国内起債市場を斬る 起債評価:9/3~9/7

起債可能な時期は決して短いわけではない。しかし、週初めの月曜日はマーケットの状況確認や投資家のニーズ調査もあって、募集には向いていないとされる。また、国債の入札は火曜日や木曜日に設定されていることが多い。国債の募集は必ずしも社債等の募集に関係ないのであるが、募集される年限の入札が行なわれる時は、水準確認の意味もあって、社債等の募集は見送られることが普通である。また、日銀の量的質的金融緩和によって、証券会社の債券部門も近年は収益性が低下しているために人員を削られている。その結果、国債の入札に注力するため、入札日に社債の募集を躊躇する傾向が見られる。利付国債の年限が増え、流動性供給入札が毎月複数回行なわれており、日銀と財務省の双方から社債の募集日が圧迫されていると見ることができるのかもしれない。

この週に募集された社債(財投機関債を除く)を本数で見ると、火曜日が3本、水曜日が3本、木曜日はゼロ、金曜が14本と偏っている。一方で、募集金額で見ると、火曜日が1,000億円、水曜日が750億円、金曜日が2,080億円と偏りは是正される。これは火曜日に、日本たばこが3本で合計1,000億円募集したためである。もっとも一本で500億円募集した銘柄が、水曜日の三井トラストホールディングス、金曜日の東京電力パワーグリッドとあったために、金額の偏りが是正されている。1回号が100億円以下で募集された社債が、金曜日には9本もあり、本数と金額のアンバランスが生じている。

火曜日に3本で合計1,000億円募集した日本たばこの社債は、売れ残ったとされている。利回りの低い5年債を600億円としたこともあり、また、総額1,000億円という大型起債にしては全般的に利回りが足らなかったとされる。しかも、日本たばこの事業領域については、食品や薬品についての懸念は大きくないが、メインのタバコに関しては、先進国で軒並み抑制傾向が強くなる中、買収等で海外展開を強めていることは、リスク要因と考えられる。これから東京オリンピックに向けて、東京都内の飲食店におけるタバコ規制が強化されることが予定されており、日本たばこが活路を見出そうとしている電子タバコも、先行きは明るくない。昔ながらの一般担保付社債として募集されているが、それだけでは、投資家の懸念を払拭することは出来ないようである。電力会社のように、停電したら生活に大きな影響が出るような企業とは異なるのである。

因みに、日本たばこが毎年実施している喫煙者率調査によると、2017年の日本人の平均喫煙率は男性が28.2%、女性は9.0%だったそうで、男性の喫煙率はピーク時(1966年)の83.7%から半世紀を経て、約3分の1まで減少したが、世界的に見るとまだ決して低いとは言えない水準であり、WHOの「世界保健統計2016」では、日本の男性喫煙率は128カ国中60位で、G7各国の中では最も喫煙率が高かったとのことである。(2018年5月22日時事)

次の週末が三連休となることもあり、社債等の募集は9月10日の週に多く集まるようである。起債観測は、電力や運輸だけでなく、メーカーも幾つか上がっており、週後半に向けて盛り上がるようだ。なお、北海道電力の起債見送りは地震によるものであるが、それ以外にも、金利水準等の環境変化から起債を延期する動きが見られている。足元だけでなく、先行きの金利水準を慎重に見極めようとしているようである。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/27~8/31

上期末の起債ラッシュがはじまっている。特に、週後半の集中度合いは、なかなかのものである。金額面では、野村ホールディングスのTLAC債が1,000億円を募集しているが、本数ではノンバンクや電力、陸運が稼いでいる。

中でも、陸運は、鉄道中心であるが、やや長めの年限で多く募集されている。日立物流はレア物でありながら、7年債・10年債・20年債と各100億円を募集した。日立製作所という元々の親会社(現在の出資比率約3割)を盛っている強みに加え、佐川急便の持株会社であるSGホールディングスからも約3割の出資を受けており、また、福山通運とも提携していることで、決して日立グループ依存ではない。鉄道以外の陸運業で20年債というのは珍しい年限だが、事業基盤の強さが評価されたものと考えられる。

日立物流以外の陸運は、いずれも鉄道で、京成電鉄の10年債及び20年債各100億円、西日本鉄道が10年債100億円を募集しており、安定した業種特性が年限に強く反映されている。両社とも格付けはJCRのA+格であり、揃って募集した10年債は国債対比スプレッド+29bpsとクーポン0.395%で同じ水準になっている。

電力では、中国電力が10年債及び19年債各100億円と関西電力が5年債と10年債各300億円を募集している。東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故、原子力発電所の運転停止といった一連のイベントの影響を受けた電力会社に対するネガティブな評価は、徐々に薄らいで来ており、起債額が大きくなり、年限も超長期債の募集が可能になってきている。それでも、中国電力と関西電力の格付けは、R&IではA+格で横並びであるが、JCRではAA格とAA-格で1ノッチ差があり、10年債のクーポン及び国債対比スプレッドは7bpsほど関西電力が高くなっている。これは関西電力の原発依存度が高いことを反映したと考えられるが、募集金額の大きさも影響している可能性がある。

この週の社債募集は、割と業種で年限が揃っているように見える。業種によって、適切と考えられる調達年限が変わるためもあるが、本来的には既存債務の償還スケジュールなどから調達年限が異なる可能性も少なくない。この種に社債を募集したノンバンクはリコーリースとJA三井リースで、どちらもリース会社であり、募集年限は、3年債と5年債各100億円と同じであった。格付けが、リコーリースがAA-(JCR)格と高く、JA三井リースはA-(R&I)格及びA(JCR)格と2ノッチ低い評価であるが、3年債は同じ0.05%クーポンで募集され、5年債のクーポンは0.19%と0.2%で1bpしか差は付いていない。3年債は日本銀行による社債買い入れオペの対象となることが期待されており、そのために格付けの差がクーポンに反映されなかったと考えられる。これも強力な異次元の金融緩和によって生じた市場の副作用と見ることができよう。