国内起債市場を斬る GW明け特別号:金融不安は日本に上陸するのか

3月末決算の発表シーズンで、前週に見られた社債等の募集は、中日本高速道路と地方公共団体金融機構によるもののみであり、いずれも定例のものとみなして良い年限等の募集内容であった。そのため、今回はトピックとして、欧米で生じている「金融不安が日本に上陸するかどうか」を考察してみたい。

3月に米国のシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行とが経営破綻した。また、スイスに本拠を置くクレディスイスが、UBSによって救済合併されることとなった。その後しばらく事態は沈静化していたものの、5月に入って再び、米国の地銀であるファーストリパブリック銀行が経営破綻し、更なる地銀の破綻懸念が意識されている中で、メディアの一部などでは金融不安が日本へも伝播する可能性を報じ、これに対し一部の金融業界の経営陣、専門家は、『日本は大丈夫』としている。第二次世界大戦後の日本経済は「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」などと言われ、社会文化や企業カルチャーなども米国発のものが少し遅れて日本でも注目されることが珍しくない。国粋主義者からは敗戦国の崇米志向であると批判されるかもしれないが、日米が政治と経済の両面で深く繋がっている状況にあるため、米国発のものが日本に影響することは構造的な連結関係にあるためと考えて良いだろう。

しかし、金融不安が単純に日本へ上陸すると考えるのは早計かも知れない。文化などとは異なり、企業経営においては必ずしも米国と日本とは同質ではない。株主第一主義をやや強く意識し、四半期ごとの業績が強く強調する米国企業と、三方良しから周辺の利害関係者まで含めて広く考慮する日本企業の中長期経営とは、必ずしも重ならない。金融機関の構造を見ても、長く州際規制が課されて来た米国と日本とでは、メガバンクに関してはそれに近いものの様に見えるが、地方銀行は状況が大きく異なる。日本の地銀にも人口減少等の地域経済面からの経営問題を抱えるものは少なくないが、米国で経営破綻した三行のように、大口預金の流出や暗号資産関連企業への過剰融資といった問題は、今は存在しないし、金融引き締めに際してのALMの失敗といった現象も生じていない。振り返れば、1997年11月に日本がバブル経済の崩壊の影響で、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券、徳陽シティ銀行と毎週のように破綻が続いた時も、米国の金融機関には直接の影響は生じていなかった。2008年のリーマンショックでも、日本の金融機関には少なからずも影響はあったものの、破綻に至ったのは大和生命くらいで他にない。メディアによるセンセーショナルな金融不安を掻き立てる報道には、短絡的に飛びつくべきではないだろう。

それでも米国の大手地銀が複数破綻したことに関して、日本の金融機関について着目すべきことは少なくない。暗号資産関連等の経営基盤が脆弱な企業へ貸し込んでいないか、特定大口企業の預金比率や、一部携帯電話参入企業等への預貸率が高いなど、資金流出の懸念はないか、地域経済との関係は円満か、金利上昇に備えてALM管理は適正に行われているか、などの諸点である。植田日銀新総裁は、これまでの金融緩和政策を時間をかけて点検するとしており、市場の一部が期待していたような早急な金融緩和の見直しは行われないように見える。黒田前総裁とは異なり、サプライズ・インパクトを狙った金融政策の変更は好まれないと想定される。しかし、社会通念は、昔から首相による衆議院の解散と日銀総裁による金融政策の変更については、前言撤回等のサプライズも容認されるとしており、予断を持つべきではない。デリバティブの利用を含めた適切なALM管理による安定的な金融機関経営を意識してもらいたいものである。何といっても金融は経済における血流のようなものであり、金融不安が生じると、経済全般への悪影響が不可避となりかねないのは、誰もご異論がないところであろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/24~5/2

GW前後の期間は、同時に一部の企業にとって3月末決算の発表シーズンでもある。そのため、なかなか社債等の募集に踏み込むことは難しい。しかも、今年は4月末に植田新総裁就任後初めてとなる日銀の金融政策決定会合(4月27-28日)が予定されていたため、金融政策の変更(「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」とした政策金利についての緩和バイアスを削除したのは、やや意外との意見があるが・・・)はないと見込まれていても、何らかのコメント発表等によって市場が動く可能性があり、社債等の募集タイミングを見出し難いカレンダーとなっていたのである。とりあえず事態が落ち着くのを見守ろうという姿勢が、多くの市場参加者にとって共通のものとなったものと考えられる。

