国内起債市場を斬る 起債評価:1/24~1/28

起債市場の動きは鈍い。ちょうど12月決算の発表シーズンを迎え、例年のように動きが乏しくなっている。単純に本数だけを見ると、前週に続いて地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が7本もあったために、数が多く見える。しかし、実態としては、この地方公共団体金融機構による起債は、総額でも500億円を超える程度であり、決して大型の資金調達とは数えられない。地方公共団体金融機構は、別途、MTNプログラムに基づく外債(ただしグリーンボンド)で750百万米ドルを発行しているので、資金調達額としては小さくない状況である。

民間企業による社債の募集は数少ない。まず、イオンフィナンシャルサービスが4.5年債を200億円募集している。イオングループの金融企業であり、傘下にはクレジットカード、少額短期保険、保険代理店、リース、生命保険会社、銀行等を抱える総合金融サービス会社である。小売り業の雄の一つであるイオンはスーパー、ショッピングモール、ホームセンター、百貨店、映画館、コンビニエンスストア、ドラッグストア、スポーツクラブ、持ち帰り弁当等多様なリテール向け販売サービスを展開しており、フィナンシャルサービスはこれらのサービスに隣接する形も含めた金融サービスを提供している。スーパーやコンビニにATMが設置されているのが典型例であるが、そのほかにもネット等を使ってのサービス展開も行っている。新型コロナ感染症によって小売業は大きくダメージを受けているとされるが、全国に広がるネットワークを誇り、多様な小売り関連および金融サービスを提供していることを考えると、中期年限の起債に対する懸念はあまり強くないだろう。前週に募集されたJA三井リースの5年債は、R&IのA-格およびJCRのA格と同じ符号を得ているが、イオンフィナンシャルサービスの0.34%クーポンを下回る0.22%クーポンであった。イオンとの事業の関連性の高さを考えると、投資妙味があるように見えるだろう。

もう一つ募集された民間企業の社債は、朝日印刷による5年債である。届出書方式による初めての公募普通社債の募集であり、発行総額は35億円と小さい。取得した格付けは、BBB+(JCR)格であるが、グリーンボンドとしての認証を得ている。しかし、グリーンボンドとされている内容を見ると、同社の京都クリエイティブパーク西棟建設資金のリファナイアンスである。同施設には太陽光パネルが設置されている。2020年4月に竣工した物件のリファイナンスがグリーンファイナンスとされるのはやや奇異な感もあるが、認定したJCRの設定したグリーンボンドフレームワークにおいて36か月以内に実施した適格プロジェクトへのリファイナンスを認めるとしている。特にリファイナンスに関しては、お金に色がない以上認定には慎重になるべきであり、フレームワークそのものが適正かどうか疑問の余地があろう。また、JCRは部門間にウォールが設けられていると主張しているものの、信用格付けとグリーンボンドの認証を同一法人が行っていることには、疑念を持たれても仕方がないのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/17~1/21

四半期頭の起債市場で起債の本数を稼ぐのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債がもっとも顕著である。この週も、第647回債から第659回債と様々な年限で計13本を募集している。金額も第648回の9年債が200億円と大きいものの、それ以外の多くが30億円という最小金額で設定されているため、総額では計665億円にしかならない。一方で、ソフトバンクの個人向け劣後債は5,500億円の募集条件を決定しているのだから、大型起債によるインパクトをまざまざと感じさせられる。

個人投資家向けに劣後債5,500億円の募集を開始したソフトバンクグループと、機関投資家向けに7年債と10年債各150億円を募集したソフトバンクは、持株会社と事業子会社との関係にあるが、投資判断という意味では、両極端の位置づけにあるとしても過言ではない。持株会社は、様々な事業子会社や投資ファンドを傘下に抱えており、安定した信用力の推移を期待することは容易でない。子会社やファンドの買収や売却によって信用力自体が大きく変動する可能性は、7年という投資期間の長さを考えると否定できるものではない。決してデフォルトに瀕すると予想されるものではないが、アップサイドもダウンサイドも十分に有り得ると考えるべきである。そういった信用力の不安定さを抱えている劣後債を個人投資家に販売することをどのように考えるべきだろうか。確かにクーポンは2.48%と米ドル建ての米国10年国債よりも高い水準にある。引受証券会社に支払う手数料も発行額100円あたり1円50銭と高額であって、証券会社にとっては大きな収益源である。発行体である持株会社がデフォルトしなければ、投資家にとっても引受証券会社にとっても美味しいいディールである。高額な利子と手数料を払って利益を損なわれたのは、株主なのであるが。

