国内起債市場を斬る 年度末特別号:起債年限を考える

最近の起債年限を見ると、一つの傾向として言えるのが、長期化である。特に、劣後債やハイブリッド証券について最終償還までを考えると、永久債であったり、数十年先の償還が設定されている。しかし、銀行・証券・保険といった金融関連の場合には、期限前償還の蓋然性(がいぜんせい)が極めて高い。クーポンのステップアップ要因に加えて、期限前償還しないことについて、監督官庁に対する説明が求められるからである。状況によっては、業務改善計画の提出が必要になるかもしれないのである。一方、事業会社の場合には、経営環境の変化等から再調達コストがどうなっているか次第で、期限前償還を見送られる蓋然性がないとは言えない。クーポンのステップアップ幅が不十分であれば、尚更であろう。万一期限前償還されなかった場合の信用評価を、業種全体の将来像を考慮して考える必要がある。しかし、言うまでもなく、それは極めて困難である。

年限の長期化は、低金利のメリットを長期間享受する発行体の調達ニーズに対して、低金利環境下でデュレーションの長期化で利回り確保を目指す投資家の購入ニーズ双方に対応する。一方で、信用プレミアムを取ることでリターンを上げる手法も投資家は選択できるが、ベースの利回りが低くなっているだけでなくマイナスになっている可能性もあり、投資妙味は極めて低い。特に、信用力に懸念のある発行体に対して、長い年限を与信するのは難しい。結果として、信用力と年限のバランスを考慮して投資対象を検討することが求められるのである。超長期の与信に適する発行体は、自ら業種や企業が限られるだろう。

近年の起債市場では、中途半端な5年前後の中期年限の起債が減少する一方で、従来あまり見られていなかった2年債や3年債といった短期債が目立ち続けている。2年債は、特に、財投機関債や高速道路会社債といった公共セクターでの募集が見られる。一方、3年債の募集のうち、かなりの物が、日銀による社債買入れオペを意識した起債であると考えられる。購入者は、セカンダリーになった瞬間から、日銀オペを意識する。つまり、本格的な保有目的の投資ではなく、ディーリングタッチの短期購入でしかない。これも日銀の金融緩和による市場の副作用の一つと考えられるのだが、既にETFやJ-REITの買入れとともに、社債の購入は目的と現実との乖離が大きくなっているように感じられる。

足元では、10年国債利回りの水準が大きく低下している。こうなると、10年債の国債対比スプレッドが形式的に大きくなる可能性があり、起債市場の受ける影響は小さくない。特に、4月は多くの企業や投資家にとって年度始めであり、投資家も期間収益を考えると、早めの買入れが望ましいと考える。しかし、為替市場や株価の変動に振らされている現状を考えると、新年度の起債市場への投資家の対応は、慎重にならざるを得ないかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/11~3/15

2018年度の起債募集シーズンは、ほぼ終わった。翌週に募集案件があるという観測も目にしているが、大勢は15日までに終わったと考えられる。しかも、11日の週に募集されたのは、公共セクターと保険持株会社の劣後債、個人投資家向け社債に、日本航空債といった顔触れであった。

公共セクターのうち、地方公共団体金融機構は定例の10年債及び20年債の募集であり、国債対比のスプレッドはほとんど変動がない。地方公共団体の減債基金や地方公民関連の共済組合等の安定した消化先があるだけでなく、構造的に全地方公共団体の共同ファイナンスという特性もあるために、信用力の評価も高い。同年限の国債よりも、スプレッドが上乗せされていることで投資価値は低くない。また、日本高速道路保有・債務返済機構は、非定例で20年債を募集した。募集金額が84億円と中途半端な金額である。

第一生命ホールディングスの劣後債は、SPCを用いず国内市場で直接発行という形では、T&Dホールディングスやかんぽ生命に続いての募集となる。永久劣後債であるが、10年目にコール可能な形式であり、実質的に10年債という理解の投資家も多かったことだろう。非金融会社の劣後債と異なり、期限前償還を選択するためには、金融庁の了解を得る必要があるので、よほどの環境変化や監督姿勢が変わらない限り、10年経過時点での償還は確実であると想定すべきなのだろう。10年債で1.22%クーポンと考えれば、十分に高い利回りである。少子高齢化の進む日本社会において生保ビジネスに翳りがあるのは否定できないが、海外展開等積極的に進めている第一生命グループに関しては、A-(JCR)格という評価なら決して低過ぎるということもないだろう。

個人投資家向け社債を募集したのは、イオンモールである。13日から募集しているが、5年向けの0.3%クーポンである。地方や国外では圧倒的なマーケティングパワーを有するイオンであるが、国内生保以上に少子高齢化の影響を受けていくのではないか。ショッピングモール発祥とも言えるアメリカでは、既にモールの衰退が顕著になっており、イオンモールのビジネスモデルにも、明らかに限界が来ている。個人投資家向けではやや長めの5年という年限であるが、ギリギリの年限設定と見て良いだろう。0.3%クーポンは低水準と言えるが、国債や銀行預金の利回りに比べると十分に高いのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/4~3/8

