国内起債市場を斬る 起債評価:11/15~11/19

やや発行体業種に偏りがあるものの、漸く民間企業の社債発行が増えてきた。前の週と同様に、公的セクターと電力、SDGs債という三つのキーワードでかなり多くが説明できてしまう。

公的セクターとしては、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく5年債を60億円募集した他、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が10年債150億円および20年債90億円の財投機関債を募集し、更に、東日本高速道路が5年債200億円・7年債200億円・10年債300億円の計700億円の社債を募集した。東日本高速道路の募集する社債は、財政投融資計画と直接リンクしないため社債に分類されるものの、日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されており、結局は財投機関債発行団体である日本高速道路保有・債務返済機構の信用リスクとなるため、実質的には財投機関債と同程度の信用力を有すると考えられることから、公的セクターに含めて扱われることに異論はないだろう。公的セクターの募集する債券は、いずれも国債対比のスプレッドは薄い。

この鉄道建設・運輸施設整備支援機構の募集した債券は、いずれもサステナビリティボンドとしての認証を得ており、それ以外にも、荒川化学工業の5年債50億円およびイオンモールの募集した債券のうち5年債200億円が、サステナビリティリンクボンドとされている。サステナビリティリンクボンドは、いずれも、予め設定されたサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)を未達成に終わった場合、所定(元本額の0.2%もしくは0.3%相当)の寄付を発行体が約束するものである。サステナビリティリンクボンドの形態は、概ねSPT未達の場合に発行体が寄付を約束する形のものが定番になって来たようだ。寄付を実行しなかった場合の具体的なサンクションは不明であるが、資本市場における信用を失墜することになるのだろう。投資家は発行体に対してサステナビリティを意識した経営の実行を求めるものの、固定利付である債券の特性を考えると、SPT未達の場合にクーポンがステップアップする等投資家に直接のメリットがなくても構わない。むしろ管理上は、クーポンや償還元本が購入当初から変更される方が、面倒かもしれない。

最後の特徴が電力関連の起債である。前週に中部電力が半端な17年債を募集していたが、この週は東北電力が10年債200億円および20年債100億円を募集し、一般担保条項を付すことができないものの、火力発電、再生可能エネルギー、ガス・LNGを事業とし、東京電力フュエル&パワーと中部電力が半分ずつ出資している株式会社JERAが5年債400億円及び10年債300億円を募集している。50%ずつの出資というだけであれば、親会社から切り離し子会社だけ倒産処理を行うことが法的には可能かもしれないが、東京電力ホールディングス及び中部電力の傘下にある全火力発電所を保有し運営している発電会社であるために、JERAなくして電力の送電も小売も成り立たない。JERAの格付けは、R&IでA+格と中部電力と同水準であり、JCRでAA-格と中部電力を1ノッチ下回る。なお、東京電力フュエル&パワーは格付けを取得していないが、持株会社である東京電力ホールディングスの100%子会社であり、持株会社の格付けはR&IのA-格及びJCRのA格である。基本的に信用力が高い方の親会社に引っ張られていると見て良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/8~11/12

引続き、民間企業による社債発行の動きは鈍い。起債観測は色々と聞こえて来ているので、発行体側の資金調達意欲が低下していることはなく、また、米国の金利上昇懸念はあるものの、日本において日本銀行が管理している10年以内の金利水準に見直しは想定されないため、急いで資金調達に走る動きがないものと考えられる。決算発表を乗越え、12月に向けて徐々に社債等の募集が増えて来るものと考えられる。この週では、淡々と公的セクターによる債券募集は続く中で、それ以外の民間企業による社債もようやく募集が始まっている。

まず、公共セクターでは、前週に引続き、地方公共団体金融機構が債券を募集している。前週の30年債は年間の募集回数が限られた年限であり、この週に募集されたのは、同様に募集回数の少ない5年債150億円と毎月募集される10年債300億円である。「スーパー地方債」とも呼ばれる同機構債は、地方公共団体の減債殺基金や地方公務員関連の共済組合等安定的な消化先が少なくなく、デフォルトとなる可能性が低いことから持ち切り運用に適した対象と考えられている。純粋な財投機関債としては、住宅金融支援機構が10年債300億円・15年債100億円・20年債150億円・30年債300億円の計850億円を募集している。20年債のみグリーンボンドの認証を得ているが、機構の果たす役割や期待されるミッションを考えると、認定を取って全体をソーシャルボンドとすることに違和感はないだろう。既に、都市再生機構は2020年8月のソーシャルファイナンス認定取得以降の起債をソーシャルボンドとしており、見習っても良いのではないか。