一方、通信事業子会社であるソフトバンクは、事業基盤の安定性を期待できることから、相対的に高い信用度を確保している。持株会社の劣後債が取得した格付けはJCRのBBB+格であるが、ソフトバンクの社債が取得した格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格と十分に高い水準である。持株会社の信用力変動の影響を全く受けないものではないが、総務省の監督対象となっている通信事業については、国民生活の安定を考えると万が一にも破綻処理を行われる可能性は低い。何らかの形で新規もしくは既存の受皿会社に事業譲渡を行わせることが十分に期待できるし、その際に債務も移管されることが期待できる。何しろ携帯電話やPHS等の移動通信全体を見た時に、ソフトバンクの契約数シェアは2割を超えており、同社のMVNO回線を利用したキャリアを加えると約4分の1を占める存在である。スマホなしでは生活に支障が生じかねない現代において、ソフトバンクを破綻処理することを現実的なものとは考えられない。しかも、ソフトバンクの募集した今回の社債はサステナビリティボンドとしての認証も得ており、機関投資家からの投資を誘引する材料ともなっている。

このように両者を比較すると、リスクを保守的に認識する機関投資家向けをサステナビリティボンドとし、リスクより利回りを重視するとともに発行体の知名度を意識しがちな個人投資家には持株会社の劣後債とすることが、極めて理に適っているいると考えられる。劣後債のリスクが個人投資家に的確に認識されていると思えないため、7年間に何もないことを祈るしかないが、機関投資家と異なり時価評価を求められない個人投資家から見れば、元利払いさえ予定通りに行われれば、M&Aや格下げの信用力に関するイベントが投資スタンスに大きく影響することはないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/11~1/14

新年の起債市場は、正月三が日の曜日次第でもあるが、成人の日が移動祝日になって以来、実質的には三連休明けから募集開始ということになる。今年の最初の10年長期国債の入札は1月5日に行われており、10年物の全国型市場公募地方債は翌日以降に募集され始めているが、民間企業等の起債に向けた動きは鈍くなる。市中消化に向けた投資家へのヒアリング等手順を踏んでいると、どうしても募集は三連休明けになるし、休日明けてすぐに社債等を募集しない日程からは、14日の金曜日に募集が集中するのもごく自然なことだろう。

それでも、12日の水曜日には地方公共団体金融機構が10年債及び20年債を募集し、13日の木曜日にはJERAが3年債及び19年債を募集している。これらが先駆けとなったものの、14日の案件集中はすさまじい。それでも先行した二つの発行体と共通する特徴として、公共セクターと電力が目立つことである。1月は2021年度最終四半期の頭であり、当然、募集される社債等も多い。中でも、公共セクターと電力関連が中心になるのは、当然予想された通りである。銀行やノンバンクは追って出て来るものと考えられる。

14日に募集された公共セクターと電力関連の社債等を羅列するだけでも、日本政策投資銀行、東日本高速道路、日本学生支援機構、住宅金融支援機構といった公共セクターに加えて、東北電力、九州電力、電源開発、四国電力、中国電力と電力関連の社債発行会社の半数近くを挙げることが出来る。既に前日に社債を募集していたJERAを除くと、残っているのは、北海道電力・東京電力パワーグリッド・中部電力・北陸電力・関西電力・沖縄電力といったところだけである。

公共セクター及び電力関連の社債等の中においても、東日本高速道路の5年債・7年債・10年債の全年限はソーシャルボンドの認定を得ているし、日本学生支援機構の2年債もソーシャルボンドである。住宅金融支援機構の募集したうち10年債はグリーンボンドになっている。電力関連の社債の中でも、電源開発が募集した10年債はグリーンボンドになっているし、他に、東日本旅客鉄道の募集した10年債はサステナビリティボンドの認定を得ている。