4月最終週に向かって、少ないながらも幾つかの社債等の募集は確認されている。日本製紙の第16回債は、3年物の0.39%クーポンで300億円が募集されている。JCRのA-格という信用格付けの水準もあって、0.39%クーポンは3年債としては高利回りと言って良いだろう。日銀による社債オペに当てることも可能であることから、所謂、無難な起債となった。

次に、三菱地所は5年債と10年債各300億円のサステナビリティリンクボンドを募集している。別途に取り入れたサステナビリティリンクローンも含めたプロゲラム全体のSPTsとしてはSPT1「2025年度に再生可能エネルギー由来の電力比率100%を達成」やSPT2-1「2030年度にスコープ1、2 の合計を70%以上かつスコープ3を50%以上削減(基準年度2019年度)」、SPT2-2「2050年にネットゼロ達成」、SPT3「2050年度に女性管理職比率40%を達成」といった複数の目標を提示しているが、サステナビリティリンクボンドとしては、5年債に適用されるのがSPT1のみで、10年債に適用されるのがSPT2-1と限定されている。不動産会社としては、十分に取り組める目標と考えられるが、SPT2-2やSPT3の参照期間が2050年もしくは2050年度と遠い未来を指定していることが、実現性や規範性の観点から疑問視されよう。かなり遠い将来の約束は、絵空事に過ぎないと見られても反論できない。取組んでいるという美名を得ようとする「似非ESG」プログラムであると批判されよう。

その他に、コスモエネルギーホールディングスが5年債150億円を募集した他、住友不動産は5年3か月債400億円を募集している。5年債と呼称しても必ずしも大きな問題はないが、スプレッドプライシングのために国債の償還月と合わせたものではないので、純粋な5年債でないことを明示することは重要である。この第112回債はグリーンボンドの認定を取得しており、資金使途は「住友不動産麻布十番ビルの新規開発投資に係る調達資金のリファイナンス資金に充当する」とされている。三菱地所のサステナビリティリンクボンドよりは真摯な起債に思えるが、リンクボンドではないためSPTsは設定されず、未達時に財団等に寄付を行うといったスキームは採用されていない。リンクボンドでSPTs未達時に寄付を行うというのは、世界的に見ると一般的なスキームではなく、今後も色々な試行錯誤が行われることになろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/17~4/21

基本的には、公的セクターと電力、金融といった発行体でほとんどの起債が説明される展開である。公的セクターとしては、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が第734回~第741回と本数を稼いでいる。募集された年限は5年~32年と分散しており総額は470億円となったが、本数も金額も前年度4月の同時期を下回っている。電力も発行体としては1社で、JERAが5年債及び7年債で計400億円を募集しただけに留まる。それでも、JERAに関しては当初の募集金額のイメージを大きく上回る需要が集まったようで、発行額が積み増されている。

結局のところ、金融セクターの起債が中心になった週だったと分析できるのかもしれない。募集の順序とは逆になるが、もっとも単純な社債は、金曜日に募集されたあおぞら銀行の3年債100億円である。同行が年に数回募集する普通社債であり、同残存年限の国債利回りが依然としてマイナス金利になっているため、スプレッドプライシングは採用されていない。同行による今回の社債の募集は、半年ぶりであった。