公共セクターと民間との中間的な発行体で社債を募集したのが、東京臨海高速鉄道である。お台場へのアクセスを提供する第三セクターの鉄道運営会社であり、東京都の出資比率は91.32%とほとんどで、他に品川区も1.77%を保有しているために、実質的に地方債に近い位置づけと考えて良いだろう。もっとも株式会社形態であるために、純粋な地方債とは言えないし、東京都や品川区以外にJR東日本や銀行・保険会社等民間の出資も受けて入れている。それでも、信用力という意味では十分に高い水準にあり、格付けはJCRのAA格と高い。その他に社債を募集したのが、中部電力の17年債120億円というレア年限であり、三井住友海上火災保険の5年債は1,500億円と巨額の募集であった。他に社債等の募集が多くないため、こういった起債が可能になったものだろう。

なお、日本の証券市場で大きなシェアを占めているSMBC日興証券が相場操縦の疑いで証券取引等監視委員会から調査されていることが明らかになり、主幹事や引受証券から外す動きが見られはじめている。業務に関連する不祥事を確認された場合に、投資家は暫時当該会社との取引を見送るのが通例であり、発行体側も同様の行動に出るのは当然だろう。現状では、罪状等が確定しているものではないが、報道されたことで相当程度何らかの処分が下される可能性は高い。刑事訴訟手続きのような「疑わしきは容疑者の利益に」というものではなく、法令違反等のなかったことが確認されたり、処分後に業務改善計画が受領されたりしなければ、当面、取引を自粛することが一般的になるだろう。考えてみれば、金融商品取引法違反であれば、当然、ガバナンスの問題を懸念されるのであり、同社がいわゆるESG関連の債券募集に従事するのは、ブラックユーモアに見えて来るだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/1~11/5

11月に入り、引続き9月末の決算発表シーズンが続くため、民間企業が社債を募集する動きは見られなかった。確認されたのは、地方公共団体金融機構による30年債100億円の募集である。今回は少し同機構の債券募集について振り返ってみよう。同機構は投資家向けに債券募集方針の説明会を行うとともに、四半期ごとに起債方針を明確にしているので、わかり易い発行体の一つである。ただし、後述のように、必ずしもすべてをガチガチに決めているものでもない。

地方公共団体金融機構は公営企業金融公庫(昭和32年6 月設立)の業務を一部引き継いでいるが、国の設立した特殊金融機関ではなく、すべての普通地方公共団体が出資して設立(平成21年6月改組)された特殊法人である。公営企業金融公庫の時代は地方公共団体の公営企業会計に対する貸付目的とした資金調達を行っていたが、改組された後に経済対策の一環として一般会計をも対象にすることとなって、現在の地方公共団体金融機構になっている。そのため、債券形態の地方債募集を行っていないものを含めたすべての地方公共団体にとっての共同資金調達機関であり、信用力はすべての地方公共団体の最上のレベルと考えて良い。しかも、地方公共団体金融機構の発行する債券に対して政府保証が付される政府保証債も発行されている(公営企業金融公庫から承継した債権に関する調達である)。そのため、同機構の信用力は、国債と同程度の高いものとみなしてよいと考えられる。実際に、取得している格付けはR&IのAA+格、ムーディーズのA1格、S&PのA+格と、いずれも国債と同じ符号になっている。

今年度下半期の債券募集計画は、政府保証債以外の債券で、10年債が毎月、20年債が四半期に2回、5年債が年2回、30年債が年2回と公表されている。各回に募集される金額は市場環境等で変動することもあるが、予定額としては10年債が200億円、20年債が100~150億円、5年債及び30年債が100億円とされている。したがって、これらの年限の債券は事前に購入予定が立てやすい。国債対比のスプレッドは信用力と同様に最上位の地方債と同程度であり、投資判断に迷うことは少ないはずである。

