国内起債市場を斬る 起債評価:4/15~4/19

4月の起債は、年度初めラッシュが一段落すると、少し落ち着く傾向にある。特に、決算の発表が近付くと、例年は動きが乏しくなるのだが、今年の場合には、ゴールデンウィークが十連休とかつてない規模の休みとなるために、動きにくくなっている。仮に、22日の週に起債条件を決定したとしても、払込みが連休明けとなると、単に2週間近く後になるというだけでなく、その間に、米FOMCや雇用統計の発表など、大きなイベントがある。日本のように証券市場が1週間以上休む先進国はないが、5月1日をレイバーデー等として休む国は、スイスや中国、香港、シンガポール等少なくない。その他の欧米では市場が機能しており、当然、為替の取引は行われる。海外で上場されている債券や株式の先物取引は可能であり、日本市場が潜在的な影響を受けることは不可避である。つまり、十連休の間の市場リスクは、発行体も投資家も負いたくないのである。年末年始も年によっては五連休を越えるが、程度こそ違うものの、欧米等も年末年始なのである。ほかの先進国で市場が開かれているのに、日本のみが長期の休場になるのは、極めてレアな事象である。

前週に続いて、年度初めの起債はやや大型案件の目立つ展開となった。ソフトバンクグループ債のような化け物はないものの、東京電力パワーグリッドは5年債400億円・10年債500億円・15年債300億円の計1,200億円を募集しているし、KDDIも5年債300億円・7年債300億円・10年債400億円の計1,000億円を募集している。公共セクターでも、東日本高速道路が5年債400億円・7年債200億円・10年債300億円と計900億円を募集し、日本高速道路保有・債務返済機構も40年債を一般的な年2回利払債500億円と利子一括払債200億円の計700億円を募集している。この4つの発行体だけで、債券の総募集額は計3,800億円と巨額になる。

民間二社の巨額の募集はいずれも興味深い。東京電力パワーグリッドについては、必ずしも全ての投資家が投資対象としておらず、未だに東日本大震災と福島第一原発事故の影響を懸念する声は残る。しかし、事故から8年が経過し、超長期を要する原発の事故処理が淡々と進められる中で、金利水準そのものが日銀による強力な金融緩和で低位に抑えられているため、利回りを欲する投資家は食指を伸ばすことも考えざるを得ない。今回募集された10年債はクーポン1.02%・15年債のクーポンは1.31%と十分に高い水準にある。前日に募集された電源開発の30年債が1.146%クーポンであったことを考えると、東京電力パワーグリッドを毛嫌いしていた投資家も、考えを改めざるを得ない。実際のところ、投資家の需要はかなり強かったようである。

もう一つの発行体であるKDDIは、頻繁に起債する企業ではない。しかし、今回の起債の背景には、5G(第5世代移動通信システム)の規格化が迫る中で、基地局の設備更新や投資を迫られるのがキャリアである。既に、米国と韓国ではこの4月に5Gの商用サービスが開始されており、日本でも2020年の開始が予定されており、負担感は決して小さくない。現在の格付けはR&IのAA-格であるが、10年債の国債対比+39bpsというスプレッド設定は、10年国債の利回りがマイナス圏に沈んでいることから割引いて考えても、厚めの水準であった。なお、R&IでAA+格を取得している東日本高速道路の10年債は、国債対比+24.5bpsのスプレッドで条件決定している。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/8~4/12

年度初めの起債は、発行体側から見れば早期の資金調達実現である。一方、投資家側から見れば、早期の投資実行であり、期間収益という意味からは、なるべく早い時期での債券購入が、利息収入に繋がる。つまり、早期の起債に対しては、需要と供給がマッチする傾向にある。一部の投資家には、4月早々には体制が整っていないとか、年度方針が固まっていないとかの理由で、年度始すぐには動かない例もあるが、基本的にはもったいないことであり、投資機会を逸していると見るべきだろう。もっとも多くの投資家が早期に債券を購入しようとするならば、スプレッドはタイトになる可能性があり、無理してまで購入すべきでないというのもごもっともである。