同じく金曜日に募集されたのが、SONPOホールディングスの5年物ソーシャルボンド700億円である。損保ジャパンを中心とする保険会社グループの持株会社による社債の募集であり、保険会社関連でのSDGs債の募集は珍しいと言って良いだろう。ソーシャルボンドということで、資金使途は介護や障がい関連のシステムでトップシェアを誇るNDソフトウェアの株式取得に際して借り入れたブリッジローンの返済に用いるとする。しかし、この資金使途の説明では拙い(つたない)であろう。そもそもお金に色はないから、短期借入金の借換えに社債で調達した資金を使おうが、別の運転資金を振り向けようが、外部からは区別がつかない。社債発行時のみではなく5年間の社債残存期間中すべてでソーシャルボンドとしての確認ができるような情報開示を徹底できるだろうか。取得したのが介護等関連のソフトウェア会社の株式だからといって、単純にソーシャルボンドと認めて良いものではない。第三者評価を与えた日本格付研究所と、その評価を鵜呑みにし投資表明を明らかにした約70の投資家は、将来に渡って発行体の継続開示に適正性があることを確認する義務を負ったと捉える。

木曜日に募集された三井住友フィナンサシャグループの永久劣後債は、いわゆるAT1債であった。3月に経営破綻したクレディスイスのAT1債は、株主の価値が毀損されないのに、劣後債保有者が損失を負担させられたことで、今回の募集に影響が出るかどうか注目されたものであった。実際には、日本のAT1債とスイスのAT1債とでは制度上の仕組みが異なり、クレディスイスが日本の法人であったならば、今回のように株主ではなく劣後債保有者に損失を負担させることは出来ないものと考えられる。したがって、劣後債やAT1債の仕組みを十分に理解せず、単純に利回りが高い債券としか考えていなかった投資家からの需要のみが悪影響を受けたのであろう。今回の三井住友フィナンシャルグループのAT1債が2本で計1,400億円の募集を成功させたことから、後続を予定する他の金融グループのAT1債はクレディスイス債から類推された懸念を払拭した状況で募集できるのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/10~4/14

起債市場は、巡航速度に乗ったと見て良い。確かに、クレディスイスのAT1債に生じた全損による波及や、先行きの景気後退を予想した低格付け銘柄の信用問題など懸念材料は少なくないが、日本の起債市場は基本的にハイイールド債が存在しない高格付債の市場である。余程の衝撃がない限り信用懸念が高まることもないし、リーマンショック時や新型コロナショック時の経験でもわかるように、公的セクターによる貸付を通じて資金繰り支援が行われることで、社債市場が機能不全に陥ったとしても、企業が求めるファイナンス機能を喪失することはないだろう。むしろ公募普通社債を募集できるような優良企業を含む様々な規模、業務内容の企業に対してまで、金融機関が貸付によって資金を供給することが期待できるため、信用不安が異常に高まることはないものと考えられる。

この週に条件決定された銘柄の多くは、募集タイミングも規模も違和感がないものであった。曜日の順で見て行くと、地方公共団体金融機構の10年債300億円及び20年債220億円は、毎月募集の10年債と、第1四半期は4月及び6月に募集予定と公表されていた20年債である。同機構は、4月下旬になるとFLIPに基づく債券募集を行うものと予測される。

次に、東京電力パワーグリッドは3年債300億円・5年債300億円・10年債600億円と合計して1,000億円を越える社債を募集している。エネルギー価格の上昇と小売価格への転嫁が十分に出来ていないため、電力会社に対する収益性の低下懸念は多少強まっていると言って良いだろう。現在でも、福島第一原子力発電所の事故以来続く電力会社の社債に対する警戒感は払拭されておらず、東京電力パワーグリッド債も5年債で0.98%クーポンと1%近い高利回りであり、10年債だと1.55%まで付されている。十分な投資妙味を感じる投資家もいることであろう。

クボタは5年債700億円と10年債500億円とで、同じく1,200億円を募集している。安定的な機械メーカーであり、5年債が0.479%と東京電力パワーグリッドの半分のクーポンで、10年債が0.95%と東京電力パワーグリッドの5年債とほぼ同じクーポンである。もう一つの大規模起債が日本たばこ産業によって行われている。7年債100億円や10年債300億円はともかく、日銀によるイールドカーブコントロールの修正が期待される中で、20年債200億円を募集したのは、財務省が約1/3の株式を保有する半官半民だからと言えなくもない。クーポンを見ると10年債が0.92%とクボタよりわずかに低い水準であるが、20年債は1.63%クーポンと高水準である。たばこ事業の先行きに対する不安感は小さくないだろうが、既に薬品や食品等多角化し海外展開も行っており、しかも、国の出資は法律によって1/3を超えることが義務とされているため、破綻を心配する必要はほぼない。破綻させると国の資産が毀損するため、公的支援や延命策等様々な取り組みが行われることだろう。しかも、法律によって、電力会社などと同様な一般担保付社債の形態が採用されている。R&IからAA格という高い格付けを取得しているのも、公的なサポートを期待できることが根底にある。起債頻度が多くないこともあって、よほどESGを厳格に適用し煙草を忌避する投資家でない限り、購入を検討する価値は残っていたのではなかろうか。

