示す中で、愚直なまでに超長期債を募集したのが東京地下鉄である。複数の超長期年限を募集するのが、最近の同社のパターンであるが、今回選択したのは、30年債・40年債・50年債を100億円ずつであった。国債対比+13bpsとされる30年債ですら、1.066%クーポンと1%を越える利回りとなったが、40年債で1.244%クーポン、50年債で1.416%クーポンであった。いずれも高水準になってはいるが、2%には届いていない。

社債等の購入者が利回り獲得を目指すには、年限の長期化かクレジットリスクの悪化に向かうかしかないのだが、年限の長期化が可能となる発行体は信用力の安定性が必要であり、なかなか二つの方向を両立することは出来ない。今でも政府と東京都が大株主である東京地下鉄に関しては、封印していた新規路線の延伸工事再開や、赤字が継続している都営地下鉄戸の統合問題等民間企業であれば信用懸念に直結するような動きも、直接の影響を大きくは受けない。そのため、30年以上の超長期債で3本の起債が可能になる。

金利の上昇傾向が継続するならば、日銀によるイールドカーブコントロールの対象外となっている超長期年限の利回りは、大きな影響を受けるものと考えられる。当面、超長期年限の社債等募集は、発行体の駆け込み的な動きと、年度末をにらんだ投資家の購入意欲との綱引きの上で、微妙な状況になっているのを感じる。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/7~2/11

金曜日が建国記念の日の祝日で営業日が少ないことに加え、12月末決算の発表シーズンということもあって、民間企業による社債の募集は少ない。くわえて、世界中がロシア軍のクロアチア侵攻の危機の最中に冬季五輪ROC代表のワリエラドーピング問題が彷彿。市場が乱高下する中で、先行き不安心理を増幅させている。

中央日本土地建物グループが、5年債140億円と10年債40億円を募集しているが、両年限ともみずほ証券による単独引受であって、シ団を組んでの募集体制は構築されていない。2月中旬以降に年度末をにらんで起債が増えることは確実視できるのだが、先行きの金利上昇に対する懸念は日銀による指値オペの取組みもあって、沈静化しつつあるようにも見える。もっとも、影響を受けるのは、10年付近から超長期に渡る年限であり、概ね7年以下の年限であれば、日銀によるイールドカーブコントロールの効果はまだ有効であろう。

こういった環境では、自然と公共セクターによる債券の募集が目についてしまう。地方公共団体金融機構は、毎月の10年債を300億円募集している。今年度の10年債では7月に募集した第146回債が0.09%クーポンと低い水準になったが、今月の第153回債は0.274%クーポンと、倍率だけで見ると三倍を上回る高さになっている。こういった微小な数値に関しては倍率を見ることが適切でなく、差を取るとわずかに18.4bpsである。第146回債のクーポンが0.09%と極めて低いのが、異常なためと考えるべきであろう。ただし、わずかながらも金利水準が上昇していることは事実であり、今後の推移を注視しておくべきである。

一方、高速道路会社の中で、首都高速道路と阪神高速道路とが社債を募集している。首都高速道路は、東日本高速道路等と同じように、R&IのAA+格だけでなく、ムーディーズのA1格に加えてJCRのAAA格を取得しているが、阪神高速道路はR&IのAA+格しか格付けを取得していない。複数格付けに対する自己資本比率規制の掛け目によるものであるが、日本国債と同水準の符号という意味では、阪神高速道路のように取得する格付けを絞るのも、一つの判断だろう。なお、阪神高速道路の社債は、高速道路の建設・整備という使途でソーシャルボンドの認定を得ているが、首都高速道路の社債はSDGs債の認定を得ていない通常の社債である。

また、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、5年債80億円および10年債100億円を、サステナビリティボンドとして募集している。同機構もかつては、複数の債券を同時に募集する際に、特定の年限だけソーシャルボンドの認定を得たこともあったが、近年は募集する債券を一括してサステナビリティボンドとして認証されている。同機構の業務内容を考えると、現状のような取組みが適切であると思われる。

昨年の日本郵船による募集以降、トランジションボンドの募集は止まっていたが、複数の発行体によるトランジションボンドの起債観測が上がっている。企業のグリーン化・気候変動に向けた努力を評価し促すためにも、こういった債券の募集が続くのは好ましいだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/31~2/4

引続き起債市場の動きは鈍い。SDGs債の募集が多いのはここ数年では珍しくないが、この週はグリーンボンドでなくソーシャルボンドの募集が相次いだというのは珍しいだろう。債券の特性を考えると、ソーシャルボンドの発行体として相応しいのが、公共セクターであることは間違いない。

2月に入って最初に社債等を募集したのは、成田国際空港であった。5年債100億円・10年債100億円・19年債60億円の3本立てを募集している。新型コロナ感染症下で国際的な人流は減少しているものの、国策会社であって破綻することは考え難い。特に、羽田空港が再度国際化して来た中で、特にLCC運航と国際貨物に差別化し注力して来た成田国際空港の姿勢は新型コロナ下でも、独自の意味合いを持っている。ソーシャルボンドとしての認証を得ていなくても、十分にソーシャルな発行体である。また、金曜日に中部国際空港は10年債100億円を募集しており、こちらはソーシャルボンドとしての認証を得ている。R&Iの格付けが1ノッチ劣ることで、クーポンは成田国際空港より0.2%高く設定されている。必ずしも両社の優劣を付けられるものではないが、格付符号の差が物語るものはある。

都市再生機構は40年債100億円をソーシャルボンドとして募集した。米国や欧州での利上げに向けた動きを受けて日本の長期金利も上昇しており、この40年債のクーポンは0.949%と1%近い水準となった。今後に金利水準がもっと高まると考えるのならば、デュレーションの長い超長期債を購入するのを躊躇する投資家もいるだろう。しかし、こういった絶対水準の高い利回りの債券はそう多くない。ソフトバンクグループの社債や事業会社の劣後債のように、高いリスクを負った社債ならば高い利回りを得られるかもしれないが、信用リスク等による元本毀損の可能性を考えると、超長期の公的発行体による債券というのは一部の機関投資家にとって絶好の投資対象となる。

もう一つソーシャルボンドを募集したのが西日本高速道路で、5年債800億円を募集している。長期金利が上昇しても、日銀のコントロールはまだ短い年限に作用している。R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格といずれも日本国債と同水準の格付符号を得ている発行体の5年債は、0.1%クーポンに留まる。それでも2か月前に募集した5年債のクーポンは0.04%であったから、倍以上の水準となっているのであるが。

このようにソーシャルボンドは多発されている。しかし、具体的な個別債券の資金使途を見ると、新規のプロジェクトに明確に紐付けられているのならまだ納得できるが、既存の借入金等の借換えといった説明が行われているものも少なからず見られる。果たして、資金使途の開示やトレースは適切に行われるのだろうか。本来的にこれら公共セクターに関しては、文句なくソーシャル性を有しているのだから、厳密な資金区分を行うことなく発行される全てをソーシャルボンドとする等、民間企業の社債と異なる扱いをすべきではなかろうか。これでは、認定機関が漁夫の利を得るだけのように思える。