国内起債市場を斬る 起債評価:2/26~3/1

日銀の金融緩和見直しの実施観測が高まり、日経平均株価が史上最高値を更新する中で、金利の先行きが不安視されるのは仕方ない。しかし、払込みまでの期間を考えると、社債等を募集可能なのは物理的に3月第二週あたりまでであるから、結果的に週後半に起債市場は盛り上がりを見せる展開となる。もちろん案件が集中するのは週末の金曜日であり、水曜と木曜に募集されたのは、日産フィナンシャルサービスの3年債400億円及び5年債100億円と、JERA(2014年東京電力(当時)および中部電力、包括的アライアンスの協議に入り準備開始し2015年4月設立。)の3年債300億円及び10年債100億円、合同製鐵第一回債の5年債50億円、コニカミノルタの3年債300億円及び5年債100億円であった。並べてみると分かるように、金額面で3年債の募集が多い。これまでイールドカーブコントロールのなし崩し的な見直しは行われているものの、マイナス金利解除にまで踏み込まれていないため、短い年限は大きく金利が動いておらず、次の日銀のアクションを考えて短い年限の社債を募集する動きが増えたものと考えられる。なお、これらの起債の中では。日産フィナンシャルサービスの5年債がグリーンボンドであり、JERAの10年債がトランジョションリンクボンドとなっている。

大量に社債等の条件決定や募集が行われた金曜日の案件の最大の特徴は、金利上昇前の個人投資家向けの条件決定であり、何と言っても、ソフトバンクグループの7年債5,500億円は巨額である。個人投資家向けの社債で7年という年限は異例の長さであり、期限前償還条項も付されていない。愛称として「福岡ソフトバンクホークスボンド」が付されているが、特にホークスグッスのプレゼントは提供されないようで、確認したところ(目論見書に記載がなく、主要販社のオンラインサイトを見ると)、「「お父さん応援隊長タオルハンカチセット(今治タオル)」を投資家あたり1セットずつプレゼントされるようである。週明けから募集開始の予定であるが、既にオンラインでの申込を締め切っている会社ばかりであった。投資家にとっては、7年という期間リスクを負うことになるものの、3.04%クーポン(ただし、源泉課税によって税引後の利回りは2.422%)は銀行預金に比して遥かに高い水準である。しかし、この比較は現時点での金利水準であり、今後7年間の預金金利の上昇を期待すると判断は難しくなる。個人投資家の場合は基本的に時価評価を要しないため、発行体がデフォルトしなければ信用力の悪化を懸念する必要はないと考えることが可能である。

同じく週明けからの募集開始で、オリックスが5年債300億円を0.677%クーポンで条件決定している。販社のオンラインサイトを見ると、ソフトバンクグループ債の申込みを締め切っているのに、オリックス債は受付中のところがあった。両社ともプロ野球の球団を持っており知名度は確保しているのであるが、格付けが大きく異なるため、顕著なクーポン水準の差によるものであることがわかる。オリックスは同日に条件決定した5年債100億円を機関投資家向けに募集しており、同じ0.677%クーポンに設定している。同じ5年債で個人向けと機関投資家向けに利回りを異なる水準にすることは特別の理由がない限り不適切であり、ソフトバンクグループのような高いクーポンにして発行額を増やすことは出来ないのである。

同日には、機関投資家向けでは、三菱UFJフィナンシャルグループの永久劣後債計2,000億円や、東京地下鉄の20年グリーンボンドなどが募集されている。また、5年債の募集が盛んで、オリックス以外にも、SBIホールディングスやサワイグループホールディングス、ゲオホールディングス、ソニーグループ、マツダ、東京センチュリー、日立建機が募集しており、合計で1,500億円近くに上っている。このうち、マツダがトランジションボンド、日立建機がグリーンボンドである。なお、ソニーグループの起債は3年債と10年債と合わせて1,500億円の巨額となっており、年度を通じて機関投資家向けの起債としては最大級の募集となっている。いずれの募集に関しても、投資家の強い需要が観測されている。