なお、これら以外にも、メニコンの10年債やGMOフィナンシャルホールディングスの3年債、DICの5年債などが募集されており、公的関連でも東日本高速道路や日本高速道路保有・債務返済機構などがソーシャルボンドを募集している。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/3~4/7

2023年度の起債市場が幕を開けた。実際に社債等の募集が行われたのは、7日の金曜日からである。10年利付国債の入札や地方債の条件決定を踏まえて、金曜日から募集開始というのは通常の月初と考えても違和感がない。年度の始まりというタイミングなので、まだ多くの銘柄が殺到するという状況にはなっていないが、様々な業種が社債を募集している。

年度や四半期の始まりに最初に動くのが電力会社というのは、一つの定番である。この週にまず動いたのは東北電力の10年債であった。電力会社に関しては、エネルギー価格の上昇に加えてカルテルの摘発といった不祥事も相次いでおり、必ずしもスプレッドのタイトニングは観測されていない。しかも、日銀総裁の交代を踏まえて10年国債利回りが再び上昇傾向となっていたことから、クーポンは1.14%と1%を大きく上回る水準となった。

期初の定番と言えば、電力の次はノンバンクである。7日に募集されたノンバンクの社債は、東京センチュリーの4年債300億円であった。国債対比+48bpsで0.55%クーポンという設定は、中期年限の国債利回りが依然として0.1%にも満たない水準であることを示しており、日銀によるイールドカーブコントロールの見直しが中期以下の年限には及ばないと市場で考えられていることの表れであると言っていいであろう。

期初における起債の定番となるもう一つの業態は、財投機関債である。電力、ノンバンクの次は、銀行か財投機関といったイメージが例年の事象であり、欧米の金融機関での経営問題が注視されている現状では、銀行社債よりも財投機関債が先に募集されるのも当然であろう。7日には、日本政策投資銀行が3年債・5年債・10年債各300億円を募集している。3年債のクーポンは0.1%と低く、5年債で0.349%となり、10年債でようやく0.785%となっている。10年債はスプレッドプライシングが採用されており、国債対比スプレッドは+32bpsで条件決定されている。国内外の格付会社から日本国債と同等の信用力評価を得ている発行体としては、やや厚めなスプレッドと考えて良いだろう。10年国債利回りのボラティリティの高さを織り込んだものと見られる。

この週のもう一つの起債は、ヒューリックによる3年債400億円の募集であった。不動産会社という不安要素と、みずほフィナンシャルグループと親密であるというポジティブな要素とが混在しているが、意外にも、メガバンクと親密な不動産関連会社は未だに統合が進んでおらず、ヒューリックは厳然と旧富士銀行系列であることが知られている。同じ金融グループの傘下に、旧第一勧業銀行系の中央日本土地建物や、旧日本興業銀行系の日鉄興和不動産などが並立しているのは、他のメガバンクも同様の状況にあり、日本の金融グループの統合は、平成元年から9年入行の銀行正社員の役職定年後就労先の確保という意味では、リース会社やその他金融同様、終身雇用を未だに踏襲しようとする日本的銀行経営戦略も理解できる。