このように、引続き、SDGs債の募集が多く見られており、起債観測の上がっている銘柄の中でもグリーンボンドやサステナビリティボンドを準備しているというものが少なくない。結局のところ、多くの投資家は社債等を購入する際に、単純な利回りの高低だけではなく、付加されているストーリーを欲しているのである。購入の判断において、最後の一押しとなる材料があるかないかは、起債が受け入れられるかどうかの大きな差となっているのかもしれない。

国内起債市場を斬る 新春特別号:2022年度の起債市場-その2

年末に続いて、2022年度の起債市場の状況について考えてみる。まず、国債について思い返してみると、新型コロナ感染症対策で割引短期国債を中心に引続き大きな金額の発行が予定されている。国債の借換えルールを考慮すると、当面割引国債の巨額発行は継続されることになるが、物価上昇の兆しがあった場合に、日銀による短期金利のコントロールがなければ、まず短期金利が上昇してしまうことから、一気に国債の利払負担が増加することになってしまう。そういう意味でも、日銀によるマイナスからゼロ金利政策の見直しが早期に行われるとは考え難い。中期的に、国債の市中消化額は高止まりしよう。

一方、公募地方債の発行予定額は、全国型のみで6.6兆円と2021年度対比約1兆円の減少が見込まれている。住民参加型市場公募債(いわゆるミニ公募地方債)については、中期年限の金利が日銀のイールドカーブコントロールによってほぼ機能しておらず、個人の投資ニーズにほとんど合致しないため、2021年度発行予定額300億円から150億円と半減する計画になっている。とは言っても大勢には影響を及ぼす額ではない。年限別に見ると、市場環境の変化に柔軟に対応するため、年限等を定めないフレックス枠として設定されている金額が増えているものの、他の年限はいずれも減少する計画になっている。実質的に利回りがほとんど付されない10年以内の国債や政府保証債と比べて、わずかでも利回りの乗っている財投機関債や地方債に対する投資家のニーズは根強い。特に、信用リスクをほとんど負わないという評価が可能なため、元本の毀損をほぼ懸念しないで済むことが財団法人等にとって国債に代わる投資対象として人気になっている模様である。

地方債の発行額が減少する背景には、借換債がわずかながらも減少したことに加えて、臨時財政対策債の発行が大きく減少したことによって、民間資金への依存度が大きく減少したものと見られる。また、企業等の収入増によって地方税収が増加する見通しや国からの地方交付税等交付金の増加も寄与しているようである。借換債を含まないベースでの資金面の地方債計画においては銀行等引受債による消化額も1兆円以上の減少となっており、2022年度は地方債の供給減少が一つの注目の的になるのかもしれない。

民間企業による社債の発行額については、影響する幾つかの要素がある。まず、金利上昇の懸念による駆け込み調達ニーズがあるか、である。更には、根本として、社債での資金調達ニーズがあるかどうかも大きな要素があり、中でも大型M&A等の資金ニーズが生じるかどうかか大きい。また、公共債と同様に、既存社債等の借換債が募集されるかも大きい。日本の金融慣行においては、銀行等金融機関からの借入れと社債発行は注射器に例えるとインターチェンジャブルな資金調達手段であり、借入金を返済するための社債発行という選択肢がない訳でもない。加えて、技術的な要素としては、日銀による社債買入オペの運営も起債額に影響する可能性がある。3年以上5年のゾーンについては、既に買入れ額は減少傾向にあるが、新型コロナ対策以前から取組まれている3年以内の社債購入については、惰性的に継続して取組まれるものと思われる。官僚的な組織では、従来からの取組みを停止するには、正当性の担保や当初発案者を傷付けない説明が求められる等相応のエネルギーが必要だからである。

現状では、今年度の民間企業による公募普通社債発行額は15兆円を下回る規模と想定されており、大きなM&Aニーズがないとすれば、2022年度も同程度となる可能性が高いと思われる。日銀の買入れオペの運営見直しが行われると、高格付け債では利回り0%で募集できている3年債の募集が減額される可能性もあり、更に下回る可能性も否定できない。地方債と同様に、民間企業の社債についても、引続き、市場での品薄感は払拭できないものと考えられる。その結果、スプレッドはタイトな水準が維持されるため、投資妙味の乏しい状況は今年も続くのであろう。このブログを18年間つづけている筆者としては、希望する景色からは程遠いい。(本稿終わり)