年度末まで1ヶ月を切り、社債の募集に適した期間も終わりに近づいているが、起債市場には大きな盛り上がりは見えない。以前から指摘しているように、金利の先高感がない中では、特に必要がなければ、このタイミングでの募集を選択する意義は乏しい。ベースとしての金余りが続いており、企業側の資金調達にとってはこの週に起債するインセンティブは乏しいのである。昨年の夏から秋の金利上昇も、米国の金利引締めに向けた動きや欧州での金融緩和解除の動きから、日本だけが低金利を維持できないという背景があり、他律的な金利上昇であった。足元では、米国の利上げが停止されるという観測が高まり、欧州の金融緩和解除も先送りになるという観測が高まっており、日本の金利環境に変化が訪れるとは、ほとんどの市場参加者は予測していない。従って、この3月に慌てて起債する必要などないという筋書きは変わっていない。

この週の起債は、中日本及び東日本高速道路、製紙メーカー持株会社の北越コーポレーション、地銀持株会社のコンコルディアホールディングス劣後債、スポーツ用品メーカーのアシックス、九州電力、化学品及び食品のメーカーであるADEKA、東海及び東日本旅客鉄道、三井不動産、東京建物の劣後債といった顔触れである。本数と言う意味では、引続き、5年債が多いのだが、北越コーポレーションは0.22%クーポン、アシックスは0.2%クーポン、九州電力は0.24%クーポン、ADEKAは0.18%クーポン、三井不動産は0.16%クーポンと、0.2%前後の利回りのものが多い。唯一、東日本高速道路は、信用力の高さから0.07%クーポンと突出した低利回りである。その他に、中日本高速道路は0.001%クーポンでオーバーパーの2年債、JR東海も0.02%クーポンの2年債を募集している。

これらの対極に位置するのが、超長期債であろうか。JR東日本は0.782%クーポンの30年債と0.997%クーポンの40年債を募集した。その他に、九州電力も0.788%クーポンの20年債を募集している。電力・ガスと鉄道は超長期債の常連であり、業種特性からも相応しいものと考えられている。一方で、東京建物の劣後債に関しては、コールされずに超長期債の最終償還まで保有を迫られた場合の信用リスクは大きい。不動産業に対する37年債や40年債の与信は、かつてのバブル経済の崩壊等から30年も経過していない歴史を考えると、最初のタイミングでのコールを前提とせざるを得ない。それでも、最初の償還までは7年もしくは10年であり、不動産業に対する与信という意味では、期間が長い。同日に募集された三井不動産のシニア債だと、7年債のクーポンは0.28%で、10年債のクーポンは0.38%である。同社がJCRから取得した格付けは、AA格である。劣後性を考慮した東京建物のハイブリッド債の格付けは、JCRのBBB格と6ノッチも下である。37年債の当初7年のクーポンは1.66%で、40年債の当初10年のクーポンは2.15%である。利回りとしては明らかに高いのであるが、BBB格の不動産業者に対する長過ぎる与信ではなかろうか。40年債はグリーンボンドの認定も受けているが、それが投資家の主な購入理由になると言うのも、不自然な判断であることは隠せない。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/25~3/1

いよいよ年度末も近い。金曜日が3月1日なので、週央よりも、月が変わってからの方が動きは多い。ボーナスシーズンでもないのにクレディセゾンやオリックスといったノンバンクによる個人投資家向け起債の条件決定がなされた事に違和感を覚える。しかし、低金利が続く中で個人投資家の社債購入意欲は小さくないはず、ということで発行体も証券会社も狙ったのであろう。もっとも、クレディセゾンは、みずほフィナンシャルグループと距離を置く趣旨の報道が見られており、個人投資家向けでも10年債というのは、同社の今後のビジネス展開を考えると、慎重に取組むべきだろう。

それ以外の機関投資家向けの起債は、多彩であった。しかも、必ずしもフリークエントイシュアーではない発行体が多く、レア物起債が目立つ展開となった。住友林業は、事業ウェイトとしては住宅関連が大きいとは言え、林業を冠するメーカーである。5年債と10年債を募集し、今回は第7回債と第8回債である。オリンパスの5年債は第23回債と回号は小さくないが、2011年には粉飾決算で上場廃止の危機に瀕し、2017年には起債市場に復帰したものの、昨年11月の起債準備時にも内部告発を受けた株価急落から募集を見送った発行体である。投資家の発行体に対する不信は小さくない。

自動車部品メーカーのフタバ産業は、5年債と10年債を募集しており、第2回債と第3回債である。また、JR九州が10年債と30年債を募集しているが、第1回債と第2回債であり、初の公募社債募集である。同様に、大塚ホールディングスは、5年債・7年債・10年債の3本立てを募集しており、これらが第1回債~第3回債である。そういう意味では、デビュー銘柄の多い起債市場であったと言えよう。

また、この2月1日にドンキホーテホールディングスからパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに社名変更したため、同社の3年債・7年債・10年債の3本立ての起債は第15回債~第17回債と回号は多いものの、レア感が強い。社名変更については、2月4日の弊稿でも触れたが、環太平洋を征するという経営戦略は感じるものの、競泳の国際大会を連想させる「パンパシ」で、投資家へのブランド戦略は成功するのであろうか。

その他にも、豊田通商や、あおぞら銀行、京成電鉄といった起債頻度の多い銘柄も社債を募集している。年度内の募集に適した期間も、概ねあと2週間程度である。既に、鉄道や不動産といった銘柄の起債観測が上がっており、ハイブリッド債の募集予定も公表されている。この金利先高感が皆無の環境下で、やや盛り上がりに欠ける展開になるかもしれないが、2018年度の起債市場は、いよいよラストスパートである。