国内起債市場を斬る 2023年度初め特別号:「ユニゾホールディングス」の場合

2022年の年度末で、社債募集がないこの週、前号から触れ始めたクレジット問題が国内においても強く意識される展開となった。一つはクレディスイスの債務処理にかかる「AT1債の減損」であったが、もう一つは「ユニゾホールディングの格下げ」である。いずれも(今のところは)国内クレジット市場全体に大きく影響を及ぼすような事象でもないが、前者は銀行等「金融関連の社債に対する注意」を喚起するものであり、後者は信用懸念の強い銘柄は容易に「回復することが出来ない」という現象である。第二次世界大戦後の日本において、公募普通社債がデフォルトした事例は必ずしも多くない。その中でも、一度デフォルトした公募普通社債発行企業が経営再建して再び公募普通社債の募集に戻って来れたのは、日本航空くらいなものであろう。また、公募普通社債を募集していた企業で格付けがBB格に落ちたものの、その後、再びAA格ゾーンにまで回復したのは、住友不動産くらいなものだろう。急速な信用悪化による破綻は少ないものの、一旦、信用不安を抱えると、なかなか復帰できないのが実情である。そもそも取引銀行との関係が良好で支援を受けられるならば、公募社債に頼らなくても、銀行融資を受けることで資金繰りを確保できるというのも、少し安直すぎるかも知れない。

期末も押し迫った3月28日にJCRは、ユニゾホールディングスの長期発行体格付けをB-格からCC格へと引き下げた。同時に、債券格付けをCCC格からC格へと引き下げている。引下げ前の水準でも既に投機的格付けとされるものであるが、C格という債券格付けは、もはやその下にはデフォルトしかないという状況である。今回の格下げの理由としては、現在のキャッシュフローと手元流動性では年間の有利子負債の返済額に届いていないことが指摘されている。既に保有物件はことごとく担保に供されており、資産売却による現金獲得も困難な状況にある。公募社債の償還予定としては、今年5月の第3回債100億円、11月の第5回債100億円などがあり、24年に入っても第8回債100億円と第11回債60億円が待っている(その他に、250億円が2026年から2027年に償還を迎える)。

日本の公募普通社債には社債間限定同順位特約が付されていることが多く(特約が一切付されていない社債すら存在するが)、そのため、融資に担保を付したとしても、無担保社債はそのまま放置されるという構造的劣後性を有している。結果として、既に残存する社債の単価は20~40円台という一般的に普通の債券価格では見ることが稀な水準にまで低下している。ユニゾホールディングスの信用力に対する懸念は以前から意識されていたため、今回の格下げが直接のトリガーになることはないと考えられるが、資金繰りに窮するタイミングは刻一刻と迫っているようである。社債管理者を設置されていないFA債の場合には、社債権者は発行体が破綻するまで具体的なアクションを取ることは困難であり、市場で売却することも容易ではないと考えられるため、ひたすら償還期日が無事に到来することを祈るしかない。

大幅にディスカウントされている単価を見て手を出せないかとヘッジファンドなどの投機家が考えるかもしれないが、キャッシュフローの先行きを考えると、購入(新規投資)する判断には至らないであろう。私的整理が行われ金融機関が債務減免で負担すると決断してくれることで社債権者の権利が守られる可能性がないとは言い切れないが、実際には、有担保ローンの残高が大きいため、法的整理によって担保権を行使された後に残る低い弁済率で社債権者は納得させられることとなる可能性が高い。ユニゾホールディングスの残存する社債の償還スケジュールを見ると、ここ2年以内に債務処理が行われてもおかしくないし、金融機関からの借入も多く残っていることを考えると、Xデーが来るのはそう遠くないことなのかもしれない。

国内起債市場を斬る 「AT1債」特別号:普通社債でないということ

年度末も押し迫る24日になって住友不動産がグリーンボンド300億円を募集しているが、不動産会社の発行するグリーンボンドは金融関連の企業によるものとは異なって物件が紐付けされており、内容はわかり易いものとなる。また、同社は昨年末にもグリーンボンドの募集を見送っていたことから、押し迫った時期が好きな発行体という評価も可能だろう。

