国内起債市場を斬る 起債評価:7/26~7/30

7月最終週の起債市場は、東京オリンピックが開催されているためか、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が増加し在宅勤務が増加しているためか、条件決定し募集に至る動きが乏しくなった。国や東京都からのテレワーク要請を受けて在宅勤務が増えているのは、投資家や引受証券だけでなく発行体もなのである。一昨年までとは全く異なる市場環境であり、昨年の7月下旬はやや感染に対する懸念が薄れ始め、7月22日から東京都を除いてGo Toトラベル事業が開始された時期であった。昨年7月の最終週も民間企業による社債募集の動きは見られず、公的団体による債券の募集のみであったから、時期的に閑散であるという要素も否定できない。他の時期なら社債等の募集が集中する金曜日も、この週は住友不動産による募集のみであった。

住友不動産が募集したのは、第110回10年債100億円である。同社の格付けは、R&IのA+格及びJCRのAA-格となっている。古くからクレジット市場を見て来た人間にとっては、感慨深いものがあるかもしれない。今から21年前の2000年1月に同社の格付けを、R&IがBB+格に引き下げていた。同社による公募普通社債は、前年の1999年5月から数年間にわたって、ほとんどが個人投資家向けであり、機関投資家向けのものも含め、例外はあるものの社債管理会社が付されたものばかりであった。機関投資家から社債管理者不設置債で資金調達できないために、個人投資家中心に資金調達を行っていたのである。他に金融機関からの借入れもあっただろうが、機関投資家には頼らないというスタンスを示した発行体である。その後の格付けの回復は見てのとおりであり、「投資不適格」というレッテルが必ずしも適切ではないことを端的に示した実例なのである。なお、償還まで1年以上の期間がある残存社債のうち、もっとも古くに募集された第89回債は2013年に募集された10年債であり、クーポンは1.098%と、今回の第110回債の0.26%から比べると、4倍以上の高い水準である。

今回の社債発行によって調達した資金は、不動産賃貸事業の新規開発投資に充てるものとされており、最近流行しているESG関連の資金使途とはされていない。しかし、だからと言って、住友不動産がESG経営に消極的ということではない。同社のHPを見ると、浮利に趨(はし)らず以下の「住友の事業精神」が基本使命・行動指針として掲げられ、以下、サステナビリティ体制、SDGsへの取り組みと説明し、更に、E・S・Gの3要素について各々の取り組みを紹介している。つまり、決してESGを意識していないどころか、東証一部上場企業に相応しくESGを十分に意識した経営を行っている企業である。同社は、FTSEが算出するFTSE Blossom Japan Indexの構成銘柄であり、十分にグリーンボンド等SDGs債の発行を検討しても良い発行体であると考えられる。