国内起債市場を斬る 起債評価:12/14~12/18

この週の半ばが年内の債券募集期間の最終になるかと思われたが、実際には、18日の社債募集が最後となった様である。証券化商品や政府保証債等が次の週に募集されることはあるかもしれないが、例年と同じ市場展開ならば民間による大型の社債等が募集されることはないだろう。社債等の条件決定及び募集から払込までの期間を考えると、物理的にはクリスマス前まで募集が可能であるとも考えられるが、追補目論見書等を提出する先は財務局であり、その仕事納めは28日である。今年は12月28日が月曜日であるため、予算関連等や感染症対策等の緊急業務を除くと、仕事納めの前に関連先への挨拶回りを25日と設定して、実質的には24日頃が通常業務の終わりとなるものと思われる。つまり、社債等の募集は、今年はスケジュールのギリギリまで行われたということなのだろう。

年内最後に登場した中で注目すべきは、まず、パナソニックの起債である。3年債800億円・5年債700億円・7年債200億円・10年債300億円と基幹年限だけで計2,000億円を募集している。かつて三洋電機に対する買収資金で、当時の最高額となる規模の社債募集を行った同社であるが、今回の2千億円の起債は、前週のNTTファイナンスよる計1兆円の起債に比べると、インパクトが乏しい。日本の起債市場でも巨額の債券募集が一般化すれば、流動性の向上に資するものと期待されるのだが、NTTファイナンスの1兆円のうち4割にあたる4千億円、パナソニックの2千億円のうち4分の3にあたる1,500億円が、日銀オペによる買取り見合いの5年債以下の年限であるため、中長期的な観点からの流通市場育成には、ほぼ寄与しないだろう。

次に、JR西日本の起債は、29年債と39年債の各150億円である。参照国債との関係で、数か月のズレを捨象(しゃしょう)し切り上げた形で、30年債とかと呼称する場合もあるが、今回は、追補目論見書に29年債・39年債という記載が見られる。そもそも、社債の発行年限として超長期債を10年単位で募集すべきといったルールは存在しない。参照となる新発国債の年限を主張する市場関係者もいるが、国債対比のプライシングでなければ関係はないし、そもそも50年に参照となる国債は存在しない。最長の40年国債の利回りと対比しても、それは単なる利回りの差分であり、意味のあるスプレッドではない。また、発行体側から見れば償還年限の分散を考える必要があるのではないか。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債のように、細かな年限の募集を行って良いと考えられる。実施に、同機構は、この週も9年債・13年債・22年債・23年債・24年債を募集している。

最後に、芙蓉総合リースが7年物のサステナビリティ・リンク・ボンドを募集している。当初の4年間は0.38%クーポンであるが、その後2024年7月31日時点でサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲットを達成していれば残りの3年も0.38%クーポンを維持し、達成していなければ0.48%クーポンにステップアップするという仕組みである。ターゲットとしては、再生可能エネルギー使用率と同社の定めるサポートプログラムの累計取扱額が設定されている。投資家としては、0.38%クーポンが維持されるものと考えて投資し、クーポンが引き上げられたらラッキーという程度に解釈するのが正しいであろう。再生可能エネルギー使用率やサポートプログラムの累計取扱額については、外部からの判定が容易でなく、あくまでも発行体の言い値に過ぎないからである。ICMA(国際資本市場協会)の定めるガイドラインに則っているのではあるが、そもそもICMAは国際的な証券会社の団体であり、引受証券及び発行体側に有利な基準である可能性が高い。なお、芙蓉総合リースは、この週に日本政策投資銀行からサステナビリティ・リンク・ローンを借入れており、サステナビリティ改善への強い姿勢を示している。一連の動きから、その取組み姿勢は評価して良いだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/7~12/11

年内の債券募集期間の終わりが迫る中で、前週に引続き、公的機関の債券募集が進むのと並行して、民間企業の債券募集もポツポツ見られる。公務員にボーナスが支給される期間ということもあって、個人向けの債券募集も、前週の四国電力債・北海道電力債に続いて出始めている。この週は楽天カード債が募集開始となり、国際協力機構構の10年物財投機関債も1万円単位で個人でも購入できる設えになっている。電子化されている債券は、小額で販売しても問題ないのである。ところが、社債管理者を設置しないために社債は1億円単位として募集されることが一般的なのである。これでは、巨大投資家しか社債等が購入できない。

