国内起債市場を斬る 起債評価:2/18~2/22

漸く年度末に向けての起債が活発になりはじめて来た。とは言っても、昨年の夏から秋に診られたような金利の上昇懸念は沈静化しており、10年以内の年限の国債利回りがマイナスに沈み込んでいる状況においては、国債対比のスプレッドは必然的に大きくなってしまうために、発行体側の調達意欲も高まらない。低金利であることを活用するのなら、長めの年限で調達することも考えられるが、日本銀行の強力なイールドカーブコントロールが微動だにしそうもないために、慌てる必要はないと考えているのではないか。投資家側も特に無理して社債等を購入するつもりはないようであり、何となく落ち着いた均衡が成立しているようである。

この週に募集された債券の中では、日本ハムが5年債・7年債・10年債の3本立て各100億円を募集している。格付けはA(R&I)及びA+(JCR)という水準であり、フリークエントイシュアーではない。今回が第10回債から第12回債の募集である。食品メーカーの社債に関しては、一般的に製品に関するヘッドラインリスクが顕在化しない限り、強い投資家のニーズがある。好不況に大きく左右されない消費者のニーズに支えられるという業態の特性であるが、産地や賞味期限等の表示偽装などスキャンダルが生じた場合には、消費者の健康や生死に影響を与えかねないために、一気に収益力が悪化し信用が失われる可能性がある。10年債の国債対比スプレッドは+38bpsで、同日に募集された中国電力の10年債よりも4bpsほどタイトである。中国電力の格付けはA+(R&I)及びAA(JCR)とより高水準であり、電力債に対するプレミアムを考慮しても、やや日本ハムの10年債に割高感がある。

相変わらずノンバンクの起債が多く三菱UFJリースの3年債、リコーリースの3年債、日立キャピタルの5年債といずれも100億円ずつの募集が行われている。なお、日立キャピタルの5年債は、R&Iよりグリーンボンドアセスメントを得ている。認定の理由としては、“調達資金の使途となる対象事業は、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーによる発電事業である。尚、今回発行されるグリーンボンドの調達資金は、現在子会社において開発されている太陽光発電事業の設備購入等のための子会社向け貸付金の一部(新規貸付金(約4割)及びリファイナンス(約6割))に充当される予定である”とされている。しかし、お金に色がない以上、この程度の理由で“グリーンボンド原則2018及び環境省のグリーンボンドガイド ライン2017年版に則ったものである”と認定されるのはいかがなものか。しかも、アセスメント機関が信用格付けの付与会社であるというのも、構造的に妙である。弊誌欄で度々警告させていただいているが、グリーンボンド評価の適正な運用を求めないと、いずれすべての起債が、グリーンボンドと認定されてしまいかねないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/5~2/15

2月に入っても、起債市場は引続き閑散期にある。この2週も、月初めから続く公共債が起債のほとんどを占めている。前半の週末である8日に盛り上がりを見せたとは言え、ほぼ公共債が主体である。分類学上、新関西国際空港や西日本及び阪神の高速道路は、社債と言えなくもないのだが、新関西国際空港の起債は財政投融資計画に基づくものであって、財投機関債とされるべきものである。西日本及び阪神の高速道路会社による社債は、確かに社債ではあるものの、日本高速道路保有・債務返済機構による重畳的債務引受条項が付されており、最終的には財投機関債発行団体の債務に帰すため、実質的な財投機関債と同等の枠組みにあるものと考えられる。したがって、広い意味での公共債カテゴリーに属するものと考えて良いだろう。

唯一例外の位置付けにあるのが、キューピーの社債であった。食品メーカーに位置付けられる同社は、11月期決算を採用しているため、12月期や3月期決算企業とは異なるタイミングでの社債募集が可能になったものである。こうした決算期の異なる企業は、もっと他社と異なる時期での社債募集を考えると良いのだが、右に倣えの体質が強い企業の場合には、なかなか踏み切られないことが多いようである。

建国記念の日からはじまった週に入っても、状況には大きな変化が見られない。相変わらず、首都高速道路の社債は、実質的な財投機関債とみなされる。その他に債券を募集したのが、地方公共団体金融機構である。月例の10年債200億円を募集した後に、15日の金曜日に40年債をフレックス枠の中で募集している。10年債は、国債利回りのマイナス水準への低下もあって、クーポン0.166%で国債対比スプレッド+17bpsと見るも無残な状況である。一方、40年債は同機構にとって初めての募集となる。厳密には、FLIPに基づく債券として、40年債の募集履歴はあるのだが、引受シ団を組んでの起債としては初めてであり、40年第1回債の回号を得ている。国債対比+20bpsと10年債を上回るスプレッド水準を付されたものの、クーポンは0.882%と1%にも満たない。当座の利回り確保目的の投資対象としては、信用力と流動性の観点から問題ないが、将来の金利水準の変動に対しては、懸念を抱かざるを得ない。

いつまで低金利が続くかというのは日本国内のすべての債券投資家が持つ疑問であり、日銀による強力な金融緩和が暫く続くことが確実視されるものの、40年という長いタイムスパンにおいては、環境の変化が確実視される。「何時まで続くか低金利、何時までも続かぬ低金利」と観るのが一般論だ。低金利が更に30年、40年と続いているならば、日本経済は緩やかな停滞を続けているだろうし、そもそも停滞経済において金利水準は安定を欠くことになると思われるために、持続可能性が疑われるのである。消去法で残った選択肢なのかもしれないが、40年は持ち続けられるとは誰も思っていないのだろう。

