国内起債市場を斬る 起債評価:10/21~10/25

10月の起債は下旬ともなると、低迷とすら言える本数になる。民間企業の起債が滞り、公的セクターにしか動きがない。11月以降に向けた民間の起債準備は進んでいるが、条件決定にはまだ至らない。

前週に続いて、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債がその本数に貢献している。四半期の頭の月にFLIPの起債は多く見られるが、10月も既に第489回から第504回の計16本が募集されている。FLIPに基づく債券の募集は、毎月に行われる10年債及びその他の年限を募集した後に行われるために、月後半に行われることとなる。しかも、定例起債(10年債以外に、半期1回の5年債、四半期に2回の20年債、半期1回の30年債が想定される)を除く年限で募集されるために、通常の社債では見られない年限が多く見られることになる。

今月のFLIPに基づく起債の年限を見ると、5年債、7年債は社債でも見かけられる年限であるが、そのほかに11年債、12年債、17年債、18年債、34年債といった珍しい年限が見られる。FLIPを担当すると年度初めに決められた証券会社が、年限や金額といった投資家のニーズを集めて地方公共団体金融機構の望む年限と突き合わせる。最低金額は30億円とされており、それ以上の金額となるFLIP債の回号も存在する。地方公共団体金融機構は、地方公共団体への融資を行う法人であるから、調達と融資の年限のマッチングを意識するだろう。FLIPに基づく起債は、主要調達年限と分散を意識している可能性は高い。

10月のFLIPに基づく年限ごとの起債額を合算してみると、5年債290億円、7年債240億円、11年債180億円、12年債・17年債・18年債各30億円、34年債90億円といった分布である。これらの調達年限を金額で加重平均すると、およそ10.76年となる。実際には、11年債と言われていても償還までの年限が10年7か月のものや10年8か月のものがあったりするし、5年債と言われるものも償還までは5年5か月や5年4か月だったりする。端数月の影響を考慮して加重平均を行うと、およそ10.8年となり、概算と大きな差は生じない。本数で11年債が6本と多かったのは、平均的な調達年数に近かったからと考えられる。

地方公共団体金融機構以外には、中日本高速道路の5年債と日本政策金融公庫の2年債が募集されている。後者は単利の応募者利回りが0%となっている。初めて同公庫の募集する2年債の応募者利回りが0%となってから、既に2年半が経過している。日本学生支援機構が8月に募集した2年債で、財投機関債のマイナス金利は実現されているものの、日本政策金融公庫はまだマイナス金利に踏み込んでいない。今後が注目される。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/14~10/18

10月の起債の動きは、すぐに峠を越える。この週も、条件決定・募集された本数は多いが、業種の広がりはあまり感じられない。公共セクターで、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく債券を計12本も募集しており、日本政策投資銀行や日本高速道路保有・債務返済機構、日本学生支援機構といった財投機関債も募集が行われている。日本学生支援機構の2年債は、オーバーパーで単利の利回りは0%であった。その他に、メーカーの起債では、DIC、ニプロ、三和ホールディングスといった顔触れが、いずれも10年債を募集している。R&IでBBB+格のニプロでさえ、クーポンが0.44%といった低水準なのであるから、A格前後の発行体にとっては十分に魅力的な金利水準であろう。

この週の起債で圧倒的な存在感を示したのが、ノンバンクである。しかも、芙蓉総合リースや日立キャピタル、クレディセゾンといった上場ノンバンクよりも、非上場ノンバンクが目立っていた。芙蓉総合リースとクレディセゾンは、1回号のみを条件決定したのに対し、日立キャピタル(2016年に三菱UFJフィナンシャル・グループ及び三菱UFJリースと資本・業務提携契約を締結)は3年債・5年債・10年債の3回号計600億円を募集している。非上場ノンバンクでは、住友三井オートサービスが3年債及び5年債計300億円、三井住友トラストパナソニックファイナンスは3年債・5年債・10年債の計300億円を募集している。

前者は、住友商事系の住商オートリースと、三井銀行系の三井住友銀オートリースが合併して出来た会社で、三井住友系では珍しく”住友三井”という順の社名である(ちなみに、和名が三井住友の順になっている企業の多くは、英文名称ではSumitomo Mitsuiの順となっている。例外として、少なくとも三井住友海上火災保険の英文名称はMitsui Sumitomo Insurance Companyであり、同社のグループ会社の英文名称はMitsui Sumitomo となっているようである)。

後者は、三井住友銀行系ではなく、トラストの文字が入っていることでわかるように、住友信託銀行の傘下にあった住信リースと、松下電器が設立したリース・クレジット会社に住友信託銀行が出資した住信・松下フィナンシャルサービスが合併し、後に信託銀行の合併によって、三井住友トラストパナソニックファイナンスという長い名前になったものである。なお、三井住友トラストホールディングスの英文名称は、Sumitomo Mitsui Trust Holdingsと商業銀行と同じ並びになっている。