社債管理者を設置する必要のある一般担保付きとなっている財投機関債や一部の社債の場合には、小額単位として個人投資家向けの販売を併用しても支障ないのではないか。管理の手間が面倒だと厭う(いとう)証券会社も少なくなく、店頭売買参考統計値が付されるため、個人から買取る場合の価格も制限されてしまうことから、現在ではほとんど見られない。投資家の裾野を拡大するためには、金額の小口化も一つの有効な手段であろう。

金額の意味でまったく別方向に向かったのが、NTTファイナンスによる総額1兆円の社債募集である。NTTの保証を付し、NTTドコモの完全子会社化のための株式買取に用いたブリッジローンを固定化するための起債である。近年の日本の起債市場において、大型の起債は、ほぼM&A関連の資金調達案件だと思って良い。確かに1兆円の起債規模は過去に例のない大きさで、発行体にとっても資金調達に意味があるし、引受実績や主幹事実績が大きく加算される証券会社にとっても、大きな意味がある。

しかし、投資家にとっては、巨額募集には直接のメリットがあまりない。購入可能な社債の金額が大きくなるかもしれない。確かに流通市場に出て来る金額は大きくなり、気配値の精度が高まるかもしれない。しかし、それら以上の大きな意味はない。海外の大型起債を見慣れていると、そもそも日本の社債が50億円や100億円×複数年限といった金額で募集されることが、実質的にバイアンドホールドを前提とした、私募に限りなく近い債券募集であって、元来目指してきた流動性は乏しさを感じる。このような大型起債が普通に見られるようになって、流通市場の厚みが高まるようであれば願ったり叶ったりではあるが、単発で1兆円規模の起債があっても、単なるイベントにしか過ぎないと投資家は冷ややかに見ているのではないだろうか。

これまで社債発行市場の発展に際して大きなインパクトを持つ取組みを続けて来たNTTであるが、今回の起債については金額以上のインパクトはない。M&A関連の資金ニーズがない限り、合計で数百億円の社債募集までというのが、日本の起債市場の実態であり、これでは市場の発展はなかなか見られないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/30~12/4

週初めの月曜日は前日までの準備が出来ないために、社債等の募集が行われることは稀である。これは、引受証券の事情でもあるし、投資家の状況も同様かもしれない。週末に海外を中心に市場環境が大きく変化したらと考えると、休日の前にすべてを固めてしまう訳には行かない。そのため、前週は実質的に12月市場と考えるしかない。しかも、実際には、週の後半に債券の募集が集中する。もし募残が多く出るようであれば、条件決定以降に販売努力が必要なのかもしれないが、近年の低利回り環境下では、募残に対する懸念も少ないようだ。

週央での債券の募集は少ないが、目立つ起債も少なくない。この期間では、アイフルの1.5年債が注目されるだろう。同社による二度目の公募ハイイールド債の募集である。大手機関投資家の中でも、BBBに満たない格付けの社債を投資対象と公言しているのはGPIF(Government Pension Investment Fund;年金積立金管理運用独立行政法人)くらいのもので、他の公的年金は少なくとも国内ハイイールド債について積極的ではないようである。一方で、海外のハイイールド債等を投資対象としているのであるから、首尾一貫していないのかもしれないし、国内クレジットの恐ろしさから敬遠しているのかもしれない。国内クレジットの恐ろしさとは、突然のデフォルト発生に対する懸念ではなく、破綻した企業の債券を保有していたことに対するステークホルダーやメディアからの非難を敬遠するからであるという。海外企業の破綻だったら仕方ないと酌量される可能性が高いのに、国内企業の場合には、「破綻するような企業の社債を購入したのは、いかがなものか」と白い眼で見られかねない。こういった風潮が残る限り、日本でのハイイールド債市場の活性化は容易でない。

金曜日である4日は、ソーシャルボンド、サステイナビリティボンド、グリーンボンドと、SDGs関連債券が種々募集されているが、金額という意味では、JR東日本の4本立て起債が圧倒的である。近年、定例化している10年刻みで超長期まで満遍なく募集するパターンであるが、今回の募集は20年債から50年債と超長期年限に限ったものとなった。20年債200億円・30年債300億円・40年債250億円・50年債150億円と合計で900億円の募集である。年限を加重平均すると約34年となる。