先週の起債評価でも少し触れたが、クレディスイスがUBSに救済合併されることが決まり、歴史ある金融機関の消滅に際して感慨深いものがあるとともに、債務処理に関して留意すべき論点が明らかになったことも確認しておきたい。まず感慨という意味では、かつてスイスに本店を置く大規模な金融機関が複数あったものの、スイス・ユニオン銀行にせよ、スイス銀行にせよ、UBSに統合されており、更に、投資銀行に関しても、SGウォーバーグやディロンリード、更には、ペインウェバーなどといったネームが統合されている。今回の合併に際しては、クレディスイスだけでなく、かつてのファーストボストンをも統合することになる。これまで様々な金融機関や投資銀行の有為転変を見て来たが、複雑な思い出を持つ関係者も多いだろう。クレディスイスも、日本においては最終的に富裕層向けのビジネスに重点を置くようになったが、かつては国債取引を含め大手の外資系証券の一角を占めていたのである。

一方、債務処理に際して市場で注目を集めたのは、UBSの買収に際して、クレディスイスの株式価値をある程度維持したまま、同社の発行していたAT1債などの価値を毀損させる判断が行われたことである。典型的な株式と債券との関係は、教科書的には、弁済に際して債権者が優先され株主は残余財産の請求権を有するに過ぎないとする。それが、今回の処理においては順位が逆転したように見えることが注目された。ここで重要なのは、「AT1」債はAdditional Tier1 という意味であり、金融機関の中核的な自己資本を追加して補完するものであって、決して普通社債でないことにある。そもそも「AT1債」や「CoCo債」については、金融機関の経営悪化時に公的資金を投入して国民負担で処理するのみではなく、別途、実質的に債権者が一部を負担する枠組みとして導入された債券である。こういった劣後性を有する債券を「ハイブリッド債」と称して誤魔化すべきではなく、きちんと商品性を説明し、投資家は認識すべきだったのである。

確かに関係者の説明が途中で変更されたという経緯はあるようだが、元々損失の一部を「AT1債」の保有者が負担させられる可能性はあり、特に、規制当局の判断によっては、株主価値を残したまま、債権者が負担させられる可能性は考え得るものだったのである。幸いに日本の金融機関や持株会社に関しては、クレディスイスのような処理を行うことが出来ないと見られる。しかし、劣後性を有する債券の投資に際して、劣後事由が発生しないとか、期限前償還がスキップされないとか、安易な希望的観測のみを前提に投資判断を行うことの危険性を示す事例となっている。特に、海外の法制や規制当局の行動を熟知することは容易でないし、金融機関の破綻に関しては国民経済や金融システムへの影響を考慮して、非常措置が採られる可能性も十分に考えておかなければならないのではなかろうか。

日本の起債市場において「AT1債」の起債観測は少なからず見られていたが、投資家の不安感が払拭できるまでは、募集の時期を先送りする可能性が考えられる。そもそも、クレディスイスやシリコンバレー銀行等米国の地銀が破綻した背景にあるのは、ALMの失敗や暗号資産関連の不良貸付、取り付け騒ぎ等様々な要因である。クレディスイスの場合には、規制当局との歴史的な軋轢があり、アルケゴスの巨額損失(2021年3月、野村HDの米国子会社の取引に伴って20億ドル程度、三菱UFJ証券HDが約3億ドル、みずほフィナンシャルグループが1億ドル規模の損失の可能性を公表)が負担となったこともあるが、欧米の金融機関全体に対して信用懸念が高まっていると見た方が良いだろう。現時点では、リーマンショックのような大事にはならないものと想定されるが、金利が上昇した中で複数の企業による巨額の資金引き出し等によって小規模な金融機関の経営が圧迫されることも十分に考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/13~3/17

例年のカレンダーなら2022年度の社債等の募集は最後となる週である。前週に日銀の金融政策決定会合があり、金融政策が見直されないという12月とは逆な意味でのサプライズとなり、金利水準の変動を予想して社債等の条件決定を見送った発行体にとっては、今、「翠富士ブーム」ではやりの「肩透かし」となった。しかし、払込等を考慮すると、この週はギリギリのタイミングであって、大規模な金額の募集は困難である。そのため、社債等で募集されたのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券が4本の他、中日本高速道路の財投機関債300億円に加えて、ニューカマーである稲畑産業の5年物社債75億円が募集されたのみであった。

地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債は、基本的には、定例で募集している10年などの年限とは重複しないとされているが、既に年度の定例起債を終了したこともあって、この週のFLIPに基づく起債は5年債1本の他、20年債が3本と、年度途中では考えられない定例募集と重なる設定であった。