国内起債市場を斬る 旧正月特別号:2019年の投資環境を考える

投資家の多くは、2018年度決算の着地を睨みつつ、来年度の投資計画を検討していることだろう。特に、株価や米国金利が大きく変動している中では、如何にリターンを獲得するかは、例年以上に頭を悩ませることになるだろう。米国の利上げが停止されるという観測からは、米金利の上昇が緩やかになるという想像ができる。となれば、為替の要因を無視すれば、米債への投資が妙味を持つ可能性はある。一方、株価が変動し、特に、過去数年のような上昇トレンドにならないと考えるなら、為替は横ばいから、やや円高になる可能性を念頭に入れておくべきだろう。為替変動によって、円投からの米債の投資妙味は相殺されてしまうかもしれない。

外債と株式が投資対象の中で相対的に後ずさりするならば、国内債券への投資が必然的に消去法で残ってくる。日銀は、依然強力なイールドカーブ付量的質的金融緩和を、物価安定の目標を実現できるまで継続すると明示しており、執行部の退任や政権によるサポートの喪失といった事態が起きない限り、国内の低金利は続くだろう。昨年の夏にあった金利上昇懸念は、あくまでも米国の金利上昇と、それによる円安懸念を背景としたものであり、日本国内の要因からの金利上昇は見通しが立たない。仮に金利が上昇する事象が生じたとしても、イールドカーブコントロールで吸収されてしまうだろう。

米中の経済戦争だけが中国の景気後退の要因ではないだろう。そして統計操作が中国だけの問題でないこともわかった。なかなか投資対象の選択に自信は持てない環境が続くだろう。企業業績が低迷するなら、金利が低い環境において、信用リスクやデュレーションリスクを取ることで平均利回りを引上げるという手段にも、自制が必要である。かといって、不動産やインフラ投資といったオルタナティブ資産に向かうのも、高値掴みになる可能性が極めて高い。かなり八方塞がりの投資環境が、2019年度には待っていると考えられるのである。

簡単なソリューションは存在しないだろう。慎重に環境や投資対象を分析しつつ、分散効果を意識することが唯一の答えなのかもしれない。とは言え、過去を振り返ると、世界金融危機のような大きなショックが生じた場合には、国内債券以外に対する投資は軒並みマイナスのリターンとなった。そうなると、国内債券の利回りがプラスになったと言っても、他の資産の大きなマイナスをカバーするには不十分なものにしかなり得ない。投資家にとっては、辛抱の求められる新元号の初年度になるのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/28~2/1

起債市場は閑散期に入った。この週も、月末を挟む週というタイミングであり、国内公募社債等で募集されたのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債と、社債が1社2回号のみであった。地方公共団体金融機構の起債は、定例年限の起債以外に、フレックス枠があり、更に、FLIPに基づく起債がある。フレックス枠が比較的まとまった金額の起債を、主幹事方式で行うのに対し、FLIPは予め指定されている証券会社が30億円以上の販売目処を持って、発行体と折衝して引受けるものである。定例の募集年限と重ならない年限で発行されることが多く、9年債など普通の公募普通社債等では見られない年限も少なくない。主に四半期の最初の月に募集されることが多く、そういう意味では1月の月例債が募集された後のタイミングで、23日に第453回9年債200億円と29日に第454回35年債50億円を募集している。FLIPの起債で200億円というのは、年間でもあまり多くない。なお、来年度はフレックス枠もFLIPも増額される方針である。

メーカーで公募社債を募集したのは、機械メーカーのTHKである。今回募集したのは、5年債と7年債各100億円である。海外で事業展開を行う連結子会社と決算期を合わせるために、2017年より3月期決算から12月期決算へと変更している。それが結果的に、このタイミングでの起債を可能にしたとも言える。同社が2月14日に公表するのは、12月期決算に移行して初めての年間決算である。今回の起債が第13回債と第14回債であるから、決してフリークエントイシュアーではない。今回がほぼ1年ぶりの社債募集である。格付けは、R&IとJCRの2社からA+格を取得している。

THKは1971年に目黒の不動前の近くで、寺町博氏が東邦精工株式会社を設立創業。工作機械部品、リンクボール、LMローラー、LMボールの販売を開始した、歴史の新しい会社で、1984年に現在のTHKという社名に変更している。比較的社名の変更タイミングは古いが、最近のアルファベット3文字の社名変更は、和製英語との狭間でいささか違和感を感じる。THKの場合も、旧社名の英文名称を略した形のようだが、最近のTVCMで盛んに流しているように、旭硝子は同様にAGCへ社名変更をしている。名は体を表すと言うように、社名が何を行う企業かがわかる方が望ましいのか、本業以外の新分野を開拓しようとするIR戦略の一環なのか、経営者の真意は様々のようだ。もっとも買収や統合の結果で、何の会社かわからなくなっているJXTGホールディングスという社名も、Wリーグ(女子バスケット)のチーム名によって「ENEOSの会社なんだ」と世の中に浸透している気がする。NY取引所のティッカーを決めるわけではないので、社名変更の場合はもっと強い「ブランド力」を意識した新会社名にしていくべきだろう。