これらの定例の募集以外に、スポット債として異なる年限もしくはタイミングでの募集が行われる可能性もある(今年度は予定されていない)他、FLIP(Flexible Issuance Program)に基づく債券募集も行っている。FLIPに基づく債券募集は、基本的に定例募集する年限以外で引受証券会社が投資家を見つけて来て随時(実際には四半期の初めの月が多い)に債券募集を行うものである。最低発行額は30億円とされているようであるが、200億円を募集した例もある。なお、公募債以外に地方公務員共済組合連合会等の地方公務員関連の公的共済組合向けに、年金運用に充てるための縁故債を発行しており、被用者年金一元化の後は、10年債及び20年債を募集している。そのため、定例募集を行っていることもあり、FLIPで10年債と20年債が募集されることはまずないと考えられる。

このように地方公共団体金融機構は、中期から超長期にわたる多様な年限の債券を募集する数少ない発行体であり、国債の流動性供給入札を除けば、もっとも年限の多様性に富む発行体であると言って良いだろう。国債の流動性供給入札は既発債を時価で追加発行するものであり、クーポンが予め定まっているため単価で利回りを調整せざるを得ない。しかし、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券の場合はパー発行が可能なために、より投資家にとって利便性の高い存在である。もっともFLIPで募集される債券を購入するためには、FLIPに携わることを認められている証券会社との関係が重要かもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/25~10/29

日本の上場企業の多くは3月期決算を採用(例外として、繁閑期の異なる小売・流通業や海外等を意識して12月決算を採用する企業がある)しており、第2四半期末分の決算発表のタイミングを意識し社債等の募集が閑散となるシーズンである。こういった状況でも、月初であれば公的セクターの動きが多く見られるのが常なのだが、月末近くでは「公的」の動きもあまり多くない。想定し易い日銀の金融政策決定会合の結果発表を待つまでもなく、一部のやや異なる行動を取る発行体が、債券を募集する動きとなった。

計1,000億円の大型起債を行ったのが、三菱UFJフィナンシャルグループと中日本高速道路の二つであった。前者はTLAC対応債であり、3つの年限のいずれもに期限前償還条項が付されている。償還可能になるのが満期償還の1年前であり、固定利付期間が終了した後のクーポンはユーロ円Tibor変動(「Tokyo Interbank Offered Rate」の略で、TIBORには無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR」とオフショア市場の実勢を反映した「ユーロ円TIBOR」)になる)とされているが、期限前償還の行われる蓋然性は高い。投資家の多くは期限前償還を前提として購入判断を行ったものと考えられる。4年債250億円・6年債460億円・11年債290億円というレアな年限設定の組み合わせも、期限前償還を前提にすると、3年債・5年債・10年債という馴染んだ年限に見えるのであった。もう一つの1,000億円大型起債は、中日本高速道路の5年債である。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的引受条項が付いていることから、実質的な財投機関債と位置づけられるために、格付け評価も高い。三菱UFJフィナンシャルグループの6年債(実質5年債)の当初5年間クーポン0.25%に対して、中日本高速道路の5年債は0.04%と大きく下回る。格付けや規制面での取扱いの差が大きくクーポン水準に影響しているのである。

こういった閑散期に社債を募集する典型企業の一つが光通信である。他の企業とほとんどバッティングしない時期に債券を募集するのは、消化促進の観点からも適正な行動であろう。同社の決算は3月末であるが、第2四半期分の決算発表予定は11月12日となっており、今回募集した社債の払込日である11月4日より遅く設定されている。光通信が募集したのは、5年債100億円・10年債300億円・15年債250億円の計650億円とまとまった金額であり、8月にR&Iが格付けをA-格から1ノッチ格上げしたこともあって、投資家からは好感を持って評価されたようである。

これらの他には、三井住友信託銀行の5年債200億円と日本政策金融公庫の2年債300億円などが募集されている。日本政策金融公庫の2年債は、オーバーパーで応募者利回りが0%となっている。高格付けの財投機関やノンバンク等の2年債及び3年債で見られる設定だが、長期から超長期の金利水準が上昇しても、日銀によるイールドカーブコントロールがしっかりと効いている短めの年限の金利水準は動きそうにもない。