中日本高速道路の財投機関債は、他の高速道路会社による起債の多くがソーシャルボンドとされているのと異なり、グリーンボンドの認定を取得している。資金使途としては、橋梁やのり面の補強等グリーンプロジェクトに向けた資金とされていて、ソーシャルボンドを選択することも可能であったろうし、両方を兼ねるサステナビリティボンドという枠組みを選択しても良かったのではないかと思われる。もっとも、主としてガソリンを燃焼し温室効果ガスをバラ撒きながら自動車の走る高速道路の運営会社がグリーンボンドを発行するというのも、ある意味でシュールな取り組みとも言えよう。トランジションボンドの発行を選択することも可能ではなかろうか。

稲畑産業は住友化学が筆頭株主である化学関連商社である。スタートは染料で、その後、合成樹脂や化繊の取り扱いを開始しており、機械や医薬品など様々な製品を取り扱うようになり、食品を取り扱ったこともある。近年ではしばしば事業再編を行っており、現在では2019年の再編によって情報電子・化学品・生活産業・合成樹脂の4分野となっている。格付けはR&IのA-格を取得しており、初回債の希少性は評価できるが、発行体の知名度の低さは投資の障害になりかねない。

日本の起債市場が年度末に入ろうとする時期に、米国のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻に端を発した欧米の金融不安が、かねてよりきな臭い噂の聞かれたクレディスイスの経営危機からUBSによる買収へと急速に進展した。その際に、株主に損失を負担させない一方で、AT1債(ブルームバーグのデータによれば、クレディ・スイスにはスイス・フランや米ドル、シンガポール・ドル建てで13本のCoCo債があり、発行残高は計173億ドルで、同行の負債総額の2割強に相当する規模)の毀損で保有者に損失を負担させる判断となった。その結果、主として海外のAT1債保有者の損失拡大や、今後のAT1債発行にブレーキの係る可能性が懸念される。AT1債の仕組みについては熟知されていたはずであるが、株主よりも劣位して損失負担させるという政治的決定を予想していなかった投資家も少なからず存在したようである。日本のメガバンクの持株会社によるAT1債の起債観測も上がっていたのだが、新年度早々の募集が可能になるか注目してみたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/6~3/10

おおかたの予想通り、国会では日銀新執行部の人事が承認され、黒田現執行部の下で行われた最後の金融政策決定会合は現状の金融緩和政策を維持するという、サプライズ抜きの結果となった。もちろん理論的には予定されている決定会合以外にも状況の急変した場合には、臨時の決定会合を開催して金融政策などを修正することは可能であるが、米国の地方銀行が破綻(ファースト・リパブリック・バンクなど米中堅銀の株価は急落;3月10日、仮想通貨企業への多額融資のシグネチャー・バンク経営破綻;3月12日、シリコンバレーバンク(SVB)は増資発表2日後3月10日に経営破綻)したくらいでは、そういった事態になるとは思えない。そもそも二人の日銀副総裁の任期はあと1週間ほどであり、人事の端境期には動けないというのが、この国の典型的なパターンである。社債市場についても、間もなく年度末の閑散期に入ると予想されるが、起債観測の上がっていた銘柄が急遽取りやめになったりと、表面には見えていないところで何かが起きている可能性もあり、なかなか気を休める暇もない。

この週が年度末の起債ラッシュとはならない背景として日銀の金融政策決定会合が不確定要因として考えられると指摘したが、それ以外にも、米国の金融政策や市場が少し不穏な雰囲気を見せていることで、慌てて起債しないくて良いという認識になっていることも想像できる。米国での複数の金融機関破綻の直接の要因は、金利上昇と大口顧客の預金引き出しという事象が発生し、日本人の常識では今は到底発生し難い現象であると考えられる。歴史的には、日本においても電車の中での女子高生のお喋りに端を発して地域金融機関(豊川信用金庫;1973年)の経営問題が話題になり、一種の取り付け騒ぎにまで至った事例があるものの、インターネットによる情報の拡散スピードが向上している現在での発生は考え難い。しかも、米国の監督当局は預金保護を行うと公表しているため、現時点までの情報では、世界的な金融危機にはならないものと推定できる。とは言え、更なる悪材料が別のところから表に出ると、どんな飛び火が起きるかは予測できない。