非上場であっても、前者は上場している銀行持株会社の持分法適用関連会社であり、後者は連結子会社とされている。いずれのノンバンクも有価証券報告書を提出して社債の発行登録制度を利用しているため、投資家は上場の有無を大きくは気にしないで済む。そういう意味では、上場銀行持株会社の傘下にある銀行子会社と、大きく異なるものではないということなのである。とは言え、持株会社の財務内容に与える影響の程度は、銀行子会社とは異なるということを、忘れてはならない。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/7~10/11

起債市場において募集に適した時間は決して長くない。カレンダーが10月に入ってしばらくすると、3月期決算企業の上期末決算発表を意識するタイミングが迫って来る。そのため、必然的に下期入りしてからの限られた時間に案件が集中しがちとなる。さらに、劣後債や個人向け社債などの条件決定が重なれば、金額だけで見ると、巨額の募集になってしまう。この期間においても、メガバンクグループによる劣後債の募集が2グループによって行われたため、他の週とは桁違いの金額となっているのである。

三菱UFJフィナンシャルグループによる劣後債は機関投資家向けの募集であり、5年3か月早期償還付き永久劣後債が1,570億円、10年3か月早期償還付き永久劣後債が1,160億円と2本立てで計2,730億円が募集されている。早期償還を前提にし劣後事由や債務免除事由の発生がなかった場合には、5年3か月債でクーポンが0.82%、10年3か月債でクーポンが1%と高水準である。取得した格付けはJCRのA-格であり、永久劣後性等の考慮から決して高水準ではないが、特に10年3か月債の1%クーポンは魅力的だろう。同日に募集された同じA-(JCR)格を取得したトナミホールディングスの10年債のクーポンは0.4%であり、半分以下の水準である。早期償還のオプション性及び劣後や債務免除事由が生じる蓋然性と、三菱UFJフィナンシャルグループのネームを比較考量し、購入する投資家も少なくない。

一方、みずほフィナンシャルグループは個人投資家向けに劣後債を募集している。個人投資家向けであるから、形式的に永久劣後債は選択し難い。10年の一括償還債410億円と5年早期償還付き10年劣後債1,170億円の計1,580億円を条件決定している。10年債のクーポンは0.538%と銀行預金などでは得られない高利回りであり、5年の早期償還付き劣後債のクーポンは0.39%である。劣後特約等が付されているとはいえ、みずほフィナンシャルグループの期限付き劣後債の格付けは、R&I及びJCRのA+格である。同日に条件決定された近鉄グループホールディングスの個人投資家向け5.5年債のクーポンは0.21%であり、格付けはR&IのBBB格及びJCRのBBB+格である。格付けの差が3~4ノッチあるため、早期償還を前提にした5年程度の債券として比較すると、利回りの逆転は著しいと評価することが可能である。個人投資家は劣後等のリスクをどう評価するだろうか。なお、近鉄グループホールディングスの個人投資家向け社債には、抽選で200名に賢島宝生苑の宿泊招待券が当たる。これへの期待も含めた評価となるだろう。

なお、11日に募集されたトヨタファイナンスの3年債は、民間企業の募集した社債としては、初めて利回りが0%となっている。クーポンは0.001%に設定されているが、発行単価が100円00銭3厘のオーバーパーとされているためである。既に財投機関債等では同様の0%債券は確認されていたが、社債でも見られるようになったものである。ほかの高格付け発行体で追随が見られるか注目されるが、日本銀行が今後マイナス金利を深掘りした場合には、より長い年限や格付けの低い発行体による募集も考えられる。利回り0%の意味するところを、よくよく考えておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/30~10/4

下期入りした起債市場は、月初めの10年長期国債の入札を経て、3日(木)から社債等の条件決定と、募集が始まっている。その木曜日にいきなり、ジャックスが3本立て計400億円を募集し、東京電力パワーグリッドは同じ3本立てで計2,000億円と巨額の募集を行っている。決して金利の先高感はなく、むしろ先行きの金利について日銀によるマイナス金利の深掘りを見込む市場参加者が多い中では、発行体側に慌てて起債するインセンティブは乏しい。逆に、金利低下を見込んだ投資家側には購入ニーズがあると見るべきだろう。もっとも、近年の市場環境では、社債等の潰れたスプレッドと日銀による低金利政策から、社債等の購入意欲を減退させている投資家も少なくないだろう。下期入りした時点での運用資金の消化ニーズと見るべきかも知れない。