この週に条件決定された起債で最大の金額であったのは、ソフトバンクグループの個人投資家向け6年債5,000億円である。JCRでA―格という評価は既に無視してよいのかもしれない。クーポンは1.64%に設定されており、同日に機関投資家向けに募集された三菱地所の50年債の1.132%クーポンをはるかに上回る。スマホやADSL等通信関連でユーザーを押さえており、TVCMの出広量も多いことから、知名度は高い。クーポンが高いだけでなく、証券会社に支払う引受手数料も1円25銭と、個人投資家向けという顧客管理の要素を考慮しても、極めて高い水準にある。つまり、投資家にとっても引受証券にとってもハッピーな起債であり、唯一、高水準な利息を支払っているということなのだから、株主の利益が毀損されているのである。しかも、過去の経緯からは機関投資家は、ソフトバンクグループ債に積極的な投資姿勢を見せていない。それは、個人投資家が保有債券の時価評価を求められないのに対し、機関投資家の多くが、バイアンドホールドを意図していても、保有債券は時価評価を求められるからである。業態特性から通信障害等の発生といったヘッドラインリスクが高いだけでなく、元々、M&Aによる信用力の変化が大きいことにある。つまり、企業分析や業界分析だけでは、保有債券の価値が保全できないのである。したがって、同社が個人投資家向けの大量起債を行うのは、理に適っていて、某大手証券のセールスからは小職にも早くから電話でのセールスに来ていた。

もう一つの大型起債が、ブリヂストンによる5年債500億円・7年債500億円・10年債1,000億円の3本立て計2,0000億円である。マーケティング当初は、もう少し少な目の起債額が言われていたものの、投資家の強いニーズから各年限とも増額されている。近年の大型起債では、M&A絡みのものが多いが、今回はそういった資金使途ではないようだ。足もとでは10年金利が回復しつつあるものの、未だにマイナス圏で推移しており、ブリヂストンの10年債も国債対比+43bpsのスプレッドで、クーポンは0.375%である。R&IでAA格と高格付けであるが、より高格付けな公共関係の債券が低クーポンになっているため、相対的には投資妙味があると受入れられたようである。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/1~4/5

2019年度の起債シーズンは、10年長期国債入札とともにはじまった。しかも、週初めに新しい元号の発表があり、いよいよ新時代への胎動もはじまっている。年度の初めに動き出すのは、公共セクターと電力、ノンバンクというのが、定番である。この週も、東北電力、電源開発、関西電力、中国電力と電力が続き、日本政策投資銀行と住宅金融支援機構の財投機関債が募集している。

この二つの財投機関債は、年度の初めから複数本立ての大型起債となった。日本政策投資銀行は、3年債200億円、5年債250億円、10年債350億円、20年債100億円、40年債350億円と5年限で計1,250億円の募集である。それに比べると、住宅金融支援機構の5年債350億円、10年債100億円、20年債250億円と3年限で計700億円は小さく見えてしまう。しかし、金利低下の影響を強く受けたことで、10年債のクーポンはいずれも0.135%でしかない。40年債ですら0.81%クーポンと1%に満たないのであるから、投資家の購入意欲も高まり難い。

ノンバンクでは、トヨタファイナンスが3年債300億円と5年債600億円の計900億円、三菱UFJリースが5年債200億円と10年債100億円の計300億円、クレディセゾンが20年債120億円、オリエントコーポレーションが5年債50億円と7年債150億円の計200億円、三井住友ファイナンス&リースが5年債200億円と10年債100億円の計300億円が募集されている。ノンバンク全体では、総計1,820億円の募集である。ノンバンクの事業特性を考えると、クレディセゾンの20年債はやや年限が長過ぎるだろう。特に、個社事情としては、みずほフィナンシャルグループとの包括的業務提携関係を解消することで合意しており、今後UCカードの分離が予定されている。クーポンは1%と高水準であるが、A+(R&I)という格付けだけで投資評価を行うべきではないだろう。