このような超長期年限の社債を調達ができるのは、公益性の高い鉄道や電力ぐらいだろう。日本の鉄道は1872年の官営から半官半民、1906年の鉄道国有法による国有化推進から始まっており、100年を超える歴史がある。電力にしても、民間会社から戦時中の国家総動員法に基づく半官半民の統合を経て、1951年に地域会社に移管されたものである。こうした過去に国が管理した経験を有することが、超長期の信用力を担保する一つの要因となっている。もっとも、日本航空のように半官半民の社歴があったとしても破綻した事例は存在するため、単なる過去の経緯だけではなく、事業の内容や将来の可能性を十分に考慮する必要がある。例えば、ガソリン自動車の販売が禁止されるようになった時に、自動車製造業者や関係の部品メーカーは、どのようにして生き残るのだろうかといった命題は、産業や企業の移り変わりを経験するような長期間の与信を行う場合に、念頭に入れておく必要がある、と考えるべきであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/23~11/27

勤労感謝の日を含む三連休明けで、営業日としては4日しかなかった週であるが、年内最後の債券募集期間に入っており、水曜日以降に債券の募集が相次いだ。募集された民間企業の社債だけを見ても、業種の幅が広い。金融、小売、化学、建設、石油、精密機器、陸運、通信、電力、金属製品、土石製品と様々である。年限を見ると、日銀オペ対象年限である3年や5年も多いが、7年や10年も幾つか見られ、逆に金利水準の上昇している超長期は北陸電力の12年債100億円のみと少ない。

年末が近づいたという実感を強くするのは、大型案件の募集であろう。複数年限を併せて1,000億円以上となる募集が複数行われている。まず、関西電力の5年債及び10年債各500億円の計1,000億円である。近年、原発誘致関連のスキャンダルに追われていた感の拭えない同社であるが、5年債のクーポンは0.18%で10年債のクーポンは0.44%とJCRでAA-格及びR&IのA+格を取得している会社にしては高い水準であることから、強い投資家のニーズがあったようである。何しろJCRでA格を取得している高砂熱学工業の10年債のクーポンが0.43%である。もっとも格付けだけで語るのは危険であり、他に募集された10年債を見ると、JCRでA+格のニコンが0.47%クーポン、R&I及びJCRで同じ水準の格付けを取得しているソフトバンクが0.57%クーポン、JCRでA格の太平洋セメントが0.45%クーポンと、必ずしも格付けとは連動していない。個々に企業の内容や業種、資金使途等を分析する必要があろう。

大型案件の二番目は、ソフトバンクである。5年債800億円・7年債250億円・10年債150億円の計1,200億円を募集している。投資持株会社と化したソフトバンクグループと異なり、同社は通信業者という位置づけである。それでも持株会社の投資活動による影響を完全には遮断しきれないことから、格付けのみでは説明できないような利回りの高さとなっている。それでも、調達の主軸が5年債というのは、市場への影響に配慮したものであろう。

もっとも大きな金額を募集したのが、セブン&アイホールディングスである。3年債1,300億円・5年債1,800億円・7年債400億円と短めの年限で合計3,500億円を募集している。3年債と5年債という日銀オペ見合いの年限では、一つの回号だけで前述の関西電力やソフトバンクの調達額を越えている超大型の起債である。資金使途は、大型起債につきもののM&A関連であり、具体的には米国子会社の7-ElevenがSpeedwayブランド等のコンビニ事業を買収するためのものである。つまり、M&A関連の起債の特徴として、同社の有利子負債比率が上昇することは確実であって、買収が収益に貢献できなければ格下げといった事態も生じる可能性が考えられる。セブン&アイホールディングスの事業全般を振り返ると、国内のコンビニ事業はネットワークの強さを維持している一方、そごう・西武の百貨店事業がコロナの影響で大きなダメージを受けているだけでなく、セブンペイの失敗やネット通販チャネルであるオムニ7の低迷もあって、8月末時点の持株会社の経常利益は10%を上回る低下となっている。なお、格付各社はSpeedwayの買収を発表した時点で、いずれも格下げ方向のレーティングモニターとしており、現在の格付けであるA+(R&I)及びAA-(JCR)を妄信するのではなく、引下げとなる可能性を十分に織り込んで考える必要があろう。