国内起債市場を斬る 起債評価:3/11~3/15

2023年度最後の社債等の募集が行われる週である(おそらく)。月曜日に条件決定されたのは、大和証券グループ本社のセキュリティートークン債である。1年物の社債で年1回利払であるから、購入した個人投資家は償還される2025年3月21日に元本と利息を受取ることが出来る。クーポンは0.8%であるが、所得税と復興特別税がかかるため、最低単位の10万円分を購入しても利息は637円にしかならない。しかも、利払は電子マネーの一種である楽天キャッシュでのみ払われる。1年後までに楽天グループが破綻することはないと思われるが、楽天のリスクを一部負っているスキームであることは否定できない。

セキュリティートークン債は証券保管等振替機構のシステムを利用せずブロックチェーン技術を利用することで、様々な制約から免れることを可能としているが、個人投資家には必ずしもそのメリットは理解されないだろう。R&IのA格及びJCRのA+格という信用評価の社債が1年物で0.8%クーポンという利回り水準は、破格に厚いスプレッドと解することも出来るが、これもまた個人投資家には伝わりにくいだろう。個人投資家にとっては、大和証券のグループ持株会社の発行する社債であることと、1年物で0.8%と銀行預金を大きく上回る利率が付されていることが評価されるだけである。募集額の10億円は、申込みが締め切られた18日を待たずに完売した模様である。

この週に条件決定されたもう一つの社債は、木曜日に募集された三菱商事の10年債500億円である。大和証券グループ本社のセキュリティトークン債とは打って変わって、極めてオーソドックスな機関投資家向けの普通社債である。ただし、三菱商事の普通社債は以前から、担保提供制限等財務上の特約を一切付されていない社債である。担付切替条項もないために、完全な無担保社債であると言い切っても良いだろう。このタイプの社債を発行する会社は、決して多くない。それでも、格付けは、AA格(R&I)・A格(S&P)・A2格(ムーディーズ)と極めて高い。日銀による金融緩和の修正が翌週にあると期待される中でも、十分に高い信用力に対して国債対比+28bpsのスプレッドが付されており、1.054%という高いクーポンは、年度内最後の社債等の募集となることもあって、強い需要を集める結果になったようである。

これら以外に地方公共団体金融機構も定例の10年債を火曜日に210億円募集しているが、国債+9bpsと地方債並みの水準であり、当然のように順調に消化されたようである。4月以降の社債等の起債市場は、日銀による金融政策見直しの影響を受けて金利の水準が変わるであろうことから、まずは、スプレッドも含めて利回りの居所を模索する動きになることが期待される。