近年の社債等は金曜日に募集される案件が多い。週の初めを避けて、曜日の兼ね合いから結果的に金曜日に集中する傾向が顕著なのだが、もう少し曜日を分散した方が投資家にとっても引受証券にとってもメリットあると考えられる。実際には、既にクーポンや発行額等かなりの条件が前日までに決まっており、条件決定の当日は、単なる儀式に過ぎないために、案件が集中しても支障ないと見るのであろう。実際、金曜日に3本立て1,000億円の社債を募集したソニーについては、既に前日の段階でクーポンも募集金額も仮決めされており、当日は単なる確認でしかなかったのは事実だ。現実、募集当日の起債環境に大きな変化がなければ、このように前日までに、実際的な募集行為がほぼ終了していることは珍しくない。

この週は、上半期頭の起債ということで、やや高格付けの案件が集中したように見える。ソニーこそ現在の格付けはR&IのA格及びJCRのA+格と必ずしも高格付けではないが、かつて有力な引受証券群を傅かせていた強固さは、発行金額の大きさに表れている。その他に、7年債と10年債各150億円を募集したダイキン工業はAA-(R&I)格及びAA(JCR)格を取得しているし、3年債200億円及び5年債100億円を募集したリコーリースはJCRのAA-格と高水準の格付けを取得している。首都高速道路5年債400億円、日本政策投資銀行の3年債・5年債10年債・30年債の4本立て計900億円といった公共セクターも大型起債である。

電力債の格付けは必ずしも回復していないが、A(R&I)格の北海道電力は10年債100億円を募集し、A+(R&I)格及びAA(JCR)格の中国電力は10年債200億円を募集している。これら以外にも、A(R&I)格のニッコンホールディングスが10年債100億円、A-(R&I)格のセガサミーホールディングスが10年債100億円、同じくA-(R&I)格の新生銀行が3年債100億円及び5年債200億円を募集している。この後も様々な業態の起債観測が数多くつ上がってきており、下期の起債市場は、当面、活況な展開になりそうである。

国内起債市場を斬る 2019年度上期末特別号:令和元年の上期を振り返って

5月から令和元年度となった今年度上半期の起債市場を振り返ってみよう。起債環境としては、米中貿易摩擦の影響を受けて欧米の金利先高観が後退し、グローバルの景気トレンドは下方に向かうと想定された。その結果、クレジット面では、低格付け債のスプレッドに拡大圧力のかかることが懸念された。ところが、FRBによる予防的な利下げやECBによる金融緩和縮小の撤回によって、株価は利下げ催促を意識して高水準を保っている。日本においても、日本銀行は既に金融緩和の手段を相当程度使い尽くしているものの、マイナス金利の深掘りを意識して、株価は高めを維持している。欧米のみならず、日本においても金利の先高感は後退し、10年国債利回りはマイナス金利が導入された2016年に記録した最低水準と同程度にまで低下している。利回り確保の一つの方向性である年限の長期化が十分に機能しない中で、投資家はもう一つの方向性であるクレジットリスクの拡大を意識せざるを得なくなっている。

年限について振り返ると、日銀による買いオペ対象の期待から見られていた3年債の募集は環境変化から少なくなり、低利回りから5年債の募集もあまり多くは見られない。起債市場の中核は、従来からの10年債に加えて、業種・銘柄によっては超長期債になる。その一方で、国債利回りのマイナスが残存15年程度にまで拡大すると、ほぼ全年限でスプレッドプライシングが適切に機能しなくなり、結果として、20年前の起債市場のような絶対水準の利回りをベースとした起債がほとんどになっている。もっとも、マイナス金利政策によって、対象年限の国債利回りがマイナスとなっていた中期債では、既に利回りの絶対値によるプライシングが主流となっており、絶対値の適用年限が全体に及ぶ傾向のあることが上期の一つの特徴であろう。

クレジットの面では、必ずしも低格付け銘柄の募集が増えたというイメージではない。それでも、新規に市場での社債発行に取り組んだ企業は少なくなく、A格付のゾーンを中心に起債本数は確保されている。BBB格付ゾーンに満たないハイイールド債が公募されたことは一つのトピックであり、後続案件の参加による市場の拡大が期待されるところである。

年限の長期化とクレジットリスクの拡大という二つのベクトルを同時に満たしているのが、ハイブリッド債の流行であろう。期限前償還されるならば単なる中期債であるが、コールされないと仮定して最終償還を意識すれば、超長期債である。しかも、コールオプションのプレミアム相当分に加えて、劣後プレミアムが乗っているのであるから、利回りは十分に高くなる。投資家のイールドハントに対するニーズと、発行体の長期資金調達及び資本の充実ニーズの双方を満たすウィン・ウィンの起債である。しかし、双方がハッピーということは稀なのが市場の常であり、将来的にはハイブリッド債に対する幻想も、資本性評価の見直しや発行体によるコール見送りが頻出するようなことになれば、投資家からの需要は急速に減退することになろう。