多く見られたノンバンクの起債のうち、トヨタファイナンスの5年債とオリエントコーポレーションの5年債は、いずれもグリーンボンドの認定を得ている。奇しくも両案件とも今年の1月に起債環境の変化から募集を一旦見送っていたもので、その後の株価の回復や金利水準の低下を受けて、年度初めの再チャレンジとなっている。ノンバンクの発行するグリーンボンドというのは、「金に色はない」という前提に立ち返り、日本の社債は基本的に発行体の全財産に対する請求権であることを考えると、何度も述べるように単なる名分にしか過ぎないのであり、投資家は決して割高に買ってはならないのである。

国内起債市場を斬る 新元号特別号:2019年度の起債市場を展望する

この4月からはじまる年度は、途中で元号が「令和」に変わるために、平成31年度と称するのは適切でないだろう。4月1日に新元号が公表されても、実際の適用は天皇陛下が退位されてからであるから、最初の1ヶ月は平成31年度である。これで元号よりも西暦の使用が一般化するとも思えない。先進国で元号を使用している国は他にないが、それ以外の国であれば、イスラム暦を使用していることもある。キリスト教由来の西暦を必ずしも唯一の世界標準とすべきではないという説もある。元号も切換等面倒であるのだが、時代の区分という意味でも存在意義はあると思える。かつて吉祥が現れたり、天変地異が起きたりしたことを改元の理由としたのも、無理はない。一世一元を制度化したのも、日本は明治以降だし、中国でも明清の時代である。

2019年度の起債市場を占うには、まず、前提としての金融環境を考える必要がある。ベースとしては、日銀の金融政策を展望することになる。昨年後半に見られた金利の先高感は、米中の貿易摩擦拡大とそれに伴う両国経済のみならず世界経済全般の失速感から、既になくなっている。欧米の景気は、今年度後半は横這いか下向きの可能性すら懸念される。こういう周辺環境で日本経済のみが強いことは考え難い。消費税率が10月に予定通り引上げられたとしても、そのことだけで金利が上昇するとは思えないのである。結局のところ、2019年度に大きな経済成長は期待できないし、日銀の金融政策に大きな変更がないと考えるならば、金利の大幅な上昇はないという見通しになる。欧米が金融緩和の見直しを停止して万一緩和に逆戻りした場合にも、日本が緩和を強化こそすれ、引締めに転じられる可能性は低い。金利は概ね横這いと見込むとして、信用スプレッドは欧米の景気後退が顕著になれば、拡大する展開も考えられるが、投資家が購入意欲を強めると、縮小することもあろう。したがって、発行体の調達意欲が高まらない限り、淡々とした社債募集が続くのではなかろうか。

発行体の調達意欲を左右する要素として、金利の先高感がないとすれば、それ以外の要因に注目すべきである。一つには、企業が資金調達を大規模に行うのは、M&A絡みである。既に新年度早々にも、武田薬品の大規模な起債が予定されており、今後もこういった感じで起債が行われることになろう。したがって、必ずしも季節性はない。年度の初めや四半期の頭に、公的セクターや電力等の募集は集中することになるが、M&A絡みの大型起債は別であろう。

投資家側の行動を考えると、期間収益を確保する観点からは、なるべく早めに投資したいだろう。金利の上昇による評価損の拡大が起こり難いと考えるならば、年度初めこそが投資の好機である。発行体側とは相容れない着目点であるから、年度初めの方が投資家の需要は集まり易いために、スプレッドはタイトになる可能性がある。結局のところ、募集のタイミングに関しては、発行体による決算の発表や株主総会等の要素に左右されることになり、それらのスケジュールについては、例年と大きく異なることはない。なお、今年のゴールデンウィークは10連休が予定されているが、従来から決算発表の時期であるために。社債の募集は必ずしも多くない。今年は、ゴールデンウィーク近辺だと債券募集と払込の間が不必要に空く可能性もあり、4月22日の週は債券募集があまり見られないのであろう。