国内起債市場を斬る 起債評価:2/15~2/19

ようやく年度末に向けた民間企業の起債がはじまった。少し長期から超長期の年限については、新型コロナウイルス感染の拡大が落着き、ワクチンの接種開始、株高といった諸要因から、金利水準の変化が見られるものの、10年の国債利回りを日銀がコントロールしていることもあって、顕著な先高感はない。発行体側から見て、慌てて起債する必要もないという感覚なのだろう。例年と比較しても、やや淡々とした年度末に向けた起債の動きである。

この週の起債の特徴としては、まず、サステナビリティボンドを挙げることが出来よう。日証協はSDGs債として、グリーンボンドやソーシャルボンド等と括る動きであるが、様々な基準が乱立している感は否めない。グリーンボンドは環境、気候など外部からも見え易い要素であるのに対し、ソーシャルボンドはややカバーされる対象が広く曖昧なところがある。それらに対し、逆に開き直った感のあるサステナビリティボンドは、国連のSDGs目標と連携して理解しやすいものでもある。しかも、国連によって17個の目標が設定されていることもあって、グリーンやソーシャルを含む広い範囲を包含できる可能性がある。そもそもがラベルを貼ることによって、投資家も発行体も引受証券もがWin-Winになるための取組みであるから、基準を統一するというよりは、様々な基準とラベルが乱立している方が望ましいのだろう。

この週に募集されたのは、野村不動産ホールディングスと日本ハムの10年債各100億円であった。ちなみに、日本ハムの10年債がサステナビリティボンドの認定を得たのは資金使途が、傘下の日本ハムファイターズが予定する北広島市での新球場建設資金である。確かにSDGsの目標に適ったものではあるが、これでサステナビリティボンドとなるのであれば、認定されない資金使途は少ないのではないか。そもそも、お金に色がない以上、借入れやCP、社債の借換資金だって何らかの理由を付けることが可能であろう。

サステナビリティボンド以外では、阪急阪神ホールディングスが5年債・10年債・20年債の3本立てで計500億円を募集している。CPと社債の償還資金に充当するとされているが、資金使途を甲子園球場の整備等阪神タイガース関連と主張してしまえば、サステナビリティボンドとしての認定を受ける余地はあろう。同社はサステナブル経営を宣言しており、無関心な発行体ではない。認定を受けるのに必要な手数料を惜しんだか。そもそも社債で調達した資金使途が、募集時の追補目論見書通りであるかどうか外部から検証する方法はない。

なお、これら一般の公募普通社債以外に、ヤンマーホールディングスがプロボンド市場で5年債50億円を募集している。国内の民間企業の利用としては、市場の胴元である日本証券取引所グループ以来の利用例となるが、1億円単位で機関投資家しか購入できないほとんどの公募普通社債は、開示等の面からもプロボンド市場の活用を考えて良いのではないか。代表的な市場インデックスに算入されないという欠点はあるものの、そのことは社債の消化に際して致命的な欠陥とはならないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/8~2/12

この週も引続き、民間企業による通常の社債募集は見られない。募集されたのは、いわゆる公共債ばかりである。まず、地方公共団体金融機構が10年債を募集している。定例の毎月行われる募集という感はあるが、他の月は20年債や時に5年債などと同時に募集されることが多いため、10年債が単独で募集されるのを珍しく感じる。1月に募集された第140回の10年債が0.125%クーポンであったのと比べると、今月の第141回債は0.15%クーポンとわずかながら利回りが上昇している。地方公共団体金融機構債は、厳密な意味での財投機関債ではなく、むしろ地方公共団体が共同で設立した機構の発行するスーパー地方債ともいうべき存在である。共同発行地方債と異なるのは、全都道府県及び市町村が関与した機構による募集であるというくらいか。地方公共団体金融機構は、定例の債券募集の他に、外債やFLIPに基づく随時の債券発行、地方公務員共済組合関連の投資家向け縁故債と幅広い債券発行のバリエーションを有しているのも強みである。

残りの公共債は、道路関係の債券ばかりである。高速道路運営会社で債券を募集したのは、阪神高速道路の4年債300億円と、首都高速道路の5年債200億円である。いずれも日本高速道路保有・債務返済機構による併存的債務返済条項が付されており、結局のところは、財投機関である日本高速道路保有・債務返済機構が連帯して債務を負担するために、同機構の信用力に帰するものである。なお、いずれも大都市圏での高速道路運営会社であるが、阪神高速道路はR&IのAA+格しか取得していないのに、首都高速道路はR&IのAA+格の他、ムーディースのA1格とJCRのAAA格を取得している。東日本高速道路や、中日本高速道路、西日本高速道路と同じような格付取得形態であり、特にJCRからのAAA格取得は、一部の投資家にとって意味がある。

高速道路の保有主体である日本高速道路保有・債務返済機構は、31年物の財投機関債を募集している。利子一括払いという同機構では、おなじみの債券形態である。期間損益を認識する企業会計を採用している投資家には意味ある利息収入であるが、償還と同時の利息支払時点までは未収利息であるため、現実のインカムをキャッシュで受け取りたい投資家にとっては、不向きな債券である。31年債と言っても、クーポンは0.934%と決して高水準でなく、通常の利払いを受けたとしても決して大きな金額にはならないが。こうした債券も、発行体が現金主義を意識していれば、償還と利払時点まで資金流出がないのであり、投資家と発行体との重視する会計方針の違いをうまく利用した起債と言えなくもない。1千万円という投資単位からも当然であるが、個人投資家が購入することはできず、投資家は指定金融機関等に限定されている。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/1~2/5

