国内起債市場を斬る 夏季特別号:投資対象としての国立大学債

国債以外のいわゆる一般債を投資対象として考える際に、民間企業の発行する社債とそれ以外の公共セクターの債券に分けて考えることが一般的である。公共債と呼んでしまうと国債も含むため、公共セクターの債券と称してみたが、近いうちに新しい公共セクターの債券募集が行われる可能性がある。

公共セクターの債券が社債と大きく区別される点としては、まず、発行体が営利目的の法人であるかどうかであり、もう一つが倒産処理や政府等によるサポートの程度であろう。純粋な民間企業が発行体である社債であれば、企業は営利目的の法人であり、社債の募集は設備等の投資や債務の借り換え等が調達目的であり、相対的に機動性の低い社債で資金繰りを図ることは考え難い。社債の発行企業が破綻した場合には、多くは民事再生や会社更生等の手続きを経ることになるが、金融機関や一部の運送会社、電力会社等に対しては破綻前から後に公的サポートの行われる可能性が高い。破綻処理が行われた場合に国民生活に及ぼす影響の大きさや、料金や事業に対しての認可等公的関与の大きさによって、公的サポートの要否が判断されるのが過去の事例である。単純な破綻処理が行われない企業の社債には、少なからず公共性があると考えることが出来る。

一方、営利を目的としない公共セクターの発行する債券は、社債ですらない可能性が高いし、事業の継続が困難となったとしても単純な破綻処理となる可能性は高くない。むしろ公的サポートが行われ、法人に対する支援や統合によって債務を守る可能性が高い。そもそもが営利を目的としない発行体が債券を募集するということは、損益に基づく事業判断には関係ないし、資金繰りで返済が困難に陥ることは想定されないのである。

今年度中にも債券の募集が予定される国立大学法人債の位置づけを考えると、発行体は非営利法人であり、教職員が準公務員的存在とされるなど、公的性格が強い。収益性の追求は求められないために、むしろ公的サポートの程度を予想することが債券の償還可能性を左右するものと考えられる。国立大学法人の場合には、文部科学省の管轄下にあって営利を追求せず、官僚になるかどうかを問わない学生の教育、必ずしも営利を目的としない研究、様々な政策検討場面への支援を行っている。十分に公共性が高い。財投機関債を募集する独立行政法人の一部には、営利性を伴う事業を営む法人もあるが、公共的役割や公的サポートから市場で違和感もなく受け入れられており、国立大学法人債も同様に受け入れられるだろう。

国立大学法人債の信用力としては、既に格付けの取得が発表されている東京大学の場合には、R&IのAA+格及びJCRのAAA格と日本国債と同じ符号が付されている。近年は大学法人や学校法人の合併、買収も見られていることから、債券の破綻処理が行われる可能性は低いと考えて良いだろう。他の国立大学法人についても、債券の募集を追随するかもしれない。更なる将来を考えると、民間の学校法人が債券を募集することはあるだろうか。在校生の保護者等に対する「学債」の募集は既に見られているが、関係者以外の一般投資家への募集はどうだろう。これまでの私立学校法人による格付けの取得は、資金調達目的というよりも、学校法人のステータス、財務的な安定性を示す指標として使われて来た。少子高齢化が進み学生数の減少が懸念される中で、学校法人による格付けの取得や債券の募集による資金調達が拡大するかもしれない。今後の市場拡大に注目してみたい。