起債市場は、バラバラと様々な社債等が募集されている。起債シーズンの後半に出て来ることの多いメーカーによる社債の募集や、静岡ガスのように初めての公募普通社債の募集などが確認されている。セントラル硝子や長谷工コーポレーションの3年債は、未だに日銀による社債オペで買い取ってもらうことを予定した起債であろうし、電源開発の第85回債は年限が6年7カ月と半端な年限の社債である。年度末に向けてSDGs債の募集が目立つことを予測したが、この週では鹿島建設による5年のサステナビリティリンクボンド100億円が募集されたのみとなった。温室ガス排出量売上高原単位や気候変動スコアをKPI(Key Performance Indicator)とし、目標未達の場合には寄付を行ったり排出権を購入したりするとしている。日本ではこういった目標未達時に寄付等を行うサステナビリティリンクボンドが一般的な類型になっており、欧米とは少し異なっているところが面白い。そもそもトランジションボンドの発行は日本が他を圧倒しており、産業構造の違いなどを端的に表した特徴になっている。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/27~3/3

ようやく2022年度の起債市場の最終局面に入った。もっとも例年にはない不確実要因が3月第2週に予定されている。黒田総裁の下での最後の金融政策決定会合が、3月9日(木)と10日(金)に開催されるのである。本来であれば、年度末に向けて起債市場が盛り上がる時期なのであるが、金融緩和が修正されるかどうか予測が難しい中で、発行体も投資家も、今は慌てては動きにくい。そのため、起債市場で社債等の条件決定を行われるピークが翌週頭にずれ込む可能性もあると考えられる。春分の日の休日を考慮すると、14日(火)や15日(水)あたりまでは、社債等の募集が行われてもおかしくない。

2月末から3月頭にかかる週の起債市場で目立ったのが、一つはメガバンク関連の社債である。三菱UFJフィナンシャルグループはTLAC対応債を4本計2,325億円募集しており、三井住友フィナンシャルグループは個人投資家向けの劣後債2本計1,000億円を条件決定し募集を始めている。三井住友フィナンシャルグループの劣後債は、ブレット10年債以外に期限前償還条項が付されたものもあり、実質5年債として個人に募集されていることだろう。機関投資家は期限前償還の仕組みを十分に理解しているだろうが、個人投資家は期限前償還がスキップされたら、さぞ驚くことだろう。金融庁の指導・監督の下でメガバンクの持株会社がコールをスキップすることは考え難いが、期限前償還条項を付した社債も、いわゆる仕組み債の範疇に入ると考えることが可能である。特に、コールオプションの売りポジションを含めることでクーポンのかさ上げを図っているのだから、デリバティブを活用した仕組み債という金融庁の指摘事項には十分に合致しているのであるが。

もう一つ目立ったのが、SDGs債である。アサヒグループホールディングスは3本立ての内5年債250億円のみがグリーンボンドであり、東北電力の10年債100億円および20年債50億円はトランジションボンド、南海電鉄の5年債100億円はサステナビリティボンド、東洋紡の5年債200億円はサステナビリティリンクボンド、日本製鉄の5年債300億円および10年債200億円はグリーンボンド、大栄不動産の5年債25億円はグリーンボンド、国際協力機構の2年債205億円はソーシャルボンドと、ずらずらと主要な類型がすべて列挙されるように登場している。投資家とすればESG等への配慮を表明することが可能であり、発行体としても資金調達の名分が立つのであるから、双方ともに損はない。債券の残存期間に求められる情報開示は手間かもしれないが、クーポンの押下げ効果が期待できるのであり、引き受ける証券会社も販売に苦労せずに済むなら、三方一両得となることが期待できる。引き続き、起債観測の上がっている社債等には、グリーンボンドなどが多く見られており、年度末に向けた起債ラッシュはSDGs債が主役の一つになるものと予想される。