民間企業による通常の社債募集は見られない。この週で募集されたのは、公共債と劣後債のみである。公共債で募集されたのは、都市再生機構の40年債、西日本高速道路の5年債、中部国際空港の5年債及び10年債、大学改革支援・学位授与機構の5年債、住宅金融支援機構の15年債といった顔触れであった。

同じ5年債であっても、株式会社形態の発行体である西日本高速道路と中部国際空港の債券は0.06%クーポンであるのに対し、大学改革支援・学位授与機構の債券は0.03%クーポンと半分の水準である。もっとも大学改革支援・学位授与機構が債券を募集する頻度は年に1回程度であり、今回は85億円と小額の募集である。文部科学省傘下の団体や学校法人等の購入で十分に消化できる規模であろう。一方、西日本高速道路の5年債は、800億円と大型の起債であった。

都市再生機構は40年債を募集し、住宅金融支援機構は15年債と、いずれも超長期年限の債券を募集している。ほぼ1年前にR&Iの格付けがAA+格と国債と同水準になった都市再生機構は、40年債のクーポンが0.862%と1%を下回る。決して投資妙味が高いとは言えない水準であるが、ある程度の水準の利回りを得るためには、こういった債券の購入も必要だろう。しかし、今後40年間に都市再生機構の業務内容が見直され、位置付けが変わることはないのだろうか。住宅金融支援機構の15年という年限ですら、同様の懸念を免れない。格付けは決して超長期の体制や役割の変更を保証してくれるものではない。

劣後債で募集されたのは、三井住友海上火災保険の60年債と東京建物の40年債である。いずれも10年経過以降に期限前償還が可能となる。期限前償還を前提として10年債として比較すると、R&IのA+格である三井住友海上火災保険は1.02%クーポンで、JCRのBBB格である東京建物は1.13%クーポンである。格付水準と比較しても、また、発行体の事業特性に基づく期限前償還の確実性から考えても、三井住友海上火災の劣後債の方が有用だろう。発行額は三井住友海上火災保険の1,000億円に対し、東京建物は400億円と小さい。東京建物の劣後債は、サステナビリティボンドの認定を得ているが、そのことは決して信用力を向上させるものではない。

都市再生機構の40年債はソーシャルボンドの認定を得ており、住宅金融支援機構の15年債はグリーンボンドとなっている。いわゆるSDGs債に含まれる債券には色々な種類があるが、民間企業の社債で起債観測の上がっているものは、サステナビリティボンドの認定を予定しているものが増えている。未だにグリーンボンドだソーシャルボンドだと言って募集している公的セクターの取組みは、やや時代遅れなのかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/26~1/29

相変わらず、起債市場はノンバンクと劣後債が、募集の多くを占めている。ノンバンクで募集されたのは、日立キャピタルの3年債とイオンフィナンシャルサービスの3年債及び5年債である。いずれも日銀買入れの適格年限のみの募集であって、前者は日立の名前を残しているものの、既に三菱UFJフィナンシャルグループの傘下であり、後者はイオングループに属している。結局のところ、オリックス等幾つかの例外を除いて、ほとんどのノンバンクは何らかの母体企業もしくはグループに所属していないと、安定したビジネス基盤を確保できないようである。もっとも、新型コロナウイルス感染症の影響による業績低下の影響が、母体企業やグループ企業の所属業種に大きく及ぶ場合には、関連ノンバンクも無傷ではいられない。そういう観点からも、中期年限の社債しか募集できないのかもしれない。

劣後債を募集したのは、三菱地所とソフトバンクグループである。どちらも過去に発行した劣後債をリプレイスする目的の起債で、新顔の発行体ではない。三菱地所が募集したのは、最終償還60年債が2本で、800億円の一つは5年経過時点以降に期限前償還が可能になり、350億円の方は12年経過時点以降に期限前償還が可能になる。変動利付になってからのクーポンはいずれもステップアップが予定されており、期限前償還のインセンティブが担保されている。しかし、期限前償還を前提にすることと、劣後債に資本性を認めることは、矛盾を孕んでいる。そのため、今回のように同様の劣後性調達によってリプレースすることが求められるのである。

ソフトバンクグループの劣後債は、1,770億円と巨額の募集である。最終償還35年債で、5年経過時点以降に期限前償還が可能になる。変動利付になってからは、財務省の公表する国債金利情報に連動して上乗せが決められることになっており、Libor金利廃止へに向けた一つの対応策を示している。前述の三菱地所債の変動金利は、Liborへの上乗せで規定されており、Libor廃止に対応したクーポン決定に関する詳細な規定が付随している。果たしてどちらが投資家にとって理解し易いだろうか。必ず期限前償還するのであれば、適用されずに終わってしまうものなのだが。

ノンバンクと劣後債以外の社債では、光通信が5年債・10年債・15年債の3本立てを募集した他、いすゞ自動車が5年債と7年債とを募集している。光通信は、以前より随分と格付けを回復しており、R&IのA-格及びJCRのA格という評価である。果たして15年後の光通信という会社がどうなっているかイメージできるだろうか。15年債のクーポンは1.38%であり、三菱地所の期限前償還12年債の当初クーポン0.97%を大きく上回る。利回りの高さは投資対象として魅力的に映るが、発行体の将来性に疑問がない訳ではない。格付けの有効期間を3~5年と考えるならば、投資家の持つ業界及び個社に対する鑑識眼が問われることになる。